GATE 稲荷様 彼の地にて、斯く戦えり   作:名無しのペロリスト

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日本の対応

 銀座事件は、救援に駆けつけた自衛隊の活躍により、完全に鎮圧された。

 それでも都市部への奇襲攻撃により、死者や行方不明者が大勢出てしまい、現時点では一万人近くにもなる。

 

 私が日本の最高統治者になってから、これ程の被害が出たのはそう多くはない。

 長期的に見れば第二次世界大戦も酷かったが、今回はたったの一日で起きたのだ。

 

 そして彼らは、突如現れた異世界と日本を繋ぐゲートを通ってやって来たらしい。

 もし破壊して通行不能にしても、今度は別の場所に出現する可能性がある。取り扱いは厳重にしないと不味いだろう。

 

 

 

 幸いなのは、伊丹という自衛隊員が大勢の市民の避難を助け、皇居に収容して立て籠もってくれたことだ。

 英雄的な行動により、死傷者が減ったのは間違いない。

 

 他にも目覚ましい活躍をした人たちを集めて、いつも通り稲荷大社で表彰させてもらった。

 

「今回、このような事態に対して、彼は避難誘導と救命活動に奔走し、数多くの国民の命を救いました。

 銀座の英雄、二重橋の英雄と呼ばれた彼の活躍は、日本国民全ての誇りです」

 

 表彰状を渡す時に、当人は若干引きつっていた。

 まあアレは嬉しさと戸惑いが半々で、彼は本来このような場に出るべき人ではないのだろう。

 

 

 

 それはそれとして、最初はコミケに行くという目的があった。

 だがもはや、それどころではない。

 

 日本国民の守護のほうが重要だ。

 突如出現したゲートと異世界にも対応しなければいけないし、やることが多すぎる。

 

 そして私は一応、日本の最高統治者だ。

 

 政府からも、国際問題や緊急の案件で意見を求められることが多々ある。

 当然呼び出されるよねと思いながら、森の奥の我が家から稲荷大社の謁見の間に移動した。

 

 銀座事件が終わってすぐに、天照大御神様から大体の事情は聞いている。

 まだ長時間の実体化が難しいので脳内会話だが、それでも何も知らないよりは断然マシだ。

 

 しかし、状況は非常にややこしいようだ。

 何より異世界の神様がやったことなので、天照大御神様とは管轄が違う。あまり詳しくは情報を得られなかったようだ。

 

 けれど、やり方は悪質極まりない。

 何しろ無許可で日本と異世界、特地と呼称されたが、そこと銀座を繋げてしまったのだ。

 

 相手の神様は、悪気はなかったと主張しているらしい。

 そのうえで、ゲートを破壊すれば行き来ができなくなるので、あとは好きにすれば良いと言い放ったのだ。

 

 これだけの大事件を起こしておいて、開き直るにも程がある。

 呆れて物が言えなくなったが、私は本物の神様ではない。

 地球では見習いとしてそれ系の仕事をしているけど、中身は元女子高生なのだ。あまり強くは出られないのが実際のところだ。

 

 なので得られた情報は少なくても、門に関してはあとはノータッチという発言を引き出せただけでも、上出来だと割り切って行動を開始する。

 

 

 

 稲荷大社の謁見の間に、政府関係者を集める。

 そして私は重役出勤のように最後に現れて、分厚い座布団にちょこんと座った。

 

 この場は無礼講で社交辞令は必要ないので、早速内閣総理大臣が率直に尋ねてくる。

 

「稲荷神様、如何致しましょうか?」

「正直、判断に困ります」

「……でしょうなあ」

 

 内閣総理大臣以外にも、その他の各関係者も頭を抱えていた。

 

 それだけ門の対応は難しい。

 

 ちなみに神託を受けられるのは私だけで、天照大御神様から情報を得たと言っても、普通なら誰も信じない。

 しかし自分はこれまでの積み重ねにより、神様としての格付けチェックはクリアしている。

 

 おかげで神託の証拠がなくても一から十まで信じてくれるが、内心ではこんなの望んでいなかったりする。

 まあ今は関係ないので置いといて、話の続きである。

 

「現時点で門を閉じるのは、時期尚早でしょう。

 受けた損害を賠償し、遺族が納得する謝罪もしてもらわないと。

 それに特地に連れ去られたと思われる、行方不明者の捜索も始まったばかりです」

 

 銀座であれだけの事件を起こされたので、なし崩し的に帝国と戦争状態に突入した。

 国民感情も、徹底抗戦に傾いている。

 

 今回は私が首を突っ込んで、恐らく向こうは事情を知らなかったはずだ。

 

