こちらにきたゴブリンだかなんだかわかんないやつらを全滅させた後、ボクは一旦状況を見るために飛び上がった。
銀座方面で火の手が上がっている。
あちらが騒動の中心地か、始点か。
ファラーシャ姫のいる場所は反対方向だから一安心……。いや、もちろん、中心地で酷い目にあっている人たちには悪いけど、すでに身体を改造されて異世界エルハザードの住人となり、バグロムの一員となっているボクの立場からの感想だ。
ワカメの誘導に従い、一旦南西方面へと進む。
そちらはまだ被害が及んでいないが、時間の問題と思える。
ちらりと北、銀座方面をみると、偵察か空を飛んでいる竜らしき存在が目に入る。
小さなボクに気がついている様子はないが、いずれあの「目」が汐留駅方面に来るのは間違いない。
やがてゆりかこめの高架橋を越えたあたりで、飛龍だかワイバーンだかなにかに追い立てられる群衆が見えた。
向かう先は……ワカメが誘導する道と交差している。
単純にひたすらとにかく精一杯に速度を上げ、炎を吐こうとしているらしきワイバーンに杖を叩きつけて突き抜ける。
トンボを切って上昇。最接近。
ワイバーンはボクの轢き逃げアタックで、首があらぬ方向に捻じれている。
体勢を立て直そうと必死になっている騎士を、降下しながら光の爪で三つに分割する。
この光の爪、本来は「神の目」に接続するための物理ノードなんだけど、あまりに高出力であるため、こうして攻撃に使える。
ていうか、滅ぼした北の国の技術を吸収し、火の巫女や風の巫女と同じ
なので、ボクはこういった本来の用途違う方法で、なんとか
乗り手を始末したボクは、苦し紛れに放たれた炎の吐息が流れ弾とならないように、しっかり処理してからワイバーンの首を切り落とした。
ワイバーンの巨体がビル側面に激突して、これはこれで被害出てしまったなと思いながらも、人的被害ないからいいかと見なかったことにする。
「あー、血がついちゃったよ」
ボクはわずかしかない衣装であるボトムについた血を
「イフリーア!」
「大丈夫? ファラーシャ様!」
ファラーシャが駆け寄ってきたので、略式ながら敬意を表してから状況を尋ねる。
「ええ。あなた、私を連れ戻しにきたの?」
「そのつもりだったけど、そうも行かないみたいねぇ」
ファラーシャへの説教は後回しして、ボクはニャーラを纏う男子高校生へゼンマイを向ける。
「キミ、ファラーシャ様のなに?」
「うわ! 待って!」
男子高校生は慌てながらも、ファラーシャを庇うように立つ。
コイツ……自分が向けられてるってわかってるのか、わからずファラーシャを守ることを何より優先してるのか?
「イフリーア! 待ちなさい! この方は私を助けてくれたの」
「ウナー」
「そう! それからニャーラに美味しい食事を与えたの」
ファラーシャとニャーラが男子高校生を擁護する。
うん、まあニャーラを纏ってるから、そうなんだろうなとは思うけどさ。
ボクはそれより気になることがある。
コイツ、ファラーシャに懸想してるのか、ただの紳士なのか?
にらみつけると、たじろぐ男子高校生。
「ふーん。たしかに。ニャーラが生体甲冑化してるのを見るに…………なるほど。なるほどなるほど」
幻惑するため踊りながら近づき、男子高校生の様子を確かめる。
顔は悪くない。女の子を守るのはポイント高い。八方美人で弱そうだけど、いざとなれば頼りになるタイプ?
