TSしたセフレとドロドロでぐちゃぐちゃな関係になっていくお話 作:きむちーず
それから、一週間ほどが過ぎた。
女になったという現実は、都合よく夢になってはくれなかった。朝起きれば、鏡の中には見慣れない少女が映っている。
最初はホックの留め方すら分からなかったブラも、今では一人で着けられるようになった。
長い髪を乾かす時間にも、胸の重みにも、歩くたびに揺れる感覚にも。少しずつ、慣れてしまった。
どれだけ理不尽でも、どれだけ受け入れたくなくても、生きていくためには順応するしかない。それは、きっと悪いことじゃない。
でも。
ブラジャーを着けることが当たり前になった日。髪を結ぶことに違和感がなくなった日。鏡に映る自分を見ても、驚かなくなった日。
そんな日が来るたびに、胸の奥が少しだけ痛んだ。
男だった俺が、少しずつ薄れていく気がして。麗奈は相変わらず、ほぼ毎日家へ来ていた。料理を作ってくれたり、足りない生活用品を買い足したり。彼女は大学四年で、ほぼ単位を取り終わっており、いくつか内定も取れているそう。優秀だね。
「これはこうした方が楽だよ」
そんな何気ない一言に、何度助けられたか分からない。あの日以来、麗奈は俺に指一本触れようとはしなかった。
必要以上に近づくこともない。視線が合えば、どこか申し訳なさそうに笑うだけ。たぶん、あいつなりに償おうとしているんだろう。
だから少しだけ、怖さは薄れてきた。
許したわけではない。それでも、今の俺が普通に生活できているのは、麗奈がいるからだ。
その事実だけは、認めざるを得なかった。
そして、その平穏は――。
突然、インターホンの音によって、あっさりと壊された。
ピンポーン。
「律ー! 生きてるかー!」
聞き覚えのある、妙に明るい男の声。
その瞬間、全身から血の気が引いた。
「……エア?」
——
インターホンが鳴った。私はモニターを覗き込み、小さく目を丸くする。
「あれ……」
見覚えのある金髪が画面いっぱいに映っていた。玄関を開ける。
「……確か律のセフレの…麗奈さんだっけ? ひさしぶりー」
人懐っこい笑みを浮かべる青年。色素の薄い金髪に、青灰色の瞳。大学での律とよくつるんでいた、ロシア人の父を持つハーフの男。
田中エリアス蓮。あんまり詳しくは知らないけど律が言うには悪友らしい。
「うん、久しぶり。田中くん」
「その呼び方やめて!?」
開口一番、大げさに頭を抱える。
「だって田中くんは田中くんじゃん」
「そうなんだけどさぁ!」
玄関先で膝をつきそうな勢いで嘆く。相変わらず騒がしい。
「で、いつ出所したの?」
「いや人を犯罪者みたいに言わないで!?」
「刑期、短くない?」
「君は俺のことなんだと思ってるの?!」
「冗談はさておき、今忙しいから帰って」
「ひどいなこの子!——まあいいや、ちょっとだけだから。律いる?」
その一言で、私の笑みが少しだけ止まる。どう説明すれば良いのか。いや、あのことを言う必要はない。手っ取り早く帰ってもらおう。
「あ、それともお取り込み中だった?じゃあ俺も混ぜてよ。3Pしよーぜ3P、すみませんでした。やめて!そんな目で見ないで!!」
「……今律出かけてるから。帰ってくるの遅くなるって」
「えーつれないなぁ……いや、これ律のスニーカーじゃん。おーい律ー少し頼みがあるんだけどさー」
「あ」
しまった。
「返事しろよ律、少し頼みがあるんだけどさー」
「ちょっ――!」
慌てて止めようとするより早く、エリアスのよく通る声が部屋の奥まで響いた。一瞬の静寂。そして、
「……帰って」
部屋の奥から聞こえてきた、小さな律の声。エリアスの笑顔が固まる。
「……え、何この子」
律は不機嫌そうにエリアスを見つめ返す。
「…………」
無言。
(めちゃくちゃタイプなんだけど。)
エリアスの頭の中から、本来の目的はきれいさっぱり消え去っていた。
(口説きたい。そしてヤリたい。てかおっぱいでか!パーカーの上からでも分かるぞ)
そんな軽い欲望が頭を埋め尽くしていた。
「ねぇ」
エリアスはいつもの人懐っこい笑顔を浮かべる。
「君は律とシた?」
律は何言ってんだコイツみたいな顔をしたが、何も言わなかった。
「名前は? 大学生? 律とはいつから?」
「田中くん」
私が低い声で名前を呼ぶ。
「だから、田中はやめ…すんません、はい」
「質問攻めにしない」
「いやだって、いきなりこんな美少女いたら気になるじゃん」
「帰って」
「冷たっ」
エリアスは大げさに肩を落とすが、視線だけは律から離れない。
「……俺、可愛い子は大体覚えてるんだけどな」
そう呟きながら首をかしげる。
「どっかで会ったことある?」
律は思わず肩を震わせる。
「き、気のせい」
「そっかぁ……」
納得していない顔のまま、エリアスはもう一度律を見つめる。
(……やっぱり、どこかで見た気がするんだよな。とゆーか誰かに似てる)
「あー、まぁいっか」
エリアスは頭を掻きながら笑う。
「今日来たのも、別に大した用じゃないし」
「そうなの?」
「うん。じゃあとりあえずちゃんと返信しろって律に伝えといて」
その言葉に、私と律は思わず顔を見合わせた。律は少しだけ気まずそうに視線を逸らす。
「……分かった。伝えとく」
「よろしくー」
エリアスはひらひらと手を振り、玄関へ向かう。靴を履きながら、ふと思い出したように振り返った。
「あとさ」
「なに?」
「その子」
エリアスは律へ視線を向け、人懐っこい笑みを浮かべる。
「今度紹介してよ」
「……絶対ダメ」
「けちー」
けらけらと笑いながらドアノブに手をかける。
「じゃ、またね。麗奈さん。あとそこの可愛い君も」
ドアが閉まる。玄関に、静けさが戻った。数秒後、
「……帰った?」
律が恐る恐る尋ねる。
「うん」
「……疲れた」
そう呟いて、律はソファへ力なく倒れ込んだ。
「その体のこと言わなくて良かったんだよね……?」
「うん。言ったところでって感じだしな」
律は苦笑いを浮かべる。確かに、それ以上にめんどくさそうなことになりそうだし。
「まさか、あいつに口説かれるとは思わなかったけど」
「……ふふ」
思わず笑みがこぼれた。
「何だよ」
「いや、別に。ちょっと面白いなって」
「笑い事じゃねぇよ」
律は不満そうに頬を膨らませる。可愛い。
「まあ確かに、こんな可愛い子がいたら無視できないか」
「良いの?それ、女の子になったこと認めてる感じだけど」
「認めたいわけじゃあないけど、悲観的に考えたって解決はしないからな。ポジティブにいくよ」
「そっか」
きっとこれからもっと大変なことは起こるだろう。小さなことをいちいち気にしていたら、それこそもっと大変なことになる。前向きになることに悪いことはない。
「やっぱ胸だよな、このGカップおっぱいが男を魅了すんのか……」
「うん、分かる。わたしも大きいおっぱい大好きだもん」
「みんなおっぱい派かよ……」