いつか、善き人として生まれ変われる様に 作:万年赤字一般傭兵
「私が来た!」
超人社会の誰もが知る台詞、そして誰も知らぬ笑い無き顔と共にオールマイトがUSJに現れた。
彼が真っ先に目にしたのは、先まで
そんな察して余りある彼らの恐怖と勇気を見たが故に、彼の中には義憤だけがあった。
そうして現れた絶対的な平和の象徴だが、
「待ったよ ヒーロー」
「社会のごみめ」
寧ろ殺害対象として定めた相手の登場を前に、いきり立っている。
そして先までとは比較にならないほどの憎悪を表に表し始めた。
だがそんな物を意に介すことも無く、オールマイトは上スーツを脱ぎ捨ててUSJの階段から飛び出す。
「相澤くん すまない」
「…くも、かつ が…」
「!?」
先まで遠くの小さい点であった筈の彼が、いつの間にか相澤教諭を抱えていた。
無論、これだけでは終わらない。
相澤教諭がオールマイトの腕の中にあるかと思えば、今度は水難ゾーンから抜け出してきた 緑谷 蛙吹 峰田の三人をも抱えて避難させていたのだ。
正しく象徴に相応しい早業、だが
「おいおいオールマイト…まさか、それで救っただなんて言わないよな?」
彼はそこにある死体を使って、オールマイトを愚弄する…
「見ろよ、こいつ……は?」
筈だった。
彼が指差した先には死体ではなく、何かに覆い被さるかの様に蠢き貪り続ける大量の百足がいたのだ。
予想外、その一言に尽きる百足の存在は、ヒーローにとって絶好の隙になるという考え以前に
勿論、オールマイトがその隙を逃す事はない。
「CAROLINA…」
「…!脳無!」
「SMASH!!!」
「マジで全っ然…効いてないな!!」
どれも必殺技と言っていいオールマイトの一撃、それは半ば奇襲となって飛び込んできた"盾"に直撃した。
だが、盾となった脳無は対平和の象徴をテーマとして造られた特別。
彼の攻撃に多少怯みはすれど大したダメージを負いはしない。
もっともオールマイトは、そんな事で諦めるヒーローではないが。
「効かないのは"ショック吸収"だからさ」
「脳無にダメージを与えたいなら…」
新発売の玩具を自慢するかの様に、得意げに語り始めた弔をバックに彼らは凄まじい殴り合いを始めていた。
オールマイトとほぼ対等のパワーを持つ脳無、ただ殴り合うだけなら耐久に利がある脳無が勝つだろう。
だが、オールマイトには脳無に無い技を持っている。
「わざわざサンキュー!そういうことなら!!」
「やりやすい!!」
素早く背後に回った彼はがっしりと胴を抱え、爆発とさえ呼べる程に強烈なバックドロップをかました。
グレイブを得物とする謎の
そして山を成したかと思えば一つの形をなし、悍ましい腐敗臭と共に伸ばした二本の柱で盛り上がり始める。
しかし、忘れてはいけない。
彼の体は既にボロボロであり、朱い蟲とは救いなどでは無く即ち腐敗の象徴でしかない事を。
一気に溢れ出した朱さは彼の体をあっという間に侵食し、最も負荷がかかる部分…即ち足を腐らせ始めた。
故に蜘蛛蠍の体を介そうとも、二本足で立つ事はできない。
何度立とうとも、その度に足が腐り落ちるのだ。
「一ヶ月も経たないのに、あの方々がそんなに気に入りましたか」
「…全て忘れようとも、姿を変えようとも、本質は変わっていないのですね」
そんな姿を一人見ていた
背景で繰り広げられる熾烈な争いを気にすることも無く、目の前の光景に魅せられた彼は隠し持っていた短剣で左掌を切り裂いた。
「ならば、思い出してください」
「私の、ヒーロー…」
そこから溢れ出るのは、肌の生白さからは想像が出来ないほどに鮮やかな紅さを持つ血。
やがて両手一杯に溜まったそれは静かに燃え上がり、
「守るために受け入れた腐敗…その代償として身を焼き続ける血炎を」
焼き崩れた衣、その中から現れた
トンボの如き顎を持った頭からスラリと伸びた足までの背を覆う、生白い海老の様な甲殻。
先まで出していた両腕にローブの中に隠れていたものも加えた四本腕。
そして何よりも異様なのは、甲殻の裏で百足の如く生え揃う痩せた人の手足。
だが、露わになった姿を気にすることも無く…
「…それが、私たちの呪いです」
異形の
蜘蛛蠍の体が、再び立ち上がった。
オールマイトと脳無の殴り合い。バックドロップをかました後に黒霧のワープゲートによる援護で一時的にオールマイトが不利になったものの、轟や爆豪そして切島達が横槍を入れた事で状況は仕切り直された。
だが、状況はイーブンではない。
傷口に刺し込まれた脳無の指、そして爆豪を庇って受けた一撃…それらには邪な病毒が入っており、彼の体を蝕み始めていたのだ。
