いつか、善き人として生まれ変われる様に 作:万年赤字一般傭兵
角が生える個性を持つ、とあるヴィランの祝詞
"神も仏も異形の悪魔を救いはしない"
"だから、必要なのだ"
"人の手による輪廻が"
垂らされた糸
対個性最高警備特殊拘置場、通称タルタロス。更生不能と判断された凶悪なヴィランが収監されるここの独房の一つに、似つかわしくない姿があった。
「………」
そこにいるのは、頭に生えた角が目立つ青髪の少年だ。
他のヴィランが漂わせる様な邪悪さを放っておらず、寧ろ彼には一種の暖かさを覚える場違いな穏やかさがある。
だがその身を包む厳重な拘束具と、タルタロスの地下深くに閉じ込められている事実こそが彼を凶悪なヴィランだと証明していた。
彼は決して平凡な少年などでは無く、指定ヴィラン団体"
村に残っている仲間はおらず、もはや家族すらいない彼と話そうとする人など何処にもいる筈が無かったが…
「囚人番号ーー…お前との面会を要望する人物がいる」
「拒否権は無い。」
「…………」
(……誰、ですか?伊織お婆様?美羅さん…?まさか…)
一人だけ彼との対話を望む人物がいた。
だが、それは彼と親しい者ではない。
「……!!!」
(この人は!)
鮮やかな紫髪が目立つ彼女は、寧ろ彼をタルタロスに封じ込めた公安のヒーローであった。
つまり、これは唯の事情聴取でしか無い。本来ならばそれ以上の意味を持たない筈であったが……
意外な事に、この面談こそが彼の人生を大きく変えるきっかけとなった。
『ああ、だから貴女達は村を……ふふっ、ありがとうございます。貴女のお陰で疑問が解決しました。』
『…僕は、ずっと疑問に思っていたのです。どうして侵略者たる貴女方の心から見えた社会は、美しく光輝いていたのかを』
『…しかし貴女の心をじっくり見て、漸く分かりました』
『時代を経て社会が成長しただけでは無い。貴女の様な仕事をする人がいるからこそ、これ程までに素晴らしい社会を築き、維持できているのですね!』
『綺麗事で無くとも、いやそれ故に貴女の仕事は素晴らしい。そちらの言い方に合わせれば…正しく、貴女は"ヒーロー"なのでしょう』
『…あぁ、しかし…こんなにも優しい社会なら……そうか、僕はもう必要ないのか』
『………ヒーロー、僕もこんな救世主に…』
最初の面談は目の前に垂らされた一本の糸となって、彼の心へ一筋の希望を届け……
『…ムザイ?……えっ、3ヶ月後に釈放!!??』
幾度も繰り返された彼らの対話は、その希望を現実のものとした。
それは決して起こり得ない筈である、タルタロスの囚人の釈放だ。
勿論、ただの釈放では無い。
『……僕が、ヒーローに…!?名前も変える!?』
異例の中の異例とも言えるタルタロスからの釈放は記録に残されない形で、また特別な契約の下に行われた。
『もちろんです!勿論…引き受けます!!』
この日をもって囚人は死に、ヒーローになるべく生まれ変わったのだ。
大量の看守に囲まれて、タルタロスの中から一人の少年が出てきた。
「今まで本当にお世話になりました」
これまで付き添った看守に対して場違いにも礼を述べる、そんな彼の名は……
かつて地獄の中で死肉の様に腐り行く人生を歩んでいた彼だが、新しきこの名前は偶然にも垂らされた一本の糸を掴み取った証である。
「この機会を決して無駄にはしません」
「立派なヒーローになって…皆の罪でさえも僕が償って見せます!」
これから始まるのは、ヒーローを目指す少年の歩みを記した物語である。
『蜘蛛蠍君、学校の中では帽子を脱ぎなさい』
『…何、角を隠したい…?何でそう思うんだ?』
『差別?迫害?…ははは、今時そんな奴はいないぞ』
『蜘蛛蠍君、公安の関係者以外と行動する時は必ず私達に連絡をしてください』
『例え友達が相手でもです。この規則は、私達公安と貴方が交わした約束なのですから』
