GATE 稲荷様 彼の地にて、斯く戦えり 作:名無しのペロリスト
門から出て早々、いきなり帝国軍と鉢合わせして戦闘に突入した。
そのまま二日ほど戦いが続いたが、最後まで自衛隊の圧勝で終わる。
自衛隊の兵器だが、正直十全に使えるとは言い難い。
しかしクローズド状態でも、中世以前の軍隊が相手なら問題なく戦えていた。
だが、いつまでも不便な状態を強いるつもりはない。
現在は事前に計画した通り、人工衛星の打ち上げに向けて準備を行っている。
もちろん私も参戦し、夜は決して消えない狐火で周囲を明るく照らして敵の夜襲を封じたり、敵陣に突入して八面六臂の大活躍をした。
ただ別に、戦闘狂ではない。
成り行きで戦わざるを得なくなっているので、できることなら即刻撤退してもらい、戦後交渉に入りたいところだ。
そういうことで、二日かけて敵軍を退けた。
攻撃が途絶えたのを好機と考えた私は、今度はこっちから出向くことにする。
だが残念ながら、時間が足りなかったようだ。
私が帝都に向けて出発するよりも先に、第二陣がやって来る。
幸い距離はまだ遠く、進軍中だ。
しかし戦闘に入っていないが、接敵するのは時間の問題である。
なので、取りあえず白旗が意味があるかはわからないけど、武器を持たない和平の使者として直接出向くことに決めた。
最高統治者が、単身で敵軍に行くとか正気を疑う。
しかし自分は武器など必要ないワンマンアーミーで、全力を出せばその日のうちに帝国を滅ぼせる。
まあ、『温厚な私でも、ブチギレですよ』にならない限り、そんな非道なことはしない。
だがやはり単独で向かうのは難色を示したので、一応弁明する必要が出てきた。
私は臨時の特地司令部で椅子に座り、集まった自衛隊の関係者に向けて堂々と発言する。
「大丈夫です。通訳も一緒ですから」
文武両道で、また片言だが異世界語を覚えた側仕え一人を連れて行く。
これなら、いざという時にも抱えて逃げられる。
なので私は問題ないと判断したのだが、それでも納得はできないようだ。
しかしこのまま戦闘に突入したら、また大勢の死傷者が出てしまう。
突然、攻め込んできた帝国が十割で悪い。なので自業自得で、そんなに心は傷まない。
けれど既に、銀座で亡くなった人よりも遥かに多くの人命が失われているのだ。
これ以上の犠牲は望んではいないし、帝国との付き合いをどうするかは、依然として不明のままである。
もし今後も門が存続して、日本の隣国になるとしたら、悪感情を向けられる要因を増やすのは得策ではない。
関わらずに済むならそれが一番良いが、戦後交渉がいつ終わるかどころか、講和はまだ始まってもいなかった。
何より日本国の首都に、異世界と行き来するゲートが存在しているのが嫌らしい。
私個人としては、ぶっちゃけ邪魔まであった。
なので取りあえず、帝国とは今後もお付き合いが続くことを前提に行動することに決めて、なるべく相手国を刺激しないように少数精鋭で交渉に臨むのだ。
「屈強な男性が一緒だと、相手が警戒しませんか?」
「それはそうですが! やはり稲荷神様と護衛一人だけでは!」
側仕えも近衛ほどではないが、戦闘訓練も受けている。
私のお世話が主なので、護衛はついでだ。しかし、もし戦えばかなり強いらしい。
そもそも近衛と側仕えは毎年一名しか選ばれないし、まさに日本国民もといペロリストの代表と言うのが相応しく、能力と忠誠心が異常に高い人が多くなるのは、至極当然と言えた。
私個人としてはもうちょっと普通の人でも構わない。
ただ普段は表面上は上手く隠しているようで、滅多にペロリスト発言は出てこない。
きっと自分がそういうのを苦手としており、あまりにも過激だとチベットスナギツネの表情を浮かべるのを知っているから、隠しているのだろう。
それはそれとして、なかなかOKが出ない。
どうしたものかと、私は頭を悩ませる。
こうして考えているうちに、敵軍は攻め込む準備を進めているのだ。
特地に派遣された自衛隊なら、今の戦力でも返り討ちにするのは容易い。
しかし私たちは蛮族の集まりではなく、戦いを回避できるならしたほうが良い。
当たり前だが、戦争は金がかかるのだ。
そこで、まずは私が直接乗り込み、言葉を交わして互いに妥協ラインを探る。
どうしようもなくなった場合は、『かかってこい。相手になってやる』と、最終手段に出るのだ。
まあ私が行ったからとはいえ、相手が交渉のテーブルについてくれるかはわからない。
しかしその時はその時で、まだ結果が出ていないのに諦めるには早かった。
いつもこんな感じで行き当たりばったりだが、今回は自衛隊や近衛が折れてくれないので、先にそっちから妥協ラインを探る必要がある。
「では、交渉を行うのは私と側仕えなのは変わりませんが、途中まで同行を許可します。
帝国の将軍も、大勢の部下を引き連れています。立場が上の者だと察してくれるでしょう」
「はい! 我々自衛隊にお任せください!」
戦闘なら私だけで事足りるが、彼らの言い分もわかる。
それに通訳をしてくれる側仕えは、強くても人間だ。
軽量のパワードスーツを衣服の内側に着用しているが、万が一がないとは言い切れない。
その場合、敵の気を引く別働隊が居てくれたほうが、安全に逃げる時間を稼げる。
私も別に、全滅させる気はない。説得が一回失敗しても、またチャレンジすれば良いのだ。
最終手段は、本当にどうしようもなくなった時に取っておく。
そういうことで自衛隊には、逃げ帰る際に囮役を期待したい。
「稲荷神様! 自衛隊は門を守護するという重要任務があります!
