GATE 稲荷様 彼の地にて、斯く戦えり 作:名無しのペロリスト
作者の物覚えや文章力が悪いとも言いますが、ご了承いただければ幸いです。
一騎打ちで日本が勝利して、連合小王国軍は撤退していった。
外交官や政府関係者が試合の後に交渉を持ちかけ、少ししたら小規模だが貿易が始まるらしい。
お互いのことは殆ど何も知らないので、時間をかけて情報交換をして規模を大きくしていく予定だそうだ。
私たちが戦争をしているのは帝国で、属国や周辺諸国ではない。
もちろん攻め込んできたら反撃するが、軍を退いてくれるならそれ相応の対応をしても構わなかった。
そういうことで連合国の将軍や各関係者は、撤退して日本の情報を持ち帰る。今後は周囲に広めてくれることを期待したいが、尾ひれや胸ひれがつくのは勘弁して欲しい。
とにかく祖国で、改めて今後の対応を議論するらしい。
貿易国として対応するのは、事前の打ち合わせで決まっている。
だが現場の判断なので、本当にそうなるかはまだ不明だ。
私としては戦争が避けられるなら、貿易してもしなくても割とどうでも良かった。
地球は殆ど狐色に染まっているし、月や宇宙にも進出している。
さらに隣国が増えたからといっても、日本に害がなければあとはご自由にだ。
それでもこれ以上面倒を増やしたくないので、重い腰を上げて乗り込んだのである。
そもそも私のやることではないと、再三言っている。
しかし、稲荷様お願いしますと頼りにされると断れず、毎度素人の私がヒーヒー言いながら対応していた。
当神はいつでも退位OKなのに、民意がそうなっていない。
今回も日本が完全勝利したので、失敗した責任を取って神皇辞めますが通らなかった。
人の夢と書いて儚いとは、良く言ったものだ。
だがそれはそれとして、連合小王国軍は無事に撤退してくれた。
そして帝国は被害甚大なので、当分は動けないらしい。
今のうちに外交交渉を進めて降伏させれば、これ以上無駄な血が流れずに済む。
しかし連合小王国の将軍や兵士、ついでに帝国の捕虜から情報を得たとはいえ、やはり地球とは異なる世界のようだ。
人工衛星から観測はしていても、周囲の全てが未知である。
多少の知識を得ても、現実にはどんな危険が潜んでいるかわからなかった。
戦国時代にも野盗と遭遇したことがあったが、こっちにはモンスターが出るらしい。
地球の熊と、どっちが凶暴かはわからない。それでも警戒して、慎重に動くに越したことはないだろう。
しばらくは人工衛星と合わせて、周辺区域の情報収集や分析を行う。
安全第一で、自衛隊の活動範囲を広げていくのが良さそうだ。
特地の魔物に襲われて殉職したら、残された遺族に申し訳が立たない。
私は昔から、自分はともかく人には命を大事にの方針だ。
今回も時間はかかっても良いので、確実に成果が出るやり方で進めていく。
それに今は戦時下で、敵地でもある。
一見無害そうな現地住民との接触も、決して油断はできない。
ゆえにアルヌスの丘の外に出る際には、必ず集団行動と定時連絡を義務付ける。
人工衛星から地上の様子は窺ってはいるが、それで全てわかるわけではないのだ。
その一方で私はと言うと、現時点では目下の危機は去っている。
なので東京の稲荷大社に帰宅し、家族である狼たちとの触れ合いを満喫していた。
やっぱり我が家が一番落ち着く。
第二次世界大戦の長期不在と比べれば大したことはないけど、基本的に自宅から出ることは滅多にない。
たとえ短期間の外泊でも、精神的に辛いものがある。
幸いなのは、日本と特地と近いことだ。
その気になれば日帰りも可能だし、気が向けば家に帰っていたりする。
しかし通勤時間はそこそこかかるので、特地の稲荷大社で寝泊まりすることも多い。
自衛隊の駐屯地にも稲荷神の祠や小さな神社が建てられていたりするが、アルヌスの丘はかなり本格的だった。
私が居るから気合を入れて建築したのだろうけど、もう少し加減してくれても良かった。
まあ寝泊まりする個室が豪華なのは表向きは良いことだが、中身は元女子高生の狐っ娘はめっちゃ庶民的なのだ。
実際は小部屋のほうが落ち着くけど、周りの人たちに悪いので黙っておくのだった。
とにかく帝国はしばらく動けない。私が出張る必要は、もうないだろう。
あとは日本政府に外交を任せて、リモートワークで十分だと判断して帰宅した。
まあ何かあったらまたすぐ呼ばれるだろうし、実のところは両国関係が落ち着くまでは、あまり気は休まらない。
けれど特地で気を張っているか、家でワンコと戯れているののどちらが良いかと聞かれれば、わざわざ考えるまでもないのだった。
