GATE 稲荷様 彼の地にて、斯く戦えり   作:名無しのペロリスト

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一騎打ち

 特地に来るまで準備期間があったおかげで、早期に人工衛星を打ち上げられた。

 試合会場も無事に完成したので、ギリギリ間に合ったと言える。

 おかげで最新兵器が万全の状態で使用可能になり、日本の勝率がさらにあがった。

 

 私としては、泣けば良いのか笑えば良いのか複雑な心境だ。

 日本国民は神皇の進退がかかると、こっちがドン引きするぐらいのガチモードになるから困る。

 

 時間が差し迫っている中で、日本の底力を見せつけられた。

 思わずチベットスナギツネの顔になってしまうのも、仕方のないことだ。

 

 それでも喜んで報告してくるので、引きつった笑みで苦労を労う。

 私にできるのは、それが精一杯なのだった。

 

 

 

 とにかく約束の三日後になった。

 連合小王国軍の皆さんがやって来たので、まずは将軍のデュランさんたちに試合会場の最終確認をしてもらう。

 

 他の人は初めて見たのか驚愕の表情で固まっているが、私もチベットスナギツネの顔になったので同意しかない。

 

 結果次第で神皇の退位がかかっているとはいえ、誰がここまでやれと言ったである。

 何処から見ても立派な闘技場だ。

 

 月面コロニーや宇宙開発できるほど、技術力が高い。

 ガチモードになれば数日で完成するので、そんなに不思議ではない。

 私が焚きつけたせいもあるけど、今は考えないことにする。

 

 現場の関係者は、妥協だらけだと悔しがっていた。

 それでも、外から見ると立派な闘技場だ。

 

 中央はブロックが敷き詰められた正方形のリングで、周囲には芝生が植わっている。

 客席は球場で良くある構造だが、残念ながら時間が足りなかったのか、一万人ほどしか収容できない。

 

 それでも、突貫工事で数日で完成させるのは頭がおかしい。

 宇宙開発できるレベルならこのぐらい普通なのかなと思ってしまうほど、この世界の日本やペロリストたちに慣れてしまっていた。

 

「どうでしょうか? 連合軍の皆さん」

「ううむ! まさか数日で、これ程の物を作り上げるとは!」

「信じられん! 何という技術力だ!」

 

 こうなったのは技術力だけではないのだが、それは今は関係ないので置いておく。

 取りあえず驚きで固まってはいるけど、会場自体は問題はないようだ。

 

 罠も仕掛けられていないことを、しっかりチェックしてもらう。

 あとはもし何かあれば、そのつど指摘してもらえば良い。

 

 とにかく何処にも異常はなく、妨害工作も行っていない。

 そんなことをしなくても、きっと勝つのは容易いだろう。

 それに、やるからにはスポーツマンシップに則って、正々堂々と戦うつもりだ。

 

「今回は日本政府の方々も訪れています。後ほどご紹介しますね」

 

 本来なら、危険な特地に来るのは控えたほうが良い。

 だが連合小王国軍とは、契約を結んでいる。

 

 もし何かあれば契約違反になり、向こうが十割で悪い。

 しかし万が一でも荒事になる可能性も考慮し、護衛から離れずに行動してもらう。

 さらにいざという時に逃げられるよう、お年寄りではなく若者や中年の方々が中心のメンバーである。

 

 形式上は一時停戦中のため、事件や事故が起こらないと信じたいところだ。

 勝負の結果がどうなっても、日本と連合国、それに帝国との付き合いは今後も続く。

 

 せっかくのお偉い方々が集まっているのだからと、この機会に外交交渉を進めるらしい。

 転んでもタダでは起きないし、何もせずに逃すには惜しい。

 日本政府も、色々と考えて動いているようだ。

 

 私もこういう国際問題の解決や外交交渉は、餅は餅屋でプロに任せるべきだと考えている。

 帝国が焚きつけた連合小王国軍が退いても、また攻めて来る可能性もあるのだ。

 ならばそうならないように、話し合いで解決できれば一番良い。

 

 ただしそれは周辺諸国の話で、帝国は別だ。

 遺族や国民感情を落ち着かせるのは非常に難しく、こういうのは大抵禍根が残る。

 敵国もそう簡単には賠償を支払わないだろうし、例え降伏しても長期プランで返済してもらうから、相当長い戦いになりそうだ。

 

