GATE 稲荷様 彼の地にて、斯く戦えり   作:名無しのペロリスト

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異世界の住人

 最近は特地の支部も含めて、稲荷大社ラジオ放送室を使う機会が増えた。

 理由は言うまでもなく、銀座に出現したゲートのせいだ。

 

 突然異世界と繋がってしまった結果、帝国による侵略行為を受けて大勢の犠牲者が出た。

 

 日本政府は対応に追われ、てんやわんやの大騒ぎだ。

 門の向こうに行ったは良いものの、外に出た瞬間に待ち構えていた軍隊と接敵し、再び大規模な戦闘が勃発する。

 

 帝国軍を追い払ってしばらくすると、今度は連合小王国軍がやって来た。

 だがまだ戦闘状態にはなっておらず、私としてはこれ以上の犠牲は望んでいない。

 話し合いで解決できないかと、交渉を試みた。

 

 一騎打ちで勝ったほうが軍を退くと約束し、結果は日本の完全勝利だ。

 そして連合小王国軍の皆さんには、大人しく自国に帰ってもらった。

 

 今は人工衛星の観測を行いつつ、周囲の地形や動植物などの把握などを行っている。

 

 帝国とは戦争状態で、ここは敵地だ。

 さらに地球の常識が通用しないファンタジー世界でもある。

 

 何処に危険が潜んでいるかわからないため、慎重に調査を進めているのが現状だ。

 

 まあ現在判明している情報から、その気になれば敵国を更地にできるのはわかっていた。

 

 しかしそんなことは望んでいないし、後処理が大変だ。

 時間も金も資材も人材もとにかく大量に必要になるうえ、投資した以上の利益を得られる保証は誰もしてくれない。

 戦後も含めて、とても長い戦いになるだろう。

 

 ゆえに、できることなら話し合いで、穏便に解決したい。

 

 もちろん遺族や被害を受けた方々に対して、十分な償いをしてもらう。

 だが銀座で一万人ほどの日本人が殺され、報復として特地に攻め込んで、既に何十万という命を奪っている。

 

 発端は異世界の神様の気まぐれ、もしくは何らかの目的があるのかも知れない。

 けどそんなの人類には関係ないし、国際関係に落とし込むと、不幸なすれ違いが原因になる。

 なら流石に、もうこのぐらいで勘弁してやるかというのが私の考えだ。

 

 だからと言って、親しい者を奪った敵を許してやれと言う気はない。

 

 何なら一生恨んでいても良いし、公式記録に残して、帝国にもきっちりと損害賠償を請求するつもりだ。

 だが少なくとも、国家間という大人の付き合いは、恨み辛みを吐き出さずに、表面上だけでも仲良くするのが理想である。

 

 けど正直、自分が甘いことはわかっている。

 どれだけ達成困難でも、理想を捨てて殲滅や略奪をする気は起きない。

 

 ただし、攻め込まれたら当然反撃するし、どれだけ言葉を尽くしても戦争を止めなければ、帝国を滅ぼすのもやむ無しだ。

 

 そのような発言を、大本営発表で口にする。

 

 現在の日本は、国際社会ではかなりの上位だ。

 戦争をふっかけられたから滅ぼしましたでは、最悪総スカンを受けてしまう。

 信用失墜は避けたいし、捕虜にも人権があるのはジュネーヴ条約で定められている。

 

 まあ私はそういうのは素人なので、詳しくは知らない。

 でも戦時下の敵国の兵士でもそうなんだから、やはり帝国を滅ぼすのは不味いのではという結論になる。

 

 本日の大本営発表もキレッキレのトークだが、やっぱり思いつきを口にしているので、自分が前に何を喋ったのかさえ良く覚えていない。

 

「そう言えば先日、特地の部隊が炎竜に襲われたらしいですよ。

 追い払えたから良かったですけど、うっかり殺してしまったら、最悪外交問題です。

 でも避難民に少なくない犠牲が出てしまいましたし、御冥福をお祈りします」

 

 ちなみに炎竜を殺すと外交問題になると判断した理由だが、古来から竜や龍は地球で信仰の対象になったり、数々の伝説が残されている。

 

 うちでもそうなのだから異世界でも、炎竜を神様として崇めている国があるだろう。

 もっと言えば、本物の神様とズブズブの関係まであった。

 

