GATE 稲荷様 彼の地にて、斯く戦えり   作:名無しのペロリスト

6 / 13
デュラン将軍

<デュラン将軍>

 思わぬ形で日本の最高統治者と接触した連合小王国軍だったが、最初は獣人の奴隷だと思っていた。

 主人の命を守るために獣人奴隷を影武者に仕立てるのは、帝国貴族ならなくはないからだ。

 

 なので、てっきり日本国もそうだと考えていたのだが、全くの見当違いだと気づく。

 

 稲荷殿が神の証明に、大きな石を容易く握り潰す。

 さらに何の予備動作もなく一斉に発火させ、塵も残さず焼き尽くしたからだ。

 

 もちろん最初は小細工をしたのではないかと疑ったが、念入りに調べた。

 各国の将軍だけでなく、護衛の騎士たちにも同じことをやらせたのだ。

 特に異常はなく、ただの石ころだとわかっただけだった。

 

 それに生存本能とも言える長年の勘が、彼女に逆らってはいけないと警告を発している。

 この場に集まった将軍や騎士たちも、過酷な戦場でこれまで生き残ってきただけはあった。

 

 すぐに我々とは別格な強さだと、本能的に理解する。

 例えるなら人間サイズになった炎竜だろう。

 

 幸い温厚な性格のようで、こちらから手を出さなければ危害を加えることはない。

 なので、一先ず話を聞くことにした。

 

 ちなみに、日本がどのような国かは不明だが、意気揚々とアルヌスの丘の門を通過した帝国軍が大敗している。

 さらに聖地を包囲し、奪還作戦を行った軍も全滅という酷い有様だ。

 

 彼女や門を占拠している敵軍が、危険な存在であることは確実だった。

 しかし稲荷殿の主張を信じるならば、不幸なすれ違いで戦争状態になってしまい、攻め込まれた日本は反撃しただけらしい。

 

 もちろん帝国の言い分もあるだろうが、我々連合小王国軍としては正当防衛の主張は概ね正しいと判断する。

 日本にとっては、我々のほうが侵略者なのだ。

 

 結果、自国を守るためにもアルヌスの丘を占領する。

 

 戦いに負ければ、領土を奪おうとすれば逆に奪われる可能性もあった。

 もちろん勝てば良いのだが、残念ながら帝国は連戦連敗の負け続きだ。

 

 その尻拭いを、周辺諸国や属国にやらせようとしている。

 もしくは同じように敗北し、兵力を消耗させようとしているのだと、稲荷殿の説明から漠然とだが察することができた。

 

 

 

 日本の使者を帰して少し経ち、状況を整理した。

 現実はままならないものだと、大きく息を吐いていると他の将軍が話しかけてくる。

 

「デュラン殿。稲荷殿の提案を受けて、本当に良かったのだろうか」

「……受けるしかあるまいよ」

 

 連合の将軍たちはその場に残り、先程まで今後の対策を話し合っていた。

 彼女の説明は、日本を大きく見せるために誇張も多分に含まれているだろう。

 

 それでも帝国軍が完膚なきまでに敗北し、今なお連戦連敗なのは嘘偽りのない事実だ。

 もっと言えば、門の向こうの日本に侵略したのも間違いないだろう。

 つまり先に戦争を仕掛けたのは帝国で、日本は被害者と言える。

 

 もちろん弱肉強食のこの世界では、被害者の主張が通るはずがない。

 弱い国家は侵略されて、属国として虐げられる。文句など言おうものなら、無慈悲に処刑されるのがオチだ。

 

 これまで何度もそうやって領土を広げてきたのが帝国で、まさに大陸の覇権国家である。

 

 だが今回は、相手が悪かった。

 日本国は不明な点が多いが、決して舐めてかかって良い国ではない。

 

 他の兵士はまだわからないが、稲荷殿は別格だ。

 我々が一斉にかかっても、傷一つつけられずに敗北する未来が垣間見える。

 

「稲荷殿は、恐らく日本の亜神だろう」

 

 亜神とは人の肉体を持ったまま、神としての力を得た存在だ。

 獣人が神々の祝福を受けるのは珍しいが、可能性としては十分にありえる。

 

 なので日本の神だと主張したときにも、信じることができた。

 

 そして憶測だが戦闘能力は、かの戦神で名高いロゥリィ・マーキュリー、もしくは炎竜に匹敵する。

 ゆえに強大な亜神が日本国に味方しているのなら、敵対するのは得策ではない。

 

 あくまで現時点での判断だ。

 流石に勝ち目が全くないわけではないが、連合小王国軍にも甚大な被害を覚悟しなければならない。

 

 それが一騎打ちの十本勝負の結果次第では、アルヌスの丘を明け渡してくれるのだ。

 戦死者を出さずに勝利できるのだから、大変ありがたい。

 

 最初は嘘ではないかと疑ったが、日本国を背負って立つ稲荷殿は至極真面目に返答する。

 正式な契約書を作成して、きちんとサインして帰っていった。

 

 日本が一騎打ちに自信があるのは間違いないだろう。

 だがそれは、我々連合小王国軍も同じだ。

 

