ゲートの世界 エルハザード   作:大体三恵

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ナオトとファラーシャの不思議な出会い ☆

 

 夏休みのお昼前。

 葵ナオトは新橋の桜田公園を訪れていた。

 ここは間口こそ広いが、ビルとビルの間から入った隠れ家のような公園で、元小学校の生涯学習センターも備えている。

 

「へえ、こんなところにも猫がいるんだ」

 

 元小学校ということもあり、公園の一部は200メートルトラックのままだ。

 抜け道代わりに抜けていくサラリーマンの波の向こう、200メートルトラックの中心で猫がひっそりと顔を洗っている。

 

「おーい、おまえー。食べるかー?」

 

 猫と視線を合わせながら、ちゅ〜るを片手に猫へ歩み寄る。

 猫は一瞬、警戒した様子を見せたが、すぐにちゅ〜るの匂いに気がつき、「ニャ〜ラ」と鳴きながら顔を寄せてきた。

 

「はー、食い意地はってんなぁ、お前…………って、でかいなお前」

 

 頬と額をぶつけてくるその猫は、普通の猫より一回りは大きかった。

 大きさにたじろぎながらも、ナオトはちゅ〜るを舐める大きな猫を眺める。

 

「なあ、お前は近くの猫か? 野良か? 名前はあるのかぁ?」

「ニャーラ」

 

 猫に話しかけるナオト。食事をやめて鳴く猫。

 近年、外飼いの猫は減っている。東京ではより顕著だ。

 そうなると野良かな……、とカットされてない猫の耳を見て、ナオトは地域猫でもないなと判断した。

 

「俺はナオト」

「ナオト」

「……!」

 

 抑揚のない声で、猫がナオトの名を繰り返した。

 

「まさか!」

 

 猫がしゃべるわけがない!

 

 夏休みではあるが今のナオトは高校の制服を着ており、同じ学校の者が気がつきやすい姿だ。

 彼は優等生で人望もあり、親しみやすさから声をかけてくる学校関係者が多い。

 知り合いが急に声をかけてきたと判断し、周囲を見回してみたがそんな姿はなかった。

 みな無関心に通過していくか、生涯学習センターへと入っていく。

 

 気のせいか、と視線を猫に戻そうとしたとき、一人の女の子が視界に入った。

 

 目を奪われる……。

 

 普段のナオトならば、彼女に注目することもなかっただろう。

 しかし、彼女はいくつもナオトの注意を引く要素を持っていた。 

 

「あれ? あの子の制服、うちの学校の制服…………の古いバージョンじゃないかな?」

 

 ナオトの通う東雲(しののめ)高校は、10年ほど前に制服が変更された。

 旧制服は昔の写真で見ただけだが、マイナーチェンジであるため似通ったところが多い。

 なにしろ校章が同じだった。

 

(今は夏休みだし、親の制服を着て散歩でもしているのかな?)

 

 そんな風に受け取り、ナオトは観察する。

 

 注目してみれば、その子は不思議な少女だった。

 

 アンテナ付きのオーバーヘッドフォンをつけた頭。

 頭髪は日本人とは思えない髪色をしている。

 そのヘッドフォンも変わっていて、アンテナらしきものがあちこち動いている。

 

 髪色から体型に目の色と明らかに日本人離れしているが、どことなく日本人らしさのある美少女だ。……が、顔に宝石ともガラスともレジンとも思えない小さな珠状のアクセサリが、額に二つ、左右の目元に一つあり、異国の文化らしさが際立つ。

 そのアクセサリは皮膚が硬化したような、それでいてキチン質のような光沢だ。

 

「ファラーシャ」

 

 聞いたことのない単語がどこからか聞こえ、これに反応して不思議な少女が振り返る。

 彼女はファラーシャという名前なのだろうか?

 

 不思議な少女はナオトを一瞬みるが、すぐに猫へ視線を落として話かける。

 

「ギギガガ? ……ニャーラ。どこ行ってたの?」

「ニャーラ」

 

 猫はニャーラというらしい。

 ニャーラは器用に右前足で、ナオトを指し示す。

 

「まあ。そんな美味しいお食事を、彼からもらったの?」

「ウナーラ」

「いっぱい持ってるから、全部もらってこいというの? 図々しいわね」

 

 驚いたことに、少女はネコと的確に会話をしていた。

 餌をあげたことを彼女はどこかで見ていたのか、カバンの中にあるちゅーるを買ったところを目撃したのか、それとも本当にネコの言っていることがわかるのか?

