いつか、善き人として生まれ変われる様に   作:万年赤字一般傭兵

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慣れない戦闘服

 

 

 雄英高校における学生生活の一日目、その終わりには静かで寂しくなる家だけが待っていたが…

 

 

 2日目は違った。

 

 

「この動画とかどうだ?…ほら、俺の好きなヒーローなんだけどな」

 

「……おお、本当に僕と同じ様な糸を出す個性なのですね」

 

 

「そうそう!だからさ、個性活かすならこの人の動きが参考になるんじゃねぇかなって思ったんだ」

 

「なるほど。参考になりました、ありがとうございます」

 

「そんな礼なんていいって!」

「俺が好きなヒーローを、他のやつにも好きになって貰いたいだけだからさ!」

 

 

 蜘蛛蠍の生来の人柄故か、それとも雄英の生徒達の底知らない善意故か。彼はその寂しさを埋める勢いで、新しく出来た友人達と共に充実した学生生活を送っているのだ。

 

 

「そういや、お前の好きなヒーローって誰なんだ?」

 

「好きなヒーローですか…」

 

(キャプテンヒーローも捨て難いですけど……)

「…レディ・ナガンさん ですね!」

 

 

 誰のとも分からない机を囲む、瀬呂や切島の様な一般的な男子高校生達が作る会話の輪。

 そこにあるのは予習復習の様な勉強だとか、好奇の視線に囲まれる檻などではない。

 

 

「レディ・ナガンって、あの狙撃系で有名な女性ヒーローか?」

 

「その通りです!」

 

「へぇ…ちなみに、どんなところが好きなんだ?」

 

「そりゃあ男が女性ヒーロー好きなら当然、おっ」「強いて言うなら、あの気高さです」

 

 

「社会の為にあれほど頑張る姿勢は何よりも…峰田君、どうかしましたか?」

 

「お前…!それでも男かよ…!!」

 

 朝日さす教室の中、予習をする訳でもなく好きなヒーローについて話し合って盛り上がる。

 そんな当たり前を、彼は享受しているのだ。

 

 


 

 

「蜘蛛蠍、この英文はどう言う…」

 

「えーと、これはですね…thatの後ろにallがあるのですけど、これは名詞でしか無いので…」

「…なので、thatを無くすかallの後ろに置くのが正解という訳です」

 

「なるほど…サンキューな!」

 

 

「流石ランチラッシュ、そして雄英だよな!」

「こんな安くていいのかって思っちまったわ!」

 

「ええ、本当に…」

「友達と一緒に食べるご飯って、こんなに美味しいのですね…」

 

 

 午前にあった普通の授業、そして友人達と共にした素晴らしい昼食、それらだけでも彼にとっては満足な学園生活であったが…まだ、雄英高校ヒーロー科の本領は発揮されてはいなかった。

 

 

 それは午後から始まるのだ。

 

 

「わーたーしーがー!!」

 

「普通にドアから来た!!!」

 

 教室に入って来たのは、銀時代のコスチュームを身に付けるオールマイト。今年から教師となった1年A組の副担任である。

 誰もがその姿を喜ぶNo.1ヒーローである彼を前にしてA組は騒々しくなったが、しかし蜘蛛蠍の顔は周りと違って曇ってしまった。

 

 

(オールマイト、貴方は最早…平和の象徴では無いのですか)

 

(象徴など、所詮は偽りに過ぎないとでも言うつもりなのですか…!)

 

 

 彼がオールマイトから感じるのは衰え知らずの聖火などではなく、風前の灯火。そこには、かつて味わった強大な力は無かったのだ。

 

 然れども黒い感情を出し切る事はなく、オールマイトと僅かな間視線を交わしただけでそれをしまい込んだ。

 

 

 そんな蜘蛛蠍とは対照的に、ポージングを取る彼がこれから始める授業とは

 

 

「ヒーロー基礎学!」

「ヒーローの素地を作る為、様々な訓練を行う科目だ!」

 

「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!」

 

 

 宣言された如何にもヒーローらしい授業、即ち己の個性を最大限に活かせる活動の始まりによって教室中に興奮の種がまかれ…

 

 