『蜘蛛蠍、使う個性には気をつけろよ』
『お前が言う昔に比べればマシなのかもしれないが…それでも、この社会における個性の規則は厳重だ』
『……私もお前を撃ちたくはない、だから本当に気をつけてくれ』
今までの常識とは明らかに違う社会と人の在り方、日常的なヒーローからの監視、そして個性の制限……釈放後の蜘蛛蠍少年には多くの困難が待ち受けていた。
「本当に、ここまで来れるだなんて……」
しかし、彼がそれらの困難に屈する事はなかった。
その証拠として彼は今、雄英高校の正門前に立っている。
時は2月の中旬、受験シーズンである。
「僕がヒーローになる場所は、ここしか無い。他の場所は認められない…!そういう、約束……」
そう、彼は今から雄英高校の入試に挑むのだ。
かつて交わした約束、次善策が無いという緊張が彼の身を包み始める。
「…でも!絶対に負けません!!」
しかし、今彼が背にするのはタルタロスの門では無く、未来への果てなき期待。相対するは未知への恐怖では無く、輝いて見える雄英の巨大な門。
僅かに感じた緊張を振り払い、彼は期待と共に雄英の門を潜った。
雄英の入試は二つの試験に分かれている。
一つ目は筆記試験、この社会における常識や教養に未だ馴染めていない彼にとっての難関だ。
だがタルタロスを出てから彼が学びを怠った事は一度たりとも無い。
(この代名詞がさす名詞は…多分、ここ?)
(ここの活用は…あっ係り結びですか)
(この証明は…うん、この問題が誘導ですね)
(こっちはワセリンを塗っているから…蒸散はしてませんね)
(この時代に起きた事は…ああ違う、教科書だとこっちでしたね)
「よし、筆記試験は自信ありです…!」
例え雄英の筆記試験といえども、こんな所で彼がつまづく事は無かった。
そして次に彼を待ち受けるは、雄英最後の試験。
「今日は俺のライブにようこそー!!!」
「エブバディセイヘイ!!!」
即ち、実技試験…そして、それを説明するのは、ボイスヒーロー『プレゼント・マイク』だ。
「入試要綱通り!リスナーにはこの後!
十分間の「模擬市街地演習」を行なってもらうぜ!!」
「持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習場へ向かってくれよな!!」
(凄い聞きやすい…まるで、心すらも響かせられている様な……)
その名に恥じぬ誰も聞き逃さない様な語りは、唯の説明と言えども彼の心に指をかけた。
「質問よろしいでしょうか!?」
(……本当に個性豊か、この人は凄い真面目ですね)
「オーケーオーケー」
「受験番号7111くん、ナイスなお便りサンキューな!」
「四種目の敵は0P!そいつは言わばお邪魔虫!」
「スーパーマリオブラザーズって……」
(スーパー…何ですかね?でも、皆んな分かっているなら良い例えなのでしょうか)
そして途中に入った質問にも、ユーモアを交えて分かり易く答え…
「俺からは以上だ!!」
「最後に我が校"校訓"をプレゼントしよう」
(校訓って確か…!)
「かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!」
「「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者」と!!」
「プルス、ウルトラ…!!」
最後の最後にマイクは彼の心を完全に掴み取った。
「それでは皆、良い受難を!!」
「はい!!」
雄英の洗礼は、彼の想像以上だった。
プレゼント・マイクの説明から暫く経ち…
「いっちにっ、いっちにっ…!!」
蜘蛛蠍は現在、実施試験会場の前で準備体操をしていた。
周りから不審に思われている程のやる気を醸し出している彼は、しかし気にする事もなくコンディションを高めて行く。
やがて、彼の近くにいる人が居なくなった時
[ハイスタートー!]
