Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 連休明け後皆様いかがお過ごしでしょうか。
 最近は少しばかり暑さも和らいで少しばかり過ごしやすくなってきてますね。
 今回は久しぶりの戦闘シーン、BETAでもおそらくガメラの相手になるのはこれくらいだろうと思う敵です。


第15話 母艦

モンゴル。かつて世界を蹂躙し、その半分を掌中に収めた征服王チンギス・ハーンを生みだした国。そこはかつて見渡す限り緑の草が生い茂る広大な草原が広がり、騎馬と、馬を友とする遊牧民が駆け巡り、共に生きていた大地…。

 それが今や見る影もない。一面茶色いひび割れた地面がむき出しとなった平坦な大地が続く生命の息吹すらも感じない世界がそこには広がっている。無論騎馬も、遊牧民もそこには存在しえない。皆逃げたか、あるいは食い殺されたのだ。この星のモノではない、空の彼方より降ってきた異形の侵略者、BETAによって…。

 そして、かつてのモンゴルの中心たる場所に、それはあった。H18ウランバートルハイヴ。かつてはモンゴルの中心たる首都であった場所は、今や醜悪なる地球外生命体の侵略のための基地へと完全に様変わりしている。

 かつての街並みは完全に破壊されつくされ、かつて行きかっていた人影はどこにも存在しない。今や完全に人気のなくなった廃墟と化した首都を我が物顔で這いずり回るのは無数のBETAの群れのみであった。

 

 ……だが、それももはや過去の話へと成り果てようとしていた。

 

 何故なら今、ハイヴと廃墟はBETA諸共灼熱の炎によって焼き尽くされようとしていたのだから……。

 

 『グルオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!』

 

 街を、大地を、BETAをも平等に焼き払い、灰へと帰していく地獄の炎。空気すらも熱せられ、ただ呼吸するだけで肺すらも焼けただれるであろう焦熱の世界…。それはまるで旧約聖書において神の裁きを受けて滅び去った背徳の都、ソドムとゴモラの如き鮮烈な光景であった。

そして、そんな生物ならば何であろうとも生存することすら出来ないであろう炎獄のただ中で、一体の巨影が空気を震わし、引き裂かんばかりの裂帛の咆哮を張り上げている。

 まるで地獄で罪人を裁く閻魔王の如き恐ろしく、そして猛々しい巨体…。かの存在こそこの地獄を作り出した張本人…、生命の源たるマナより生みだされた地球の守護神たる大怪獣、ガメラだった。

 鉄原、ブラゴエスチェンスクと二つのハイヴを立て続けに破壊したガメラはオホーツク海海底にて休息と傷の治療のために丸一日眠りについていた。やがて眠りから覚めたガメラは、次なる攻撃目標としてウランバートルハイヴ、そしてウランバートルハイヴの最も近くに存在するクラスノヤルスクハイヴの二つに定め、行動を開始した。

 一応今のガメラの戦力ならば、『最後の手段』を使わずにハイヴを三つ以上潰すことも可能といえば可能である。だが、大陸に存在するハイヴは移動距離が日本の横浜、佐渡島等とは比較にならない程長距離であり、下手をすれば移動のためのジェット噴射のみで相応のエネルギーを喰ってしまう可能性もある。勿論休息する海域を攻略するハイヴの近くにしたりとそれなりの対策はしているものの、今のところガメラが破壊できるハイヴは規模の大きさにもよるがフェイズ2~3ならば基本的に二つのみ、4を越えるならば一つずつが限界となる可能性がある。

 BETAの地球侵略の拠点である地球最大のハイヴ、H1カシュガルオリジナルハイヴともなればフェイズ6、今はシロガネタケルがループした時期の三年前であるからそれよりも規模は小さい可能性もあるがそれでも今まで攻略したハイヴとは比べ物にならない規模になるのは間違いない。到底他のハイヴのついでで攻略できるような代物ではない。

 だからこそまずは足元から削り取る。オリジナルハイヴ以外のハイヴとBETAを殲滅してオリジナルハイヴを完全に丸裸にする。オリジナルハイヴでのBETAとの最終決戦はそれからだ。

 

 そして今、ガメラはハイヴとBETA殲滅のためにウランバートルの大地へと降り立っている。

 上空からプラズマ火球を発射して地上のBETAを一掃、その後地上戦と空中戦を切り替えながら地上に湧き出てくるBETAを火球で、その巨体に任せた肉弾戦で焼き払い、叩き潰していく…計四回に渡るハイヴ攻略戦においてガメラが常々用いていた戦術でもってBETAを圧倒する。

 元々BETAの対空戦力は光線属種によるレーザー照射以外存在しない。だが、現存の光線属種のレーザーではガメラの持つ耐熱性を貫くことが出来ず、むしろ逆に熱をエネルギーとするガメラへとさらなるエネルギーを与える結果となってしまう…。

 すなわち現状において空中戦はガメラにとってはBETAに対する最も有効な戦法であり、上手くいけばBETAに何もさせる事無く一方的に殲滅することすらも可能なのだ。

 とはいえジェット噴射からのプラズマ火球爆撃はそれ相応にエネルギーを消耗すること、そして空中からの爆撃のみでは全てのBETAを殲滅しきれないのもあるために地上戦と空中戦を切り替えつつBETAを殲滅していく。

 無論BETAもただ黙って殲滅されているわけではない。人類に用いた数に任せた物量戦法、光線属種による対空砲火だけではなく、地面、あるいは倒壊した建物からの奇襲すらも行って、目の前の『障害』へと対処しようとする。

 …が、無駄だった。数を頼みの戦法は圧倒的な『力』によって押しつぶされ、空飛ぶ航空機すらも正確無比に打ち抜き、焼き尽くして撃墜するレーザーはガメラの身体を貫くことはかなわず、地面からの奇襲すらも即座に空中へと離脱、あるいは回転飛行で張り付いたBETAを無理矢理振り払うと言った行為で無力化されてしまう始末であり、今のBETAは目の前の怪獣に手も足も出ないような始末であった。

