ゲートの世界 エルハザード   作:大体三恵

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大江戸線の美少女

「ありゃー。半分って聞いたけど、7割くらい飲み込まれてるんじゃない、あれ」

 

 偵察を任せられたボクは、側近のバグロム兵5体を従えて空を飛び、新要塞へと辿り着いて呆れ返った。

 

 新築大好きなバグロム王、陣内が作らせた新たな要塞。

 当初はロシュタリア王国への喉元に突きつけるため作られたけど、城に匹敵する大きさの球状要塞の半分以上が黒い門に閉ざされ、その用をなさなくなっている。

 

 要塞に入るとバグロム兵たちが、想定外の事態に右往左往している。

 決してパニックを起こしているというわけではないが、資材や食料をエルハザード側に置くかか、地球側に食い込んだ側に置くか、そんなような困り方をしている。

 

「陣内バグロム克彦王より指令だ。食糧は半分づつ双方に保管、資材はすべてここから見えない転移していると思われる要塞側に持ち込め」

 

「ギガ!」

 

 ボクが命令を伝達すると、右往左往していたバグロム兵たちが整然と行動し始めた。

 ここは中央から遠くて、陣内が直接バグロムを指示できないけど、こうして伝達すると見事に無駄のない動きを見せてくれる。

 

 融通や独自の判断は苦手だけど、命令があれば完璧にこなしてくれる彼らは優秀すぎる兵士だ。

 これに陣内の能力が加われば、恐ろしい軍団になることは自明の理と言っていい。

 

 あいかわらずバグロム兵に感心しながら、ボクは側近のバグロム兵と共に要塞内部を進む。

 そしてすぐに、それを目の当たりにした。

 

 要塞の大広間を分断するように、黒い壁が端から端まで及んでいる。

 この大広間を境に、要塞の向こう側は地球の日本に食い込んでしまい、こちらの世界からはその姿を見ることはできない。

 

 外から見た時は、要塞が暗闇の壁に飲み込まれていたようだけど、中から見ると空間が途切れているイメージを抱かせる。

 

「ギガ、ギガガガ」

「ふむ。何度も出入りしてみたけど、なんにも異変はなしなんだね」

 

 ボクたちが来る前に、この異変に際してバグロム兵たちは壁の向こう側に突入して、あちら側の要塞内の偵察を終えていた。

 もっとも、この黒い門が現れた時、あちらの世界へと消えている側にバグロム兵たちがいて、その兵がこちらに戻ってきたのだから、ある程度安全は担保されていた。

 

 さすがに日本側に出たバグロム兵は、あまりの異変に撤退をしてきた。

 陣内の指示でもあるが、こういうとき無駄な勇猛さを見せないバグロム兵は有能だ。

 

「じゃあ行くね。5人はボクのそばに。連絡員はその後ろに」

 

「ギガ」

 

 側近と要塞で補充した連絡員の羽虫型バグロムと共に、ボクたちは黒い壁を突き抜けた。

 

 あっさり壁を抜けると、そこはよくみるバグロム要塞内部だった。

 

「まあ、当然か。このまま反対側の出口から出て、日本へつながる道をいくよ」

「ギガ」

 

 ひとまず要塞の反対側に出る。

 そこは野外ではなく、真っ暗な空間に広い通路となっている。

 バグロムの建築様式でも、ロシュタリア王国の様式でも、ましてや先エルハザード文明の様式とも違っていた。

 

 壁は石積みに漆喰で補強、天井はアーチを利用したもので、そのアーチは互い違いの高い低い段々の繰り返しになっている。

 

「天井アーチの様式は、ヴォールトに似てるな。古代ローマっぽいね。ボクたちの世界の産物ではないことと、地球に関係する世界からの干渉と考えるべきかな。連絡兵、これだけでも早急にバグロム王に伝えて」

「キカカ」

 

 追随していた小型の連絡兵が、ボクの指示に従い戻って行く。

 それを見送り、改めて進む。

 

 この通路を数分、しばらく歩くと、明らかに前方から違う空気が流れてきた。

 