「行きまぁす!!!」
試験の開始が告げられる。
周りの受験者が戸惑う中、彼は躊躇う事なく試験場の中に飛び込んでいった。
[[[標的補足!!ブッ殺ス!!]]]
(これが目的の仮想ヴィラン…!)
一人だけスタートダッシュを決めた彼であったが、その行為は突出でもあり、仮想敵が彼の周囲を取り囲んだ。
出る杭を潰さんと意思なき悪意が降り掛かり、
「……遅いですっ!」
それらが彼に当たる事は無かった。素早く姿勢を低くし、僅かな逃げ道を見出した彼は一瞬にして駆け抜け…
[…!ウゴケナイ!?]
その後に残された仮想敵は、何かに縛られたかの様に動けなくなっていた。
「捕らえましたっ!……砕けてください!!」
そして彼が腕を交差させると全ての事は済んだ。
手に入れたポイントを気にする事なく、また駆出した彼の後に残されたものは…
「次っ!」
緑色のスクラップと、舞い落ちる糸屑だった。
個性:操糸
指の先から粘着性の糸を出して操る事が出来る!
一本一本は細くても、意外と頑丈で便利だぞ!!
「これでっ、60P…まだまだです!!」
試験も佳境、会場内に残された仮想敵も少なくなってきた。
ここまで来ると純粋な戦闘力よりも、他の情報力や機動力がより重要となってくる。
受験者たちの顔に段々と焦りが見え始め…
「…!0Pヴィランだっ!!」
(…大きいですね…!)
その焦りを最大限にする、圧倒的脅威が現れた。
わあああああああっ!!
「倒しても良い事はない…ここは、撤退しなければ」
試験場内に乱立する全てのビルよりも高い背丈、全てを踏み潰して行くキャタピラ…
試験場の大通りの主となったソレを前にして後ろを向かぬ者はいない。
あるものは恐怖に負けて、ある者は合理的な判断に従って…全ての受験者が、一番先頭を走っていた蜘蛛蠍までもが逃げ出した。
(…あの人たちは、逃げ切れないっ…!)
だが、誰もがその逃走を十分にこなせる訳では無い。
逃げ遅れたか、怪我をしたか、恐怖が足をも止めたか、一部の受験生はその足を満足に動かせなかった。
(死ぬ事は…いや、怪我をしたらどうする!)
(僕とは違う。少しの傷でも、弱い彼らは満足に生きていけないかもしれない!)
(助けなければ!!)
最初は合理的な判断に従っていた蜘蛛蠍は、しかしその踵を返して0Pヴィランと向き合う。
(糸以外は使えない、使ってはいけない。正直言って、出来るか分かりません……ですが!)
彼はヒーローとしてはまだ未熟であり、本来ならばこんな事をしようとは思わないはずだった。
しかし、
『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!』
『「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えて行く者」と!!』
「こんな時こそ、Plus Ultraぁ!!!」
雄英の校則が、プレゼント・マイクの激励が踏み出せぬ彼の一歩を踏み出させた。
「!?おい、そっちは危ないぞ!」
(撃破は怪しまれる…けれど一人一人抱えて行く時間は無い、先に時間を稼がなければ)
一歩踏み出せば、あとは走り続けるだけ。
(糸だけです、糸だけを使ってアレを素早く足止めしなければ…!)
そして、その先に困難があろうとも足を止める事なくば……
(違います!糸なら、糸ならば幾らでも使って良い!)
(大通りの横に乱立するビル、そしてあのロボットの大きさ…)
「…これなら、間に合う!!」
出来ない事は、何一つとして無い。
[ 終 了〜!!!!]
実技試験は終了した。
そして…此度、蜘蛛蠍が参加した試験会場におけるリカバリーガールの出番は無かった。
「…やり、遂げました!!」
低き壁とは言えども彼は確かに一歩踏み出し、乗り越えたのだ。
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壺◾️ 巫◾️
個性:《閲覧不可》
《閲覧不可》
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