 そもそもBETAには戦術というものが無いわけではないのだ。地球に降り立ちカシュガルへとハイヴを築いたばかりの頃は、BETAには光線属種というものは存在せず、空からの攻撃への対処法は存在しなかった。だがそれは僅か二週間後、BETAを指揮する上位存在、重頭脳級によって既存の光線属種を改良して製造された光線級、重光線級の二種のBETAによりこの優位は覆されることとなった。圧倒的なまでの物量に加え、レーザーという絶対必中の対空兵器まで得てしまったBETAにより、瞬く間に人類は劣勢に陥る羽目となってしまったのだ。

 このあまりにも迅速としか言いようのない航空兵力の無力化の要因は、BETAが独自に持つ情報伝達能力、そして学習能力にあった。

 BETAがある対象と戦闘、BETAの言うところの災害、障害と遭遇し、その戦闘、戦術データをハイヴへと持ち帰った場合、そのデータはハイヴ内部の反応炉を介してオリジナルハイヴの重頭脳級へと送られる。重頭脳級はその『災害』のデータの整理及び対処法を分析したのちにそれを世界中のハイヴへと伝達する。それに要する時間は約19日、光線属種の製造による航空戦力の対処もまたこの手段で航空戦力への情報を得ていたが故であり、最悪人類の保持する兵力、兵器、戦術すらも学習してしまう可能性もあるのだ。

 現にBETA大戦初期にはただ単純に数でごり押していたものが、大戦中期には歩兵より高機動車、装甲車よりも戦車、さらに無人兵器では搭載コンピューターの機能がより高いモノをというふうに攻撃優先度をつけ始め、今では無人機よりも人間が搭乗する機体を優先し攻撃するようになっている。

 そして武がループする以前のこの世界では、横浜基地の動力源として利用されていた頭脳級BETA、所謂反応炉から入手した情報を元に、佐渡島ハイヴ攻略後の横浜基地防衛戦においてBETAは陽動、兵力の温存、死角からの奇襲といった明らかに戦術としか思えない行動をとり、仕舞には高性能爆弾S-11の起爆装置のみを正確に破壊するという今までの常識では考えられない行動をとるまでに“学習”していたのである。

 これこそがBETAが人類を圧倒し続ける要因であり、未だに人類がBETA相手に劣勢に立たされている要因である。未だに人類に対して戦術らしい戦術も使わず、数の暴力で押し続ける戦法に終始しているのはあくまで『今の人類』、あるいは地球上の生命相手にはこれで十分、あるいはコレが一番有効な戦術であると重頭脳級が判断しているからにすぎないのだ。

 だが、ならばこの状況は一体どういう事なのか。BETAは持てる手段の限りを尽くしてガメラを排除せんと挑みかかるも次々と潰され、灰にされ、あっという間に姿を消していく…。今のBETAはまるで燃え盛る火の海に次々と飛び込む蟲の集団、あるいは荒れ狂う大河に向けて突進するネズミの群れか何かのような様相である。

 これにはガメラの圧倒的戦闘能力と防御能力も勿論ではあるが、何よりも目の前の“災害”に対する情報整理、そして対処法の分析のための時間、そして情報量の不足があった。

 そもそもガメラの最初のハイヴ攻略戦、横浜ハイヴ殲滅戦ではガメラの手によりほぼ全てのBETAが根こそぎ滅ぼされ、重頭脳級はガメラに関する情報を殆ど得る事が出来なかった。

 そして何よりガメラの進撃速度はBETAの、重頭脳級の予想を遥かに超えていた。横浜ハイヴのBETA殲滅後は佐渡島ハイヴをBETAごと撃滅、さらにその二日後には鉄原、ブラゴエスチェンスクの二つのハイヴを立て続けに落とされ、さらにそれから二日も経たないうちに今度はウランバートルハイヴまで陥落させられそうになっている…。

 こうも立て続けにBETAとハイヴを破壊され、さらに送られてくるはずの情報もガメラが反応炉を粉微塵に破壊してしまうがために碌に入手できない。その上ガメラに対抗するための新型BETAの開発にもそれ相応の時間がかかりその間に次々とハイヴが陥落させられてしまう…。結局現状でBETAは持ちうる手段でガメラと戦う以外にはなかった。

 物量で押し、時には奇襲をかけ、目の前の障害を確実に討ち滅ぼさんと襲いくるBETA…、だが脆い、弱い、足りない…。目の前の障害を越えた天災…、地球そのものが産み出した守護神を排除するには、明らかにこの場に存在するBETAでは役者不足でしかなかったのだ…。

 

 『グルアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』

 

 咆哮と共に発射される地獄の炎、万物を焼き尽くすプラズマ火球がBETAの集団へと突き刺さり、爆発炎上する。

 大地に広がる炎がより拡大し、より広範囲の廃墟を、そこで這い回るBETAを焼き払い、大地を覆いし穢れを浄化していく。

 瞬時にハイヴ周囲の大地はガメラ以外の生命の棲まぬ焼け野原へと姿を変える。だが、その焼け野原へと再度ハイヴから、そして隣接するハイヴから進軍してきたのであろう増援のBETAが展開し、覆い尽くしていく。

 だがそれもまた、目の前の守護神、否、BETAにとっては破壊神ともいえる巨神の灼熱の吐息の前に灰と化し、跡形もなく消えていく運命にあったのだ。

 やがて地上のBETAの出現が途絶え、辺りは燃え盛る炎が弾ける音のみが響き渡る静寂の大地と化す。だが、ガメラの行動はまだ終わらない。

 

 『グルアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 高らかな咆哮と共に脚部からジェットを噴射して空へと舞い上がったガメラはウランバートルハイヴのモニュメントの中央に空いた穴めがけて急降下する。

 モニュメント上部には警護の為の光線属種が数十体も存在し、ガメラ目掛けてレーザーを乱射してくるものの、ガメラは意に介した様子もなく逆にお返しとばかりに放った火球で光線属種の群れをモニュメント諸共吹き飛ばす。

 光線属種ごと纏めて砕け散り、ポッカリと巨大な大穴を広げるモニュメント、その巨大な大穴に飛び込んだガメラは地の底めがけて落下しながら体内で生成したプラズマエネルギーを口内で吸入した酸素と合成、チャージをし始める。

