Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 GW期間内にどうにか最新話更新できました…。時間結構あったはずなんですが何分遅筆なもので…。
 今回はかなり久しぶりな戦闘シーン、若干チートじみているかもしれませんが、どうかそこはご了承ください…。


第8話 佐渡島

佐渡島…。

 新潟県近海にぽつりと浮かぶその孤島は、江戸時代においては日本有数の金の産出地として幕府の重要な財源とされ、また過去に多くの罪人が流された流刑の地としても知られている。

 だが、今の帝国に住まうほとんどの人間にとって、佐渡島の名を聞いて思い出すものは、佐渡金山でもかつてこの島で保護していたトキでもないだろう。

 1998年初頭、九州北部から上陸したBETAの軍勢によって、帝国領土に初めて建設を許してしまったハイヴ、通称『甲21号目標』ことH21佐渡島ハイヴ。

 建設からまだ一年も経過していないという事から未だにハイヴの規模はフェイズにして1・5程度、大陸のハイヴに比べればまだまだ小型のハイヴである。

 しかし、それでもハイヴ内から湧き出る無尽蔵ともいえるBETAの物量により、現在の帝国軍の総力をもってしても奪還は困難とされている難攻不落の要塞であり、さらに同年に横浜にH22横浜ハイヴが建設されたことにより帝国軍、国連軍合同によっても奪還は絶望的という見解まで出されていた。

 

 

 ……そう、今日になるまでは…。

 

 

 

 

 

 

かつては緑に覆われた山々と、少なからず人々が生活を営む街もあったであろう佐渡島、だが、今の島には人間を含む生命どころか、山や丘といった凹凸すら存在しない平坦な寒々しい荒野と化していた。

その生命すらも存在しえない死の世界を我が物顔で這いまわるBETAの群れ、そしてBETAの手によって島の中央に着々と建立しつつある金属質の異質な輝きを放つ侵略者の牙城、佐渡島ハイヴモニュメントの姿に、一瞬ここが日本帝国領土、否それどころか地球ですらなくどこか別の惑星なのではないかという錯覚すら抱かせてしまう。

だが、この光景は今の世界では珍しいものではない。BETAの跋扈するユーラシア大陸では佐渡島や横浜どころではない、さらに巨大なハイヴのモニュメントが立ち並び、数えることすらできぬほどのBETAが大地を喰らい、命を貪っているのである。

そして今も、大型小型入り混じったBETAの軍勢は、佐渡島に残された“資源”を探し求め、地上を這いまわっていた。

 

…が、その時は突然訪れた。

 

突然何かを発見したかのように光線級と重光線級、俗に光線属種と呼ばれるBETAが自らの頭上に広がる空へとまるで巨大な目玉のようなレーザー照射粘膜を向けた。しかし、その反応はあまりにも遅い、遅すぎた。

突如何の前触れもなく、BETAの頭上から灼熱の火球が三発、密集したBETAの集団目掛けて降り注いだのだ。灼熱の業火は地上を這うBETAの集団へと次々と着弾、岩盤ごとBETAを粉々に砕き、死体も残さずに炎上させる。地上で密集していたことが仇となり、一発の火球で1000を超える数のBETAが消し炭と化していく。だが、それだけでは終わらなかった

 

天空を覆い隠す暗雲を切り裂き、先程を上回る量の火球が地上のBETA目掛けて雨の如く降り注ぐ。灼熱の炎の砲弾はまるで隕石のように地上に降り注ぎ、地表に存在するBETA全てをその痕跡すらも残さずに次々と焼き払い、粉砕していく。

次々と数を減らしていくBETA……。無論BETAも黙って大人しく蹂躙されているわけではなかった。BETAの中で唯一対空戦力を持つBETA、光線級と重光線級が火球の発射地点を的確に補足し、航空機をも一撃で撃墜可能な高出力レーザーを矢継ぎ早に空目掛けて発射している。

