TSしたセフレとドロドロでぐちゃぐちゃな関係になっていくお話 作:きむちーず
玄関に着いた頃、空はすっかり夕焼けの色を失い、街は柔らかな夜気に包まれていた。
私は戸口に手を添え、深く息を吐く。
扉を開けた瞬間、リビングからバッと音がした。
「麗奈!?」
律が駆け寄ってきた。
息を切らしていて、どうやら帰宅後ずっと落ち着かずに待っていたらしい。
「麗奈!ごめんな、俺が迷惑ばっかかけるから……でも、よかった……ほんと、よかった……」
その言葉は震えていた。
私の両肩にそっと手を置く指も、微かに震えていた。
(……こんなに、心配してくれてたんだ)
胸の奥が熱くなる。
安堵のような、痛みのような。
複雑な熱。
「大丈夫だったか? まだ顔色悪いぞ。歩くのきつくなかったか? タクシー呼べばよかったな……」
律は珍しく早口で、言葉を途切れさせながら気にかけてくる。
「……ううん、大丈夫。運動不足で歩きたかったし。ありがとう、律」
笑ってみせると、律はほっとしたように息をついた。
「とりあえず座れよ。お茶淹れるから。あ、いや水の方がいいか? なんか食べたいもんある? 冷たいのでも温かいのでも――」
「律、落ち着いて」
言うと、律は「あ、ごめん」と照れたように頬をかいた。
その仕草が、たまらなく愛しく見えた。
(……大好き。ほんとに)
律の優しさが胸に刺さる。
愛されていると思いたい。
信じたい。
が、目に入ってしまった。
玄関に落ちていた長い金色の髪。
(……誰の?)
胸の奥に、小さな針が刺さるような違和感が走る。
「ねえ、律」
「ん?」
「今日……誰か来てた?」
律は一瞬だけ考え、すぐに頷いた。
「ああ、美咲ちゃんが来てた。昨日まで生理で具合悪くて、それで…」
言い方は軽い。
嘘をついているようには見えない。
むしろ、隠さず話してくれている。
なのに――胸の奥がぎゅうっと締めつけられた。
「……そうなんだ」
視線を落として、靴を見つめる。
律は慌てて続けた。
「ち、違うぞ? いや、その……誤解しないでくれ。ほんとにすぐ帰ったし、別になにも……」
その必死な弁明は、普通なら安心できる言葉のはずだった。
でも私には、なぜかその焦りが遠ざかっていくように感じられた。
「うん。わかってるよ」
笑みを浮かべる。
律はホッとしたようにはにかんだ。
(……どうして安心してるの?)
胸の奥で、何かが軋む。
律は必死に心配してくれた。
ずっと付き添い、何度も病院へ足を運び、退院後まで迎えてくれた。
全部、本物の優しさ。
なのに。
「律」
「ん?」
「ねぇ……もし、私が不安になったら……抱きしめてくれる?」
律は驚いたように目を見開き、そのあと柔らかく笑った。
「え、………恥ずいけど…いいよ」
その一言で、胸がじわりと熱くなる。
そして――同時に。
優しい律。
心配してくれる律。
本気で大切にしてくれる律。
なのに、その優しさの“外側”に、誰かが触れた跡がある。
「……律」
もう一度呼ぶと、律はすぐに返事をした。
「なに?」
「ねぇ、私たちって付き合ってるよね?」
麗奈の問いに、律は少し言葉を詰まらせた。
「いや、それはちょっと……俺、今、男か女かも分かんないし……」
律は困ったように笑った。
優しい笑い。ずるい笑い。
自分の曖昧さを隠すための、あの笑い。
私の胸が、きゅっと縮む。
(そうだよね。分かってるよ……分かってるけど)
律は続けた。
「俺さ、今は麗奈のこと守りたいし、大事に思ってる。でも、“付き合う”って言葉になると……なんか違う気がして。俺がこういう体でさ、ちゃんと……言えない」
正直で、誠実で――残酷だった。
私は静かに笑う。
「そっか。……うん、分かった」
笑いながら、心の中で何かがカチリと音を立てて割れた気がした。
律は焦ったように手を伸ばしてくる。
「違うんだよ? 麗奈を傷つけたいわけじゃなくて……俺、本当に、お前が帰ってくるまで心臓おかしくなるくらい心配で……もう二度と倒れてほしくなくて……」