うーん、陣内がどう思うかわからないけど、合格点にしておくか。
ボクは態度を改め、男子高校生へ挨拶をする。
「ボクは『起動』のイフリータのバックアップにして、『最適化』のイフリーアクタル。この度は不埒な凶徒より尊きファラーシャ姫をお守りいただき、バグロム王に代わってお礼もうしあげます」
最大の敬意を表した挨拶をすると、男子高校生はボクに見とれている。
ファラーシャがちょっとムッとしている。
ダメだよ、ボクが美少女で、エッチな恰好してるからって見とれたら。ファラーシャ様が怒るよ。
でも男子だね~、しょうがないよね~。
ボクみたいな美少女が、裸同然なんだもん。
周囲の人たちも、ボクに見とれてる。
特に男たちは、ボクのお尻や捲れたら見えそうな胸に夢中だ。
スマホで撮影してる人たちも多い。
はあ、男ってこれだから。
「イフリーアク、アクタ……」
「どうぞ。お気軽にイフリーアとお呼びください。ナオト様」
ボクの名前を覚えられないようなので、そう伝える。
ナオトって名前は、ニャーラが言ってたから合ってると思うから「様」つけで言ってみた。
「え? 様、って……え?」
うろたえて、ファラーシャと周囲の反応を見回すナオトくん。
うんうん、からかいがいがあるね。
「おっとそれどころじゃない。ファラーシャ様。いったい何があったんですか?」
「わからないわ……。いえ、もしかしたら」
ファラーシャは不思議な力を持っている。
勘がいいとか、何かを見通せるというか……。
「もしや、ファラーシャ様。なにかにお気づきになったから、こちらへいらしたのですか?」
「……そう。門の近くへ行った時、もう一つ門がある気がして」
そうか。
無茶なことをすると思ったら、なにかに呼ばれたか。
厄介だな。
この状況を作り出したあの軍勢は、そのもう一つの門から出てきたのか。
そして、その門の向こう側の
わがまま姫を説教すればいいとおもってたけど、もしかしたら想像以上に面倒なことが起きてるのかもしれない。
「わかりました。それについてはあとで。まず安全を確保しましょう」
「わかったわ。ナオト。イフリーアと一緒に、どこか安全なところに」
「え、う、うん」
ボクとファラーシャが会話している間に、このナオトってヤツは、身体に巻き付いているニャーラを撫でていた。
すごいな、このナオトって子。
すでに生体鎧でニャーラを手懐けている。この猫誑し。あの水原 誠に負けず劣らずだ。
そしてファラーシャ姫も、ナオトに寄り添っている。
陣内とかファトラが見たら、ブチ切れるんじゃないかな、これ。
「ナオト様。本来、そのニャーラはファラーシャ殿下をお守りするもの。ご理解願えますか?」
「殿下? ひ、姫なの? 君は?」
「ええ、そうなの。……ねえ、イフリーアクタス。彼は悪くないわ。それに彼はちゃんと私を守ってくれたの」
ナオトに素性を明かしたあと、懸命に擁護するファラーシャ。
ボクは笑いを抑えるのが大変だった。
「理解しております、殿下。よってナオト様」
「は、はい! イフリーアさん」
「どうかニャーラともに、姫をお守りください」
「……わ、わかった」
さすが男の子。一瞬迷ったけど、頼るようなファラーシャの視線に気がつき、すぐに覚悟を決めた目で返事をした。
あのね。
悪いとは言わないけどね。
若い男女ってね。
なんでそうなのかな?
一万歳のおばあちゃんは、微笑ましくも呆れるよ。ほとんど寝てたけど。
「そ、それでどっちに逃げたらいいのかしら」
「ひとまず待機しているタマのもとへ、連絡としてハナザワを送りました。一旦、合流しましょう」
逃げるにしても敵の場所も動きも目的もわからない。最大戦力と合流が望ましいから、築地市場駅方面に行くべきかな。
ボクたちの会話を聞いて、首をかしげているナオト。
「タマって? 別の猫ですか?」
「ナオト、違う」
「うーん。どう説明したらいいのかな……」
そんな無駄な会話をしていると、ゆりかもめ新宿駅方面でワイバーンが変な動きをしているのを見かけた。
どうやら乗り手が落馬……落竜? どっちでもいいや。乗り手が墜落したらしい。
間抜けじゃないとしたら、誰かがやったのだろう。
タマかな?
築地市場駅からは、ちょっと離れてるけど。
などと思っていると、そちら側から避難民と怪我した警官を引き連れ、こちらへと逃げてくる男がいた。
敵から奪った剣だろう。異国の剣を携え、それは血で汚れている。
見るにあいつがやったのか。すごいなぁ。
と、同時くらいに、新橋方面からきた避難民とは、ボクたちを挟んで逆方向の路地から、ゴブリン数匹とトロール1体が現れた。
背後を取られたかと思ったけど、様子がおかしい。
こちらを気にしているようすがない。
それらは何かに追い立てられるような様子だった。
ボクとナオトがファラーシャを庇って前に出ると同時に、路地から真っ赤な鎧甲冑のような二刀流使いが現れた。
ファラーシャ付きの護衛、タマだ。
タマは真っ赤な外骨格で身を守るように体勢を小さくし、滑らかに低く突き進む。
戦闘体勢すら取れていないゴブリン2匹を両手の刀で切り伏せる。
トロールは破れかぶれに棍棒を振り下ろすが、中足と後ろ足で器用に低く素早く動くタマを捉えることはできない。
棍棒がアスファルトを砕くより早く、タマの刀がトロールの巨体を切り裂き、血を浴びながら突き進んで、逃げようとする残りのゴブリンも全て斬り倒した。
ここで棍棒がやっと地面を叩き、新橋から逃げてきた避難民もその様子に気がついた。
「なんだあれ? 侍?」