…しかし、灼熱の豪雨は止まらない、否、収まるどころかさらに激しく、さらに多量に火球は大地目掛けて突き刺さり、ついにはBETAにとって頼みの綱でもある光線属種すらも粉微塵に焼き払い、吹き飛ばしていく…。それはさながら聖書に謳われたソドムとゴモラを焼き尽くした神の炎の如しであった。

やがて3分後、佐渡島の地表は様変わりしていた。文字通り地上を埋め尽くしていたBETAは一匹残らず焼き尽くされ、大地もBETA諸共炎に焼かれ、地表は火球の残滓なのか幾筋もの炎の柱が立ち上っている…、それはまるで地獄、まさに地獄としか形容しようのない世界であった。

と、空を覆う暗雲を切り裂いて、その“地獄”へと舞い降りる巨大な影があった。

それは現実世界の爬虫類、亀に似た姿の、だがそれよりも遥かに巨大な体躯をした“怪獣”であった。

文字通り山のような巨体、その巨体を支える大木の如く太い脚、口元から露出した鋭く、長大な牙…、灼熱の炎で覆われた世界に立つその威容は、まるで地獄の死者を喰らい、責め苛む悪鬼の如きであった。

彼の怪獣こそこの地獄を作り出した“演出家”そしてこれから始まる殲滅という名の演劇の“主演”…。

その名はガメラ、この世界より遥か遠き世界、星の意思によって生まれた地球の守護神…。

大地へと降り立ったガメラは眼前のモニュメントを睨みながら、憎々しげに唸り声を上げる。外部の異変に気がついたのか、既にハイヴから何万ものBETAの軍勢がガメラめがけて押し寄せてくる。

未だに辺りに炎が立ち上っている焦土を進軍するBETAの軍勢は、たちまち無人の荒野を覆い尽くしていく。ハイヴに格納されているBETAの総軍からすればせいぜい1、2割といった程度ではあるが、それでも人類を物量のみで押しつぶすには十分過ぎる。

……そう、人類であったのならば十分だった…。だが、目の前の『守護神』を相手にするには、あまりにも脆弱過ぎた。

 

『グルルアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオンンンン!!!!』

 

己に迫る見るもおぞましい虫けらの群れ、星を食い散らかす害虫の群れに向かいガメラは怒りの咆哮を高らかに轟かせながらBETAの軍勢目掛けて進撃する。

その巨大な脚が振り下ろされるたび、小型のBETAは次々と踏みつぶされて紫色の染みとなり、中型ならばその足で蹴り飛ばされ、尾で薙ぎ払われてただの肉塊と化す。大型種である要塞級は、その鋭い牙で噛み砕かれ、あるいはその剛腕で殴られ、引き千切られ、いずれも何の抵抗も出来ずに無残に死骸と化す。

光線属種はただひたすらレーザーをガメラに浴びせ、要塞級は触手をふるい、突撃級は隊列を組んだままBETAでも最速の時速170㎞の速さでただ突撃し、要撃級は果敢に接近してその前腕を振り回し、小型種は中型、大型種の間をくぐってガメラに取りつかんと迫ってくる。

だが、無駄だった。いかな攻撃をしようが、いかな打撃を与えようが、ガメラは止まらない。戦術機すらたやすく溶解させるレーザーすらも意に介さず、近づくBETAはその巌の如き皮膚に傷一つ与えられずにただただ踏みつぶされ、蹴り飛ばされて汚らしい血で大地を染め上げていく。

 

『グルルルルルル……』

 

潰せども砕けども次々とハイヴから出現するBETA。その数は時間が経過するごとに段々と増加していく。ガメラの眼前に広がる光景、言葉通りもはや数え切れないほどのBETAに覆い尽くされ、視界に映るのはハイヴモニュメントを除けば全てBETAという並みの衛士ならば即パニックに陥るであろう悪夢のような光景…。