その声は本気だった。
嘘なんて一つもない。
だからこそ――苦しい。
私はそっと律の手を取り、胸元に引き寄せた。
「律。聞いて」
律が息を呑む。
「私ね、あなたに触れられると安心するの。嬉しくなるの。退院して、真っ先に顔を見たいって思ったのも、今日帰ってきてあなたの声を聞いてホッとしたのも、全部……」
律の喉が小さく動いた。
「麗奈……」
「別に、“付き合おう”って無理に言ってほしいわけじゃないよ?律の気持ちも、身体のことも、状況も分かってる。でもね――」
一歩。
律との距離を詰めた。
「私、セフレ以上の関係になりたいの」
その言葉に、律の肩が震えた。
沈黙。
そして――律はゆっくりと麗奈を抱きしめた。
温かくて、少し力の入りすぎた抱擁。
「……ごめん。ごめん……俺、ちゃんと言えないのが情けない。
でも……」
その声は震えていた。
「麗奈を大事に思ってるのだけは、本当だよ」
私は目を閉じた。
(その言葉がほしかったんじゃないよ。
本当はもっと、ずっと、欲張りな言葉がほしい)
でも――今は、
この腕の中にいることが、
あまりに幸せで、
それ以上を口にできなかった。
「ねえ律……シよっか?」
その言葉を聞いた瞬間、律は肩を跳ねさせた。
「は!? いや、そんないきなり! 疲れてるだろ? それに、エッチなことはしないって!」
慌てふためいて、まるで火の粉でも浴びたみたいに手をぶんぶん振る。
その反応が、可愛くて少しだけ切なくて、私はふっと微笑んだ。
「……律だって寂しかったでしょ?」
律の動きが止まる。
視線も、呼吸も。
「そんな……理由……」
「だって不安なんだもん。ねぇ、私のこと……触れたいって思わない?」
律は唇を噛んだ。
目を逸らしたり、戻したり、どうしていいか分からずに揺れている。
「……思わないわけ、ないだろ」
小さく、絞るように吐き出した声。
胸が一瞬だけ熱くなる。
律の拳は膝の上でぎゅっと握られていた。
そっと律の手に触れた。
「律。……ねぇ、私、ただエッチしたいだけじゃないの」
律が顔を上げる。
「抱いてほしいの、律が私を抱いて。私で全てを発散して欲しいの」
沈黙。
律は、何か言おうとして、言葉を飲んだ。
そして――ゆっくりと麗奈の手を握り返す。
「……シよっか、なんて言われたら……我慢できないに決まってんだろ」
かすれた声。
理性が揺らぐ音が、はっきり聞こえた。
律の腕が、そっと私の背にまわる。
優しい抱擁のはずなのに、その中心にはかすかな熱があった。
「……麗奈。ほんとに、いいの?」
耳元に落ちた声は、さっきまでの遠慮とはまるで違っていた。
低く、喉の奥で震えるような響き。
鼓動が跳ねる。
「……うん。律が欲しい」
そう囁いた瞬間、律の指先がわずかに強く腰を抱き寄せた。
抑えていた理性が、静かにほどけていく音がした。
「舌出して」
「ん、んぅ、ん……」
優しくとも、情熱的なキスだった。
でも、その奥にひそむ焦燥は隠しきれない。
キスは徐々に深くなる。
律の手が頬から首へ、そこから肩をなぞり、躊躇うように止まる。
「触るよ」
「うん、ぐちゃぐちゃにして……」
その瞬間、理性が決壊したように律の呼吸が荒くなった。
指先が服の裾へ滑り込み、素肌に触れる。
温度がじわっと広がって、全身が熱を帯びる。
「……あったかい……」
律が呟く。触れた先から離れられないように、指が震える。
律はゆっくりと上着を脱がせ、肩に唇を落とす。
軽く噛むような、焦れたキス。
私の息がひゅっと漏れる。
「や……そんなの……」
「いやじゃないだろ?」
耳にかけられた声が、甘くて残酷で、たまらなく愛しい。
律は私の腰を抱き上げ、ベッドにそっと押し倒した。
昔よりも強引で、でも丁寧で、どこか震えていて。
「麗奈……」
律の指が絡み、体が触れ合い、熱が混ざり合う。
軽く耳を噛まれ、熱い吐息が耳にかけられた。
そして――下着をずらされ、律の指が私の秘部に触れた。
「……入れるよ」
「来て……律」
色々と引っかかったりしないよね?