~喫茶店『アドレシェンツァ』~
「はぁぁ・・・」
「げ、元気だしなよ総二。折角高校生活が始まったっていうのに」
「気にする事無いわよ零、総二がテンパリまくってたのが原因だしさ」
ガラリとした店内で学生服姿の二人の青年と一人の少女が話しながらもカレーを食べていた。
話しながら、と言うが正確には酷く落ち込んだ様子の赤い髪の青年――『観束 総二』を隣にいる黒髪の青年――『諸星 零』が慰め、その様子を黒髪を白いリボンで結んでツインテールにしている少女――『津辺 愛香』が眺めている状態だ。
この三人は実は小さい頃からの付き合いである。
小さい頃から、と言っても総二と愛香は家がお隣で家族ぐるみの付き合いもあったのだが、零だけは愛香の祖父がやっていた道場に通い始めた際に知り合い、友人となったのだ。
ちなみに三人が通う『私立陽月学園』は初等部から大学部まで一貫進学が可能な超エスカレーター校なのだが、何という偶然か三人は初等部からクラスが全部同じなのである。
「・・・にしても、まさかツインテール部って書いてるなんて思わなかったよ」
「しょうがないだろ!?ツインテールの事ばっかり考えてて、頭真っ白になってたんだから・・・」
零の言葉に泣きそうになりながらも返す総二。
総二が泣きそうになってしまう理由は今日行われた陽月学園高等部の入学式後の教室での出来事が原因だ。
教室で希望する部活をプリントに書く事になったのだが、その際総二はツインテール部と書いたのだ。
何でそんな事を書いたのかと言うと、入学式での生徒会長『神堂慧理那』の持つツインテールに見惚れていたらしい。
そもそも総二はツインテールと言う髪型を人一倍愛しており、それの事になるとかなり熱くなってしまう程であり、零は総二の影響でツインテールを好きになってしまっている(総二と比べると兎と亀の移動速度並みに違いがある)。
それ故か綺麗なツインテールを見てしまうとそのツインテールの事ばかり考えてしまう癖があり、その状態で適当なことを書いてしまった所ツインテール部と書いてしまったのだ。
それが原因で先生が質問してきたのだがそれに対して総二が深く考えずに即答したことが原因でいろいろとまずい事になってしまったのだ。
「あぁぁぁ・・・初日からこんな事になるなんて・・・」
「はは・・・ドンマイドンマイ」
隣で落ち込む総二の肩をポンポンと叩きながらも零はふと思い出すように呟いた。
「・・・でも、総二のがあんなになったのに、僕の出した特撮部が余り言われなかったのは驚きだよ・・・」
「そりゃ、アンタの特撮好きは筋金入りで、アンタの愉快な仲間達が見事一つのクラスに全員揃ってるものねぇ・・・そういえば、あいつ等も特撮部って書いてたんでしょ?」
「うん、事前に話し合ってたんだからね」
零の発言に呆れた様子で返す愛香。
そんな愛香はふと思い出したかのように零に尋ねると、零は頷いて答える。
愛香の言う通り、総二がツインテールをこよなく愛するのと同じ様に零は特撮をこよなく愛する男なのだ。
その為にヒーローショーに良く出没する上に、中学時代に行われた校内カラオケ大会で恥ずかしがることなく大真面目に特撮ソングを熱唱した事があるので彼の特撮好きはかなり有名になっている。
そんな彼は、特撮部という部活を作る為にプリントに書いて提出したのが、総二と違って特撮部と書いて提出したのは零だけではない。
愛香が言う『愉快な仲間達』こと零と同じ様に特撮好きである彼の友人達も提出しているのだ。
そのためかどうか分からないがそこまで話題に出される事は無かった、と言うよりも特撮部の名を先生が出した時に生徒達から『流石だなぁ』や『やっぱりやるんだな』と言われるほどである。
ちなみにその友人達も校内カラオケ大会で零と同じ様に特撮ソングを熱唱したのでこちらもかなり有名になっている。
「うぅ・・・お前等が羨ましい・・・てか、何でフォローくれなかったんだよ!」
「ご、ごめん。どうフォロー入れたらいいか分からなくて・・・」
総二の言葉にすまなさそうにする零に愛香が気にするなと声をかけながらもカレーを食べる。
だが、そのカレーは総二のものであったのでそこから二人が騒ぎ出し始めたを見て苦笑いする零は、ある事に気づく。
いつの間にか自分達以外に店に白衣を着た女性が新聞紙を見ているフリをして、こちらを見ていた。