だが、ガメラは動かない。その光景を目にしながらも目の前のBETAに攻撃しようという気配が無い。否、そもそも奴らに視線を向けてすらいない。

ガメラの視線の向く先、それは己の脚元、そこに広がる大地。……否、厳密に言うのならば、その大地の“真下”だった。

 

 『グルオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!!!』

 

突如空へと向かい高らかに咆哮を上げたガメラは、両足を甲羅の中へと引き込み、そこから猛烈な勢いでジェットを噴射、空へと高らかに舞い上がった。

瞬間、ガメラが先程まで立っていた地面が弾け、そこから火山から噴出する溶岩の如く何かが地上に飛び出してくる。

それは中型、小型と入り混じったBETAの集団だった。偶然か必然かは分からないが地上のBETAに気を取られているガメラの足元から忍び寄り、一斉にその巨体に取りつこうとしたのであろう。が、ガメラは地中から感知した僅かな振動によって地中からのBETAの侵攻を察知、空へと逃れることによって結局BETAの目論見は空振りに終わった。

地上を這いまわるBETAをあざ笑うかのように天空を悠然と飛行するガメラ、それを撃ち落とそうと地上に展開された光線属種BETAは一斉にガメラ目掛けてレーザーを照射する。その眼球の如き照射機関から放たれた膨大な熱量の閃光は次々とガメラへと突き刺さるが、元より熱をエネルギーとするガメラがその程度のレーザーで撃ち落とされるはずもなく、航空機をも一撃で撃ち落とすレーザーを連続で照射されてもなお、ガメラは何事もなかったかのように悠々と飛行しており、その表皮には火傷一つ見当たらない。

 

『ゴアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

と、ガメラは突然眼下のBETAの群れめがけて急降下する。光線属種のレーザー照射がさらに激しさを増すが、そんなものはもはや気にも留めていない。

 ガメラは地上のBETAに急降下しながら真っ赤に裂けた口から灼熱の火炎、プラズマ火球を三発連続で発射する。碌に狙いもつけずに発射した火球であったが、BETAの群れが大量に密集していたこともあり三発共にBETAの集団に着弾、そのまま連鎖爆発を引き起こして一瞬のうちに万を超えるBETAを屠り去っていく。

 ガメラは地上から百メートルの高さで飛行しながらプラズマ火球で地上を這いまわるBETAを次々と爆撃していく。元々光線属種以外のBETAは飛行する敵を攻撃する手段を保有しておらず、さらに密集して地上に展開していたことが仇となって着弾した火球の余波に巻き込まれ、地上のBETAは次々と粉微塵に砕け、炎上し、跡形もなく消滅していく。

 地上戦において恐らくガメラの最大の脅威となるであろう要塞級も、流石に空を飛ぶ敵には如何ともしがたく火球の直撃を受け、あるいは炎を浴びて細胞諸共消し炭となるしかない。

 紅蓮の火球が大地を抉り、爆発し、炎上する…。守護神の炎が幾度となくBETAへと降り注ぎ続けた結果、地上は再び生命の存在しえない焼け野原と化しつつあった。生き残ったBETAは頑丈な甲殻によりある程度熱に耐性のある突撃級が少々と、後方でガメラを狙撃していた光線属種のみ。それ以外のBETAは火球の直撃、あるいは爆発の余波と炎を浴びてほぼ全滅している。相も変わらずハイヴからのBETAの出現は止まる様子はない。が、その数は侵攻開始直後から比べると段々と少なくなりつつある。いかに圧倒的物量を誇るとはいえ、ハイヴ内のBETAは無限ではない。こうも出てくる度に火球で吹き飛ばされ続ければ流石にハイヴ内に残存するBETAの総量も減少する。事実ガメラの度重なる攻撃によって、佐渡島ハイヴ内のBETAは段々と枯渇しつつあった。

