小悪党くらいがちょうどいい   作:TSしか書かないマン

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プロローグ

 雑多な小汚い店の中。

 狭く、酒瓶があちこちに散らかりアルコールの鼻をつく悪臭がする空間。

 

 目の前には、この店の主であるガラの悪そうな腹が出っ張ったおっさんが頬杖をついている。

 

「ガラクタの山で見つけたICチップ8枚。42万。これを売る」

 

 俺は拳ほどの大きさのケースを開いて、中にあるチップを見せた。

 すると、チップを見たおっさんは怪訝な顔をする。

 

「スラムのガキか……42万?ちっと高くねぇか」

 

「ああ、金持ちの銀行データが入ってるからな」

 

 ゴミの山で見つけたチップに偶々記録されていた銀行データ。

 それの価値を上乗せして、通常よりも高く買ってくれ。

 これがこっちの言い分。

 

 しかしおっさんの表情は険しく、どうやらこちらの思惑通りにはいかなそうだ。

 

 チラリ、と窓の外を見る。

 そこにはネオン輝く超高層ビルが並ぶ都市の光景。 

 今はすでに夜だというのに、この街には闇などないといわんばかりにこの街は明るい。

 そして、空にはおびただしい数の飛行船が浮かんでいる。

 俺が知っている地球よりはるかに技術が進んだ世界。それがここだ。

 

 銀行データを活用できるような技術を持ったハッカーなど、この技術が進みすぎた世界では滅多にいない。

 故に、店側もそれを用意するため金がかかる。

 というかそもそも銀行データの取り扱い自体、危険極まりない物だ。

 逆探知されてバレでもしたら、それこそお終い。

 だからこそ、店主も俺が売ろうとしているものを、買おうかどうか迷っているのだ。

 

 

 さてここで突然話は変わるが、一つクイズだ。

 人を騙すうえで最も大切な事は何だろうか?

 

 いや、言い換えよう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()I()C()()()()を、この男に高く売るためにはどうしたらいいだろうか?

 

 俺は、楽してリスクなく簡単に金を手に入れたい。

 だから目の前にいるおっさんを騙して金をだまし取ろうしている。 

 そのために、銀行データがはいったICチップを拾ってきた、という体でこの店主に話を持ち掛けている。 

 だがその実、そんなデータこのICチップには入っちゃいない。

 少々それらしいデータはいれて、一目では分からないように偽装はしているが、それでも本当のデータが入っている訳じゃない。

 

 つまり、俺は詐欺を働こうとしている訳だ。

 

 そしてこの詐欺を成功させるために、どうしたら上手くいくだろうか?

 

 ……ふむ、有り体なところで言えば真実に一部嘘を混ぜるとか?

 相手の目を見て話すとか?

 それとも、自分が本当だと信じきるとか?

 

 うん、確かにどれも大切な事だ。 

 嘘をつくためには、信ぴょう性がなければどうにもならない。嘘が嘘だとバレてしまえば元も子もない。

 だが、どれも違う。

 もっと大切なことが、一つだけあるのだ。

 

 正解は、”誠意を見せる”、だ。

 

 ま、どういう事かっていうのは実際に見てもらおう。

 口先だけで理論を語るにははなんとでも言えるからな。

 

 悩む店主に対し、俺は言う。

 

「俺はな、実はハッカーに助けられたことがあるんだ」

「……?」

「ガキの頃に、チンピラどもらに攫われそうになった時、通りすがりのハッカーにチンピラの頭にあるインプラントを焼いてもらって助けてもらったことがあるんだ」

「それで?」

「ハッカーどもらには恩がある。だからこれを8万値下げする。34万だ。下げた分はそっち側が多少とってもいいが、出来るだけハッカーにくれてやってくれ」

「へぇ……そう来るか」

 

 店主の顔が、少しだけ緩んだ。

 

 こうなると、人は騙されやすくなる。

 人はいつ詐欺に気づくかというと、相手の欲望が目に見えた時だ。

 相手の欲望が見えたとき、人は自分を客観視できるようになる。 

 だがしかし、自身の欲を誠意で相手に見えないように隠すと、もう相手は騙されていることに気づかない。

 自信を客観視することが出来なくなるのだ。

 

「よし、いいぞ。34万で買ってやる」

「交渉成立だな」

「金は持っていけ。そこの機械から出てくる」

 

 まぁ、こうしてコロッと騙されてくれるようになるわけだ。

 そうして機械から出てきた金を受け取り、俺は店から出た。

 

 店から出て、しばらくネオン輝く通りを歩いていく。

 そのうち感情が抑えきれなくなって、近くにあったトイレに駆け込み、個室に入った。

 狭く、落書きだらけの個室。 

 壁に手を付き、俯くようにして、俺は口角を上げた。

 

 腹の底から喜びがこみあげてくる。

 トイレ特有の悪臭がするがそんなのは関係ない。

 人を騙すことに成功した快感と、優越感。

 ドーパミンが脳内を凄まじいスピードで巡っていき、心臓がバクバクと五月蠅い。

 最高の気分だ。

 まぁ客観的に見てみればクズではあるが、それでも生きていく上ではこうするしかないんだから仕方がない。

 一応、申し訳ない事をした自覚はあるのであの店主には心の中で手を合わせておこっと。なむなむ。

 

 ……とまぁ、俺はこんな感じで金を稼いでいる。 

 小悪党で、とんでもない悪事を働いたりだなんてせず、日々こんな感じの小汚い悪事を働いている訳だ。

 悪事は悪事だって?

 うん、それは俺だって思うさ。できる事なら悪事に手を染めたいわけじゃない。

 俺だって真っ白なお手手でいたかった。 

 

 俺は、一通り感情が落ち着いた後、個室から出て流しにある鏡を見た。

 白熱灯が、チリチリと点滅する。

 そこには、腰まで伸びた黒髪の少女がいた。

 顔立ちは整っており、肌は絹のように白い。

 年のころは16歳ほどに見える少女が、鏡に映っていた。

 

 これが、俺。

 

 この世界に転生したころは、自分の姿に慣れなかったが、今は特に思う所もない。もう慣れてしまった。

 

 まぁ、本当なら俺は学校に通って普通に生きていたハズだ。

 だがしかし、転生した環境は、スラム街で治安が最悪。

 そんな環境から普通に生きられるはずもなく。

 例え俺が前世の記憶があって、この環境から抜け出そうと足掻いてもそれは無駄だった。

 子供一人は、自身の環境を変えようとするには、あまりにも非力なのだ。

 そうして暴力と欲望にまみれた環境で、小学校すら卒業することなく育った。 

 そんな人間が普通に生きられる訳もない。

 

 だからと言ってギャングになって人ぶっ殺して回ろうとは思わない。

 故に、俺は中途半端な小悪党になったのだ。

 それが、今この鏡に映っている少女。

 名前はアキナ。16歳の年端もゆかぬ子供だ。

 

 

 俺は、鏡から目を離し、トイレを出た。

 一面に、このサイバーパンクな未来都市が広がる。 

 美しく、キラキラとした世界。 

 ホログラフィック、ブラックホールストレージ、半重力技術。

 スマホんんかとは比べ物にならない凄まじい技術が、日常的にありふれていた。

 何回見ても、この景色にはワクワクしてしまう。

 

 

 ……ま、あんまり俺には関係ない話だがな。

 キラキラしているのは好きだが、小悪党にはお似合いじゃない。

 今日は大成功したが、勝って兜の緒を締めよ。

 明日からはどうやって稼ごうか考えよっと。

 

 そうして平静に戻った俺は、いつもの小悪党モードに戻ったのだった。




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