 ハイヴの主縦坑を落下していくガメラ。やがて彼の巨大な両眼はハイヴの奥底、そこで青白く輝く巨岩のような物体、ハイヴの心臓部である反応炉を確認した。

そして、反応炉がガメラの視界に入った瞬間には既に、ガメラの口内のプラズマエネルギーは限界にまでチャージを完了していた。

 

『グルオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

咆哮と共に放たれた最大出力のプラズマ火球、ハイ・プラズマはまるで宇宙から落下する隕石の如くハイヴの奥底へと激突、反応炉を巻き込んで大爆発を引き起こしたのだ。

万象全てを焼き払う炎は反応炉が設置された大広間のみならず主縦坑から地上まで噴き上がり、まるで火山が爆発したかのような様相と化している。そして、モニュメント跡から噴き上がる炎と共に、大地に大きく口を空けた大穴から巨大な影が一つ飛び出してきた。

影の正体はガメラ。その身体からは膨大な炎を直に浴びた結果体中から煙が出ているものの、その身体には傷一つない。むしろ炎を浴びてより闘志が増しているかのようにその双眸は爛々と炎のように輝いている。

燃え上がるハイヴから100メートル上空に達したガメラは、ハイヴ諸共炎上するウランバートルの廃墟を睥睨し、高らかに空へ向けて勝利の咆哮を上げる。

 雷鳴の如き咆哮は炎上する大地から、モンゴルに広がる寒々しい荒野へと鳴り響いていく。それはまるで、かつてモンゴルの遊牧民達が信仰した蒼き狼の遠吠えの如きであった。

 

 

 1998年12月5日 H18 ウランバートルハイヴ、陥落。ブラゴエスチェンスクの陥落から僅か一日後の出来事であった。

 

 そしてガメラは、ウランバートルから西北へとジェットを吹かして飛び去っていく。

 目指す先にある目標は、H15 クラスノヤルスクハイヴ…。ハイヴの規模はフェイズ3・5。未だに4には達していないがそれでも今までガメラが殲滅したハイヴよりも規模が巨大であり、内部に存在するBETAの総数もまた、今までのハイヴを遥かに上回る。

 しかしそれでもガメラには緊張は無い、むしろ余裕と言ってもいいくらいであった。

 此処までハイヴを5つ、何の障害も困難も無く潰してのけた。いかに今までのハイヴより規模が大きいといえどもBETAに後れをとることは無いだろう…。ガメラの、シロガネタケルの心の中にはそんな考えがあった。

 油断、あるいは慢心…、それは命を掛ける戦場において抱くのは危険ともいえる思考ではあったが、今までのBETAであったならば、何万何十万来ようともガメラには傷一つ付けられず、少々慢心、油断があろうとも問題無くハイヴを叩き潰すこともできるだろう。それだけの力がガメラには、今のタケルにはあった。

 事実、ウランバートルと同じ状況であったのならば、クラスノヤルスクハイヴがどれほど巨大で、内包するBETAがどれほど莫大であろうとも難なく殲滅できたであろう。

 

 ………同じ状況であったのならば、の話であったが……。

 

 

 

 

 

 

 『……吹雪が吹いてきた、もうここはソ連領内、か…』

 

 地上から8000メートル以上の地点を飛行するガメラは吹き荒れる突風と風に混ざって飛んでくる雪、雹、霰をその巨体に浴びながらグルル…、と唸り声を上げる。

 クラスノヤルスクハイヴが存在するのはシベリア中部、極寒の地であるソ連領内である。無論ガメラはこの程度の寒さなど物ともしないし、いざ戦闘となってもコンディション的には問題は無いだろう。

 

 『…ま、いつも通りいくかな?』

 

 『そう連中を甘く見ない方が良いと思うが……』

 

 脳内にて楽観的な事を呟くガメラ、タケルに対してもう一つの言葉、本来のガメラであるオリジナルガメラは軽く嗜める。

 

 『……なんだよガメラ、さっきのハイヴだって存外簡単に潰せたし、この調子なら次も何とかなるんじゃないのか?』

 

 『そう願いたいが、な。君の記憶の中のBETAに関する情報を見たが、連中の学習能力は相当なものだ。確かにBETAは一匹残さず殲滅し、反応炉は横浜以外潰してはあるが、事ここに至っては連中も何らかの手を打ってくる可能性がある。あまり楽観はするべきじゃない』

 

 『……まあそうだけど、さ…………ってちょっと待て』

 

 半分聞き流していたタケルだったが、突如オリジナルガメラが呟いた一言を聞いた瞬間、彼の表情と口調が一変した。そしてタケルはオリジナルガメラへ向かって震える口調で恐る恐る問いかけた。

 

 『ガメラ、お前、俺の記憶を見たとか言ったよな…?って、言う事はだ、あ、あの記憶も見たのかよ…?』

 

 『あの記憶?あの記憶とはなんだ?』

 

 タケルの問い掛けにオリジナルガメラは本当に訳が分からなさそうな口調で逆に聞き返す。タケルは深々と溜息を吐きながらどう説明したものか分からずに口籠っている。

 

 『えっと……、その、だな…、俺が、純夏、冥夜達と……俺が居た世界とこの世界で、その、夜に、裸で抱き合って、だな………ああもう言わせんじゃねえ恥ずかしい!!』

 

 口に出すのも恥ずかしいのか全く要領を得ない単語の羅列の末についには逆切れしたのか絶叫まで張り上げるタケル、そんな彼の言葉を聞いたオリジナルガメラはグルル…と唸りながら何やら考えている様子だったが、ついにタケルの言いたいことが分かったのかポン、と手を叩いた。

 

 『夜?………ああ、生殖行為か、それなら君の記憶が流れ込んだ折にチラリと見たがそれがどうし……『何勝手に人の恥ずかしい記憶見てやがるんだ!!忘れろ!!あれに関しては絶対忘れろ!!そしてもう二度と見るな!!』…何を突然怒る。生殖行為は生物が子孫を残す為に行う当然の営み、特別恥ずかしがるものではあるまい?』

 

 『ぐう………』

 