 そして天井と通路がそこで終わり、月上がりの壁に穴が空いていた。

 

「ギガ」

「え? あの穴、君たちが開けたの?」

 

 要塞建築を行っていた現地のバグロム兵が、通路偵察の際に穴を開けたものだという。なお、通路の壁は、バグロムの建築技術をもっても壊せなかったそうだ。

 

「勝手に開けないでよぉ。向こうが水や有害物質だったらどうするの?」

 

「ギーギガガ」

「え? そのまま作業員と共に、要塞側の壁を塞ぐ? うーん、まあいいけどさ」

 

 バグロム兵は味方を大切にしないわけではないが、いざとなればこうして切り捨てる判断を咄嗟にできる冷たさがある。

 彼らは人類ではなく虫に近いのだが、どこか愛嬌があるせいで、こういった点がさらにもまして空恐ろしく感じる。

 

「まあ、おかげで繋がってる先が即わかってよかったし、そこを覗いたら報告優先にしてボクたちを呼んだのは正解だけどさ」

 

 壁に穴をあけ、そのまま出ていってしまっては大騒ぎだったろう。

 なんでも壁の先から人間たちの気配がしたため、仮の壁を作って一時塞いでいたそうだ。

 

 仮の壁を取り除いてもらい、ボクは穴の前に立った。

 

「一万年ぶりの日本かぁ」

 

 封印されて意識が判然としない時間を含め、一万年は長い

 ボクは緊張しながら、壁の向こうの暗闇を抜けた。

 

 瞬間、轟音と閉ざされた空間に巻き起こる独特の風が、露出の多いボクの体を叩く。

 ボクはこの感覚を……覚えている!

 

「ここは……どこかの地下鉄か」

 

 どうやら要塞の出入り口は、日本のどこかの地下鉄路線につながっているようだ。

 

 横を見ると、プラットホームの明かりが見えた。だいたい、100メートルってところかな?

 メートル法は久しく離れてたけど、水原誠や陣内がたまに使うので、今は感覚は取り戻している。

 

「お前たちはここで待機。壁をその蓋で塞いで、日本側の人間は絶対に通すな。もし人間たちが気がついてないようなら、できるかぎり隠れてやりすごせ」

 

「ギガガ」

 

 穴の中で待機する側近たちは、敬礼のようなものをして命令に従った。

 側近クラスのバグロム兵なら、ボクの命令でもよく聞いてくれる。

 

「あと、さっき通過していった鉄の長い乗り物。ぶつかったら君たちでもバラバラになっちゃうから、今みたいな大きな音が近づいてきたら穴に入って、手も頭も出さないで」

「ギ……ギギガガ」

 

 地下鉄の危険性を簡単に説明したら、側近たちはたじろいだ。未知のものを大袈裟に言いすぎては彼らが萎縮しすぎるけど、接触したら本当に終わりなので警戒してくれるほうがいい。

 

 次の電車が通過した直後、ボクは穴から飛び出し、地下鉄軌道内へと出た。

 プラットホームの明かりが届く付近までは飛行して移動。

 ホームの人たちがこちらを見ていない時を見計らい、素早く飛んで駅員用のドアと柵を乗り越えた。

 

 懐かしい地下鉄の明かりと匂い。

 地下トンネル内の独特な空気のゆらめき。

 雑踏と地下鉄アナウンス、学生たちの声、どこからくるのか電車の磁励音。

 

「はぁ…………。もう、二度と…………こんな……」

 

 ボクは使命を忘れて、地下鉄ホームの脇でうっとりとしてしまう。

 ああ、もうあんな高笑い王なんてどうでもいいや。

 イフリータの使命と存在意義には逆らえないけど、仮の主たる陣内なんて…………。

 

 ざわ……。

 

 周囲の人たちが、ボクの方を見てざわめく。

 

 あ、しまった。

 今のボクは、とてもじゃないけど人前に出れるような姿じゃない!

 

 胸と股を最低限、隠してるだけみたいな痴女スタイルだ!

 ボクを性的に見ないバグロムばかりに囲まれて、すっかり感覚がおかしくなってた!