攻めるのならば今…!!これを好機と見てとったガメラは、ジェット噴射を止めて甲羅から脚を引き出し、再度焼き尽くされた大地へと降り立った。

一万トンを超える質量が大地に足をつけた瞬間、すさまじい地響きとともにガメラを中心に巨大なクレーターが出現する。それに伴い発生した地震により、地上に展開しようとしていたBETAの軍勢は次々とその脚を停止する。後方の集団は巻き込まれずに済んだもののそれが結果的に仇となり、最前列で急停止した突撃級、あるいは戦車級へと次々衝突、あるいは押しつぶし、さながら渋滞でも起こしたかのような前進も後退も出来ない有り様となってしまった。もっともBETAに『後退する』という思考回路があるかどうかはふめいではあるが。

 

『グルアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

急停止したBETAの群れにガメラが雄叫びを上げながら迫る。巨獣は身動き一つできない虫けらへとその脚を振り下ろし、尾で薙ぎ払い、火球を放って薙ぎ払っていく。

BETAも反撃する。同胞の死体を乗り越え、あるいは盾としてガメラに迫る。光線属種もレーザーの燃料となるG元素が完全に枯渇するまでありったけのレーザーをガメラ目掛けて叩きこむ。

だが、無駄だった。接近するBETAは踏みつぶされ、あるいはその前に火球で焼き払われる。レーザーは傷を負わせるどころかその熱エネルギーそのものをプラズマ火球のエネルギーへと変換され、さらにBETAへの被害を拡大させるという悪循環が続いている。

劣勢、圧倒的なまでに劣勢だった。恐らく地球上におけるBETAにとって初だろう。己の砦であり、領域でもあるハイヴにおいて劣勢に陥るというのは。

無論人類によって撃退されてこともあった。侵攻する軍勢が全滅したことなど数え切れないだろう。だが、それはあくまでも『局地的な勝利』だった。

他を圧倒する物量、光線属種という最強の対空兵力を持つBETAは、たとえ幾度進行を阻まれようとも最終的にはその物量で全て押しつぶしていく。いかに侵攻を止めようが、BETAの製造施設であり本拠地であるハイヴそのものを叩き潰さない限り、BETAの侵攻が止むことはない。

実際1978年に行われた『パレオロゴス作戦』を始め、ハイヴを攻略する作戦は少なからず行われている。

だが、結果はどれも失敗。『かつてのループ』においても初めて成功したのが1999年に行われた明星作戦、それも米国が極秘開発した最新型爆弾、『G弾』を二発使用し、味方に膨大な犠牲を出した結果ようやく攻略できたという有り様である。

そのような事でもない限りハイヴ内でBETAが劣勢に陥ることなどあり得ない。それが今までの常識であった。

それが今、この場で完全に覆されている。圧倒的な数の有利も、レーザーによる最強の対空兵器も、何もかもが目の前の怪獣には通用しない。BETAはガメラに一矢報いることもできず、ただただ蹂躙されていく事しか出来ない。

そうこうしているうちについに光線属種のレーザー攻撃が途絶える。度重なるレーザー照射の末に燃料用のG元素が尽き、『弾切れ』を起こしたのだ。光線級、重光線級共にG元素補給のためにハイヴ内へと戻ろうとするが、そんなものを見逃すガメラではない。撤退する背後からプラズマ火球を叩きつけられ一匹残らず灰にされる。

もはやBETAに勝機はない。ハイヴ内のBETAも残り少なく、これ以上の増援は確実に望めない。ハイヴの陥落が時間の問題なのは、誰の目が見ても明らかだ。だが、BETAは後退も撤退もしない。目の前の障害をなんとしても退け、粉砕するためにもただただひたすらに前進する事しか出来ない。…そして、一匹残らずガメラによって物言わぬ肉塊、毒々しい紫の染み、あるいは焼き尽くされて灰も残らず消滅するという未来しか彼らには残されていなかった。

地上のBETAを一掃したガメラは、眼前のモニュメントを見降ろした。

まだフェイズ2にもなっていない佐渡島ハイヴのモニュメントの高さは、未だ30メートル程度。プラズマ火球の一撃で破壊することが出来るだろう。だが、ガメラの目的はモニュメントの破壊ではない。本命はその真下にある。