 思い人達との初夜その他諸々の記憶を覗かれた事に激昂するタケルだったが、当のオリジナルガメラは何故己が怒鳴られたのか本気で分からない様子で、不思議そうにタケルへと問い返してくる。文字通り暖簾に腕押し、糠に釘な反応にタケルも押し黙ってしまう。

 

 『……そういやコイツ怪獣だった。だったら人間の持ってる羞恥心なんてまず持っちゃいないんだろうな…、下手したらプライバシーなんかも知らないんじゃあ……。……と、とにかくあの記憶は俺達人間にとっちゃ隠しておきたい記憶なの!!見られたら恥ずかしい物なの!!だから忘れろ!!そして二度と見るなお願いします!!』

 

 『???…ふむ、君がそう言うならばそうしよう。しかし人間とはおかしなものだ。他の生物が持ちえない多種多様な感情、前の世界でもそうだったが実に興味深い…』

 

 タケルの怒鳴り声に不思議そうに同意しながらブツブツと何やら呟くオリジナルガメラに、タケルはこれからの先行きに少々不安を感じ始めた。

 どうやらオリジナルガメラ本人からすれば悪気は無く、単にこの世界の情報、ハイヴ、BETAについてタケルの記憶を探って調べようとした程度なのだろうが、結果として己の情事の記憶まで覗かれたのだからいい気分ではない、というか己の記憶を勝手に覗き見られて喜ぶ奴等この世に居るはずがない。

 

 『ハイヴでの戦いが終わったら勝手に人の記憶見るなと釘刺しとかないと…』

 

 ガメラ、タケルは苦虫を噛み潰したかのような表情で飛行しながら心の中でそう決意するのだった。

 その後二人は一言も発せずに次なる目的地へ向けて飛行を続けていると、突然雲を切り裂いて無数の閃光がガメラに向かって突き刺さった。光線を照射されたガメラは眼球を動かして己の真下、地上の風景などなにも見通すことが出来ない暗雲へと視線を向ける。

 先程の光線、あれは間違いなく光線属種のレーザー照射であった。ならば此処は既に…。

 

 『タケル、無数のBETAの気配を感じる。ハイヴに到着したぞ』

 

 『…ようやくか。せめてBETAぶち殺してこのストレスを発散させるか…!!』

 

 オリジナルガメラの声を聞いた瞬間、タケル、ガメラの眼光が妖しく輝き、瞬時に地上めがけて急降下していく。

 重力とジェット噴射によって漆黒の暗雲と吹き荒れる豪風を引き裂いて、地上に降り注ぐ雪よりも早く大地へと落下していくガメラ。そのガメラを撃ち落とさんと地上の光線属種は何十何百ものレーザーの弾幕で迎え撃つ。

 一撃一撃が航空機を、降下する戦術機をも穿ち、貫き、撃ち抜く一撃必殺の死の閃光、それが弾幕の如く放たれるという悪夢の如き状況…。いかに精強で豪胆な衛士であろうとも確実に死を覚悟するであろう状況…。

 だが、ガメラの落下は止まらない。幾十幾百の光の槍を受けようともそれがどうしたと言わんばかりに意にも介さず大地目掛けて急降下していく。

 6000メートル、5000メートル、4000メートルと急激に降下していくガメラ、が、降下していくごとに彼へと突き刺さるレーザーの数は段々と増していく。だが、いかに戦術機を一撃で蒸発させるレーザーでも、強力な耐熱性をもつガメラの肉体は貫くどころか火傷一つ負わせることも出来ず、彼の進撃を止める事が出来ない。

そして、ついに高度3000メートルにまで到達、雲の壁を突破してようやく己の降り立つ大地の光景が視界に入る。

 そこは吹雪の吹き荒れる広大な銀世界。辺り一面が雪に埋もれた荒野であり、何処までも平坦な純白の世界が広がっている。

 その純白の世界を我が物顔で歩き回る大小様々な無数の異形、BETA。文字通り大地を埋め尽くさんばかりの膨大な数の侵略者の群れはこちらへ向けて降下してくる獲物を今か今かと待ち構えている。

 そしてその平坦な銀世界の中央に聳え立つ鈍く輝く金属でできているかのような歪な建造物。これこそがクラスノヤルスクハイヴのモニュメント。その高さは今まで攻略したハイヴのそれとは比較にならない程巨大であり、高さはおよそ150メートル以上にまで達している。

 一面に広がる下界の光景を睥睨したガメラは高らかな轟咆を張り上げながら、その耳まで裂けた巨大な口から火球を5発、眼下に広がる地獄へ向けて発射した。

5発の火球は寒々とした大地に広がるBETAの大軍勢に向けて落下、そして着弾と共に大爆発を起こし、雪と蟲のみの大地に5輪の大輪の紅い華を咲かせる。

 その光景を見たガメラは降下しながらさらにプラズマ火球を大地目掛けて乱射する。

ほぼ狙いも碌に付けずに発射される火球、だったが火球地上に展開された何万という数のBETAへと次々と着弾していき、数百ものBETAを消し炭へと変えていく。BETA側もそれに応戦するかのように光線属種が次々とレーザーで迎撃するものの、相も変わらず効果が無い。火球は大地に広がるBETAだけではなくBETAの居城たるハイヴモニュメントにまで降り注ぐ。モニュメントは火球が命中した瞬間に大爆発を起こして砕け散り、まるで金属のような光沢を放つ破片を火の粉と共に大地に撒き散らしていく。

 やがて、ガメラが地上へと降り立った時、地上の姿は一変していた。一面雪が降り積もった寒々しい銀世界は無数の炎が立ち上る灼熱地獄へと変貌し、そこを動きまわっていた何万ものBETAは一匹残らず灰となり、この世界に動くものは何一つとして見当たらない。

 地上に展開していたBETAは全滅した。だが、まだ終わってはいない。直ぐに地上の同胞が全滅したことを感知し、第二軍、第三軍のBETAが押し寄せてくるだろう。

だが恐れは無い。不安など微塵も感じない。ガメラには既にこの戦いの勝敗は見えている。いかに虫けらが何十何百群れようとも巨大な象を倒すことが出来ないように、BETAが何千何万集おうともガメラを倒すことなど出来はしない。

 ガメラの視線の先に立つハイヴのモニュメント、否、もはや火球で爆砕されて半壊し、もはやモニュメントとも呼べない有り様となった瓦礫の山、その真下に空いた穴から新たなBETAの軍勢が沸き出てくる。その見るもおぞましい、大抵の人間ならばパニックを起こすであろうその光景に、ガメラはまるで類稀なる御馳走を見つけた猛獣かのように牙を剥き出しながら歓喜の咆哮を張り上げる。

 

 これから始まるのは戦いではない。

 

 ただ一方的な虐殺だ。

 

 目の前に群がる虫けらどもを踏みつぶし、噛み砕き、引き裂き、焼き殺す…、血と炎の宴に過ぎない。

 

 さあ殺そう、その血を存分に啜りつくそう。

 

 その光景こそが、己の待ち望んだものだったのだから……!!