 そう考えるとアルヌスの丘を返還するのは当分先になるし、場合によってはこのまま日本が管理するかも知れない。

 ならば人工衛星を打ち上げてインフラを整備するのは、正しい判断だ。

 

 ちなみに稲荷神話は健在で、危険地帯であろうと私の周辺が一番安全だと信じられている。

 だからこそ日本政府は、外交官や各関係者を派遣したのだろう。

 前世ではちょっと考えられないけど、こっちの日本では良くあることだ。

 

 そもそも日本の最高統治者が特地に殴り込みをかけること自体、あり得ない。

 やっているのは私だが、本当に色んな意味でおかしい。

 

 

 

 それはそれとして、今は打ち合わせ通りに試合を進めることが重要だ。

 

「デュランさん、それに連合小王国の将軍の方々、本日はよろしくお願い致します」

「あっ、ああ、こちらこそよろしく頼む」

「特別席をご用意していますので、こちらにどうぞ」

 

 危険な戦時下だが、特地の情報を伝えるべくIHKが取材に来ている。

 今の様子もリアルタイムで日本や親日国、あとは一部チャンネルで全世界に配信されていた。

 

 私は側仕えに通訳を頼んで、その辺りを小声でデュランさんたちに伝えておく。

 

「今の私たちの様子は、門の向こうに伝えられています。

 あまり険悪だと、戦争続行の口実にされかねませんから、気を付けてくださいね」

 

 ただ専門用語を使っても通じないだろうし、彼らにわかるように噛み砕いて説明してもらう。

 

「なんと! そのような魔法があるのか!」

「わっ、わかった! 日本との全面戦争は、我々も望むところではない!」

「うっ、うむ、気をつけるとしよう!」

 

 将軍の方々は、どうやらわかってくれたようだ。

 引き続き側仕えに通訳を頼み、地球の友好の印である握手を行う。

 さらに、ここぞとばかりに日本の政府関係者や外交官を、簡単ではあるが紹介していく。

 

 ただ、こんな所で立ち話も何だし、時間も押しているので程々で切り上げる。

 

 連合諸国の皆さんは若干緊張でギクシャクしているが、表向きは私や政府関係者の面々と仲良く談笑をする。

 ついでに記念撮影もしたりと和やかな雰囲気で、特別席に向かうのだった。

 

 

 

 私は日本語で定例通りの挨拶を行うと、すぐに側仕えが帝国語に翻訳して連合軍の皆さんに伝えてくれた。

 事前に打ち合わせも済ませておいたので、途中で交代してデュランさんもマイクの前に立ってもらう。

 

 双方の代表が代わる代わる、試合の段取りを説明していく。

 ルールは単純明快で、一対一の十回勝負だ。

 最終的に勝ち星が多い国が勝利。負けたら潔く軍を退く。

 

 ちなみに一騎打ちは、場外に落ちたら負け、命を奪ったら負け、降参したら負けだ。

 さらに反則行為など、細かいルールが決められている。

 

 何しろ国どころか世界が違うので、向こうの常識がこっちの非常識だったり、逆もまた然りだ。

 私も打ち合わせに参加したが、覚えることが多くて大変だった。

 

 

 

 とにかく開会式が終わったので、いよいよ試合が始まる。

 

 ……そして、あっという間に終わった。

 

 

 

 全員が場外への押し出しで、一試合に一分もかかっていない。

 予想はしていたが日本の圧勝であった。

 

 正直、あまりにも早すぎて、見どころを聞かれても答えに悩む。

 

 特別席に座った私は、呆然としているデュランさんたちに、申し訳なさそうに話しかける。

 

「結果は日本の完全勝利ですが。……ええと、何だかすみません」

「いっいや、稲荷殿の気にすることではあるまい」

 

 デュランさんは気遣いのできる人のようで、ちょっと引きつった笑顔で返事をした。

 だが私は何となくこのままでは不味い気がして、ある提案をする。

 

「今の結果に納得できないなら、もう一度やりますか?」

「良いのか?」

 

 私はにっこりと微笑みながら、はっきりと告げる。

 

「構いません。

 実力ではなく不意打ち、もしくは卑怯な手を使ったのではないという、証明になります」

 