<皇帝>
謁見の間で椅子に深く座り、宰相からの報告に耳を傾ける。
「皇帝陛下、連合小王国軍は敵国との一騎打ちに敗れ、全ての将兵が自国への帰途についたようです」
「どういうことだ。一騎打ちで敗れただけで撤退するとは、連合小王国軍は腰抜けの集まりか?」
計画では連合小王国軍は、我ら帝国軍と同じように、成す術なく敗れるはずだった。
だが現実は、そうなっていない。
ろくに戦いもせずに軍を退いたらしい。
「……予定通りにはいかぬか。
これでは周辺諸国を警戒しつつ、敵国にも対処せねばならぬな」
帝国軍は大損害を受けたが、周辺諸国はそうではない。
今のところは大人しくしているものの、隙あらば攻め込んで領土を奪い取るのが世の常だ。
帝国も、そのようにして巨大な国家に成長した。
同じことをやり返される可能性は十分にあるので、消耗戦を強いたのだ。
だが策略は失敗し、もう一度焚きつけても上手くいく保証はない。
見抜かれて帝国への不信感が高まる可能性が高いので、止めたほうが懸命だろう。
まだ詳しい情報は入ってきていないが、敵の強さの一端を見たのかも知れない。
勝てないと理解したら軍を退く。
自軍の損害を抑えるためには、時には屈辱に耐えることも必要だ。
連合小王国軍の思惑は推測しかできないが、これ以上刺激するのは控えたほうが良いだろう。
ならばと、すぐにあらかじめ考えていた別の策を口に出す。
「アルヌスより帝都に至る全ての街、村を焼き払い。
井戸には毒を投げ入れ、食料家畜を運び出せ。
さすればいかなる軍とて立ち往生し、付け入る隙は現れるであろう」
「焦土作戦ですか。税収の低下と、内部の離反が心配です」
帝国が万全の状態ならば、そのような問題は些細なことだ。
しかし門の向こうの敵国に、手も足も出ずに敗北している。
大打撃を受けた軍の再編成には、少なくとも数年はかかるだろう。
その間は、自国の防衛だけで手一杯になる。
さらに諸外国は健在という最悪な状態だ。
ここからは薄氷を踏むように慎重に事を進めないと、些細な綻びから帝国がヒビ割れ、最悪国が割れかねない。
宰相からも、そのような心配を聞かされる。
予断を許さない未来を考えると、重い溜息を吐いてしまう。
元老院を整理する良い機会とは、とてもではないが言えなかった。
そんな時、謁見の間の扉が開け放たれる。
娘のピニャコラーダが、鼻息荒く入ってきた。
「陛下!」
「我が娘よ。何用だ」
「無論! アルヌスのことです!」
娘がわざわざ進言しに来たのだ。アルヌスの丘の件に決まっている。
「連合小王国軍は何もせずに全軍撤退し! 帝国の聖地たるアルヌスの丘に、敵軍が居座っていると聞きました!
この事態に陛下は、何をなされているのですか!」
それに関しては、宰相と話し合っている最中だ。
そして娘はまだ若く未熟で、激情のまま動くことも多い。
何事にも全力で取り組むと言えば聞こえは良いが、いざという時に柔軟な決断が難しいのは、欠点にもなり得る。
つまり娘のピニャコラーダが対策会議に参加しても、あまり助けにはならない。
口に出しはしないが、はっきり言って邪魔なだけだった。
「我々はこの期間に兵を集め、必ずや丘を──」
「悠長な! それでは敵の侵入を防ぐことはできぬ!」
「ピニャよ。そなたの言葉の通りだ」
なので、激情のままに意見する娘を否定はしない。
はっきりと肯定しつつ、宰相には少しだけ下がっているようにと指示を出す。
「だが我らは、アルヌスの丘にたむろする敵兵については、あまりにも良く知らぬ。
ちょうど良い。そなたの騎士団と共に、偵察に行ってもらえるか」
「妾が!? 我が騎士団と共に!?」
「そうだ。もしそなたのしていることが兵隊ごっこでなければ、……の話だがな」
娘は幼い時から騎士に憧れて、必死に努力をしているのは知っている。
だがそれは皇族の女性として、決して相応しい振る舞いとは言えなかった。
しかし薔薇騎士団を設立し、帝国の旗印として担ぎ上げれば、国民の支持を集める偶像にはなる。
つまり人気取りのために利用しているのだが、娘にもプライドがあるようだ。
「……くっ! たっ確かに承りました! 陛下!」
悔しそうにしているが、何も別に敵軍に侵入して情報を探れと言っているわけではない。
アルヌスの丘の周辺の街や村で、簡単な聞き込み調査をしてくれれば、それで良かった。
どうせ兵隊ごっこの騎士団では、大した情報は得られない。
なので我が娘にはさほど期待はせず、帝国の危機は自分が何とかするしかないと、宰相と再び話し合いを始めるのだった。