 

 『グルオオオオオオオオオアアアアアアアアオオオオオオオンンンンンン!!!』

 

 大地を揺るがす咆哮と共に放たれる一発の火球、それこそがこの北方の大地、クラスノヤルスクにおける殲滅戦の開始を告げる号砲となった…!!

 

 

 

 

 処変わって此処は国連軍横浜暫定基地モニタールーム。

 国連軍および帝国軍所有の軍事衛星によってガメラの動向を24時間監視し続けているそのモニターには、現在クラスノヤルスクハイヴにて戦闘中のガメラの姿が映し出されている。

 この場の職員は皆既にウランバートルハイヴの陥落も目の当たりにしている。故に皆次なるハイヴ、クラスノヤルスクが陥落するという事を信じて疑っていない。

 これまでもガメラは、硫黄島で覚醒してから現在まで何ら苦戦すること無くハイヴを5つ陥落させている。故に今回もそうなるだろう、確かに規模は今までのハイヴより巨大だがそれでもガメラなら陥落させてしまう事だろうと、この場に居る人間全員がそう考えていた。

 それは稀代の天才である物理学者、香月夕呼も同じである。無論少なからず不安要素は抱いてはいるものの、それを含めたとしてもガメラならば勝利できると確信を抱いていた。

 

 「……クラスノヤルスクハイヴからBETAの増援が出現!総数はおよそ10万以上と思われます!!」

 

 「いよいよ、ね」

 

 オペレーターの報告通りクラスノヤルスクの大地の彼方此方に空けられているハイヴへの出入り口から、まるで水が湧き出るかのように数え切れないほどのBETAの大軍勢が出現する。それを目視したガメラはまるでそれに歓喜するかのごとく雄叫びを上げ、夕呼もまた楽しそうな笑顔で唇を舐めた。

 これから始まる一方的なまでの虐殺劇、それを想像するだけでも夕呼は恍惚とした笑みを押さえる事が出来なかった。

 

 「んふふ♪明日の朝食はジンギスカンとボルシチになりそうねえ♪あの3人が喜ぶ顔が目に見えるようだわァ♪」

 

 「………」

 

 楽しそうな笑みを浮かべながらそんな事をのたまう夕呼を横目で眺めながら、横浜暫定基地司令にして彼女の上司であるラダビノッド司令はつい昨日多数寄せられた衛士及び基地スタッフの苦情を思い出しながら、彼女に気付かれないようにそっと溜息を吐いた。

 

 

 

 ガメラSIDE

 

 結局、戦いはウランバートルと同様一方的なまでの試合展開で進んだ。

 否、もはやこれは戦いと言っていいのかすらも分からない。むしろ一方的な大量虐殺と言った言葉のほうが適切のような気がしてならないだろう。

 BETAは必死にガメラに抗った。レーザーを撃ち、数に任せて突撃し、足元から奇襲をかける…、今持ちうるすべての手段を用いてガメラへと抗ったのだ。

 だがそれはすべて無駄に終わった。レーザーはガメラに傷を負わせること無く逆に熱を食料とするガメラのエネルギーとなり、数をそろえた突進もガメラのプラズマ火球、踏みつけ、尾の薙ぎ払いによって一掃され、奇襲は寸前で宙へと逃れられて失敗し、地上に出現したところをプラズマ火球で一網打尽にされる始末…。

 やがて地上は紅蓮に燃える炎の花が咲き誇る炎獄と化し、そこにはガメラ一頭のみが炎の海の中でまるで巌の如き巨体を晒していた。そこにはもうBETAは居ない。地上を這いまわっていたBETAも、その後次々と出現していたBETAも残らずこの炎の餌食となり、焼かれて灰と化している。

 立ち上がる炎は大地を覆い、降り注ぐ雪すらも地面に到達すること無く空中で次々と蒸発していく。炎に彩られた真紅の大地でガメラは高らかに勝利の咆哮を張り上げると、脚部を甲羅に引き込んで空高く飛翔する。

 そしてハイヴモニュメントの上部に穿たれた巨大な穴に向けて一気に降下してハイヴ内部へと侵入する。約1000メートルを越える深度の主縦坑を脚部のジェットを噴射しながら下降し、やがてハイヴの中枢、大広間の中央に鎮座する反応炉を発見した瞬間にガメラは反応炉めがけてハイ・プラズマを発射、ただの一撃で反応炉は砕け散り、大広間は地獄の炎に包まれる…。

 

 『グルアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオンンンンンン!!!!』

 

 灼熱の炎に包まれた大広間で、ガメラは高らかに咆哮を張り上げながらただ一人勝利に酔う。炎に包まれた命無き地の底の光景、今回を入れれば6度目にした光景に、ガメラはただただ酔っていた。

 だからだろうか、ガメラは気がつかなかった。

 

 今この場に近づいてくる巨大なソレの気配を…。

 

 

 

 『ふう…ようやく終わったな…。少々でかくなっても案外なんとかなるもんだな、ハイヴ攻略も』

 

 『基本的な戦い方は変わらないからな。奇襲を避け、火球と格闘戦で押しつぶす、これだけだ。所詮連中も圧倒的数と光線属種のレーザーに任せた物量作戦しか行えない。まあ君の記憶によれば学習能力もあるらしいが、な…』

 

 『ああ、純夏が調整された時に記憶を盗み見られて、な…。ってそういや00ユニットの問題点があったな…。どうやって伝えようか…』

 