避難民に混じっている負傷した警官が、大活躍をしたタマを見てそう評した。
「すっげーっ! 大名! つえー!」
「Oh! サムラーイ」
それを肯定するかのように、タマの後ろの路地から現れた別の避難民が声を上げて称賛する。
どうやらここに辿り着くまで、相当の亜人たちを倒し、子供たちと外国人観光客が勝手についてきたようだ。
その後ろから、ボク付きのバグロム兵5体もやってきた。
タマと一緒に行動し、避難民の背後を守ってきてくれたようだ。
あいつら、そこまで賢い行動できるとは思えないんだけど。
成り行きか、もしかしたら民間人と軍人の区別くらいつくから、戦場から追い出すつもりくらいで背後にいたのかな。
タマも避難民を従え……ファラーシャ姫に合流するため移動してきたのに、避難民が勝手についてきただけみたいだけど、とりあえずみんなを助けてくれたみたい。
「ギーガガ」
「よくきたわね、タマ」
「ギガ」
ファラーシャが出迎えて労うと、タマは臣下の礼を持って労いを受け取る。
この光景を見て、避難民たちはファラーシャがただ者でないと気が付いた様子だ。
タマは前足が人間の細マッチョくらい太く長い。中足は反して短く、スラリとした後ろ足で他のバグロムより直立姿になる。
つまり、見ようによっては赤い戦国の当世具足を着た侍のようにも見える。
ましてや日本刀で二刀流だ。
外国人がサムライだとか、子供たちが戦国大名だとか、大人たちが関東を護るあのお方だと騒ぐのもわかる。
「うわっ! 赤備えの侍かよ!」
新橋方面から民間人を避難誘導してきた男……、おどけてるようだけど隙がない。ただ者ではないな。彼は、タマを見てそう表現した。
なるほど。そういえばタマは甲殻部分が赤いし、なにより触覚が井伊直政の兜の前立てにそっくりだ。
そしてファラーシャ姫の後ろにいたボクに気がつくと……。
「うわっ! 痴……じょ……」
ん? 今、痴女、って、言おうとした?
ちょっと威圧するように前に出て、この抜けた顔の男に歩み寄る。
ビビっているようだけど、隙がない。「こういう場合は、こういった反応をみせるべき」という演技で、実は油断の一つもしていない。
いや、油断してるところもあるんだろうけど、それすら自分の優位性へと変えて扱うタイプ。トリックスターかってところかな?
「はじめまして。ボクはバグロム王国にて、ファラーシャ殿下の護衛の任を務めるイフリーアクタスと申します」
ボクは基本、嘘がつけないので、ある程度の事実を述べて挨拶をする。
「お、おう。そうか。えっと、俺は伊丹だ」
「伊丹殿はこちらの武人かなにかで?」
敵から奪ったらしき剣に視線を向けて尋ねる。
伊丹は困った様子で、頭を掻きながら答える。
「いや。非番の自衛官っつてもわかるかなぁ?」
「わかります。いわば職業軍人ですね?」
元日本人であるボクは、自衛隊の微妙な立場を知っている。
ボクの反応を見て、伊丹という男の目に一瞬だが光が走る。
何かに気がついたのか、警戒度を上げたのか、ボクの嘘は言わないが韜晦する演技を見抜いたのか。
「な、なあ。あの人、姫様なの」
「そうだよ」
伊丹はファラーシャに視線を送り、話題を変えてきた。
いやこれは情報を引き出して、答えを絞ろうという話術だ。
ボクは素直に答える。
「で、あんたは?」
「ボクはイフリータ……って言ってわかる?」
「炎の魔神イフリートの女性形だな」
「詳しいね。キミ、オタク?」
「オタクか? って尋ねることは、お前、もしかして創作関係でよくある異世界から帰ってきた日本人か?」
「うわー、理解度たかーい。大正解ー」
「マジかーっ」
伊丹は額を抑えて天を仰ぎ見た。いちいちリアクションが大きい。
ボクと伊丹は、こうして理解しあった。
どおりで自衛官と言って、軍人と返してくるわけだ、と彼は納得している。
「おっと、こんなことをしてる場合じゃない。とりあえず、俺たちは皇居に逃げる。SNSでも皇居へ逃げろと拡散しておいた」
「皇居か。なるほど。歩兵や騎兵相手なら、そこらのビルよりはるかに持ちこたえられる。ルートは?」
「そうだな。あの赤備えの侍が、あの道の進軍を妨害してくれたなら……」
「ふむふむ」
伊丹は地理と敵の動きを修正し、簡潔にまとめて説明してくれた。
東京の地理を知っているボクは理解できたけど、その辺がすっかりないファラーシャとタマは少し困惑している。
「殿下。ひとまず、このお方の指示にしたがってください。敵軍の読みと対策、お父上にも引けをとっておりません」
ファラーシャが納得するような言い方で、説得してみる。
父親をそれなりに尊敬して、軍才を認めているファラーシャなら、これで納得してくれるはずだ。
「そうか。わかった。イフリーアクタス。ならびにタマ。およびバグロムの戦士よ! 我と民を守って先導するのだ」
「ははっ!」
「ギガガガッ!」
「ギガ!」
ボクとタマ、そして直属のバグロム兵は、ファラーシャの命令を受けて静かに配置につく。
タマは前方、直属バグロム兵は左右後ろに配し、ボクは上空で周囲を警戒。
道中、目立つボクは周辺の人たちを集め、避難民はどんどん膨れ上がる。
伊丹の予測は想像以上に正確で、道中では敵に出会うことはなかった。
むしろボクが遊撃に出て、民間人を助けるため、見かけたゴブリンを衝撃波で突き転ばせてたくらいだ。
繰り返すけど、上から下へボクが攻撃すると、被害が凄いので牽制くらいしかできない。
敵から見て、ボクの脅威度、低くくなりそうだなぁ。
……一発、やっておくかな?