 ナオトは困惑しながらも、どこかこの不思議な出会いに高揚していた。

 意を決してナオトは少女に声をかけた。

 

「キミの猫なのかい?」

「うちに住み着いているネコよ」

 

 飼っている。とは答えなかった。

 ペット禁止の借家に出入りしている猫なのだろうか。

 少女はナオトの手に残るちゅ〜るを指差す。

 

「ねえ。ニャーラに、それ。あげたの?」

「うん。悪かったかな?」

「いいわ。おやつを持ってきてなかったし、ちょうどいい。ありがとう。私は陣内ファラーシャ。礼を言おう」

 

 やや冷たくぶっきらぼう。だが、自己紹介をしたことと自然な礼の言い方は好感がもてた。

 

「僕は葵ナオト」

「ナオト。オーヰ? おおい ナオト?」

「ナオトでいいよ」

 

 ファラーシャは葵という苗字を、発しにくいようだった。

 ハーフのようだし、外国生まれで慣れていないのだろうと思ったナオトは、名前で呼ぶように頼んだ。

 

「わかった。ナオトね。あの、それで……ちょっと聞きたいのだけど……」

「なあに?」

「巣へ……、あー。地底の道を走る乗り物の……入り口ってどこ?」

「地底……? 地下鉄入り口ね。ここから近いのは、大江戸線の汐留かな」

「お、おお、えど?」

「うん、大江戸線」

「Ohえど」

 

 ファラーシャは道を尋ねてきた。やはり慣れていないのだろう。

 地下鉄という単語もすぐ出てこなかったし、大江戸線も知らないようだ。

 大江戸のイントネーションも違う。

 

「ちょっと離れてるから、そこまで案内するよ」

「ありがとう。おいで、ニャーラ」

「ニャーラ」

「あ、だめだよ。猫は地下鉄乗れないよ」

「大丈夫よ。乗らないから。帰るだけ」

「あ、そうなんだ」

 

 となると待ち合わせかな。

 自宅までの道がわかる最寄りの駅まで移動するだけかもしれない。

 ナオトはファラーシャの少し前を歩き、汐留駅のある東へと歩きだした。

 

 ファラーシャは猫を抱き抱え、ナオトのすぐとなりに並んで共に歩く。

 

「我が前を歩くこと、許さぬ」

「え? あ、うん。ごめん」

 

 急に武人か貴人か、レーサーみたいなことを言うなぁと、隣に歩くファラーシャを見た。

 

(あれ? この子……なんだか変だな?)

 

 口には出せないが、ファラーシャという少女はどこかが違っていた。

 ヘッドホンに見えたものは、表面のつやとなだらかさに電化製品っぽさがない。手作りの品……いや生物の一部分に見える。

 アンテナの触覚みたいのもそうだ。

 

 そして、彼女の額と目のしたにあるアクセサリーのようなもの。

 これがまるで複眼のようなデザイン…………。

 

 新橋駅脇のガード下をくぐったあたりで、彼女の容姿を気にしていたナオトの耳に、異常を知らせる悲鳴が届いてきた。

 

 ガード下から前の道をみると、群衆が走ってくる姿が見えた。

 悲鳴はその向こうから聞こえてきて、まるで断末魔のような叫びまで聞こえる。

 

「な、なんだあれは!」

 

 ナオトは我が目を疑った。

 

「竜だ!」

「なにあれ! 人が乗ってる!」

「映画か? 撮影か?」

 

 周囲の人が異常に気がつき騒ぎ出す。スマホで撮影しようとする人もいた。

 

 アニメやゲームでしか見たことないような空飛ぶトカゲ。サブカル的にはワイバーンと言われる存在が、空を舞って群衆を追い立てていた。

 ワイバーンの背には、時代錯誤なローマ兵に似た鎧を着た男が乗っており、短めの槍を群衆に向けて放っている。

 空から投げられた槍は、正しく位置エネルギーを持って、人間を容易く貫通する。

 

「こ、これは映画やなんかじゃないぞ!」

 

 槍が貫通し、歩道に突き立って倒れることもままならない生々しいサラリーマンの死体。

 リアリティなどではなく、リアルであるとナオトの視覚が訴えてくる。

 