 地の底に広がる灼熱地獄でガメラ、タケルはグルル…、と唸り声を上げて考え込む。

 前のループにおける横浜基地防衛戦、その時にBETAは陽動、戦力の温存と言った今までBETA大戦時には見られなかった行動を行い、挙句精密機器であるはずのS-11の起爆装置のみを破壊してのける芸当までやってのけた。

 これは00ユニット、鑑純夏の調整時に反応炉を通じてその記憶を読みとったからとされており、これをどうにかしない限りよしんば00ユニットが完成したとしてもさらに人類を窮地に追い込む結果になりかねない。とはいえ怪獣であるが故に人間との意思疎通はできず、唯一出来るとしたなら交信機であるオリハルコンの勾玉をもった“巫女”しかいないのだが…。

 

 『そんな人間が果たしている事か…。いるわけないよなあ…、ハア……』

 

 『…やはりその00ユニットとやらが完成する前に私達の手でオリジナルハイヴを殲滅するしかあるまい…。まあいい、今日はこれくらいにしてそろそろ帰還するとしよう。武、次は……』

 

 オリジナルガメラがタケルに帰還するよう提案した、その時……。

 

 『!?』

 

 『な、なんだこの揺れは!?』

 

 突如として大広間全体に激震が走った。まるで局地的に大地震が起きたかのような超振動、ガメラはあまりにも突然の事に動けずに首と視線を巡らすしかなかった。

 驚くべきことはそれだけではない、その振動は段々と、ガメラのいる大広間へ向かって接近して来ているのだ。

 段々と炎の渦巻く大広間へと接近しつつある震源、ガメラは息をのんで大広間で待ち構える。そして……。

 

 炎に包まれた大広間の岩壁をぶち抜き、それは姿を現した。

 

 それはさながら人間がトンネルを掘る際に使用する掘削用ドリル、あるいはバフンウニの口に良く似た形状の巨大な円形の物体であった。それは、間違いなく何らかの生物の頭部、あるいは口とでも言うべき部位だった。

 だが、驚くべきことはそれではない。信じられないのはその大きさだ。その巨大な口は目測でも約170メートル、ガメラの裕に二倍以上はある。頭部の、あるいは身体の直径のみでこれ程の巨大さを誇る生物などこの地球上の歴史でも存在しえないだろう。

 これが身体の一部位とするならば、全長は一体どれほどになるだろうか…。数百メートル、あるいは一キロメートルを越えるかもしれない…。

 そんな人智を越えた超巨大生物がハイヴの大広間をぶち破り、まるでガメラが子が目に見えるほどの巨体を震わせながら、大広間へと姿を現した。目測で一キロメートルを越えるであろうその芋虫の如き形状の巨体は、大広間中に広がる炎をものともせずにガメラを見降ろしている。

 ガメラは、否、タケルはその超巨大生物を知っていた。だからこそ彼は驚愕していた。何故、何故奴が此処に…!!今の今まで姿形も見せなかったというのに…!!

 タケルがこの怪物を目撃したのは二度、一度目のループではBETAの集団との戦いの最中に、二度目のループでは桜花作戦の時、中枢へと向かう途中で何の前触れも無く出現した。

 恐らくこの世界の人類すべてがこの怪物を知らないだろう。これこそが地面の遥か底で無数のBETAを運搬し、BETAの進撃の要ともなっているという事を……。

 これこそが直径176メートル、全長約1800メートルという規格外の巨体を誇る全BETA中史上最大のBETA…。

 

 

 

 母艦級の威容であった。

 

 母艦級という名称はタケルがループした桜花作戦以降に命名された名称、故にタケルはその名前を知らず、ただ単に未確認大型種BETAとしか呼ぶしかない。

 しかし名前がどうであれこのBETAが規格外の巨体を誇る事、そしてその体内に無数のBETAを搭載しているには変わりない。

 突然の母艦級の出現、あまりに予想外の事態にガメラは少なからず動揺していた。

 …しかし、それも僅かな間であった。

 

 『グルルアアアアアアアアアオオオオオオオオオンンンンンン!!!!!』

 

 一転してまるでその巨体に挑みかかるかのように高らかに勇ましき咆哮を張り上げるガメラ。確かに相手は己より遥かに巨大、大きさも、純粋な力の差も歴然だろう。

 だがそれがどうした?高々その程度で戦意を喪失してこの先BETAと戦っていけるのか?

 この化け物は恐らく他にも、オリジナルハイヴにすらも存在するかもしれない。ならばコイツ一頭ごときに怯んでいるようでは、到底オリジナルハイヴを落とすことなど叶わない。

 ならば奴は此処で叩き潰す…!!これから先に進むためにも…!!

 ガメラの咆哮を合図としたかのように、母艦級はその巨体からは想像もできない速度でガメラめがけて突進してくる。瞬時にジェット噴射で回避したガメラは瞬時にその巨大な芋虫の如き巨体へとプラズマ火球を三発叩きこむ。

 万物を瞬時に燃焼させる火球は逸れる事無く母艦級へと命中、爆発炎上する。

 ……だが、母艦級は死なない、確かに命中した箇所は炎上し、肉は爆発によって抉れているもののまるで何事も無かったかのようにその巨体を蠢かしている。

 

 “……やっぱり肉の厚さが桁違い、か…”

 

 ガメラ、タケルはプラズマ火球に耐えきった母艦級に驚いた様子も無く空を飛びながらその巨体をじっと観察する。

 母艦級の体表を覆う表皮の硬度は要塞級すらも遥かに凌ぎ、大和級戦艦の主砲にすら耐えきる程の耐久力を有している。それ以上にその巨体に比例して硬質な表皮の内側には分厚い肉の層が連なっているため、例え表皮を突破しても内臓部までダメージが届かず、致命傷を与える事が出来ないのだ。

 ガメラもその巨体から高々火球2、3発程度では沈まないとは予想しては居たが、まさか何事も無かったかのように動き回るとは思いもしなかった。

 こうなってしまってはまともにダメージを与えるにはハイ・プラズマの一撃か、あるいは……。

 そんなことをガメラが考えていると突然母艦級が地面に穴を掘って潜り始める。その巨大な頭部が文字通り削岩機の役割を果たしてその巨体を瞬時に地面へと沈めていく。

 ガメラは瞬時に火球を母艦級めがけて叩きこむものの、やはり母艦級は意にも介さず、その1800メートルの巨体はあっという間に地面の底へと消えていった。

 