いや、やったら陣内のやつにめちゃくちゃ怒られて、バカにされるからやめよう。
人を巻き込まなくても、街がただじゃすまない。
やがて前衛を務めていた伊丹が、前方を道を指して叫んだ。
「見えた! 皇居だ! もう少しだぞ!」
まだ助かってもいないのに、助かったと騒ぎ出す避難民。
まあ元気が出ていいけどね。
……あ、そうだ。
「ファラーシャ様、ファラーシャ様」
地上へ舞い降り、年老いた避難民へ手を貸すファラーシャの隣に降りる。
「どうしたの? イフリーア?」
「実はこれから向かう先を皇居と申しますが、いわばこの国の王の居住区となっております。この国の王の権力は分離されており、政治には直接関与しておりませんが、その権威はこの世界でも最高位に値します」
「なるほど。母上が隠居されたとしたら、そのような立場になるのでしょうね」
「その解釈で正しいかと。もしも接触……は無理でも、皇居という施設の責任者へこちらを」
ボクはそっと陣内から託された親書を手渡す。
受け取ったファラーシャは最初こそ戸惑ったが、少し考えて思い当たる。
「そうか! この国は今、外敵より攻撃を受けている。私たちのような存在もやはり異物……混乱してはいるが、しっかり我々の立場を表明するべきなのだな」
「その通りにございます」
ボクたちは不法入国者。
でも、平和的に接触したいのに、こんな騒動に巻き込まれた。
できるだけ早く、別勢力であること示した方がいい。
今この段階ならば、一国の姫が親書を携えて平和的に接触しようとしたけど、偶然にもこの不幸に巻き込まれましたー、いやーまいったまいった……というカバーストーリーが作れる。
後手に回れば、侵略者と同一視されるか、軽くても不法入国を咎められる。
陣内、さすがだな。
ここまでの騒動を想定はしてなかっただろうけど、保険の親書が完璧に作用してくれる。
日本ならば親書を持ったファラーシャを、軽々しく敵視するなどしないだろう。
少なくても侵略者の関係者か、そうでないかを冷静に判断してくれるはずだ。
異世界からの侵略が現実化した今ならば、聞いたことない異世界からの使者が判断力のある人物ならば、
「大丈夫かな、それ」
避難民を先導し、離れたところにいたはずの伊丹が、ぼそりとそんなこと呟いている。
なんでこの距離で聞いてるんだよ、あの伊丹って自衛官!
やっぱり油断できないぞ、アイツ!
伊丹「やべぇわ。あの子マジお姫様かよ。これ侵略者以上に国会が荒れるぞ~」
ナオト「やべぇ、何言ってるかわかんないや」
ニャーラ「ナオト、すき」
ナオトも頭がいいのでしょうが、バグロムやファラーシャがゲートをくぐってきたなどの立場を把握してないため、よくわからないとなっているでしょう。
説明されれば、わかると思います。
・伊丹 耀司 いたみ ようじ。
ご存知、ゲート 自衛隊彼の地にて、斯く戦えりの主人公。
ゼロなどで補完されてますが、作者としてはこいつ化け物かという印象です。
エルハザードの世界へチート無しで放り込んでも、ひょうひょうと生き抜きそうです。なんならイフリータの誰かを堕としそうな主人公。
ファトラとも仲良くなれそう。
・タマ
バグロム軍最強の戦士。
クラファン資料では、武器がシックルブレードでしたが、こちらでは日本刀とさせてもらいます。
入手経路はそのうち考えます。