 特に今回は命を奪えば反則負けになるので、帝国軍を壊滅状態に追い込んだ謎の兵器は使えないだろう。

 そう考えると、なおさら我々が有利になる。

 

「戦うにせよ、退くにせよ、日本を知る良い機会だ」

「少なくとも無策で正面から挑むには、相手が悪すぎますからな」

「日本と戦争をするのなら、連合小王国軍も刺し違える覚悟をせねばなりますまい」

 

 稲荷殿なら、帝国軍に打ち勝ってもおかしくはない。

 日本の兵士の実力は、現時点では不明だ。

 

 一騎打ちをすれば少しは見えてくるだろう。

 まずは相手国のことを良く知らなければ、勝てる戦いも勝てなくなる。

 

 なので我々の進退を決めるためにも、ありがたい申し出だった。

 それにわざわざ多くの土産物も持参してくれたので、無下にするわけにもいかない。

 

 できることなら帝国との戦争が終結したあとで、連合小王国とは良い関係を築きたい。

 そう思えるほど、特に悪い印象は抱かなかった。

 

 被害が出ていないうえ、稲荷殿の誠実さに心を打たれたのもある。

 

「彼女は慈愛の女神だな」

「うむ、あのような神は珍しい」

 

 口には出さないが、神とは総じて身勝手なものだ。

 もちろん彼らなりのルールや、倫理観に基づいて行動しているのはわかる。

 

 だがそれでも、人間や他の生き物にとっては理不尽だと抗議したくなることも多い。

 

 けれど稲荷殿は腹芸は好まず、思ったことをそのまま口にしていた。

 誠実でとても真っ直ぐで、侵略者の片棒を担いでいる我々を気遣っていたのだ。

 これ程の慈悲深さは、こちらの神々には滅多にいない。

 

「そもそも日本国の最高統治者なのだろう?

 務められる神など、存在するのか?」

「何を言っているのだ? デュラン殿も、先程会って話したであろう」

 

 ぐうの音も出ない正論ではある。

 しかしこちらの世界には、人類に近い視点で物事を考えられて、常識的な思考を持ち慈愛に溢れた神は居るかと聞かれると、ちょっとすぐには答えられない。

 

 近い存在は思い当たっても、どの神々も何かしらの問題や欠点を抱えているのだ。

 もちろん頼りになる点も多くある。

 

 だが総合評価を出すと、国家を統治するのは不可能という結論になってしまう。

 

 さらに亜神は、時の権力者に良いように利用されたり、統治権を奪って何百年も幽閉などもあり得る。

 人類の歴史を振り返れば、そのような愚行は数しれず、やはり稲荷殿のような亜神は極稀という結論に至った。

 

 

 

 稲荷殿が統治している日本は良く知らないが、羨ましくなってしまう。

 だがこのままでは話が進まないため、気持ちを切り替えて会議を再開する。

 

 とにかく、彼女が日本の最高統治者を勤めているのなら、友好国として親睦を深める価値は十分にある。

 他の将軍たちも、同じ気持ちのようだ。

 

 できれば戦争をせずに丸く収めたいものだと口々に漏らす。

 そんな話し合いをしていると、見張りが申し訳なさそうな表情で中に入ってきた。

 

「ご報告致します! 日本国の稲荷殿が、デュラン様にお目通りを求めております!」

「稲荷殿が? 先程帰ったばかりではないか。何かあったのか?

 ……まあ良い。会おう」

 

 断る理由はないし、忘れ物でもしたのかも知れない。

 とにかく稲荷殿を通すようにと伝えると、すぐに彼女と側仕えの二人が入ってきた。

 

「たびたび申し訳ありません。

 三日後の一騎打ちについて、打ち合わせをしたいのですが」

 

 一騎打ちで打ち合わせをすることなど、何もないはずだ。

 命を奪わないという決まりだけで十分だが、ここでふと気づく。

 

「まさか我々に手を抜いて、日本を勝たせろと言うのではあるまいな」

「いえ、そうではなくて、もっと細かな決まりをですね」

 

 そう言って稲荷殿は、側仕えを通じて我々に丁寧に説明する。

 

 一騎打ちの勝敗に関する決まりを細かく定めるらしい。

 本来なら、最後まで立っていた者が勝利という単純明快なものだ。

 今回は命を取らないという縛りがあるが、我々はそれで十分と判断していた。

 

 だが日本は連合小王国軍とは異なる国だ。

 当然、試合の決まりも全く同じではなく、文化も異なる。

 事前に打ち合わせをし、詳細を詰めて決まりを明確にするのが重要らしい。

 

「それと、試合会場も作って良いですか?」

「一騎打ちなど、平野で戦えば良いのではないか?」

 

 試合会場と聞いて、地面を平らにならしたり、木の板でも敷くのかと考えた。

 その間に稲荷殿は、続きを説明していく。

 

「場外負けも有効にしたほうが、勝敗がわかりやすくなるので」

「なるほど、確かに一理あるな」

 

 棒で地面に線を引くだけでは、場外負けで揉める可能性がある。

 両陣営が納得できる審判が必要になるだろうが、そんな人物は簡単には選べない。

 

