GATE 稲荷様 彼の地にて、斯く戦えり   作:名無しのペロリスト

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特地へ

 特地についての会議を終えた私は、東京の稲荷大社ラジオ放送室で、銀座事件についての感想を述べる。

 別名、大本営発表と呼ばれているが、まさか本当に軍事系の放送を流すことになるとは思わなかった。

 

「私は戦争をしたくはありません。

 ですが、攻め込まれた以上は反撃をしなければ、さらに多くの日本人が殺されていたでしょう」

 

 私は、日本政府よりも遥かに信用されている。

 国家にとって重大発表するときには、コッチでもお願いしますと頼まれることが良くある。

 

 今回もそうだったので、政府広報と殆ど同じことを私見を交えて国民に伝えていく。

 

「よって、ここに帝国との戦争を宣言します!」

 

 門の周辺は自衛隊が占領している。

 それに日本政府が宣戦布告をしているので、今さらと言えた。

 

 だが非常事態に、やり取りが色々前後するのは致し方なしだし、稲荷神の発言だから意味があったりもする。

 

 とにかく日本国民に現状を説明した。

 私の役目は終了である。

 

 

 

 最近は、のんびり平穏に暮らしていたのに、どうしてこうなったのだ。

 急に降って湧いた仕事で大忙しである。

 放送を終えた私はカメラを止めてもらい、軽く体をほぐして伸びをする。

 

 このあとは事件の被害者や各関係者への慰問が控えているので、本当に休む暇がないのだった。

 

 

 

 

 

 

 銀座事件から、少しだけ時が流れた。

 

 本来なら十分な情報が得られておらず、安全が確保できていない特地に、日本の最高統治者が直接出向くことなどあり得ない。

 

 だが現実は違い、私で駄目なら他に誰が行っても無事では済まない。

 むしろ狐っ娘が一番安全というか、手っ取り早く終わらせるためにはこの手に限る。

 

 長引けば費用が嵩むし、人材や時間が失われていく。

 他国の土地を長期間占領するのもどうかと思うし、賠償金を支払わせて条約を結んだら、門の周囲を返還する予定ではあった。

 

 何より戦争が長引くほど国は疲弊していく。

 ただし日本は仲良くしてくれる国家が多いので、長期の戦争が可能ではあるが、帝国が賠償を支払えない状況に陥るのは避けたい。

 

 ゆえに、戦後交渉に移るなら早いほうが良かった。

 

 そもそも銀座に門ができてしまったのがいけない。

 日本の首都と隣接している帝国と戦争をしているのだ。

 国民の安心安全を保証するには、なるべく早い終結をとなるのは至極当然の結論だった。

 

 何やら作為的に銀座にゲートを開かれた気もするが、だからと言って無視はできない。

 きっと意味は違うけど、神の見えざる手という奴だろう。

 

 あっちの神様が私に何をやらせたいのかは不明だ。

 

 しかし私は、いつも思いつきや行き当たりばったりで行動する。

 偉い神様の計画通りになるとは限らないし、納得して実行した結果なら大人しく受け入れる。

 成るように成るとも言うけど、今は特地の対応が最重要なのだった。

 

 

 

 そういうことで、近衛と側仕えを連れて稲荷神専用車に乗りこみ、銀座に向かった。

 

 やがてドーム状の防護壁が見えてきたので、門の前で停めて扉を開けて外に出る。

 

 周囲には自衛隊員が大勢集まり、皆真面目な顔で整列していた。

 いつも通りに微笑みかけて手を振ろうとしたが、近くの慰霊碑に花を添えている人たちを見かけて、ちょっと気持ちが沈んで自重する。

 

 それはともかく、普通はこういう時は首相がやるはずだ。

 しかし自衛隊の強い後押しで、私に白羽の矢が立った。

 

 日本の自衛隊の大多数はペロリストが占めている。

 昔からそうだから仕方ないとはいえ、表情には出さないが気が重い。

 

 しかし少しでも士気が上がるならと、渋々受けた。

 私は演説台に向かって歩いて行く。

 

 今は本位首相がお話中なので、お口チャックである。

 

「稲荷神様と北条前首相、そして各党の皆様の尽力によって、この法案が可決し、そしてついに!

 諸君らを特地に派遣する運びとなりました!

 自衛隊の諸君! 諸君らの任務は、誠に重大であります!」

 

 前世と違って、コッチの自衛隊は日本を守護するための軍隊で、憲法九条もない。

 必要なら、自国の防衛だけでなく他国の侵略も可能だ。

 

 なので私個人の感情や他国の思惑はともかく、二つの世界を繋ぐ門の周囲を占領するのは当然の権利だと考えていた。

 

 自衛隊や日本国民も、やられたらやり返されることは知っているので何も言わない。

 

 もっと言えば、国民感情としては『民間人だけでなく、稲荷神様を害そうとした野蛮な帝国は、滅んで当然』という、かなり過激な意見が目立つ。

 確かに気持ちはわかるし、一万人近く殺されたのだ。怪我人や被害者はもっと多いし、そっちに傾いても不思議ではない。

 

 

 

 だが今回の事件は、言語も文化も違うために引き起こされた、不幸なすれ違いだ。

 そもそも向こうの神様が、勝手に地球と特地を繋げなければ、こんな痛ましい事件は起きなかった。

 

 天罰が怖いので口に出したりはしないが、振り回される一人としては、溜息しか出ない。

 

 やがて首相の演説が終わったので交代して、今度は私が大勢の自衛官たちの前に立つ。

 そして軽く周囲の人々を見回したあと、堂々と話し始める。

 

「特地で何が起きるかは、誰もわかりません!

