GATE 稲荷様 彼の地にて、斯く戦えり 作:名無しのペロリスト
私は元々、別の世界で普通に女子高生をしていた。
しかし、車にはねられそうになっていた子狐を助けたことで、見た目は十歳程度の狐っ娘として戦国時代に転生してしまう。
家族や友人に関する記憶が欠落していたから、前世に対する未練はあんまりない。
不幸中の幸いと言って良いのかは、ちょっとわからなかった。
だが右も左もわからず、地獄のような時代を生き抜かないといけないのだ。
妖怪として討伐されるのは嫌だし、火あぶりや魔女裁判よりはマシだと割り切り、かれこれ四百年以上も神様のフリを続けてきた。
結果的には上手くいったから良いものの、基本的に行き当たりばったりで頭の悪い私である。
日本の舵取りなど無茶無理無謀で、できるはずがない。
だが何やかんやあって、前世にはなかった天皇陛下よりも上の神皇という位についた。
当たり前だが自分が望んでそうなったわけではなく、いつでも退位OKである。
と言うか、四百歳を越えているのに、見た目は幼女のままだ。
ついでに転生直後から、賢さは殆ど変わっていない。
こんな私が最高統治者を続けていても、いつか絶対に大失敗をやらかすに決まっているのだった。
だから今日も今日とて東京の稲荷大社の聖域、深い森の奥に建てられた一軒家の縁側に、よっこらしょと腰を下ろす。
広大な庭で戯れる家族である狼たちを微笑ましく眺めながら、何となくポツリと呟く。
「そろそろ退位したいなぁ。
半隠居じゃなくて、日本の最高統治者を辞めたい」
近衛やお世話係、政府関係者は耳が遠いようだ。
それとも、ただの冗談だと思っているのか、私の退位は軽く流されてしまう。
けどまあ、そもそも民意が許さない。
私だって、日本や世界経済を混乱させたいわけではない。
惜しまれつつ引退して、可能な限り穏便に普通の女の子に戻るのが理想だ。
しかし現実はそうなっておらず、こんな小さな狐っ娘だが、日本だけでなく親日国、さらには世界の国々の命運を背負っている。
口には出さないし表情も平静を装っているが、マジで責任重大すぎて狐っ娘が無駄に頑丈じゃなければ、胃に穴が空いてもおかしくなかった。
自分は歴史は良く知らないし、今の世界情勢も詳しくはない。
だが少なくとも前世の日本では、リトルプリンセスと呼称される狐っ娘が世界を動かすほどの、発言力を持つことはなかった。
ぶっちゃけ世界の警察をしているアメリカ合衆国よりも、ただの一個人である私の発言の方が注目されたり、重要視される有り様だ。
どうしてこうなったと溜息を吐いてしまう。
まあ四百年以上も、私がやらかしまくってきたせいなのはわかりきっている。
だがやむにやまれぬ事情があったことも、また事実であった。
しかしあれこれ考えても過去には戻れないし、あの時はアレがベストだったと一応納得はしている。
何より悔やんでも気が滅入るだけだし、普段は森の奥でひっそり過ごせているのだ。
日本の最高統治者として頼りにされるのは困るが、相当ヤバい案件で失敗しない限りは大丈夫だろう。
全くないとは言い切れないが、今は余計なことは考えない。
この素晴らしき日々を楽しむべきだと、気持ちを切り替えた。
「そうだ。戸棚にお茶菓子があったはず」
私はよっこらしょと立ち上がり、台所の戸棚に向かってのんびり歩いていく。
今は日本どころか、世界中からも貢物が届くようになった。
稲荷大社や政府関係者は、選別に苦労していると聞いている。
お茶菓子もその一つなので、ソシャゲで言えば最高レアしか出ないガチャと言えた。
稲荷大社でラジオやテレビの放送をする時に、貢物の感想やお礼を言うことも良くある。
ついでに私の発言が発端になって、流行が始まったりもあり、芸能人やインフルエンサーよりも影響力が強すぎた。
そんなことを考えながら、廊下を歩いている途中で我が家に近づいてくる足音を感知した。
「そう言えば、もうそんな時間だった」
別に忘れたわけではないが、ここ最近は平和だ。
なので晴れた日は縁側で陽の光を浴びながら、のんびり過していると、時間があっという間に過ぎていく。
それでも何も起きないので、平和で良いことだ。