 あとは物言いもされそうだ。

 その点、木の板から落ちたら負けなら非常にわかりやすい。

 

「会場作りは日本が行います。

 デュランさんたちには、最終確認をしてもらえればと」

 

 やけにグイグイ来るが、稲荷殿は我々を全く恐れていない。

 そういうところも大物だと思いながら、他の将軍たちも交えて打ち合わせを進める。

 

 所々良くわからない箇所もあったので、通訳に噛み砕いて説明してもらうことも多かった。

 

 しかし、相変わらず優秀な部下を従えているのを見ると、非常に羨ましい。

 

 容姿も器量も抜群に良いとなれば、高待遇で構わないので雇いたいものだ。

 夜の相手も務めてくれそうだし、息子や孫の嫁の一人に欲しくなる。

 だが、あいにくそんな気は毛頭ないようだ。すげなく断られてしまった。

 

 そんな我々の思惑はとにかく、稲荷殿は時々我々ではない誰かと話している。

 日本国と政府関係者らしく、風魔法のようなモノらしい。

 やはり技術は向こうが上をいくようだが、それは一騎打ちの決定的な差にはならない。

 

 その後も打ち合わせは続き、日が暮れる前には何とかまとまったのだった。

 

 

 

 

 

 

<稲荷神>

 私は『勝算はあるのか?』と聞かれたら、『思いつきを数字で語れるものかよ!』と返事をするのが基本の、日本の最高統治者である。

 

 こんな行き当たりばったりのことばかりしてたら、いつか絶対に国家運営が暗礁に乗り上げるに決まっている。

 だから、退位OKと日頃からたびたび口にしている。

 しかし、残念ながらそんな気配は微塵もなかった。

 

 

 

 ただ今回の提案は、もし負けたら日本は特地から撤退しなければいけない。

 十中八九でうちが勝つだろうが、敗北の可能性はゼロではなかった。

 なので、ちょっとだけ期待していたりする。

 

 ちなみに異世界でも、IHKの特地支部で大本営発表をしている。

 今回は帝国と属国や周辺諸国の関係を簡単に説明していたのだが、その時に『今回の一騎打ちで日本が負けたら、責任を取って退位しますね』とつい漏らしてしまった。

 

 いわゆるその場の雰囲気というやつで、こういう時には失敗したら、誰かが責任を取らないといけない。

 その場合、言い出しっぺの私が相応しいのは当然だ。

 

 だがここで、日本国政府が危機感を持ったらしい。

 全力全開で乗っかってきた。

 

『日本の勝利をより確実なものとし! 稲荷神様の作戦を必ず成功させる!』

 

 そんなスローガンに掲げ、日本の技術力を特地の人たちにアピールするという表向きの目的も用意し、わざわざ今年の国家予算を出して試合会場を建築しだしたのだ。

 

 自衛隊だけでなく、日本から重機や職人が大量に送り込まれてくる。

 彼らは夜通しで土木工事を行っていた。

 

 だが、戦争はとにかく金がかかる。

 たとえ勝っても、すぐに元が取れるとは限らない。

 なので犠牲は極力出さずに、なおかつお金や資源や人材も時間も使わずに決着をつける。

 その後の賠償問題もトントン拍子に片付けられるなら、それが一番良い。

 

 しかし現実は、国民感情は帝国滅ぶべしだ。

 正直、穏やかではなかった。

 

 私がブレーキ役に徹するのは過去にもあったし、何とか上手いこと調整しないといけない。

 

 幸いデュランさんたちから情報を得た限り、今回出陣しているのは帝国の正規軍ではない。

 分類としては帝国軍に含まれてはいるけど、実際にやって来たのは周辺諸国や属国である。

 

 なので銀座を侵略したり、門を奪還しに来た帝国の第一陣とは違う人だと、大本営発表で発表しておいた。

 

 

 

 つまり何を言いたいのかと言うと、デュランさんたちは良いように利用されているだけだ。

 日本が戦うべき敵国ではないのである。

 

 もちろん、攻めて来るなら反撃する準備はできている。

 だが流石に何でもかんでも、サーチアンドデストロイするのは如何なものかだ。

 

 あくまで戦争は最終手段で、まずは話し合いからだ。

 

 幸い彼らは、私の提案に乗ってくれた。

 一騎打ちで決着をつけられるなら、それに越したことはない。

 

 ここで日本の凄さを見せつけて、自然に矛を収める流れに持っていくのが自衛隊の役目だ。

 戦っても絶対勝てないと理解すれば、日本とは仲良くするほうが得だと考えるだろう。

 

 デュランさんたちは帝国に協力しているが、周辺諸国なので多少は与し易い。

 けどまあ、その辺りは日本政府の各関係者がやることだ。

 

 私にできるのは、せいぜいキッカケ作り程度である。

 

 取りあえず工事の進行具合を、狐っ娘用の安全ヘルメットを被って、邪魔をしないように離れて静かに見守る。

 遠くにデュランさんたち連合小王国軍の見張りがいた。

 

 なのでフレンドリーに近づいていき、通訳を間に挟んで呑気に世間話をするのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。