 

『グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

ガメラの口内から発射された火球は、モニュメントの頂上へと衝突すると同時にその天蓋を爆発四散させてまるで虫歯のような穴を空ける。と、ガメラは再び脚部からジェットを噴射してその穴の中へと飛び込んだ。

穴の底へと落下するかのように飛行するガメラは、落下しながら猛烈な勢いで空気を吸引し始める。ジェット噴射の勢いで穴の底へと落ち続けるガメラ、その視線の先にあるのは、ハイヴの最下層、地の底に広がる広大な空間、そしてその中央に設置された青白く輝く無機質で巨大な楕円形の物体…。

あれこそがこの佐渡島ハイヴの心臓部、反応炉こと頭脳級BETA。もっともBETAと判明するのは今から三年後のことで、この当時では単なるBETAのエネルギー補給機程度の認識しか持たれていなかった。

実際はそんな単純なものではなく、現在世界最大の規模を誇るハイヴ、H1カシュガルオリジナルハイヴに存在する地球上のBETA全てを統括するとされている『上位存在』と呼ばれるBETAからの指令を全てのBETAに伝達するいわば通信機としての役割も持っており、これを破壊しない限り幾らBETAが死のうがハイヴそのものが“死ぬ”事はない。

横浜ハイヴでは00ユニット製造のためにあえて残したが、今回はそんな遠慮は必要ない。

 

『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

咆哮と共に喉で最大限チャージされたプラズマ火球、ハイ・プラズマが反応炉めがけて発射された。ハイ・プラズマはまるで彗星の如き速度でホールへと落下、そのまま反応炉へと到達した。

通常の120%以上の出力で放たれた火球は反応炉を粉々に吹き飛ばし、大爆発を起こした。それと共に発生した爆炎は瞬時に広大なホールを覆い尽くし、ついにはガメラが侵入した縦抗にまで達する。無論ガメラも炎にのまれるが、元より光線属種のレーザーですら傷つかない耐熱性を有するガメラにとって、この程度の炎では焼死どころか火傷一つ負う事はありはしない。

一面業火に包まれた灼熱地獄、もはや生物など存在することすらできないであろう世界へとなり果てた広大なホールへと降り立ったガメラは、まるで勝鬨を上げるかのように高らかな咆哮を、地の底から地上へと届かんばかりに高らかな咆哮を張り上げた。

 

1998年11月31日 佐渡島ハイヴ、陥落。

 

横浜ハイヴ陥落から10時間も経たずに帝国の悲願たる佐渡島攻略は成された。しかも、帝国軍および国連軍には一切消耗、損害はなく…。文字通り奇跡、歴史に残るべき偉業とでも言うべき戦果であった。

 

……それがもし、人の手によりなされた戦果であったのなら……。

 

『グルアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンン!!!!!』

 

業火燃え盛る地獄の釜で、ガメラはその咆哮を高らかに轟かせる。

 

 

 そこに込められた思いは、勝利への歓喜か、怨敵への宣戦布告か―。

 

 

 ガメラSIDE

 

 『……終わった』

 

 炎の中、ハイヴ最深部を覆い尽くして燃え盛る炎の中、ガメラは、ガメラの中の『白銀武』はまるで溜息でも吐くかのように、その声に僅かに安堵の色を滲ませながら呟いた。

 流石に眠りから覚めて直ぐにハイヴを二つ攻略するのは、ガメラになったばかりの身体では少々しんどかった。どうにか横浜でのBETA殲滅戦で今の身体に慣れてきたので、いざ佐渡島ハイヴ攻略に挑んだわけだが、予想以上に体力を使ってしまった。

 記憶にある佐渡島ハイヴよりも規模がかなり小さかったとはいえ、それでもハイヴはハイヴ、湧き出るBETAを殲滅し、こうして反応炉を破壊することが出来たものの、やはり連続でハイヴを二つするのは無理があったのか、少なからず身体は疲労しているし、傷も負っていた。