外国はともかく日本は天下泰平で何よりであり、できればこのまま表舞台からフェードアウトしたいが、現実はそうはなっていないのが残念でならない。
それはそれとして、今日は特別な日だ。
私はウキウキ気分で二人を出迎えて、いつものように正体がバレないように、着替えを手伝ってもらうのだった。
東京在住なので、目的地が近くて良かったと安堵する。
狐っ娘に転生してからは、自分で公共交通機関の切符を買うことはなくなった。
しかし、前世ではそれなりに利用していたはずだ。
ちなみに今はお忍びで無一文であり、お財布は近衛と側仕えが持っている。
私や稲荷大社の関係者は、寄付金や貢物で生活しているようなものだ。
なので参拝客や、信者の方々には大変感謝していた。
もちろんそれだけではなく、普通に神社としての運営も行っていて毎日満員御礼である。
敷地内には他の神殿や神様も多数在籍しているので、東京に観光に来たら必ず立ち寄りたいスポットの一つになっていた。
おかげで日本の宗教の比率としては、神道がもっとも幅を利かせている。
世界も狐色に染まっているからか、大企業から多額の寄付が送られるのは珍しくはなかった。
なので持ちつ持たれつの関係で、国民に稲荷様お願いしますと言われれば、仕方なく重い腰を上げていた。
最近は平和なので私が出張ることは減ったが、それでもなくはない。
毎度のように、フェードアウトして惜しまれつつ退位したいなーとぼんやり考えているけど、表情には出さずに電車の窓から外の景色をのんびり眺める。
今日の目的地はコミケ会場なので、ちょっとワクワクしていた。
だがその時、視界の隅に妙なモノを捉えた。
「アレはドラゴン? 何で東京に?」
「確かに竜に見えますね。映画の撮影でしょうか?」
「しかし、本日は撮影予定はないはずですが」
近衛と側仕えも反応して一緒に窓の外の景色を注視し、スマートフォンで検索をかけながらそれぞれ意見を出す。
他の乗客も気づいたようだが、何だか猛烈に嫌な予感がしてきた。
映画の撮影予定がないのに、ドラゴンらしきモノが空を飛んでいるのだ。
法律に違反は当然として、人知を超えた不可思議な現象が起きているということは、神様関連のトラブルである可能性が高い。
アレぐらいなら人間にも倒せそうだが、一般人には無理だ。
そして無法者が東京に現れ、好き勝手されるのは困る。
このまま放置すれば、十中八九でろくなことにならなかった。
アレが映画の小道具なら良いが、もし本物のドラゴンだった場合、現場の警察組織だけでは対処は難しい。
「申し訳ありませんが、緊急事態です!
私は一足先に電車を降りて現地に急行しますので、貴方たちは銀座と周辺地域に、緊急避難を命じてください!
それに、自衛隊にも出動要請をお願いします!」
あの辺りは銀座のはずだ。
高速で飛行するドラゴンの場合、周辺地域に被害が拡大する可能性も高かった。
念には念を入れて危険な被害地やその周囲から、緊急避難させるに越したことはない。
だがサイレンを鳴らしても避難を促しても、簡単に逃げられるとは思えない。
そのための自衛隊であり、警察組織では対処困難な敵を排除してもらう。
神様関連のトラブルは厄介だが、現時点で地球の神を務めている私が承認すれば、排除しても問題はないだろう。
あとは私が直接行ったほうが、手っ取り早く片付く。
子供や孫も同然の日本国民が殺される可能性があるのに、黙って見ていることなどできなかった。
「了解致しました!」
「連絡が済み次第、我々もすぐに向かいます! どうかお気をつけて!」
流石は狐っ娘の突飛な行動に慣れているだけある。
すぐに慌ただしく動き始めたので、私も列車が停止するまで待つ時間が惜しい。
怪力で強引に扉を開けたあと、迷うことなく外に飛び出した。
幸い、次の駅に止まるために減速を始めていたようだ。
人間が飛び降りても、運が良ければ死ぬことはない速度である。
なお私は普通に着地したあと、平然と走り出した。
東京は人や車が多く、いつも混雑している。
なので跳躍してビルの屋上に着地し、そのまま忍者のように飛び移りながら高速移動していった。
「しまった! 間に合わなかった!」
しかし私が現場に到着するよりも先に、人々の悲鳴や聞いたことのない言語を狐耳が捉えた。