 ですので、門を越えた瞬間から戦闘が始まるかも知れないという、心構えでいてください!

 そして一人も欠けることなく、生きて帰って来てください!」

 

 我ながら無茶を言っている自覚はあるが、やはり命が一番大切だ。

 死んでしまっては、何にもならない。

 

 私は心の底から彼らの無事を願って、ビシッと敬礼をする。

 自衛隊員たちも元気良く返してくれ、取りあえず演説を終えたので専用の車に乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 防護壁を開くと、大理石の巨大な神殿が姿を見せる。

 まずは自衛隊が先行して、私は後詰めとして専用車両で付いて行く。

 

 捕虜を尋問して、ある程度の情報は得ている。

 斥候を放って状況は把握しているので、先程言った通りに門を出た瞬間に鉢合わせするだろう。

 

 最新装備の殆どがAI制御やオンラインが基本である。

 クローズドな状況でどの程度の性能を発揮できるかは、実験データはあっても実戦の経験はあまりない。

 

 カタログスペックでは問題ないらしいけど、私はちょっと不安だ。

 

 SFアニメでは、AI制御を切るのは、目を閉じたまま野球をするようなものだと言っていた。

 

 自衛隊では、通信不能状態での作戦行動も、当然想定している。

 なので、流石にそこまで酷くはないと思う。

 

 とにかく異世界のゲートになっている大理石の神殿の内部に入ると、陽の光が届かなくなり、周囲は暗闇に閉ざされる。

 

 ライトで照らしても、数メートル先しかわからない。

 別の世界に行くというのはそういうものなのかもと、ぼんやりと考えた。

 

「稲荷神様の代わりはおりません。

 どうか御身を大事にされますように」

 

 私が窓の外を眺めていると、側仕えが心配そうな表情で見つめながら口を開いた。

 五百年近く変わらず存在しているのだから、不安気な心の内を読まれても不思議ではない。

 

「でしたら、私の代わりになる人を育てて欲しいですね」

「申し訳ありません。稲荷神様の代わりとなると」

「……でしょうね。構いませんよ。言ってみただけ、冗談です」

 

 人間の寿命は、長くても百年ほどだ。それに、生涯現役でもない。

 私は転生してからずっと全盛期が続いていて、他の神様とも普通に話せる。

 さらに地上生まれだからか、現世の燃費がすこぶる良かった。

 

 おまけに信仰心ブーストがかかるので、他の神様よりも地球上では能力を発揮できる。

 

 そんな私ではあるが、滅多に表には出ない。

 だが今は色々と忙しく、特地に行くことになった。

 

 ここ最近仕事ばかりで、ちょっと気が滅入っていたのかも知れない。

 なので大きく息を吐いて軽く体をほぐしたあと、ヨシっと気合を入れた。

 

「こういう時は逆に考えましょう! 地球から離れた特地で、のんびりできると考えるのです!」

 

 どんな状況でも、明るく前向きなのが私の良いところだ。

 考えなしとも言うが、クヨクヨしているよりは良い。

 

 それに帝国への対応は面倒臭くても、異世界に興味がないわけではない。

 日本の最高統治者でも中身はオタクだし、やっぱりファンタジーをこの目で見たい欲がある。

 

 なので仕事優先なのは確定だが、それでも特地という超重要案件に、私なりに少しでも楽しみを見出そうとした。

 

 これから戦闘状態になるのだから、自分が元気でないと士気が下がってしまう。

 

 そんなことを考えていると、前方が明るくなってくる。

 実際には薄暗い神殿内よりはマシ程度なので、恐らく夜明け前なのだろう。

 

 事前情報で、特地は時間のズレがあるのは確認している。

 そしてドンパチ賑やかな音が響いてくることから、どうやら既に戦闘は始まっているようだ。

 

 稲荷神専用の車は、見た目は普通の高級車だ。

 しかし実際は、オーバーテクノロジーの塊である。

 例えるなら、コウモリのダークヒーローが乗り回すバ◯トモービルだ。

 とにかく頑丈で、ちょっとやそっとでは壊れない。

 

 その気になれば空を飛んだり銃火器を発射し、障害物を破壊して走行できる。

 だがそんな危機的状況になったら、私が降りて戦ったほうが手っ取り早い。

 真価を発揮する機会は、多分ないだろう。

 

 それはそれとして、後詰めの私が門の外に出る頃には、わざわざ出る幕もなく戦闘は殆ど終わっていた。

 もちろん予想通り、初戦は日本の自衛隊の圧勝だ。

 

 ただし、敵軍の第一波を退けただけで決着はついていない。

 また攻めて来る可能性は、極めて高い。

 

 しかし、それでも今のところは自衛隊に一人の犠牲者も出さずに済んだようで、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。

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