「………加減を知らんのか…」
(…何だ、これは…)
(毒…いや、それ以上の何かだ)
彼の体を蝕むは朱い腐敗、一度かかれば文字通り全てを腐り落とす理外の病であり祝福。
もっとも脳無が自滅しない程に弱く薄いものだが…活動制限に脳無の強烈な攻撃も相まって、全盛からは遥かに衰えたオールマイトにとっては十分過ぎるほどのダメージであり、姿を保てどもこれ以上の戦いは厳しいものとなっていた。
「俺はなオールマイト!」
「怒ってるんだ!同じ暴力がヒーローと
そうして苦しむオールマイトを前に、弔は己が理想を語り始める。
ヒーローと世の中への怒りを込めた、いかにもそれらしい暴論を。
ただ暴れるだけの理由にしかすぎない事を直ぐ様オールマイトに看破されたが、彼がそれを語ったのは絶対的な優勢を悟っているからだ。
黒霧の弱点を爆豪に暴かれ、轟達の加勢で数においても劣勢だが、それでもオールマイトがもう少しで倒れそうなのだから。
脳無さえいれば、生徒達など大した問題にもならないのだから。
そうほくそ笑み、脳無に更なる指示を飛ばそうと口を開き…
「…は?」
その口を閉じる事ができなかった。
彼の目の前で、肉が焼ける匂いと共に何かが脳無へと飛びかかっていたのだ。
それは脳無に絡みつくと、パチパチと弾ける音と共に肉を噛みちぎるかの様な音を立て始める。
「何なんだよ、コイツは…」
(!…
「何じゃありゃ!?あの脳味噌ヤローが本命じゃ無かったのかよ!」
最初はただの炎にしか見えなかったそれだが、やがて脳無の攻撃で弾かれて風圧と共に離れた時、ようやく露わになった。
そこにいたのは鮮紅の炎の中で燃え上がる百足の群れ。それも、首から上に頭の代わりとして一際大きい有翅の百足が飛び出している人型だ。
事実それは蜘蛛蠍の体を宿主兼食糧とした百足の大群であるのだが、第一に来る本能的な嫌悪感に誰もが気圧されて気づくことはない。
そして百足の人型は更に悍ましく、そして強くならんとしていた。
不自然に伸びた右腕が首の穴へと差し込まれ…
「……ぅぇっ…」
「アレは、本当に生き物なのか?」
骨を砕き、肉を裂いて、溢れ出た血がびちゃびちゃと落ちて燃え盛る音。
そんな音と共に引き抜かれた右腕には、一つの大剣が握られていた。
まるで木の枝の様に逆棘がついた黄金のそれは、やがてゆるりと巻かれて鋭利な螺旋を描く。
右手に握りしめた大剣、左手から生やした大蠍の朱い針。
だが、武器だけでは蟲達は満足しない。
ぐにゃりと宿主の脚を曲げて力を込め…
「カチカチカチカチカチ!!!」
甲高く顎を鳴らしながら、蜘蛛蠍だけでは食べ足りないとばかりに脳無へと向かっていった。
剣技どころか剣すらも知らない筈の蟲達。その場にいる誰もが、彼らの動きを予想出来なかった。
「体は覚えている、というところでしょうか」
「"チョウシ"…お前、一体何をやった…!!」
「後で"先生"に聞きなさい、弔…今いいところなんです」
"チョウシ"と呼ばれた蟲の
彼らはただ大剣を振り回す事はせず、不自然に体を動かしながらも左手の針を楔とした独特の剣技を見せていたのだ。
全身と共に地面を滑るかの様に振るわれる大剣、その切先は皮と肉を鋭く切り裂くだけに留まらず、刀身に滴る血炎を浴びせながら打ち込んでいる。
鮮紅に燃え上がる血炎は火を厭う腐敗混じりの脳無を焼き、それに飽き足らず大量の出血を強いていた。
無論、脳無には"超再生"がある故にそう簡単に倒れる事はなく、そもそも蟲達の攻撃はオールマイトの力には遠く及ばない。
「何て熱だ…近づけん!!!」
されど黒霧が援護できないほどに熱く燃え上がる血炎は理外の力の一端。炎と終わりなき流血によって傷は閉じるよりも早く広がっていく。
空いた傷穴から止めどなく湧き出る百足の大群に対し、塞ぎきれぬ傷と共に動きを鈍らせて来た脳無。
長い戦いの末、先に動きを止めたのは脳無だった。
百足達は右手の大剣を逆手に持ち直して、宙にふわりと飛ぶ。
膝をついて動けぬソレに狙いを定め…
戦技「黄金の磔」
口から胴までを縦に貫いた。
瞬間、巻き取られていた逆棘が一気に開く。
「よくも、俺の脳無を…」
できたのは、脳を剥き出しにした改人の全身に黄金の角を生やした趣味の悪いオブジェ。
悶え逃れようとするが、しかし僅かに揺れるだけで何も変わらない。
そして未だ燃え盛る血炎の中、目の前の障害を取り除いた百足の大群が、その長たる有翅の百足がぐるりと振り向いた。
「「「「「「っ!!!」」」」」」
ただ一人、オールマイトを除いて。
だが、彼とて余裕がある訳では無い。
(もう動けんぞ…毒が薄まるどころか、さらに強くなり過ぎた!)