何故見ているのかが分かるのかと言うと、新聞紙に穴が開いているからだ。
(・・・あれ?僕達以外に人は入れないはずだよな・・・札もドアにかけてあったし)
一応店を閉めている状態であり、ちゃんとドアに閉まっていることを表す「Closed」と書かれた札もドアにかけてあったのもちゃんと確認している。
どういうことだと思わず首をかしげながらも再び総二達のほうを見ると、総二が愛香のツインテールを弄ってた事を注意されていた。
「あはは、またやっちゃったんだ?」
「あぁ、子供の頃から癖ついてんだよなぁこれ・・・でも、愛香のツインテール触ってると落ち着くんだよ」
「そう、でも・・・これだと私の肩身が狭くなりそうねぇ・・・」
「えっ?何で?」
「何でって、ツインテールの意味知らない子に後から絶対意味を知られると思うし・・・それが原因でアンタと仲良い私が・・・何か誤解受けるかもだし・・・」
「あ、だったら別のツインテールの事言ってフォローしとこうか?丁度ツインテールって怪獣の名前であるし」
「・・・どんな怪獣だよ・・・」
零の発言に総二がなんだそりゃと言わんばかりの表情になったので零はスマホを操作し、ツインテールの画像を見せる。
「こんな奴だよ、古代怪獣ツインテール」
「・・・ふざけんなよ零これのどこがツインテールだツインテールなめてるのかテメェェェェェェッ!!」
「わーっ!?そ、総二、落ち着いて!この怪獣を作ったのは僕じゃなぁぁぁぁいっ!?」
画像を見せた直後、零は区切ることなく一息で文句を言い切った総二に胸倉掴まれてガックンガックン揺らされる羽目になってしまう。
その直後に愛香によって頭に拳骨を叩き込まれたので総二は大人しくなるのであった。
そんなやり取りをしていた時、ふと腕時計を見た零は席を立つ。
「それじゃ、僕はそろそろ家に帰るよ」
「了解、また明日な?」
「うん、じゃあね」
二人に簡単に挨拶を交わした後、零は店を後にするのであった。
「さて、と・・・一旦荷物を置いて買い物行ってこよっと」
「おーい!零ーっ!」
「ん?あっ、優子!」
ゆっくりと歩いて自分の家へと帰っている零。
そんな時、一人の黒髪をツインテールした少女が零に駆け寄って来た。
彼女の名は『南 優子』。
零の幼馴染であり、彼女も愛香の祖父がやっていた道場に通っていた為に総二と愛香とも知り合いである。
そして、先ほど愛香が言っていた零の愉快な仲間達の一人である。
「今帰りか?」
「うん、アドレシェンツァに寄り道してちょっと遅めの昼食をご馳走になってた」
「ははっ、なるほど。カレー食ってきたんだな?カレーが口元付いてるぞ」
「えっ!?嘘っ!?」
「ホントだよ」
優子の指摘を受けて口元を慌てて手の甲で拭う零。
そんな様子を笑いながらも見た後、そのまま二人で零の家に向かって歩き始めた。
「んで?この後どうするんだよ?」
「荷物を置いて、着替えてすぐさま買い物に行こうと思ってる。そろそろ食料足りなくなってきたし・・・」
「・・・大丈夫か?」
「まぁ、仕送りはあるからいいけどね。それに、もうなれたよ一人暮らしは」
心配そうに声をかける優子に笑って返す零。
零の言う通り、現在彼は一人暮らしを行っている。
これは自分の意思でやっているわけではなく、両親が海外出張で家を空けている状態だからだ。
けれども、ちゃんと両親は仕送りを送ってくれている。
それに加えて、優子を加えた零の愉快な仲間達に総二や愛香も色々とフォローしてくれているので問題なく生活できているのだ。
「・・・そっか、でも何か困ったことあったらすぐ言えよ?」
「うん、ありがとう。優子」
ポンポンと頭を叩く様に撫でられながらも言われた言葉に、微笑みながらも零は返す。
そんなやり取りをしていた間に零達はもう零の家の近くまでやってきた時に零と優子は家の前に何かいる事に気づく。
遠くからでは良く分からなかったので近づいてみると、その何かは白衣を着た青いツインテールの少女であった。
その近くには彼女のものと思われる鞄が転がっていた。
「え、ちょ、な、何で人が!?」
「あ、零っ!」
人が家の前に倒れている状態に流石に驚きを隠せずに慌てて倒れている人に駆け寄っていく零を見て優子も慌てて追いかける。
駆け寄った時に少女に零が声をかけるが反応が無く、遅れて駆けつけた優子は流石にこのまま放置できないと思い零に家の鍵を開ける様に言う。