 それでもどうにかして帝国の二つのハイヴを攻略出来たことが、運命を変えることが出来た。その事に『武』は少なからず安堵していた。

 

 「伊隅大尉……。柏木……」

 

 燃え上がる炎を浴びながら、『武』は己がガメラとなる前の記憶を、己が仲間達と共にこの島で戦っていた記憶を、その戦いの中で失ってしまった大切なヒト達の事を思い浮かべる。

 佐渡島ハイヴ、かつて己がガメラとなる前に、A-01伊隅戦乙女中隊の一員として仲間達と共に攻略に挑んだハイヴ。

 帝国軍、斯衛軍、国連軍の三軍共同で行われた佐渡島ハイヴ攻略作戦、『甲21号作戦』。

 結果として言えば作戦は成功した。ハイヴを佐渡島諸共消滅させることにより、BETA

の本土上陸は阻止され、帝国に迫る脅威は回避された。

 だが、その為に支払った代償は決して安いものではない、三軍共に数え切れないほどの人間が犠牲となり、『武』の所属していたA-01もまた、隊長である伊隅みちる大尉、柏木晴子少尉の二名の隊員がその尊い命を散らすこととなってしまった。

 今回攻略した佐渡島ハイヴは『甲21号作戦』が行われた時期よりも3年早かったことからか『武』の記憶にある佐渡島ハイヴよりも遥かに小規模ではあるものの、それでも難なくBETAと反応炉の殲滅に成功することが出来た事は『武』にとって何よりも喜ばしかった。

 佐渡島ハイヴが殲滅された以上『甲21号作戦』は行われることはない。此処で犠牲になるはずの伊隅みちる大尉、柏木晴子少尉も、そして名もなき多くの衛士たちの命もまた救われる…。

 己は過去を変えた、死すべき運命であった恩人と、大切な人たちの運命を変えることが出来たのだ。

 

 『……まあ、オリジナルハイヴ潰すまでは気が抜けないけど、さ……』

 

 此処まで破壊したハイヴは皆ことごとくフェイズ2にも満たない小規模なものである。大陸に存在するハイヴは佐渡島、横浜よりも遥かに大規模なフェイズ2を超える代物ばかりだ。この程度でダウンしていては到底オリジナルハイヴを攻略することなど夢のまた夢だろう。

 どのみちまずは帝国近隣のハイヴを潰していき、最後にオリジナルハイヴを攻略するというのが『武』の計画であるのだが…。

 それでも今くらいは喜んでもいいだろう。大切な人達の運命を変えることが出来たのだから…。

 

 『…武、少しいいか?』

 

 『ん?どうしたんだガメラ』

 

 かつての仲間達の事を思い浮かべながらハイヴを陥落させたことへの充足感に浸っていると、『武』、ガメラの脳内から別の声、この身体の本来の主ともいえるオリジナルガメラの声が響いてきた。

 

 『君の体力や傷の具合を見たのだが、ハイヴの攻略は今日はここまでにしておいたほうがいいだろう。海で身体を休め、傷を癒してから次に移るべきだ』

 

 『……そうだな、俺も慣れない身体で動いたせいなのか疲れたし、今日はこれくらいにしておくかな…』

 

 オリジナルガメラの言うとおり、ガメラの身体には細かいながらもBETAによって大量の傷を負っている。幸いなことにどれも命に関わるものでも戦闘に支障が出るものでもなかったためにこれまで放っておいたものの、それでも治しておくに越したことはない。

 それにやはり身体には疲労が残っている。どのみち帝国のハイヴもBETAも一掃した以上、再び日本にBETAが上陸するまでは時間が稼げるはずだからそこまで焦る必要もない。

 ガメラも少し考えると了承するように僅かに頷く。

 

 『分かった。んで、傷治すにはどれくらい休んだらいい?まさか一カ月なんて言わないよ、な?』

 