「入学前に送ってもらった"個性届"と"要望"に沿ってあつらえた…」

 

 

戦闘服(コスチューム)!!!」

 

 遂にはヒーローの証となる戦闘服が現れた事により、彼らの興奮は最高潮に花咲いた。

 

 


 

 

 戦闘服、それはヒーローを志す者が最初に手にするヒーローの証であり、同時に己の個性を最大限に表現する為の手段である。

 

 

「被服控除の通りですね」

(僕が決めました、そうありたいと自分で選びました…)

 

 それは公安に轡をはめられていた蜘蛛蠍にとっても同じ事…つまり戦闘服とは彼にとって、初めて自分で決めた在り方でもあるのだ。

 

 何処か不安定な感覚を覚えながらも、彼はそれを着始めた。

 

 

「こうして遮られると、安心しますね」

 

 まず最初に付けたのは、藍色の布で出来た両目を覆う眼帯。

 最新技術によって視界を遮る事が無くとも粉塵や光などから目を守り、流れる涙を誰にも見せない様にする為のものだ。

 

 

「この紫は、欠かせませんね」

 

 次に身につけたのは、ダークブルーとピンクが調和したドレスと腕帯。

 彼は紫という表現しか出来ないが、しかしサポート会社が参考としたヒーローの色合いを忠実に再現して作られたもの。

 

 肌の露出を最小限にしながらも凡ゆる動きを一切邪魔せぬソレらは、彼の少し細身な体躯と舞の動きに合わさる事で、正しく華麗となるだろう。

 

 

 

「この下は流石にスースーしますからね…」

 

 続いて彼が身につけたのは、これまた舞の動きに適したズボンに履き物。

 ドレスに隠れてあまり目立ちはしないものの、しかし彼が何かに包まれていない感覚を好みはしなかったのだ。

 

 

「………」

 

 最後に彼が手に取ったのは、赤い角を模した装身具。

 

 ただ耳に着けるだけの装飾品にも関わらず、彼はそれを手に取ったきり見つめたままである。

 そんな彼の顔には何かの葛藤が見られていたが、しかし手放す事はできなかったのか、結局は何事も無かったかの様に耳へと着けた。

 

 

(これが僕のヒーロー姿、そしてこれからの在り方…)

 

 鏡に映ったその姿は暗めの色が大半を占めていた、かつて村で着せられていた様な巫子衣装に比べれば地味もいいところだ。

 

 

「悪くは、無いですね」

 

 

 然れども己で決めた在り方に満足した彼は、確かな足取りで更衣室の外へと歩み出した。

 

 


 

 場所は移って現在彼がいるのはグラウンド-β、ビルが立ち並ぶ市街地を模した訓練場の一つである。

 

 

「どうだ!中々イケてるだろ?」

 

 

「おぉ!上鳴君のコスチュームもカッコいいですね!」

「ロックって感じだな!いーじゃん!」

「お前らしいな!」

 

 

 とは言えA組の全員がいる訳ではない。蜘蛛蠍を含めた一部の生徒は、他の生徒が来るまで互いのコスチュームを見せ合っていた。

 

 一部の生徒とは、上鳴、切島、瀬呂、峰田、そして蜘蛛蠍の事。

 憧れのヒーローを参考とした切島の"漢らしい"戦闘服に、如何にもロックな革ジャン様の上鳴の戦闘服……などなど彼ら全員が正しく個性的な戦闘服を着ていたが、その中でも蜘蛛蠍の戦闘服はある意味で目立ったのだといえよう。

 

 

「当たり前よ!…まぁ、インパクトでは蜘蛛蠍に負けたけどな」

「見てみろよ、あの峰田の顔を…」

 

 

「一瞬だけど、騙された…っ!男をっ、女だと見間違えたっ…!!」

 

「…謝るべき、なのでしょうか?」

 

「いやいいって、勝手に自爆しただけだろ」

 

 一般的にカッコ良さを求める中で華麗さを求めた彼の戦闘服は、それこそ峰田に斜め上からの衝撃を与える程に異質なものとなって映ったのだ。

 

 そうして時に下らない話をしながらも、時間は過ぎて行き…

 

 

「始めようか有精卵共!!!」

 