 しかし結果的に、稲荷神を害そうとしたことには違いない。

 私を殺そうとすると爆発する民族なので、この怒りは当分静まりそうになかった。

 

 本当に、どうしてこうなったと嘆きたくなる。

 五百年近くコツコツ積み重ねたやらかしなのは明らかで、いうなれば自業自得であった。

 

 転生当初は妖怪として討伐されたくないので、自分の身を守るために神様として振る舞っていた。

 それが何やかんやあって、今や日本だけでなく世界中で稲荷神様として崇められている。

 中身が元女子高生で、頭の良さも昔とこれっぽっちも成長していない私としては、全くそんな気はない。

 

 神皇を退位して普通の女の子に戻れるなら、今すぐにでも戻りたい。

 だが今のところは民意がそうはなっていないため、仕方なく続けていた。

 

 いつか絶対に下手を打って、国家運営が暗礁に乗り上げるに決まっている。

 いい加減に辞めさせて欲しいというのが、本音であった。

 

 稲荷大社や政府関係者も気づいてはいるはずなのに、そういう時は都合良く難聴になったりするから困る。

 

 私はそんな過去を振り返り、現実はどうしてこんなに辛いのだろうと、大きな溜息を吐いてしまう。

 

(それに日本以上に、親日国の鼻息が荒いのは本当に困るよ)

 

 親日国にとっては、日本は聖地だ。

 さらに神聖視している狐っ娘を殺そうとしたので、ある意味自国民以上にガチギレするのも仕方のないことだった。

 

 ゆえに親日国は日本以上に、『帝国……頭高くない? どうするリトルプリンス、処す? 処す?』状態になっている。

 

 大軍を送り込む準備は万全だと、親切心で申し出てくれた程だ。

 あとで異世界の土地や資源、利益などを要求したりせずに自腹を切ってくれるから、帝国滅ぶべしの本気具合が窺える。

 

 

 

 だが流石の私も、帝国を攻め滅ぼして更地にし、首都を駐車場として利用する気は毛頭ない。

 

 なので、なだめすかせて落ち着いてもらった。

 しかし鼻息荒いお偉いペロリストの方々を説得するのは、かなり苦労した。

 

 とにかく精神的に疲れたので、顔色悪く肩を落として尻尾もシュンとなってしまう。

 

 そんな私を見かねたのか、北条総理大臣が毎度お疲れ様ですと言って交代する。

 今度は彼が、日本の現状について説明していく。

 

「特地の土地や資源に関しては魅力的ですが、月面コロニーや宇宙開発も進めております。

 日本国政府にとっては、厄介な隣国が増えたことによる面倒のほうが多いでしょう」

 

 そう言って渋い顔をして、大きく息を吐いた。

 

 この世界では多くの国が狐色に染まっているが、そうでない国もある。

 

 うちや親日国が目を光らせているので、今のところは表立っては動いていない。

 だがそれでも、特地の支配や得られる利益を狙っている国々も、存在はしていた。

 

 なお、日本にちょっかいを出すのはいつものことだ。

 その後は、やらかしが発覚して経済制裁を受けるまでがセットである。

 

 最終的に大損するのだから止めとけばいいのに、本当に懲りない。

 

 だが敵を作らなければ、国民をまとめられないのもわかる。

 隣の芝生は青く見えると言うように、近くに妬みの対象がいればヘイトコントロールをしやすい。

 

 けれど、現時点では目立った動きはないので一旦置いておく。

 私は次の説明に移った。

 

「門に関して、互いの世界の接続が不安定でした。

 なので私が、力を流し込んで安定させておきました。

 放置すると時間経過で歪みが大きくなり、両世界が天災に見舞われそうでした」

 

 互いの関係が今後も続くかどうかは不明だ。

 そして戦争や戦後交渉が、早期に片付くか長期に渡るかもわかっていない。

 

 数日やそこらで片付く見込みはほぼない。

 場合によっては年単位で時間がかかることもあるし、その間に門が原因で異常が起きたり、接続が不安定になって行き来ができなくなるのは困るのだ。

 

「少なくとも損害賠償を支払い、遺族や被害者が納得できる謝罪をしてもらい、捕虜または奴隷として連れ去った日本国民を返還させるまでは、門を閉じられては困ります」

 

 門の現物を注意深く見ると、無理やり繋いだせいか、あちこち歪んでいた。

 

 神様的には、この程度気にするほどでもないのだろう。

 しかし、人間や他の生物にとっては大問題だ。

 ちょっと地面が揺れたり、気候が乱れるだけで、大勢の命が失われてしまう。

 

 流石に放ってはおけないので、急ぎ天照大御神様に連絡を取ったり、立川のお二人に手伝ってもらう。

 