 それと、竜は生態系の頂点だ。

 もし殺したら、ピラミッドの下層の生物が激増する。

 異世界の環境が激変するのは間違いないが、現時点で情報が不足しすぎて影響範囲は未知数だ。

 

 最悪、キン◯コングの映画のように、人類の脅威になる生物を殺してくれていた場合もある。

 

「……そのような理由で、襲われれば駆除もやむ無しですが、なるべく関わらないほうが良いですね。

 情報が足りていませんし、生態系や国際関係の影響も心配です。別の意味で、炎竜が恐ろしすぎます」

 

 右も左もわからないからこそ、入念な情報収集が大事になる。

 そんな中で、現場の自衛隊は良くやってくれている。

 避難民の受け入れも人道的に考えたら、放置するわけにもいかない。

 

 機密情報を管理している区間を立入禁止にして、接触を最低限に留めれば良いだろう。

 例えるなら、こちらの沖縄の多国籍軍基地を囲むようにできた、巨大な街のような感じだ。

 

「対話の基本は相互理解です。

 保護した難民と親交を深めるついでに、特地の情報も得られるでしょう」

 

 そんなことを話していると、時間になる。

 私はIHKのスタッフに目配せして、本日の放送を終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 稲荷大社の聖域に引き籠もった私だったが、それでも定期的に特地の様子を見に行く。

 ただ見て回るだけの視察だけど、自衛隊員のモチベーションを高めるのは重要だ。

 

 ゲートで行き来ができるとはいえ、アルヌスの丘は敵地である。

 ストレスも溜まるし、たまには労いの言葉をかけるのもやぶさかではない。

 

「私は賢者・カトー・エル・アルテスタンの弟子、レレイ・ラ・レレーナ」

「そうですか。私は日本の最高統治者、神皇の稲荷神です。

 レレーナさん、よろしくお願いします」

「こちらこそ、このような機会を作ってくれて感謝する。稲荷神様」

 

 所々、日本語が怪しい箇所があるが、ちゃんと聞き取れている。

 私は特地支部のIHKスタジオで、難民として保護されている、レレーナさんと話をしていた。

 

 何故こうなったかというと、視察に訪れたら偶然ばったり会ったからだ。

 おっ、日本語話せるじゃーんとなって、それじゃ生放送しちゃおうかとトントン拍子で進めた結果だ。

 

 相変わらず行き当たりばったりで、その場のノリで行動している。

 今回も別に、深い意味はない。

 

 日本や他国も、特地の情報を知りたがっているだろう。

 私も一度ぐらい、通訳なしで現地の人と話してみたかった。

 

「稲荷神様は五百年近く生きている、日本の神様と聞いた。……本当?」

「本当ですよ。日本だけでなく世界中の歴史書にも、私のことが記載されています」

 

 過去にやらかした黒歴史とも言う。

 だが世界中の書物に、拡大解釈で記載されているのは本当だ。

 

 ちなみにエルフの少女もいるけれど、彼女は引っ込み思案らしい。

 画面に映るだけで、積極的には喋らなかった。

 マイクを向けると簡単な自己紹介を行い、困った顔をして黙ってしまう。

 

 とにかく放送の続きを行うのだが、レレーナさんが目を輝かせている。

 

「とても興味深い。こちらにも亜神がいるけど、同じような存在?」

「亜神というと、……ええと」

 

 レレーナさんの発言を聞いた私は、この場に居るもう一人に視線を向ける。

 ゴスロリファッションで巨大な戦斧を持った、ちょっと変わった女の子だ。

 

「ロゥリィ・マーキュリーよぉ。よろしくね。日本の亜神さん」

「どうも、よろしくです。マーキュリーさん」

 

 彼女はまだ日本語を喋れないので、レレーナさんが通訳してくれた。

 そして自分がマーキュリーさんと同じ存在かと聞かれると、ちょっと疑問だ。

 

 取りあえず、少しだけ考えて口を開く。

 

「全く同じではありませんが、似たような存在ではありますね。

 人間や獣が、長い時を経て神に至ったという伝説は、地球にも数多く残されています。

 そうなる前の彼らが、マーキュリーさんと同じ不老不死だったのかは不明ですが」

 