 隣のファラーシャはまだ現状がわかっていないようで、怪訝な様子でその光景を見ている。きっと、現実と思っていないか、特殊効果か何かと思っているのだろう。

 

「ファラーシャ。ガード下に隠れるんだ!」

 

 ナオトはファラーシャの盾になるように、前へ出て庇い立った。

 逃げる群衆ばかりの中で、誰かを庇うという行動は目立つ。

 

 ワイバーンに乗るローマ兵もどきの視線と、庇い立つナオトの視線が合った。

 獲物を見つけたという兵の笑み、マジかよと不運を呪うナオト。

 

 鞍に備え付けた手槍のストックを持ち、構えてナオトを狙う。

 ナオトはファラーシャをガード下へ突き飛ばそうとしたが、彼女が先に腕を掴んできたので、その行動は叶わなかった。

 

 代わりにファラーシャが叫ぶ。

 

「ニャーラ。ナオトを守って!」

「ナオト。守る!」

 

 ファラーシャの命令に反応し、ニャーラがしゃべった。しゃぁああべったーっ!とナオトは驚く。

 ニャーラはナオトに飛びつき、まるで潰れるように伸びて巻きつく。

 袈裟懸けに巻きついたニャーラは、肩の上に顔が残り、あとはすっかり平らな帯のような形状と化した。

 

 異常事態に向け、異常事態のワイバーン兵は槍を投げる。

 

 避けられない! とナオトが思ったその時。

 槍は巻きついたニャーラの身体に弾かれ、穂先は曲がり、柄はしなってたわんで弾かれた。

 

「え? なんで?」

「ニャーラは生体甲冑族の猫」

 

 ファラーシャが誇らしげに胸を張って答えた。

 

「せ……いたい? 甲冑? なに?」

「王族を守る鎧なのだ」

 

「はあ?」

 

 ワイバーンローマ兵による殺戮と、ネコが鎧になるという異常事態に、ナオトの動きは完全に止まった。

 これを見逃すワイバーン兵ではない。

 

 槍での攻撃を即座に諦め、ワイバーンの手綱を操って首をナオトたちに向けさせる。

 ワイバーンは大きな口を開き、喉の奥から炎がちらつく。

 

 ナオトは咄嗟に、それがドラゴンブレスだと思い至った。

 ドラゴンが口から炎を吐いて、敵を攻撃するという代表的なイメージ。

 それに思い至ったが、ナオトは何もできない。

 

 だが、何かができる存在が、轟音を伴って東京新橋の空を横切った。

 

 次の瞬間、ワイバーンの長い首が捻れ、その機動が大きく傾いた。背に乗る兵が振り落とされまいと粘るが、再び横切った何かによって、首、体、足と3分割された。

 

 放たれるはずだった炎は、捻れた拍子に上空へと放たれた。

 その無駄撃ちの炎を掻き分け、褐色の人型が落ちてくる。

 そして途中にいたワイバーンを首を切り落とすと、落下速度を緩め、踊るように機動を変えた。

 重力に従い、先にワイバーンが落下。ずしりとアスファルトを凹ませる。

 

 ローマ兵もどきとワイバーンを惨殺した際どい衣装を着る中学生くらいの褐色少女が、ナオトの前に降り立った。

 

「イフリーア!」

 

 ナオトの後ろにいたファラーシャが、褐色の少女に駆け寄った。 

 

「大丈夫? ファラーシャ様!」

「あなた、私を連れ戻しにきたの?」

「そのつもりだったけど、そうも行かないみたいねぇ」

 

 イフリーアと呼ばれた黒髪ポニーテールの褐色少女は、鍵のような形をした大型の杖をナオトに突きつける。

 

「キミ、ファラーシャ様のなに?」

 

「うわ! 待って!」

「イフリーア! 待ちなさい! この方は私を助けてくれたの」

「ウナー」

「そう! それからニャーラに美味しい食事を与えたの」

 

 黒髪褐色の少女はナオトの顔を睨む。

 たじろぐナオト。

 踊るようなステップで歩み寄り、黒髪褐色の少女はナオトに巻き付いたニャーラの様子を確認する。

 

「ふーん。たしかに。ニャーラが生体甲冑化してるのを見るに…………なるほど。なるほどなるほど」

 

 ゆらゆらと緩いテンポで踊るかのようにナオトの周囲を周り、値踏みをしていた黒髪褐色の少女は、それも終いとばかりに軽やかなステップを踏んでピシリとまっすぐ立った。

 