 『いや、この程度の傷と疲労ならば一日二日海の底で眠れば完治するだろう。流石に腕や足が千切れたとなるともう少しかかるが…』

 

 『ならよし!じゃあさっさと行くか!』

 

 オリジナルガメラの返答を聞いたガメラは甲羅に四肢を引き込むと、そこから強烈なジェットを噴射してハイヴの縦抗から地上に浮上、やがて地上から100メートルの高さまで到達するとまるで空飛ぶ円盤のように回転しながら海に向かって飛び立っていった。

 

 『ん……?そう言えば……』

 

 日本海に向かって飛行するガメラ、『武』はふとある事を思い出す。横浜ハイヴと佐渡島ハイヴを陥落させ、この世界の白銀武と鑑純夏を救出に成功して浮かれていたため、かれの記憶からすっかり忘れられていた事があったのだ。

 

 『例の公式とXM3、どうなるんだ……?』

 

 ガメラこと『武』が思い出した事、それはかつての世界で己が考案した最新型戦術機OS、通称XM3、そしてオルタネイティブ4の骨子たる量子電導脳を構築するための公式の書かれた論文についてであった。

 XM3は『武』が元の世界で好んで遊んでいたゲームの操作方法を戦術機操作に応用して開発されたOS、当然この世界の白銀武では考え付くはずもない。

 ひょっとしたら他の誰かが考え付く可能性も無きにしも非ずだが、一度目のループでだれも開発しなかったところをみるとこれははっきりいって期待できない。やはり己が発案しなければ無理だろうか。

 二つ目の公式についてだが、これも武が横浜基地副指令である香月夕呼の力で一時的に元の世界、…正確には元の世界に酷似した並行世界へと移動し、その世界の夕呼から譲ってもらったもの。これも己がいなければ入手は無理。

 一応論文の中身は己もパラパラめくる程度に見たものの正直言ってただの数字の羅列にしか見えずさっぱり理解できない。やはり己のような凡才には天才の考えは理解できないか、とガメラは軽く溜息を吐く。

 見ての通り今の己はガメラ、怪獣だ。人間と会話して己の意思を伝えることはできないし、夕呼の研究の手伝いをすることも当然不可能。………正直いってこのままいったらオルタネイティブ4は暗礁に乗り上げるんじゃなかろうか……、心の中で不安を覚えてしまう。

 

 『…………ま、いいか。要は俺が地球のハイヴ全部ぶっ潰せばいい話だし』

 

 が、直ぐに思い直す。己の知識を使えないのなら、己の力でハイヴを全部破壊してしまえばいい話…、そうすればXM3も00ユニットも無用の長物になるはず……、そうガメラは思い至った。

 そもそもオルタネイティブ計画はBETAに対抗するための計画であるから、この地球上からBETAを全滅させてしまえばもはや計画そのものを続ける必要がなくなる。

 その結果として政治的ないざこざがあれこれ起きる可能性もあるだろうが、たとえそうなったとしてももはやガメラとなった『武』には関係のないこと、人間同士でいざこざをやりたいのならば好きにやればいい。己はただ地球にはびこる害虫共を駆除するだけだ。

 人間じゃなくなってガメラになった以上もう政治やら何やらに巻き込まれるのは正直ごめんである。

 そんなことを考えながら飛行しているうちに、ガメラは佐渡島と日本列島からは大分離れた場所まで来ていた。ガメラは回転を停止して両腕と頭部を甲羅から出すと、脚部のジェットの勢いのまま海面から海中へと飛び込み、そのまま潜水していく。

 海の中に入った瞬間、ガメラの全身を冷たい水が包み込み、戦いの中で熱せられていた身体を冷やしていく。その心地よさを感じながらガメラは光の届く海面から、光届かぬ深淵、海底へと沈んでいった。

 

 『……あ、でもG弾どうするか……。まさかアメリカに攻め込むわけにもいかないし、やっぱりハイヴ全部破壊して使わせないようにするのが得策か……?』

 


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