全く聞き覚えがないので、地球の言葉ではなさそうだ。
だが今はそんなことより、一人でも多くの国民を助けることを優先である。
私はビルからビルに飛び移りながら、空を飛ぶドラゴンたちに狙いをつける。
一秒にも満たないロックオン時間を経て、視界内の全ての敵に狐火を放った。
「落ちろ!」
普段はもう少しぐらい余裕がある。
だが今は、一分一秒の遅れで救える命も救えなくなる極限状態だ。
手加減はできずに、相手も何処の誰かは知らない。
けれど視界に入った標的を、片っ端からこんがり焼いていく。
サーチアンドデストロイという奴だ。
それに彼らは、私の大切な日本国民を虐殺しているのである。
当然、殺される覚悟もしているはずだ。
もし覚悟もないのにこれ程のことをしでかしたのだとしても、不幸な事故だったねで済ませる。
世の中、やられたらやり返されるのは、当然のことだからだ。
空を飛んでいる標的は狙いやすく、絶え間なく射出される狐火が誘導弾のように追尾する。
一分かからずに、目に見える範囲の空を飛ぶ敵は全滅させた。
流石に骨も残らず焼き尽くすのはどうかと思ったので、ギリギリ死なない程度に抑えている。
ただし、高所から落ちて無事に済む保証はない。なので、死んでも仕方ない。
そもそも今の私は、内心でブチ切れている。
そのぐらい雑な対応になるのも、致し方なしである。
彼らが何処からやって来たのかは知らないが、相当数が銀座の街に侵入し、大勢の日本国民を殺している。
自衛隊は急ぎ出撃させたが、現場に到着するにはもう少しかかりそうだ。
「彼らの目的を知るのは、後回しです」
馬に乗った騎士や鎧姿の兵士、さらにはファンタジー世界に良くいるゴブリンなどの魔物を引き連れている。
私は足を止めることなく、勢い良くビルの屋上から飛び降りた。
その途中で意識を集中して、広範囲に狐火を放る。
「今は少しでも時間を稼がないと!」
次の瞬間、銀座の街は火の海になった。
だが熱いわけではなく、幻の炎だ。
それでも視界が完全に閉ざされて、周囲が殆ど見えなくなる。
少なくとも地上の者たちは、数メートル先もろくに見えない。
謎の敵集団は、たちまちパニックになった。
その隙に、私は大きな声で叫んだ。
「危険ですので、今すぐ銀座から離れてください! 警察も避難誘導をお願いします!
敵は、私や自衛隊が排除します!」
視界が閉ざされても感覚を研ぎ澄ませば、相手の位置は手に取るようにわかる。
(人命救助が最優先だとしても、狐火を乱射して周囲に被害を出すのは不味い!)
うっかり建物に当てて、中に人が残っていた場合を考えると、迂闊に攻撃するわけにはいかない。
空の標的を狙うのは、遮蔽物がないので被害を気にせずに済んだ。
当たり前だが、街には壊しては駄目な物がたくさんある。
「警告します! 貴方たちは日本の領土を侵犯し、国民に危害を加えています!
今すぐ退去しなければ、実力で排除します!」
向こうからは私の姿は見えないが、声は聞こえているはずだ。
その証拠に、相変わらず日本語ではない謎の言語で叫んでいる。
だが私もそうだが、どう考えても会話ができそうにはなかった。
予想通りの結果になったので、問答無用でドラゴンを排除したのは正解だったと納得する。
そしてやるだけやったと諦めて、実力行使に出ることにした。
今は迷っている時間さえ勿体ない。
「警告はしましたからね!」
足がめり込むほどの力で地面を踏みつけて、勢い良く前方に走り出す。
衝撃でアスファルトがめくれあがったが、時間が経つごとに増加する怪我人や死傷者を考えれば、この程度コラテラルダメージだ。
一分一秒を争う緊急事態ゆえに、目にも留まらぬ速さで魔物や騎士団に突っ込んだ。
力任せに殴りつけ、または蹴り飛ばしていく。
鎧がひしゃげたり肉体が陥没するほどの威力で、マトリ◯クスのネロvs集団スミスのように、次々と吹き飛んでは再起不能になっていった。
ちなみに骨が折れたり内臓にダメージが入るが、ミンチにはなっていないし、重症でも死んではいないのでセーフということにしている。
戦後処理で苦情を言ってきても、正当防衛ゆえに100%相手国が悪い。
そもそも私は、日本国民を殺害された怒りを、敵を倒して発散しているのでまだ良かった。