「戦闘訓練のお時間だ!!!」

 

 遂に、本格的なヒーロー科の授業が始まった。

 

 


 

 聖徳太子の逸話の如き生徒達からの質問攻めに悩まれながらも、無事にオールマイトの説明は終わった。

 

 

 A組生徒の皆がこれより行うは、"敵組"と"ヒーロー組"に分かれて行う、二対二または三対二の屋内における対人戦闘訓練。

 

 敵組は制限時間までビルの何処かに位置する"核兵器"を守るか、"ヒーロー"を捕まえる事が勝利条件。

 一方でヒーロー組は制限時間内に"核兵器"を回収するか、"敵"を捕まえる事が勝利条件となる。

 

 

 また三人で構成されるグループには特別なハンデが加わる事となった。

 

 遠距離間での情報共有に必須な小型無線が使用不可となり、また敵組ならば事前の準備時間を半分に減らされ、ヒーロー組ならば制限時間が5分短くなるのだ。

 

 

 総じて連携の難度を増しながら時間による余裕を削ることで、人数差による数的有利を取りにくくした形になったと言えるだろう。

 

 

 

 こうして説明が終われば、次に始まるのはコンビを決めるくじ引きだ。

 

 

 その個性に見合う様に、くじを引いた生徒達の反応は様々だった。

 

 知り合い同士でペアとなり互いの個性を活かした作戦を考え始める者、慣れない異性との会話で固まる者、ナイスバディな相方に己の幸運を喜ぶ者、正反対な組み合わせに空気をピリつかせた者……

 

 正しく個性的だと言えるだろう。

 

 

 

「僕は…Hコンビ」

 

「あら蜘蛛蠍ちゃんも私と同じコンビなのね」

 

「ふむ、俺の仲間は…お前達か」

「初見となるな。俺は常闇 踏影と言う、こっちは相棒の黒影だ」

 

 そんな中で、彼はHコンビに割り当てられた。

 その顔触れは互いに見知りあっている蛙吹と蜘蛛蠍、そして両者初対面となる常闇の3人である。

 

「私、蛙吹 梅雨と言うの。梅雨ちゃんと呼んで」

 

「僕は蜘蛛蠍犍多と言います。これからよろしくお願いしますね」

 

 

 とは言え面識が無くともA組の中では比較的に落ち着いた面子である故、特に問題が起こることもなく彼らの自己紹介は滞りなく終わった。

 

 

 そうしてコンビ分けが終わり、いよいよ対戦相手のくじ引きが、即ち戦闘訓練が始まろうとしている。

 

 

「続いて最初の対戦相手は…こいつらだ!!」

 

「Aコンビがヒーロー!!」

 

「Dコンビが敵だ!!」

 

 オールマイトによって宣言された組み合わせは、緑谷と麗日が組むAコンビと飯田と爆豪が組むDコンビ。

 

 

 唯の戦闘訓練だというのに、彼らの間に流れる雰囲気は尋常なものでは無い。

 

 

(クソナードが…この俺を、騙していたのか!?)

 

(かっちゃん、僕は…)

 

 

 爆豪と緑谷が続けてきた幼少からの因縁、それが今にも爆発しようとしているのだ。

 

 

 戦闘訓練の始まりは、何ともドロドロとしたものとなった。

 

 


 

 

 踊り巫子の戦闘服

 

 蜘蛛蠍がヒーローとして活動する際に着用する、踊り子衣装の如きコスチューム。

 紺やダークブルーを中心とした暗い色は着用者を隠すように見えるが、実際は違う。

 

 その暗き色合いは彼の美しい舞を一層引き立たせ、数え切れぬ程に刻まれた傷跡と流された血を隠す為のものなのだ。

 

 

 巫子の角飾り

 

 母児村の巫子が祭祀の際に用いる装身具。

 他の村人が用いるものとは違い、これは流血や寒さを呼び込む願いが込められたものである。

 

 

 巫子は全ての厄を受け入れる。

 痛みも、恐怖も、そして人ならざる証でさえも。

 それ故に巫子は尊き御方なのだ。

 

 やがて混じり角が神聖とされるまで、村人達はそう信じていた。

 

 

 





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