いつか、善き人として生まれ変われる様に   作:万年赤字一般傭兵

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獅子舞の追憶

 

 

 指定(ヴィラン)団体"母児村"。

 普段は平和な雰囲気に包まれているそこは、強制捜査の始まりによって多くのヒーロー達と戦士達が争う戦場へと姿を変えていた。

 

 

 そんな村の中心に蓮の香り漂う大きな屋敷がある。中には老人や女子供を中心とした多くの人が詰めかけており、それぞれが不安を抱えながらも一心に祈っていた。

 

 

『巫子様、巫子様……どうか、この災いから我々を守り給え』

 

『かつて荒れ狂う神獣を治め、その力を御手にされた時の様に』

 

 

 角を生やした頭を伏せながら彼らが祈る先は屋敷の奥深く、そこには頭に生えた角と青髪を特徴とする一人の少年がいた。

 

 外で戦っている様な戦士と違い、その体躯は決して大きい物では無く強さを感じさせない姿だが…それでも、かつての信仰対象に成り代わった存在に対して彼らは祈り続ける。

 

 

『巫子様、只今より我ら呪剣士が戦場に参戦致しました』

 

 その少年の側に一人の身軽な戦士が駆け込んだ。

 混じり角を冠とする奇妙な仮面をつけて両手に円刃を持つ彼女の名は美羅、母児村の呪剣士と呼ばれる戦士だ。

 

 

『先までは角の戦士達だけでしたが…もう、心配なさらずとも大丈夫です』

 

『間も無く伊織古老が責問官と神鳥の戦士、そして神獣の戦士達を率いてお戻りになるでしょう』

 

『その暁には…っ!』

 

 巫子に絶対的な忠誠を誓い、戦場はおろか彼の前では何一つ動じない彼女であるが…

 

 

 "私が来た!"

 

 平和の象徴が放つ声を聞いた瞬間、無礼を気にする事もなく警戒する構えをとった。

 

 その声は小さく未だ遠い事が分かるのだというのに、彼女は緊張の一切を解く事はない。

 

 

『…巫子様、私の後ろへ』

 

 そうして彼を庇いながら、しばしの時が経った。

 

 村の方角を見やれば、空の怒りを体現する竜巻に、降り注ぐ雷に、吹き荒ぶ冷気に…天変地異を思わせる様な光景がそこにはあった。

 

 

"DETROIT SMASH !!!!!!!!"

 

 だがそれらに負けることなく、寧ろ押し返す様にして先の声は響いている。

 

 いつしか、荒れ狂っていた自然の脅威は消えて無くなり…

 

 

『私が来た!!』

 

 

 巫子達の目の前に平和の象徴が、オールマイトがやって来た。

 

 

『巫子様ぁ!!』

 

 オールマイトが此処に居るという事は、それ即ち村最強の戦士達が負けたことを意味するが、彼女は臆することなく飛び出し

 

 

『待って下さい、美羅さん…そして、貴方も』

 

『…!……承知、致しました』

 

 

 巫子にその動きを制された。

 初めは踏み出した足の行先を迷わせていたが、しかし彼女は彼の命令に従って下がって行った。

 

『さて…オールマイトさん、でいいですか?』

 

『勝手ながら、心を読ませて頂きました…ああ心配しないで下さい』

 

 美羅の殺気を鎮め、悪意を感じさせない穏やかな口調で話す彼だが…

 

 オールマイトは、決して警戒を解く事ができなかった。

 

 

『これ以上の抵抗が無意味な事も、あなた方の目的も分かっていますので』

 

 

 それは彼がこの村の長であるからだとか、隣の呪剣士の轡を握っているからだとか、そんな理由ではない。

 

 

『…ただ、私もこの村の長ですから。この戦いをすぐに終わらせる訳にもいかないのです』

 

 

 彼の中に眠るOFA(ワン・フォー・オール)が目の前の見知らぬ少年を快く受け入れ、信じようとしているからだ。

 

『少し、話し合いませんか?』

 

 

 この個性に干渉できると言う理由だけで、警戒するには十分だった。

 

 

 


 

 

 

『…この村から人が消える時、村人の皆はこう言います』

 

『"奴は巫子様の救いを手放し、自ら地獄へ落ちた愚か者なのだ"…と』

 

 

 オールマイトが警戒の沈黙を解かない間、彼は気にする事もなく語り続けた。

 

 

『ですが、貴方の心を見て遂に分かりました。きっと此処を去って行った人達は、あなた方が築き上げる素晴らしい社会で…楽園で暮らしているのですね』

 

 

『ええ、ええ…ですから多少乱暴とは言えども、この様にして皆を捕える事を非難はしません』

 

『どうであれ、貴方達は私達を真っ当で幸せになれる場所に連れて行くのでしょうから』

 

 彼の口から語られるのはオールマイト達への好印象、そして事実上の降伏宣言である。

 

 

 だが…

 

 

『ですが、ただ捕えられてはいけません』

 

 そこで話は終わらない。

 

『僕が…この村の救いの象徴たる私がいる限り、あの人達はきっと諦めないですから』

 

