「新幹線が運行停止ぃ〜? なにがあったんだぁ?」
「なんだなんだぁ〜。天下のJR様がこんなことじゃ日本の未来も暗いぞぉ〜」
立山縦走ルートを終えてあとは新幹線で帰るだけ。達成感に浸っていた藤沢は、最後の最後でケチがついたとばかりに、JRへあて擦りの愚痴を漏らした。
重装備の登山装備を担ぎ直し、それはそれとして、ビールを開けて一気に飲み干す。
「くあーっ! 車内で一杯と思ったんだが、こりゃもう一泊でホテルで宴会かぁ?」
運行停止ならそれはそれで、夏の温泉で冷えた日本酒もいいだろうと考えを改めた。
幸い高校は夏休みの真っ最中。教師は夏休み中でも暇ではないが、次の職務までは余裕があるとほくそ笑む。
そこへ、周囲の男性たちの視線を浴びる妙齢の女性が、下駄を鳴らしながらやってきた。
異国情緒溢れる顔つきに、顔に鉱石を貼り付ける独特なメイク。それでいて普段着として着用するカジュアルな浴衣姿と、人の目を引く要素に満ちたその女性が、無精髭だらけの中年藤沢に声をかけてきた。
「
「おう、ミーズ! たったいま知ったところだ」
待ち合わせの改札前で、藤沢は手を挙げてミーズを迎えた。
ミーズはもともとはエルハザードの地で水の大神官を努めた格式高く、努力家で、貞淑で、藤沢には勿体無いような才女である。
だが、そんなミーズは酒かs……冴えない国語教師に惚れ込み、(任期満了という形に近いが)惜しまれつつ水の大神官という立場を降りて藤沢と結婚し、こうして地球まできて一緒に生活している。
一時は藤沢と一緒に登山を楽しんでいたミーズだったが、さすがに五十路……いや、そこそこの年齢となって今は遠慮をしている。
富山の観光を楽しみ、藤沢と合流の段階となって新幹線運休を知った。
「そうでしたか。なにか東京でテロがあったとかで……。はい。こちら、あなた様のスマホ」
「テロぉ? なんだ。また毒ガスかぁ?」
妻ミーズからスマートフォンを受け取り、ネットで状況を確認し始める。
山から降り富山駅までの電車内でも、藤沢はネットに触れていなかった。
藤沢は登山中は、プリペイド式衛星携帯を使っている。
キャリア系携帯でも今はスターリンク衛星接続サービスがあるとはいえ、昔から馴染みのある衛星携帯を好んでつかっていた。
同時に普段使いのスマホでは、不意な連絡もあり山の雰囲気をぶち壊し煩わしい。
ミーズなど家族からや、親しい知り合いからの連絡さえ繋がればいいというスタンスだ。
藤沢はスマホで情報を確認すると、命の水であるビールをこぼしながら驚いた。
「ななな、なんだこれは! 東京に謎の軍隊だとっ!」
「信じられませんが、そんな話が……」
ミーズも日本に住み始めて長い。
こちらの常識に染まりきっており、東京に軍隊が現れるなど想像が及びもつかない。
「マウは、マウは無事か? くわーーーっ! だめだ! 連絡がつかん!」
スマホ通話もSNS通話も、SMSでも反応がない。藤沢は愛娘を心配して、フケだらけの頭を掻きむしった。
なんでこんな男に、異国美女が付き添っているのだろう……そんなふうに見る通行人もいたが、彼らは本当にそれどころではない。
ミーズは地団駄踏むを夫に寄り添い、落ち着くように促す。
「大丈夫ですよ、あなた様。この時期、あの子はロシュタリアにいるはずです」
「そ、そうか……。そうだったな」
ロシュタリアの風習に未だ疎い藤沢だが、それでも娘のスケジュールは把握している。
今頃は大神官の祭事と禊が近く、エルハザードの地で忙しくしているはずだ。
親友であるファラーシャとの交流もあり、父親の登山に合わせて早めにエルハザードへ転移すると聞いている。
「ほら。SMSでもエルハザードへいく直前のメッセージが」
「おおっ!」
ミーズに見せられた画面には、たしかに愛娘マウジュが神の目の遺産を使って転移する直前の姿がイフリータとともに映っていた。
「メッセージは3日前。確かにこれならあちらにいるはず…………。ん、これは……」
画像の確認をしながらショートメッセージを下にスワイプしていくと、今日の夕方にかつての教子「水原誠」からのメッセージと画像が送られていた。
その画像は東京で起きたテロ事件? の様子らしい。
1枚目は上空からの画像、おそらく報道ヘリの画像だろう。