 そしてDIYのように、補強や修繕作業を行った。

 

 納得し難いが、地球でもっとも神力を発揮できるのは私だ。

 先輩方は地上に長く留まるためにも、御力を無闇に使えない。

 なので助言に徹してもらったが、それでも大いに助けられた。

 

 やはり本当の神様は偉大で、いつでも代わってくれて良い。むしろ今すぐ代わってくださいと、口には出さないが強くそう思った。

 

 あとで私名義で貢物を送ることを約束する。

 

『僕たちが、可愛い後輩の助けになれたら幸いだよ』

『このぐらい気にしなくて良いから。稲荷ちゃんはこれから大変だろうけど、頑張ってね』

 

 朝までぶっ続けの徹夜仕事が終わったあとに、ニコニコ笑顔で言われたのだ。

 本当に良い人ではなく、善い神様たちだった。

 

 なので早速、参拝に行って貢物を送らせてもらう。

 稲荷大社は、世界各国の宗教が複合した神社だ。

 自宅から徒歩でお参りに行けるのは楽で良いし、この際なので日本政府関係者も謁見の間に呼ぶついでに、お礼を言っておくようにとそれとなく告げておいた。

 

 とにかくそういう理由で、人間の目やセンサー等では確認はできないが、現在のゲートは非常に安定している。

 少なくとも、当分は天変地異が起きる心配もない。

 

 さらに見た目は大理石の神殿だが、ちょっとやそっとでは壊れなくなった。

 

 

 

 それはそれとして、私たちは攻めてきた兵士を捕らえて捕虜にしている。

 ならば向こうの人間も同じことをしていると考えるのは普通で、扱い次第では奴隷のようにこき使っている場合もあった。

 

 行方不明で見つかっていない人は、特地に連れ去られた可能性が高い。

 まだ決定的な証拠はないが、戦後は帝国の要求に確実に入る。

 

 そこまで考えた私は、大きな溜息を吐く。

 

「もう面倒が起きるたびに、引っ張り出されたくないです。

 今回の件も、私の手には余りますし」

「いやいや! 稲荷神様でなければ、此度の事態の解決は困難極まりなく──」

 

 政府関係者が一斉にヨイショしてくれるが、社交辞令なのはわかっている。

 

 何しろ私は、基本的に考えなしの行き当たりばったりで動いてばかりなのだ。

 こういう知略を巡らせるのに向いていないのは、自分が一番理解していた。

 

 なので今回も適当に流して、大雑把な方針を伝えていく。

 

「とにかく特地とは戦争状態ですが、不幸なすれ違いの可能性は高いです。

 門の周辺を占領していた者たちが、全軍ではないでしょうが。

 技術力に圧倒的な差がありますし、負けるとわかっているのに侵略を行う愚か者はいません」

 

 私が至極当然の意見を発言すると、集まった政府関係者も同意なのか頷いている。

 

「確かに敵勢力の奇襲により、多くの被害は出ました。大変痛ましいことです。

 それでも日本全体で見れば、損害は軽微。稲荷神様が助けてくださいました」

 

 彼らペロリストは事あるごとに私を褒めるので、今ではすっかり慣れたものだ。

 何も感じないわけではないが、目の前に困っている人が居たら、助けるのが当たり前である。

 

 日本国民は、私にとって家族に近い存在なのだ。

 なので人として当然のことをしただけで、あとは自衛隊や警察や他にも頑張っている人がいることを付け加えて、さっさと次に移ってもらう。

 

 今度は、各大臣が各々の意見を口にする。

 

「捕虜の尋問を行った結果、特地は言語や文化は異なるものの、相手は我々と同じ人間でした。

 好き好んで命を捨てるような蛮行をするはずがありません」

「そうなると帝国の情報収集能力は、極めて低いと見るべきでしょうな」

「そもそも中世以前の技術力では、今の日本を正しく把握するのは困難だろう」

 

 やはりこの場に集まっている人たちは、私よりも遥かに優秀だ。

 トントン拍子に対策会議が進んでいく。

 

 ちなみにまだ、向こうの言語は完全には解読できていない。

 それでも捕虜の尋問で、相手は帝国なのは判明している。

 

 おかげで五百年近く最高統治者をしていても未だに軍事や政治は素人の私は、我関せずとのんびりお茶を飲みながら眺めているだけで済む。

 周りが優秀だと、本当に助かるのだ。

 

 それでもたまに助言を求められるので、全体の流れはちゃんと掴んでおかなければいけない。

 

 割と当てずっぽうで発言することもあったが、何とか対策案を捻り出して会議を進めるのだった。

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