「ボクは『起動』のイフリータのバックアップにして、『最適化』のイフリーアクタル。この度は不埒な凶徒より尊きファラーシャ姫をお守りいただき、バグロム王に代わってお礼もうしあげます」

 

 イフリーアクタルと名乗った少女は、サーカスで団長や道化師が見せるように、手を大袈裟に振り上げ大きくゆるりと振りながら回して胸の前におろし、たなごころを上にして足を交差させて少し膝を曲げるという異国のお辞儀をしてみせた。

 

 周囲で見ていた人たちは、その振る舞いに見惚れた。

 

 なによりその露出に、男性たちは目を奪われた、

 

 もっとも布地の多いハーレムパンツは、前も後ろもざっくりと開いて黒い紐のような下着だけ。

 胸を隠す衣装も、ひらひらしただけの布切れだけで、めくれたらなにが見えるのかと周囲の男たちは気が気でない。

 

「イフリーアク、アクタ……」

「どうぞ。お気軽にイフリーアとお呼びください。ナオト様」

「え? 様、って……え?」

 

「あんな恰好の女の子に、様付けで呼ばせてるなんて」

「何もんだアイツ」

「やべぇぞ。奴隷ファッションか」

「あの高校生……。可愛い顔してエグい」

 

 先程までパニックを起こしていた群衆だったが、脅威がなくなるとナオトとイフリーアに注目していた。

 

「な、なんなんだよぉっ!」

「ナオト。しっかり」

「お前もなんなんだよ!」

 

 周囲の視線に耐えられなくなったナオトが叫ぶと、これまた異常なしゃべるネコが話しかけてきた。

 異常事態に囲まれているナオトだったが、日本を震撼させる異常事態はまだ終息していない。

  




 九十年代異世界アニメ、神秘の世界エルハザードとゲートのクロスです。
 エルハザードのリブートをクラウドファンティングしてたのを、去年あたり初めて知りました。
 次世代物で、陣内が王になって娘ができて、その娘がヒロインとか見たかった……。

 ──見れないなら、俺が書けばいいじゃん!(画像:唐突に閃くのび太のアレ)
 エルハザードはOVA、TV、小説で設定が違うから、別物でもいいじゃないか!
 
 というわけで、陣内の娘ファラーシャと、主人公のナオトくんを想像で書いて見ました。

・葵 ナオト

 エルハザードの主人公、資料では苗字なしだったので、誰かの親戚にでもしようかと思いまして。
 クラファン資料では、成績トップで人望ありと、この辺は水原誠のようですが、異世界適応力と運動神経はどうなのか不明。

・陣内ファラーシャ
 
 陣内克彦とディーバ女王の娘。
 陣内が王になっており、

 クラファン資料では、生徒会長になる野望があるとなっているので、もしかしたら日本育ちなのかもしれませんが、本作ではエルハザード育ち設定でいきます。

・ニャーラ

 リブート資料では、ナオトが「不思議な猫とであって物語が動き出す」とあるので、原作の生体甲冑猫、ウーラの子孫と出会うのかなと。
 接続詞なしの単語くらいですが、言葉をしゃべれます。が、日本語喋る理由は、たぶんオリ主と陣内が密談で話す時があるのかと。ニャーラに聞かれてるじゃねぇか密談。

・イフリーアクタル

 中身令和日本人のオリジナルイフリータ。
 OVAのイフリータ、TV版のイフリータ(小説ではイフリーナ)、小説版のイフリーテスに、別製造のイフリータが3体くらいTV二期や小説に出てきたので、もうひとりくらい出てもええやろとオリ主をぶちこみました。
 「認証」イフリータ(OAV版イフリータ)。「起動」イフリーテス(小説版三人のイフリータの次女)。「制御」イフリーナ(テレビ版)。なので、イフリーアクタスは「適化(最適化)」としてみました。
 アラビアン風スタイルで、えっちな衣装の子を描きたかっただけ。


【挿絵表示】


・伊丹
 
 ゲートの主人公。
 君の出番はまだ先だ!

追記
 2話とこの1話、どっちを第一話ににするかどうか悩んでるうちに、間違えて投稿してしまいました。

2026/1/11
 ゲートを読み直していたら、帝国のワイバーンはブレス吐かないと気が付きました。
 そういえば吐いてなかったなー。
 

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