それを見て肩を寄せていたミーズが叫ぶ。
「バグロム!」
東京銀座の道路を、整然と並んで行進するバグロム兵たちの画像。
ミーズは
2枚目はテレビの取材陣の画像だろう。
それは高笑いする男の画像があった。
ヒゲこそ見覚えはないが、その不遜な高笑いをする男に二人は見覚えがあった。
「陣内!」
同時に古い知り合いの名を叫んだ。
さんざんやりあった敵とその指導者の姿が、東京にあると知って藤沢はビールの缶を握りつぶした。
「むうう〜〜ん、陣内めぇ〜。あいつはいつかやるとは思っていたが〜〜〜っ。これならやつが生徒時代に、生ぬるいことなどせず、もっと指導をっ! この鉄拳でぇ〜!」
教師として反省しながら、令和の教師としてやってはいけないことをするべきだと言い始めたところで、妻のミーズが止める。
「おちついてください、あなた様。陣内はどうやらテロやら暴動を起こした方を制圧した側のようです」
「なんだとーっ!」
添えられた水原誠からのメッセージをちゃんと読んだミーズは、夫の早とちりを正した。
「どういうことだ? あの陣内が人助けだと? ……ええい、誠にもつながらんではないか!」
現在、東京の回線はパンクしているようで、通常の通話は通らない。
SMSやSNSも、レスポンスが悪く送信や投稿どころか、読み込みも遅い。
「ミーズ、すぐに東京へ戻るぞ!」
「ええ、でもどうやって……」
改札を抜けようとした藤沢は、ミーズに問われて立ち止まった。
「がーーーーっ! どうにもならーーーーんっ! しまったぁっ、もう酒を飲んでしまったーっ!」
周囲で不釣り合いな夫婦を見ていた人は、東京へ慌てて帰ろうとしたが新幹線は動かず、酒を飲んでしまったからレンタカーも使えないで男が叫んでいると思った。
だが違う。
この藤沢という男は、酒が抜けていれば富山東京間を、数時間で駆け抜けることすら可能なのだ。
道の事情や目撃されずという条件をつければ無理だ。
それでも短時間で距離をつめて、長野や群馬県からの在来線に乗って今日中に東京へ到着も不可能ではなかった。
山登りを終えたばかりで、先ほどまでは酒が完全に抜けていた。
そしてタバコも切れていれば、きっと数時間で東京到着もできただろう。
……もっとも、そんなに長時間、酒とタバコを絶てる精神力など彼にはないが。
+ + + + + + + + +
「陣内!」
都内大学の研究室で水原誠博士は、久しぶりに見る幼馴染をテレビ映像で見て、思わず叫んでしまった。
水原誠は現場が離れるとはいえ、心配する学生と研究員とともに動向を一緒に確認していた。
「博士、お知り合いですか? このお人と?」
「え? ええまあ、そんなとこや」
驚いた研究生が確認をとってきて、水原誠は誤魔化さずに答えた。
「そういえば東雲の制服に似てますね、あれ」
「水原教授も、東雲でしたっけ?」
「あ、まあ…………」
曖昧に答え誤魔化すつもりの水原誠だったが、研究員生たちは彼が押しに弱いことを知っている。
銀座での騒動を心配するだけでなく、好奇心から水原誠教授に食い下がる。
「いったいどんな関係なんですか?」
「小さい頃からの友達で、まあしばらくは会えてへんかったけど」
「陣内、と言ったら、奥さんの旧姓ですよね?」
「まさかご親族?」
水原の妻、菜々美の旧姓を知っていた研究生が、一気に真実に近づく。
「……うん、まあ。そう……なるなぁ」
「じゃあ、あのラーメンの旗のロボット部隊! 知ってるんですか?」
「ロボットじゃないだろ、あれは昆虫の動きだ。大きな動きのときにタメがあるだろ?」
「うん、たしかに、まあ、ロボットやないなぁ〜」
議論を始めた研究生たちを見て、水原誠はぽつりと漏らす。
これは聞き流す研究生たちではない。
「あれについてなにか知っているんですか? 教授!」
「侵略なんですか? テロなんですか?」
「ラーメンの旗はなんの意味なんですか?」
「あかん、ぼくからは詳しいこといえんのや。あ、ラーメンは完全に陣内のアイデアやと思うわ」
「アイデア? いったいどういう目的で?」