 

 ボクは慌てて、ひらりとステップと共にスピン!

 ()()()()の力を使い、踊るようにバグロム謹製の糸でできた織物の服に早着替えをした。

 

 ダブルのジャケットに白いシャツに赤いネクタイ。チェックのミニスカート。特に変哲もない女子高生姿。

 この制服は陣内克彦の妹、陣内菜々美が着ていた東雲高校の物をコピーした物だ。

 

 謎の光や魔法少女のようなエフェクトは出なかったけど、ほぼ全裸の状態からくるりと回って普通の制服姿になったボクを見て、それはそれでざわめく反応があった。

 いくつかの高校生グループと、サラリーマンたちがこちらを見たままだ。

 

「え? どうなったの、あれ?」

「な、なんだ?」

「目の錯覚か?」

「気のせいか……」

「あの子、裸だったような」

 

 は、裸じゃないよ!

 そりゃ大事なところも隠してないような服だけど!

 

 ボクは素知らぬふりをして、何事もなかったようにプラットホームを進む。

 未だボクを注目している人たちがいるけど、気にしない気にしない。目の錯覚だからねぇ。

 あ、ボクのゼンマイは目立つか。

 

 手に持つゼンマイは異様だけど、これは別に武器なんかには見えない。

 上の姉のイフリータのように、大袈裟な飾りもないし、鉈のようにも見える鉤部分もない。

 下の姉のイフリーテスのように、ゴテゴテ派手派手でもない。

 双子の妹のイフリーナのように、左右に広がった部分もない。

 

 ボクの持つゼンマイは、長さこそ180センチメートルもあって長いけど、シンプルな杖にネジの切り込みが下部にあって、上部には配線が走るノートサイズの電子基板だ。

 

 身長150センチメートルもないボクが持つとバランスが悪いけど、学校の文化祭で使う道具の一部といえば通りそうな形状だ。

 

 人にぶつからないように抱えてゼンマイを持ち、駅から出るため階段を上る。

 エスカレーターはゼンマイが邪魔になるからダメ。階段オンリー。

 

 ちらちらとボクを見るホームの人たちを置いて、ボクは地上へと向かう。

 

 ふーん、ここは築地市場駅か。

 地上の築地市場はどうなったかな?

 ボクがこの世界を去った時、豊洲への移転こそ終了してたけど、築地市場の解体は途中だった。

 

 あ、しまった、改札だ!

 でも大丈夫。

 先エルハザードが作りし「神の目」の「最適化」を司るイフリーアクタスをもってすれば、自動改札くらいちょちょいのちょいだよ。

 

 ボクはゼンマイと一緒に手を翳し、まるでNFCカードを持っているかのように自動改札を無事通過する。

 

 またも階段とエスカレーター。階段を使い地上へ…………。

 向かう、向かう、向かう。

 ……地下鉄大江戸線って、深すぎる!

 

 エレベーター使えばよかった!

 

 ボクはやっとの思いで地上へと辿り着いた。

 

「ぷはー、長いよ階段」

 

 地上、築地はまだ解体作業中だった。

 上物こそないけど、基礎部分の解体中で、コンクリートを砕く機械がけたたましい音を立てていて、ダンプやトラックがひっきりなしに出入りしていた。

 

 通行人たちは、ボクの持つゼンマイをチラリと見ていくけど、特に注意してくる人はいない。

 なんだろうと二度見する人もいるが、それでも興味はないと去っていく人ばかりだ。

 

 銀座が近いから、遊びにくるにはいいし、築地が移転したとはいえ、食堂が軒を並べてるからランチでも頂きたくなる。

 

 でも、軍資金は380円しかないので、無駄遣いはできない。

 

 あ、そうだ。

 新橋の東京美術倶楽部の近くにあるとんかつ屋さん、好きなんだよなぁ。

 食べたいなぁ。

 

 でも、軍資金は380円しかないので、無駄遣いはできない。

 

 とりあえず観光マップなどを利用して、無料で情報を集めよう。

 

 こうしてボクの偵察第1日目が始まった。

 

 

 

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