代わりに、我々近衛が命に変えても御守り致します!」
「いいや! 特地は我々自衛隊の管轄だ!
それに軍隊が相手となれば、近衛の出る幕はない! 自衛隊が対応しよう!」
私が今後について考えている間に、近衛と自衛隊と言い争いを始めた。
仲が悪いのは昔からだが、どちらも神皇の直轄組織である。
一応自衛隊は日本政府からも命令を出せるようにはなったけど、トップが私なのは変わらずなのでややこしい。
個人的には、軍事に対する権限を放棄したい。
いつうっかり、世界大戦の引き金を引いてしまうのではないかと、気が気でないのだ。
だが絶対に嫌だと反対するので、渋々権限を行使している。
けれど今は時間がないので、私は椅子から立ち上がって側仕えと一緒に外に出ていく。
「人数が多いと警戒されて、攻撃を受ける危険が高まります。
十人も居れば良いでしょう。
どちらが何名出すかは、話し合って決めてください。
一時間後に出発しますので、まだ揉めていたら置いていきます」
この場の者たちの殆どが焦った表情になり、ますます議論が白熱する。
私と側仕えはこれ以上付き合う理由はないため、別の部屋に移動して英気を養っておく。
さらに相手を交渉のテーブルにつかせるために、相談して急ぎ準備を進めるのだった。
約束の時間になったので司令部に向かうと、出発前から双方が疲れていることがわかる。
こんな状態で戦えるのかと思ったが、彼らは問題ないと自信満々に言い切った。
いざとなれば手動ではなく、完全にAI制御に切り替えて戦えはする。
バッテリーが保つ限りは何とかなるのだろうが、少なくとも特地の帝国軍人に負けるほど弱くはない。
まあプロが大丈夫と言っているのだから、素人の私があれこれ考えることではないのだろう。
とにかく私と側仕え、あとは近衛と自衛隊の半々で合計十二名が揃った。
予定通りの時刻に、出発する。
敵軍の位置や周りの地形は常時捕捉しているので、迷うことはない。
今は、見晴らしの良い平野に陣を張っているらしい。
私は馬に乗って微速前進し、他の者は徒歩で移動してもらう。
帝国の流儀に合わせているつもりだが、一人だけ楽をして申し訳ない気分だ。
それはそれとして側仕えは風呂敷包みを背負い、一部の護衛には日章旗を掲げてもらっている。
何故か命じてもいないのに、稲荷大社の神紋やデフォルメされた狐の旗もあがっているが、うちの国民は色々アレなので気にしないことにした。
とにかく私たちは、ゆっくり確実に敵陣に近づいていく。
やがて向こうも、気づいたようだ。
数十名ほどの騎馬隊が出陣し、こちらに接近してくる。
やがて彼らは私たちを取り囲み、隻眼で高齢の騎士が大声で威圧してきた。
「アルヌスの丘より来たように見えたが、お前たちは何者だ!」
側仕えが通訳してくれたので、私も返事をする。
「私たちは、貴方たちがアルヌスの丘と呼んでいる場所から来た者です!
帝国と戦う気はありません! 日本国の使者として、話し合いを望みます!」
私の発言が、ちゃんと伝わっているかはわからない。
驚かれたが、いきなり斬りかかってくることはなかった。
堅物の武人に見えるけど、案外理性的な人なのかも知れない。
あとはリーダー格の私が、彼らと同じ武器や鎧を持っていない。
さらに少数なので、警戒するに値しないなど、色々な理由が考えられる。
(未知の武器を使う敵国なら、普通はもっと警戒するはずだけど。
もしかして、情報が伝わってない?)
帝国に大打撃は与えたが、生存者がゼロなわけではない。
途中で逃げ出した人も大勢居るので、首都に帰還した者が日本の情報を伝えているのが普通である。
しかし、一応は用心はしているが、それだけのようだ。
情報の伝わり方に違和感を覚える。
だがそれは、あとで確認すれば良いことだ。
気持ちを切り替えて、話し合いを続ける。
「ならば、日本は帝国に降伏するのか」
「交渉次第ですが、そうなる可能性はあります」
「……ふうむ」
嘘は言っていない。
万が一どころか億が一よりも低いが、決してゼロではなかった。
その場限りの嘘だとしても、降伏します。
もしくは降伏について、持ち帰って前向きに検討しますなどの、発言が飛び出す可能性もあった。
なのでヘリクツだけど、決して嘘ではないのだ。
私が将軍らしき人にはっきりと告げると、彼は少しだけ考え込む。
その後、付いて来るようにと大声で呼びかける。
騎馬隊の包囲を解くことはなかったが、私たちはそのまま、帝国軍の本陣に招き入れられたのだった。