「日本人なら見てすぐわかるけど、あのローマ兵みたいのからしたらなんの旗かわからへんから……識別のつもりでつこうたんやろな〜……。自衛隊も警察もあれや。あないなもん見たら問答無用といかず、躊躇するか上に確認を取るやろし、なんなら対話を挑もうとおもうやろ」
水原誠は優秀だが、優等生すぎてこういった柔軟を超えてぶっとんだ発想は浮かばない。だが、陣内のやったことを、理解しようとすれば長年の付き合いから分析くらいはできる。
「な、なるほど……なるほど!」
「所属不明の敵からすればラーメンの旗も所属不明だけど、日本人からすれば統一性のある旗を掲げていれば、日本を理解している側がやっているとわかる!」
「そうか! ……でもそれならなんで日の丸あげないんだ?」
「ああ、そら陣内が今はもう他の国もんやから……」
「他の国? どこですか?」
「アメリカ? 中国ですか?」
「教授! 教授! 答えてください、教授!」
「そうじゃないけど! ああ、あかんのや、これ以上は……」
言葉を濁すつもりだったが、陣内の考えを理解できるためラーメンののぼり旗については答えてしまった。
散々、陣内の小狡い手を食わされてきた水原誠は、いつしか一番の理解者となっていた。
いろいろと事情を隠してる水原誠は、これからの立ち回りに頭を悩ませる。
(これ、あかんことになったわ……。日本政府に、ぼくらのこと隠し通せるんかいな)
物理や化学に秀で、若くして博士号を持つ彼であっても、政治的な立ち回りは決してうまくない。むしろ下手とも言える。
人当たりはよく好かれるが、人間関係をうまく利用したり、人を使うという才能は皆無であり、また伸びることもなかった。
いい人止まりで、人気にはなるが、カリスマ性やリーダーシップなどはない人物だ。
いざとなれば熱く、芯の強さが出るタイプだが、そのいざがなければ流されてしまう。
(こないなとき、菜々美ちゃんがおってくれたら……)
研究生と学生たちに詰め寄られ、困り果てながらここにはいない地球側の妻のことを思った。
+ + + + + + + + +
「お兄ちゃん! いったいどういうことよ!」
バグロム王国の本拠地、大要塞の謁見の間で、玉座の陣内を問い詰める女性がいた。
髪を後ろへ撫で付けた水原菜々美。陣内克彦の妹である。
すでにアラフォーのはずだが、その姿はとても若々しい。
兄のようにカイザーヒゲで無理に年齢を高く見せる工夫をせず、むしろ若く見せるメイクをしているせいで、大学生といえば通りそうな容貌をしていた。
「おお、菜々美か! なんだぁ? こっちにきていたのかぁ? なーはっはっはっはっ」
「おお、菜々美殿。久しいな!」
女王ディーバに地球でのことを説明し終えた陣内は、どこか憎らしくも肉親である妹を歓迎した。
一方、女王ディーバもバグロムの言葉が通じる菜々美には、それなりの好意を抱いていた。
「ファトラさんの誕生日もあって、さっきイフリータと一緒にこっちに来てたのよ」
「どひゃひゃひゃひゃはははーっ! イフリータめ! すっかり異世界の船頭役が仕事だな〜。しかしなんだ? お前は、新聞記者だろう? 東京の騒動を取材せんでいいのか?」
「それはもうやめたわ、先月」
「やめたぁ?」
高校時代、新聞部の妹に痛くもない……いや、痛い腹を探られた思い出のある陣内は、天職を得たと喜んでいた菜々美しか知らないので、彼女の発言には驚いたようである。
「だって、嘘を見抜けたって、真実がわかるわけじゃないからね……」
菜々美は過去を思い出すように、ふと悲しげに横顔を見せた。
彼女は幻影を見抜く能力を持って、この世界へ降り立った。
いつしかその能力は開花し、会話から嘘を見抜ける能力まで獲得していた。
この能力もあって、新聞記者は天職と喜んでいた菜々美だったが──。
「嘘ってわかってるのに、真実を暴く活動ってのがね…………なんていうか虚しいのよ。解き明かすとか、真実がわかったときの高揚感がなくってねぇ……」
つまり菜々美は真実を知って報道することが目的ではなく、求めていたことは追求し解き明かす過程とその達成感だったのだ。
その過程をすっとばして嘘を見抜き、本当のことを先回りしてわかってしまう。
真実の証拠を集めるなど、作業になってしまう。
これでは菜々美も面白くないと悟ってしまった。
なお、嘘を見抜く能力は、同時にバグロムの会話を理解する能力にも繋がった。