『あなた方の救いを頭ごなしに否定し、偽りの救いに縋ってしまうでしょう』

 

 村の為を思って降伏しようとも、しかしその降伏は無意味となる…そんな矛盾がそこにはあったのだ。

 

 

『だから象徴は破れ、変わらないといけません』

 

『かつてこの村でそうなった様に…今度は、私の代わりに貴方が彼らの象徴となって欲しいのです』

 

 

 その言葉は敵らしからぬものであり、

 

 

『……協力、して頂けませんか?』

 

 彼は、その提案を飲み込んだ。

 

 


 

 

 主力となる精鋭の戦士が倒れながら、しかし残った戦士達は戦い続けていた。

 数を減らしながらも、一切衰えぬ戦意が宿った刃がヒーロー達を切り裂き血が流れない時は無い。

 

 

『戦士達よ!!その武器を下ろし、戦いを辞めよ!!』

 

 

 しかし巫子が戦場に現れてその言葉を発した途端、彼らは戦闘行動の一切を止めて彼を中心とした陣を組み始め、彼の側にいるオールマイトへと殺意を向けた。

 

 

『怪我をした者は敵味方問わず、私の元へと連れて来い!!』

 

『死体だろうが持って来い!その傷を私が癒そう!!』

 

 

 多くのヒーローが彼の提案を疑い、暫くの沈黙が流れたが…オールマイトの存在こそが信頼となって、直ぐに怪我人が運び込まれた。

 

 

『…済まなかった、今治すぞ』

 

 運び込まれた怪我人に対して、彼はその手で触りその傷を癒さんとする。

 

『…っ!……』

 

 そして現在進行形で行われている彼の治癒は、ヒーローから見ても異常なものであった。

 

 重傷を治すどころの話では無い。

 彼に触れられれば、首を掻き切られて蒼白になった者はその血の気を取り戻し、頭を割られた者は元通りに生の熱まで取り戻し、目を潰されたものはそこに宿っていた光を取り戻したのだ。

 

 

 奇跡とも言えるその現象に誰もが目を奪われて、巫子に流れる血を気にする事はない。

 

 

『…これで終わりですか?』

 

 

 やがて全ての者の傷が完全に治り、再び彼の口が開き始めた。

 

 

『皆の者、よく聞け!!』

 

『これより母児村の巫子たる私と、侵略者の長たるオールマイトが一騎打ちを行う!』

 

『この戦いの勝敗こそが、此度の侵略の答えとなると思え!』

 

 

 それは即ち、彼の作戦の始まりである。

 

 

『私が勝てば、侵略者は今後一切この地に来る事はないだろう!』

 

『だが、彼が勝てば…皆は彼を象徴として村を旅立ち、新たな生を享受せよ!』

 

 

 彼の号令によって戦士達は陣を緩め、残されたのは巫子とオールマイトだけになり…

 

 

『最後に、英雄(ヒーロー)として舞えるだなんて…』

 

『……さて、オールマイトさん。始めましょう』

 

 

 彼は、獅子の頭部を模した角混じりの祭具を被った。

 

 

 "角の獣よ、神獣よ"

 

 "どうか巫子の御身に宿り"

 

 "我らの為に、舞い給え"

 

 

 何処からか聞こえる祝詞、それと共に彼の身へと神が宿り

 

 

 "絢と舞い、絢と舞い、全てを祓い給え"

 

 "凶運を、凶賊を、村の仇を"

 

 

 "あの迫害者めの子らを!!"

 

 

 神獣を宿した獅子舞と平和の象徴が、共に舞い始めた。

 

 

 


 

 

 移動式牢(メイデン)に村の戦士達が抵抗をする事もなく捕えられて行く。

 荒れ狂う空の怒りたる嵐も、全てを焼き焦がす雷も、全てを凍て付かせる冬の寒さも、平和の象徴の前に破れたのだ。

 

『漸く、終わりましたか…オールマイトさん』

 

 その中に敗北を喫した巫子もいた。

 しかし彼は何処か憑き物が落ちたかの様な顔で、オールマイトに連れられている。

 

 

『彼らを、村の皆をどうかお願いします…』

 

 

 彼もまた最後に約束した事を言って、それきり何かをする事はない。

 

 

 移動式牢(メイデン)に拘束されて行く中、彼が最後に思い浮かべたのは…

 

(レディ・ナガン、彼女の心に見えた世界は本物でしたか)

 

(迫害されてこの村に逃れて来た、それが嘘だったとは言え…感謝しませんとね)

 

 

 紫髪が特徴的な彼女の心であった。

 

 

(願わくば、彼女もまた幸せを掴まん事を…)

 

 

 


 

 

 獅子舞の追憶

 

 

 巫子の身に刻まれた、神獣獅子舞の追憶

 

 

 かつて彼は英雄に憧れ、それ故に古老から舞を教わった。

 

 躍る必要無き巫子に舞を教えたのは、ただの気まぐれなのだろうか、それとも過酷な役目を課している罪悪感の現れなのだろうか。

 

 





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