 連合小王国軍の皆さんには、十試合が終わっても何が何だかわからなかっただろう。

 それこそ日本が卑怯な手を使って勝ったのだと、あまりも理解を越えてそう考えても不思議ではなかった。

 

「両陣営が納得して契約に従うのが一番ですし、今回はもう少しじっくり戦うようにしてもらいますね」

 

 禍根は残したくない。

 一瞬で勝敗が決まってしまっては、日本の実力を見せるという目的を果たせたとは言い難い。

 

 決して口には出さないが、日本との友好関係を維持するためにも、今この場で連合国軍の心を折っておきたかった。

 

 戦争をしても勝ち目がないとわかれば、帝国のように侵略してくることはない。

 

 仲良くできるかは今後の展開次第だとしても、少なくとも表立って嫌がらせをすることはないだろう。

 

 なので私は側仕えに通信機を渡してもらい、会場内の自衛隊司令部と連絡を取る。

 

「申し訳ありませんが、再戦をお願いします。

 もし疲れた方がいれば、交代しても構いませんので」

「了解しました! ご命令のままに!

 なお、我々は疲労などしておりませんが、ご心配痛み入ります!」

 

 私の都合で、勝手に予定を変更するのは心苦しい。

 なのでもし疲れた選手がいたら、無理せず交代するように勧める。

 

 司令部の自衛官は問題ないのか、自信満々に返事をしてくれた。

 

「あとは最初の数分は、攻めずに守りに徹してください。

 連合国軍の騎士たちに見せ場を作らないと、自らの敗北を受け入れられないので」

「なるほど、実力差がありすぎて、自分が何故負けたのか理解できないと」

 

 流石は軍事に詳しいだけはある。

 私の説明を聞いて、相手の考えを答えてくれた。

 

 私は内心で、それだよそれと呟きつつ、司令部と通信を続ける。

 

「ならば攻守に関しても、手加減致しますか?」

「上手くやれそうですか?」

「お任せください!」

 

 自信満々に言い放ったので、問題はないのだろう。

 しかしここであることを思いついた私は、そのまま提案を口にする。

 

「ですが、それでは今度は、日本の強さを誇示できないでしょう。

 決着がついたあとに、選手同士がエキシビジョンマッチを行えるように、デュランさんに頼んでみます」

 

 司令部は、黙って私の話を聞いている。

 なので、たった今思いついたことを話していく。

 

「勝ち残った十人が一対一で戦い、白星が多い者が優勝というのはどうでしょう?」

「白熱しすぎて、パワードスーツは壊れる可能性がありますが、よろしいのですか?」

「連合小王国軍と全面戦争するよりも安く済みます。

 それに今後も関係が続くなら、仲良くするのに越したことはないので」

「それもそうですな」

 

 戦争はただ勝てば良いだけでなく、そのあとの賠償やら復興支援やら、とにかくお金がかかる。

 

 それに日本が戦っているのは帝国だ。属国や周辺諸国ではない。

 別に恨みも戦う理由もないのに、無駄金や人材や資材を投資したくはなかった。

 それに勝った後も利益回収できるかどうかは不明なので、特地の貿易相手国として付き合うぐらいがちょうど良い。

 

 とにかく私は、司令部と打ち合わせをする。

 少し時間はかかったが、日本と連合小王国は再試合をする運びとなる。

 

 ちなみに負けるまでの時間が伸びただけで、当然のように自衛隊が圧勝した。

 しかし、やれるだけのことはやったと諦めがついたようだ。今度は潔く負けを認めてくれた。

 

 

 

 そして最後のエキシビジョンマッチは、日本だけでなく連合国も含めて大盛りあがりだった。

 ハイレベルな戦いというやつで、格下と格上ではなく、同格の選手がやり合っているので非常に見応えがある。

 

 特地では三次元戦闘が行えるのは飛竜ぐらいで、大多数の兵士には馴染みがないようだ。

 地球では推進剤を使うが空を飛べるため、地上だけでなく空中も戦場として使える。

 

 それはそれとして、パワードスーツが大破したが生身で奮闘して優勝を勝ち取った栗林さんに、私は表彰状と記念品を渡す。

 彼女はとても喜んでくれたし、連合小王国との交渉も上手く行って良かった。

 

 彼らとは色々あったけど、約束通り軍を退いて国に帰ってくれるようだ。

 無駄に命を奪わずに済んで、私はホッと胸を撫で下ろすのだった。

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