基本、バグロムは嘘など言わないので、言っていることは全て事実で本心である。だから理解できてしまうのである。
さすがに菜々美からバグロムへは、陣内からの通訳がいるが、それでもある程度の意志のやり取りができるまでなった。
「ふん。ままならんもんだな。まあ、凡人である貴様など、それがせいぜいというわけだよ!」
「なによ、いちいち鼻につく言い方するわね! ま、いいわ。今日はもともとあいさつにはくるつもりだったし。はい、これいつもの」
煽られて腹を立てるのも馬鹿らしい、と菜々美は昔と違ってこんな兄だと諦めていた。
とりあえずと手荷物である紙袋を二つ、陣内克彦とディーバに手渡した。
中を確認し、喜ぶ二人。
「おおっ! とらやのどらやき! これこれ、これよ!」
「すまんな、菜々美殿。ファラーシャもこれに目がなくてな」
今でこそ門で銀座と繋がったが、日本のお菓子はマウジュや菜々美からでないと手に入らない。
門から買いに行くにしても、銀座はあの現状だしお金もない。
まだこれらお菓子は貴重である。
まだ……ではあるが。
「ふふふ、おいカツオ」
陣内はほくそ笑むが、悟られるようにカツオを呼ぶ。
「ギガ?」
「うむ。それだ。もってこい」
「ギガ」
カツオがサインを出すと、奥の部屋からバグロムが2つの袋を持ち出してきた。
それを菜々美は受け取ると中身を確認していると、さらにバグロムが追加の袋を6袋ほどもってきて驚く。
「ん? ナニこれ? そんなに? お兄ちゃん、ちょっとこれ多くない? こんなにもって帰れないわよ」
「うむ。こんな事件があったんだ。たまにはいいだろう。それに荷物が多かろうと、こっちの門を使えば問題ない」
「あー、そっか。こっちは常時空いてんのよね」
そっか、と納得する菜々美。
神の目を使った異世界転移は、少量の手荷物しか運べない。
菜々美が持ってきた紙袋二つと、ファトラへのプレゼントである腕時計が精一杯である。
「気が効くじゃない。いつもそんな調子なら嫌われたりしないわよ、お兄ちゃん」
「やっかましいわい!」
悪巧み以外では人付き合いが下手な兄に、普段の気遣いの大切さを伝えようとしたが陣内が怒鳴って拒絶した。
「ところで……ファラーシャ姫と、イフリーアちゃんとイフリーナちゃんは?」
「イフリーナは神の目の監視だ。ファラーシャとイフリーアは日本に残っている」
そっけなく答えられ、菜々美は目を見開いた。
「え? 二人を残してこっちに戻ってきちゃったの?」
「安心しろ。ちゃんとタマをはじめとした近衛も残してるし、出入り口もまだ隠しておる。だーっはっはっはっはっ!」
「そういうことじゃないわよ!」
「ぬわーはははっ! 安心せいといっている、我が妹よ。この私の完璧なる差配によって、バグロム王国は日本で確固たる立場を得ているからな! 今頃は国家の客人であろうよ。なはははははーっ!」
「だからそういうことを言ってるんじゃないの! ああ、もうこうなったらなんの話も通じないんだからぁ〜!」
高笑いが止まらなくなった兄を見て、菜々美は頭を抱えるしかなかった。
設定はOVAとTV版の両方を採用してます。
なのでどちらに合わせても整合性のない点や、矛盾などでてきます。
・イフリータとの再会あり。
・ガレスなど幻影族の暗躍あり。末路はOVA通り。
・神の目は使用されて、バグロムは一回壊滅状態。
・ルーンヴェーナスはTV版17歳のヒロイン版。なので現在は〇〇歳。
明確に違うのは
・水原誠は、菜々美とイフリータとルーンヴェーナスTV版(現在OAVの容姿)の妻を持つというAICらしいハーレム主状態。
・ただし菜々美は地球側での世間体を考えての結婚なので、メインはイフリータとルーンヴェーナスTV版。
・ロシュタリア王国の次世代が不明なため、現王女としてOVAの問題児ファトラを移植。
・上の理由でOVA時代のファトラとは別人物。
・OVA版ファトラは、この作品では17歳の次世代設定。
・クラファン資料では現火の大神官が開示されていないため、シェーラ・シェーラが19歳として現火の巫女。当時は別人。
ファトラとイフリータ(長女)は、TV版一期で存在すらよくわからなくなったので融合させた結果です。