 長年の修行や信仰を集めて、やがて神様になるのは、地球では珍しいことではない。

 ただ私がそれと同じかと聞かれると、どうなんだろうと首を傾げる。

 

 正直、自分は成り行きで神様のフリをしている元女子高生だ。

 五百年近く経った今でも、己が神に相応しいとは全く思っていない。

 

 マーキュリーさんのように、崇高な志や信仰心などは持っていないのだ。

 だから、たとえ肉体を持っていても、自分は亜神ではないのだろう。

 

「魔法を使えるとも聞いた」

「魔法? 狐火のことでしょうか?」

 

 私はそう言って指先に青い炎を灯すと、レレーナさんは感嘆の声を漏らす。

 そして彼女は興味津々な表情で恐る恐る手を伸ばしてきたので、何だか小動物みたいで可愛らしいなと思った。

 

「熱くない?」

「燃やすつもりはないので、熱くはないですよ」

 

 温度調節も自由自在なので、今の狐火は幻術だ。

 ついでにさらに複数作り出し、空中に放り投げてお手玉を始める。

 

「おおー!」

「面白い能力ねえ」

 

 やがて適当な所で狐火を一斉に消す。

 すると今度は、マーキュリーさんが話しかけてきた。

 

「凄く強いとも聞いたんだけどぉ」

「ええ、強いですよ。戦うのは、別に好きではありませんけど」

「興味があるわぁ。ちょっと私と遊んでくれないかしら?」

 

 運動するのは別に良いけど、どうしたものかと考える。

 

「マーキュリーさんが日本の神と戦う……いえ、遊んだとして、宗教的に問題はないんですか?」

 

 地球の常識で考えれば、他宗教の神が別の神に喧嘩を売るようなものだ。

 たとえお遊びだとしても、後々問題になる可能性が高い。

 

「こっちじゃ、神々の喧嘩は珍しくないわよ」

 

 私は内心でドン引きしつつも、表情は崩さずに平静を装う。

 

「そうなんですか。良く世界が滅びてませんね」

「亜神が殺し合ってるだけだから、世界が滅びるほどじゃないわぁ」

「なるほど、上の神様は動かなくても、下の亜神や信徒は好き勝手に動いていると」

 

 何というか、ろくでもない世界だ。

 ますます関わりたくなくなり、思わず引きつった表情を浮かべてしまう。

 

「いっ、嫌すぎる! 心底関わりたくないわ! そんな世界!」

 

 つい本音がポロッと出てしまった。

 そんな混沌とした世界と地球が繋がってしまったのだ。

 できれば今すぐ門を閉じて、金輪際関係を絶ちたい。

 

「厄介事が起きるの、確定じゃないですかー! やだー!」

「それはそれで楽しいわよぉ?」

 

 マーキュリーさんにとっては楽しいだろうけど、私は全く違う。

 

「死と狂気と戦争と断罪の神なら、混沌を正す役目を果たせて嬉しいでしょうけどね!

 私は平穏に暮らしたいんですよ! 厄介事はノーセンキューです!」

 

 とにかく気持ちを落ち着かせるために、お茶を飲んで一息つく。

 

 しかし私の上司は天照大御神様だと考えると、自分は見習いの神である。

 これから神様になるマーキュリーさんと、比較的近い立場かも知れない。

 だったら先輩後輩がちょっと遊ぶぐらい問題ないと言えるが、どうしたものやらと考える。

 

 やがて結論が出たので、若干投げやり気味に口を開く。

 

「ああもう! わかりましたよ! 遊びますよ! これでいいんでしょう!」

「あらっ、いいの? ありがとう。稲荷ちゃん」

「稲荷ちゃん!?」

「だって、年齢的には私のほうが先輩だもの。おかしかったかしらぁ?」

「いえ、別に良いですよ。そういう呼び方をされるのは久しぶりなので、少し驚きました」

 

 天照大御神様や先輩の神々にはちゃん付けされるが、そのようなやんごとなく方々は滅多に現世に降りてこない。

 まあ降りてきても積極的に関わる気はないので、久しぶりに聞いたなと思った。

 

 だが、ちょっともう色んな意味で限界だった私は、この際だし体を動かしてストレス発散しようと気持ちを切り替えて、彼女の申し出を受けるのだった。

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