(ぶっちゃけもう一歩でも動けば、力むのも維持できん!)
(…解毒さえ、出来ていたならば…!)
腐敗が更に進行した彼は、最早これ以上戦えないのだから。
だが、無情にも百足の人型は彼の元へと向かっていく。
(来るんかい!!)
(ったく、ホーリーシットだ!!)
いつの間にか彼が右手に握りしめていた金色の針、それが動けぬ平和の象徴へと迫り…
「オールマイトから 離れろ!!」
「SMASSH!!!」
(折れてない!!?)
("力の調整"がこんな時に!!)
間一髪で、緑谷の全力を賭したスマッシュが間に合った。
幸いにも彼の腕が壊れる事はなく、余りにもの衝撃で蟲達は動きを止める。
だが同時に風圧で、既に再生していた人型の顔を覆っている百足の何匹かが飛んだ。
それは僅かな間、しかし一番近かった緑谷は見てしまった。
「……え?」
何処かで見覚えがある、印象的な混じり角と青髪を。
そして、思いついてしまった。
「…まさか……君は…」
バスの中で都合の悪い話を偶然にも逸らしてくれた、それ故に覚えていたクラスメイトを。
だが、その名を呼ぶ事はなかった。
「く「1-A クラス委員長 飯田天哉!!」
「ただいま戻りました!!!」
1-Aをまとめるクラス委員長が、精鋭プロヒーローたる雄英の教師達と共に戻って来たからだ。
それを見て、蟲達に圧倒されていた誰もが正気に戻った。
「…!…ゲームオーバーだ」
「帰って出直すぞ、黒霧」
「…黒霧?」
そんな
個性の発動を禁ずる、赤い眼光が見つめていたのだから。
「イレイザーヘッド…!!」
「逃すか!!お前達は、絶対に…!!!」
目の前を生徒を守れなかった無念、それが未だに相澤の意識を保たせていたのだから。
されど、現実は無情である。
「相澤教諭、無理はいけません」
「担任なのでしょう?なら、最後まで教えて頂かなければ困ります」
「かはっ…!!」
銃弾の雨を潜り抜け、近くの生徒すら気付かぬ速度で近づいていた蟲の
黒霧のワープゲートは開き、13号の静止も虚しく、弔はゆっくりと溶け込む様に飲み込まれて行く。
やがてその顔さえ飲み込まれかけた時、
「今度は殺すぞ」
「平和の象徴 オールマイト」
悍ましい呪詛と共に
劫罰の大剣
幾本もの逆棘がゆるりと巻かれた黄金の大剣。
古老が持つ大杖と対をなすが、伝承の中だけにあり続けた責問の象徴の一つ。
母児村の伝承は語る。
黄金の逆棘とは角人達を影地へと導いた老爺がその身に宿した祝福であり、村の始まりと共に二人の導き手へと授けられたと。
専用戦技「黄金の磔」
宙にふわりと飛び、頭上から突き下ろす戦技。
敵を貫いた時は、逆棘を開き内から酷く傷つけ、そうで無い時は周囲に逆棘を展開する。
敵を貫く様はどこか神聖な角を宿す祝福の様に見え、その実かつての角がそう言われていた様に、ただの悍ましき罰である。
腐敗百足
蜘蛛蠍の体に巣食う、朱黒い百足。
時折、蟲達は円環を作ろうとして必ず失敗する。
それは律せられ、しかし外なる神達によって捻じ曲げられた死の有り様でもあった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。