零が鍵を開けるのに合わせて優子が鞄を少女の上に載せた状態で少女を抱えて零と共に家へと入るのであった。
しばらくして・・・
「・・・しっかし、何なんだ?この子・・・」
「さ、さぁ・・・?」
適当に体を伸ばした後、居間のソファの上に寝かせた少女に歩み寄る零と優子。
ちなみに、零は優子に留守番を任せて全速力で買い物を済ませてきて戻ってきたばかりの所だ。
少女は静かに寝息を立てているので、大丈夫だなと思いながらもじっと少女の髪を見ていた。
「しかし、綺麗なツインテールだなぁ・・・総二の奴が見たら絶対大喜びするぞ」
「あぁー・・・確かに、熱く語ってきそう」
ソファの上で眠る少女の髪型を見て思わず優子が総二の名を出し、想像してみて滅茶苦茶目を輝かせている総二がすぐに浮かんだ為に苦笑いをする。
その時、眠っていた少女がもぞもぞと動いた後にうっすらと目を上げて体を起こす。
「んぅ・・・?」
「あ、大丈夫ですか?」
「えっ!?あ、あの、ここは・・・」
「僕の家です、にしてもびっくりしましたよ。家の前で倒れてたんですよ?」
目を擦っている少女に零が声をかけた途端に少女は少しビクッとなりながらも周りを見始める。
それを見て事情を説明する零に対し少女が頭を下げてきた。
「す、すいません!ご迷惑をおかけしまして・・・あ、あの!すぐ出て行きますので・・・」
「あぁ、気にしないで下さい。どうせ僕しかいないので問題ないですよ」
「えっ?僕しかいない、って・・・あの、ご両親は?」
「今二人揃って海外出張してるからいません。あっ、ちゃんと仕送りとか送ってくれてるから資金面は大丈夫です」
「・・・寂しくないんですか?一人で」
「寂しくないですよ、周りには僕を支えてくれている人がいますから」
「そうですか・・・」
少女の質問に対し、ちらりと優子を見て返す零。
そんな時にふとツインテールを熱く語る総二やヒートアップしまくる総二を注意する愛香、そして特撮話でバカ騒ぎをする優子も加えた愉快な仲間達の事を思っていた。
「そういえば・・・名前言ってませんでしたね?僕は諸星 零と言います」
「俺は南 優子。お前は?」
「えと・・・レナといいます」
零と優子と自己紹介をかわす少女――『レナ』は頭を下げてきた。
そんなやり取りの後、何故倒れてたのかと優子が尋ねようとした時、零と優子の前でレナの腹の虫が盛大に響いた。
「・・・まさか、空腹で倒れてたのか?」
「・・・はい」
もしかしてと思い優子が尋ねると、相当恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして小さな声で返しながらも頷くレナ。
その様子を見て、思わず苦笑いをしていると零がどこかに行ってすぐさまあんぱんを持って戻ってきた。
「あの、よかったらどうぞ」
「す、すいません・・・頂きます」
あんぱんを申し訳なさそうに受け取るレナは、あんぱんを食べ始める。
一生懸命あんぱんを食べる姿を見て、相当腹が減っていたんだなと思いながらもふと視線を知らすと机の上に一つのDVDの入れ物があった事に気づく。
それは最近出た特撮のDVDのものであった。
「おっ!?お前、買ってたのかこれっ!!」
「うん、偶然見つけたから買ったんだ・・・今度皆で見る?」
「おっ、いいなそれっ!皆で盛り上がろうぜ!」
DVDを見て目を輝かせる優子を見て後で見るかと言うと嬉しそうに頷いて返す。
そんな様子が気になったのか、あんぱんを食べ終えたレナが近づいて来た。
「えと・・・それは何ですか?」
「ん?あぁ、最近出た特撮のDVDだよ。宇宙刑事シリーズっていうシリーズの最新作」
「へぇ・・・こちらの世界にも、こういうのはあるんですね・・・」
「「・・・え?」」
DVDの内容を、優子が説明する。
その説明を聞いたレナは妙な事を言った為に優子と零がレナを見て、レナはしまったと言わんばかりの表情となった。
「えっと、レナ?今、こちらの世界にも、と言ったけど・・・どういう意味だ?」
「え、えーっと・・・その、大きい声では言えないんですが・・・」
レナの発言が気になった優子に対し、少し困った様子となりながらも返した。
だが、その言葉は普通に考えれば信じられないようなものであった。
「私は・・・この世界の住人ではないんです・・・」