しかし家族や友人を失った人たちの感情は、推して知るべしだ。
場合によっては、このまま戦争に突入する可能性が高い。
「……と言うか、これはもう戦争なのでは?」
騎士の集団を、まとめて飛び蹴りの衝撃波で吹き飛ばして、窓や壁に叩きつける。
そんな光景を見ながら、私は現状を整理して呟きを漏らした。
所属不明の人間や魔物が突如現れて、街中の民間人を殺して回っているのだ。
言語の違いから宣戦布告こそ聞き取れなくても、今行われているのは戦争行為には違いない。
ならばもう日本が攻め滅ぼされるか、相手国が降伏するまで戦いは終わりそうになかった。
しかしここ最近はずっと平和だったのに、思わぬ形で戦争状態に入ったものだ。
取りあえず視界内の敵を一人残らず排除し終えた私は一息つき、駆動音が聞こえて空を見上げる。
パワードスーツを装着した自衛隊員が、銀座の街に次々と降下していた。
「対応が早くて何よりですね。
これなら、あとは任せても良さそうです」
身体能力を大幅に強化するパワードスーツは、歩兵の兵装の一つだ。
性能に関しては多種多様で、災害救助や戦闘を目的に開発された軍事兵器である。
コンセプトは各企業によって違い、着脱がしやすかったり、防御力が高めだったり、重い荷物を軽々運べ、疲労を軽減したりと色々だ。
さらに重武装でハイパワーなコンバットフレームも配備されているが、非常時とはいえ自国の都市で使うには火力が高すぎる。
戦車や戦闘機で乗り込んでくるようなものだ。
しかし東京は日本の首都で、銀座が襲撃を受けるなど由々しき事態である。
軍事拠点はいくつも存在していて、急ぎ出動要請を出すのは当然と言えた。
この世界の自衛隊は正史とは異なり、稲荷神の直属の軍隊という位置づけだ。
しかも全く嬉しくはないが、狐っ娘を守るためなら喜んで命を捨てるようなペロリストが、多数所属している。
表向きは日本や国民を守るための軍隊だし、憲法九条もないのでいつでも外国に派遣できる。
ただし私個人の意見としては親戚の子供や孫のような人たちに、危険なことはやらせたくない。
だから専守防衛してくれるだけで十分だし、それ以上は別に望んではいなかった。
しかしまさか、こんな形で活躍するとは思わなかった。
だが直属の軍隊だけあって、私が出撃を命じると即現場に急行してくれたことから、少しは被害を減らせたはずだ。
今もこれ以上テロリストの好きにやらせるものかと、圧倒的な物量と装備性能で謎の集団を次々と鎮圧している。
颯爽と現れて、命の危機に瀕している日本国民を守護して、懸命に救助活動を行う自衛隊を頼もしく思った。
市街地なので爆発物は控えているが、それでも圧倒的な戦闘力を発揮している。
あっという間に倒しているし、何より今は戦闘可能な敵数と完全に逆転しているので、テロリストの鎮圧は自衛隊に任せても良さそうだ。
医療機関も多く点在しているので、私は命じた仕事を終えて合流した近衛と側仕えと相談する。
そして自分も、銀座とその周辺の救助活動に専念することにしたのだった。
以下、ゲート二次創作を書くに至った経緯についてです。
読まなくても問題はありませんので、興味がない方はスルーしていただければと。
味八木さんの稲荷様は平穏に暮らしたかったに感銘を受けて、同じ自衛隊が出てくるという理由で見切り発車で書き始めました。
設定を一部使わせてもらっていますが、所々違っているかも知れません。
その場合は、並行世界なので微妙に異なっていると思ってください。
できればコラムも書きたかったのですが、稲荷様の原作は数百年の下積みがあるので、情報量が多すぎて何処を抜粋したものかと。
上手くまとめきれそうになくて断念しました。申し訳ない。
ちなみにゲートは書籍版は門が閉じるまで、アニメは三周しました。
ただ以降の書籍は読んでいませんし、昔のことなのでアニメ以外はちょっと記憶が怪しいです。その点についても、謝罪させていただきます。
作者は自衛隊や兵器に詳しくはありません。
政治や戦争が主題の戦略ゲームも未プレイです。
地球防衛軍を6までやったぐらいで、参考文献がそれな時点でお察しください。
なので色々と雑な部分が目立つかと思いますが、どうかご了承いただければと。