 『グルルルルル……』

 

 逃げたのか、と大広間中へと視線を巡らせるガメラ。だが、母艦級が地底を移動する巨大な振動は遠ざかる気配を見せず、その気配は地面の底から段々と上の層に向かって登っていく。巨体に反して驚くべき移動速度、恐らくこれが今の今まで母艦級が発見されることのなかった理由なのだろう。

 と、何かに気がついたガメラは瞬時に天井へと視線を向ける。だがその瞬間、ガメラの頭上の天井が割れ、そこから母艦級の巨大な頭部が何の前触れも無く飛び出してきた。その削岩機を思わせる巨大な口に無数についている牙はギチギチと蠢いて今にもガメラを噛み砕こうとしているかのようである。万が一にもその牙に触れようものならいかに強固なガメラの甲羅でもひとたまりもないであろう。

 ガメラは脚部のジェットを噴射して急いでその場から逃れ、炎が燃え盛る大地へと不時着する。目標を失った母艦級はそのまま地面に向かって突進、再び大地を抉りぬきながらその身を地中へと埋めていった。

 凄まじい潜行速度と言わざるを得ない。これでは人間が長年発見することが出来ないはずだ。もしかしたらこの地球上には母艦級以外にも人類が観測できていないBETAが存在するのかもしれない。

 ……あまり考えたくない事ではあるが。だが今はそんなことよりもこの化け物を何とかしなくてはならない。

 母艦級が地面を侵攻する時、決まって周囲に地震が発生する。どうやって己の居場所を感知しているかは分からないがこちらの居場所は奴に判明しているとみて間違いは無いだろう。

 ……ならば、次に出現するのは……。

 

 『グルオオオオオオオオアアアアアアアア!!!』

 

 今己の立つ地面から飛翔し、その巨体を宙へと踊らせるガメラ。と、同時にガメラの立っていた大地が陥没し、そこから母艦級の巨体が飛び出してくる。またも獲物を逃した母艦級はその巨大な胴体を蠢めかせて円筒状の頭部を振り回している。

 それをチャンスと見たガメラは母艦級の巨大な頭部、そして削岩機の如き口へ向けてプラズマ火球を2発連続で発射した。いかに強硬な外皮で覆われようとも頭部ならば幾分か脆いはず…!!そう判断しての攻撃であった。

 火球は頭部、そして口へと命中した。流石の母艦級も口に火球を叩きつけられて平気と言う訳にもいかず、名状しがたい絶叫を張り上げながら身体をくねらせている。

 チャンスとばかりにガメラは母艦級へと襲いかかる、が、直ぐに地面へと潜って姿をかくしてしまう。

 ガメラはいらただしげに唸り声を上げる。二つのハイヴの殲滅と数十万ものBETAとの戦闘で、今の己の体力は限界に近付いている。プラズマ火球も後何発撃てるか分からない。だが、こうも地面に隠れられ続けたら攻撃もできずどうしようもない。

 ……こうなれば、とガメラは決意すると飛行状態でその場に待機し、ジッと何かを待ち始める。

 すると数秒後、突如ガメラの真下の地面が爆音と共に破砕し、母艦級の巨大な顎がガメラを食いちぎらんと襲いかかってきた。見ると母艦級の口は先程の火球で大きく抉られ、肉は焦げ、歯は砕け散り、一部は炭化しているところもある。

 その恨みを晴らさんとばかりに巨体を躍らせこちらへと襲いかかる母艦級、だがガメラはその巨体の届かない高さにまで身体を上昇させて突進を回避する。

 母艦級は巨体がガメラに届かないと見るや、再度地底へと身体を沈め、その巨体を移動させ始める。今度はガメラに届く範囲から攻撃を仕掛けようというのだろうか。

 

 “……それでいい”

 

 ガメラは母艦級の巨体が地面に消えるのを見届けるとハイヴの主縦坑から出口に向けて一気に飛翔する。母艦級が移動する振動もまた、ガメラを追いかけるかのように主縦坑を登っていく。

 これこそがガメラの狙い。外皮の硬度以前に相手は地底を潜行して攻撃することを得意としている。元々攻撃の為の能力ではないのだろうが、いずれにしても地面に潜られてはこちらの攻撃が相手に命中することは無い。

 ならば一度奴を地面から引きずり出して、そこを叩く。幸いこちらの攻撃が全く通用しないわけではない。だから地上で戦えば少なからず有利になるはず…!!ガメラ、タケルは脳裏でそんな予測を立てながら地上へ向けて飛翔し続ける。

 やがてモニュメントの残骸にぽっかりと空いた巨大な穴からガメラは再度地上へと飛び出した。相も変わらず炎の立ち上る焼け野原の大地に、ガメラはゆっくりと脚をつける。

 重々しい地響きと共に地面に足をつけたガメラは己の飛び出してきたハイヴモニュメントへと鋭い視線を向けた。…瞬間、周囲に地震の如き揺れと地響きが響き渡り、ガメラのすぐ傍の地面がまるで薄氷が砕けたかのようにひび割れ、そして爆発するかのように粉微塵に砕け散り、そこから母艦級が、まるで天に上る竜か何かの如くに姿を現した。

 

 『グルオオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!!』

 

 姿を現した巨蟲へと高らかな咆哮を張り上げるガメラ、と、母艦級は今度はガメラに突進するのでもなく、その削岩機の如き巨大な口を大きく開いて、そこから一本一本がガメラの巨体すらも貫きかねない程巨大な牙が並んだ円筒形の第二の口を出現させた。

 

 『……!?』

 

 突然の母艦級の行動に一瞬驚くガメラであったが次の瞬間その表情はさらなる驚愕に染められる事となる。母艦級の口内から何千、何万ものBETAがまるで蟻のように這い出てきたのである。それも小型種、光線属種だけではない。突撃級、要撃級、そして巨大な要塞級までもが混ざっている。それを見たガメラは心の中で悪態をついた。

 

 “……そうだった、こいつは腹の中にBETAを大量に飼って居やがるんだった…!!”

 

 母艦級の本来の役割は地底を掘り進んで別地点へとBETAを輸送すること。大深度地下でのBETA侵攻にはこの超巨大なBETAが関わっており、体内に無数のBETAを収納できるのもこの役割故である。

 通常ならば何千何万ものBETAもものともしないガメラ、だが、今は状況が悪い。

 普通のBETAだけならともかくその背後には規格外の巨体の母艦級が控えている。いかにBETAが味方を攻撃しない性質とはいえ、これだけの巨体を誇っているのなら下手をしたら多少の犠牲を無視してでもこちらを攻撃しかねない…。

 そうこうしているうちにBETAの集団がこちらめがけて津波の如く押し寄せてくる。流石にこれ程の数を地上で相手にしてはいられずガメラは空高くへと飛翔して逃れる。

 空へと逃げたガメラへ向けて光線属種のレーザーが襲いかかるが元々通用しないためにガメラはそれを無視、むしろ火球のエネルギー補給の為に積極的に命中していく。

 

 『グルオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

 高らかな咆哮と共に地上めがけて火球を乱射するガメラ。光線属種以外に対空攻撃手段をもたないBETAは無抵抗のままにガメラの火球の爆撃を受け粉微塵に吹き飛ばされていく。だがBETAの群れは絶えない。次から次へと母艦級の口からBETAが吐き出されて中々数が減る様子が無い。

 一方の母艦級はBETAを吐きだすのみで何もする様子が無い。これはそれ以外に何もする気が無いのか、それともガメラが疲れて地上に降りてくるのを待っているのか…。

 どちらにせよこのままではジリ貪で体力を無駄に消耗するだけだ。母艦級本体を叩こうにも一発二発のプラズマ火球ではどうしようもない。……ならば、とれる一手は一つ。

 

 “一か八か、だ―!!”

 

 ガメラは咆哮を張り上げながら急降下、群がるBETAを風圧とジェット噴射で振り払いながら口を大きく開けている母艦級へと一直線に向かっていく。

 一方の母艦級はもうこれ以上BETAを吐きだす必要は無いと判断したのか外へと突き出した第二口を体内に引っ込めてその巨大な口を閉じようとする。それを視認したガメラは脚部のジェットを最大限の出力にまで高めて閉じられようとしている母艦級の口へと突進し……、

 

 

 

 そのままその体内へと飛び込んだ。

 

 攻撃すべき目標が母艦級の体内へと飲み込まれ、母艦級から吐き出されたBETAの集団は攻撃目標を失って行動を停止した。ガメラを飲み込んだ母艦級もまた何をするでもなく動作を停止している。が、直ぐに別の場所に移動しようと再びその巨大な顎で地面を掘削し始めようとした。が、その時……。

 

 『■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!???????』

 

 突如己の体内から発生した耐えがたいまでの激痛に母艦級は身を捩じらせた。

 まるで体内で幾つもの火薬が爆発しているかのような激痛に、母艦級はその巨体をのたうちまわらせて暴れまわる。その巨体に巻き込まれ、周囲に群がっていたBETAが次々と押しつぶされて圧死していくが母艦級はそれに気づいていないのかあるいはそれを気にする余裕がないのか絶叫を張り上げながら大地を転げまわる。

 母艦級の激痛の源、それは体内に呑みこまれたガメラであった。

 母艦級の体内に侵入したガメラはその瞬間に母艦級の体内でプラズマ火球を乱射し始めたのだ。いかに体表が硬かろうとも体内まで硬い生物など存在するはずがない、身体の外が駄目なら内側から喰い破るまで…!!その結果は見ての通り、母艦級は文字通り体内の虫けらによって身体を内から焼かれて何の抵抗も出来ずに悶え苦しむ事しか出来ない。巨大な芋虫の如き巨体は炎で焙られた大地の上をただひたすらのたうち回り、己の体内を焼き尽くす激痛をどうにか紛らわせようとするが、それも長くは続かなかった。

 母艦級の身体の中央部、そこが凄まじい轟音と共に大爆発を起こしたのだ。母艦級は断末魔の絶叫と共に真ん中から胴体を真っ二つに引き裂かれ、絶命した。そして噴き上がる爆炎から飛び出す影が一つ…。

 

 『グルオオオオオオオオオオアアアアアアアアア!!!!』

 

 高らかに勝利の咆哮を上げながら天空高く舞い上がるガメラ、だが、いつまでも母艦級を葬った余韻に浸っては居られない。ガメラの眼光は、大地を這い回る虫けらへと向けられている。

 ガメラの攻撃と母艦級が暴れまわった余波で相当数のBETAが死んでいるとはいえ、未だに大地には数万ものBETAが生き残っている。これを野放しにはしておけない。

 放っておけばまた別の地でハイヴを建設させられるかもしれないし、何よりオリジナルハイヴに情報を送られても面倒なことになる。

 ……連中はここで一気に殲滅する。ガメラの口から火の粉が溢れる。

 

 この瞬間、この大地を再度埋め尽くしていたBETAの運命は決定した。

 

 ただ守護神の暴威の前に蹂躙されるという運命が……。

 

 

 

 1998年12月6日 H15クラスノヤルスクハイヴ、陥落

 

 同時にハイヴにて新種の超大型BETA出現、ガメラによって殲滅されたこの個体は、後に“母艦級”と命名。

 また、ガメラはハイヴおよび母艦級撃滅の後に日本海沖に向かって飛行、その後海底に没し消息不明となる。

 

 




 実際桜花作戦はともかく前のループ、TDAで武が母艦級のことを知っていたかどうかは、正直分かりません…。おそらく資料とかそういうので知る機会はあったのでしょうけど…。なんせTDA本編やったことがないもので…。
 それにしても柴犬がついにゲーム化されるそうですね…。巷じゃあTEに登場したテロ組織指導者の正体がテオドールなんじゃないかって噂がささやかれているんですけど、実際のところどうなんでしょうね…。最終巻の内容見ると指導者にならなさそうに見えるんですが…。

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