Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 少々短いですがプロローグその2、投稿しました。次回から本編です。


プロローグ2 予兆

 これは、本来ある歴史とは全く別の道を辿った世界…。

 

 冷戦時代にアメリカと肩を並べたソ連が未だに存在し、敗戦によって崩壊した大日本帝国が日本帝国と名を変えて今なお存続し続けているという、本来の歴史と少し違う世界で…。

 

 この世界は今、死の危機に瀕していた。それもこの星のモノではない、BETAという外からの侵略者たちによって…。

 

 1967年、月面サクラボスコで確認された人類に攻撃的な地球外生命体BETAは、1973年にカシュガルへと降り立ち、瞬く間にユーラシア大陸を蹂躙、そして1998年には海を隔てた日本へと上陸し、西日本を壊滅させたうえで佐渡島と横浜にBETAの巣窟たる『ハイヴ』を建設、日本帝国も今や危急存亡の時を迎えていた。

 圧倒的物量を誇るBETAの目的は、地球に存在する資源の強奪。地球のありとあらゆる土地を蹂躙し、生物を殺し、そして手に入れた資源をハイヴへと持ち帰り新たなBETAを作り出す…、その繰り返しだ。

 無論、人類もただ手をこまねいているわけではない。対BETA戦用に開発された新兵器、『戦術機』を用いて迫りくるBETAの軍勢を迎撃していた。

 だが、BETAの圧倒的物量、光線級と呼ばれるBETAの登場による制空権の喪失、そして世界各国が連携出来ず、互いに足をひっぱい合いながらバラバラでBETAとの戦争に突入した結果、人類軍は次々と敗北、多くの国々が国土を失い、多くの民が故郷を奪われ、難民として残された国へと散っていった。 

 そしてBETAは悠々と世界中を蹂躙し、遂にはユーラシア本土に20を超えるハイヴが建設されるに至ってしまった。

宇宙からの侵略者とのいつ終わるとも知らぬ泥沼の戦い…、それは未だ終わることなく世界中で繰り広げられていた…。

 

 

 

 

 1998年、太平洋沖…。

 

 戦火に包まれBETAに蹂躙されつつある大地とは異なり、海はいつもと変わらず静かな水面を湛えている。今のところ海上、海中を移動する事が可能なBETAが殆ど存在しないが故であろう。BETAは地中深くを潜行して大陸間を移動するが故、今のところ海洋はBETAの手付かずの領域なのである。あくまで、『今のところは』であるが…。

 既に太陽は沈み、空は夜の帳が下ろされて同じく海も墨汁を垂らしたかのような漆黒に染め上げられている。

 その漆黒に染められた海の底、光届かぬ深海で、巨大な影がゆっくりと動いていた。

 巨大な影は長年の堆積物とサンゴに覆われ、一見すると海に転がっている岩石の一つにしか見えない。

 だが、普通の岩石とは違い、その巨大な岩石は何と動いていた。それも潮流や海流に流されて動いているのではなく、それにすら逆らってさながら一つの巨大な生き物であるかのようにゆっくりゆっくりと移動していたのだ。

 本来ならばあり得ない。岩石が、まるで自分の意思を持っているかのように動く事など。この光景を見た者は誰であろうと唖然とするであろう

 だが、凄まじい水圧から生身の人間では来る事も適わないこの深海では、それを見咎めるのは深い海の底を泳ぎ回る異形の深海魚しかいない。そして、深海魚達もまた移動する岩石を意にも介さず悠々と闇の世界を泳ぎ回っている。

 岩石はそのまま海の底をゆっくりと移動し、やがて段々と海面に向けて浮上し始めた。

 

 

 

 

 

 

 日本帝国最南端に位置する島、硫黄島。太平洋戦争戦時中、日本軍と米軍との激戦が繰り広げられた南端の島。今ではすっかり戦争の傷跡は無くなったものの、日本帝国南方の防衛線という事でこの島には帝国軍の駐屯地がおかれ、軍事関係者以外の人間は許可なく立ち入ることは禁じられており、それは帝国本土にBETAが上陸した今も変わってはいない。

 帝国本土にハイヴが建設され、帝国陸軍、海軍共にBETAとの戦いで四苦八苦している中、この硫黄島駐屯地は今のところBETAの侵攻は無い。とはいえ何時敵の侵攻があるかも分からず、駐屯する軍は気を緩ませること無く周囲の海域の監視に専念している。

 

 その硫黄島駐屯地の通信室にて、若い駐屯兵、米森良成大尉は壮年の佐官の男、上司である本郷圭介と共にいた。巡視船、あるいは本土からの通信を受け取る、あるいは通信を送る中継としての任務である

 米森は通信装置の前に座りながら何をするでもなく、本郷は通信室の窓からまるで墨を垂らしたかのように漆黒に染まった海を眺めている。

 

 「巡視船のじまはそろそろ戻る頃か…。やれやれこんなご時世だからかもしれないが、どうにも心配で眼が冴えてしまうよ」

 

 現在硫黄島周辺の領海警備の為、駐屯地の保有する巡視船の一隻、のじまが出向している。何事もなければもう既に領海警備を終えて駐屯地への帰還の途についている頃であろう。が、BETAが跋扈するこの時代、『何事も無く』などという事はほぼあり得ないと考えた方がいい。いつどこで何と遭遇するのか分かったものではないのだから…。

 

 「仕方がありませんよ。今や帝国本土はBETAに侵攻されて風前の灯、いつ滅亡するか………あ」

 

 うっかりと口を滑らしてしまった米森は慌てて口を閉じる。が、本郷は特に起こった様子も無くクックッと可笑しげに笑い声を洩らすだけであった。

 この硫黄島駐屯地ならばまだこの程度のセリフは悪い冗談で済むだろうが、コレが万が一本国、それも帝都辺りで呟こうものなら冗談抜きで命に関わる。

 何しろ帝都にて征夷大将軍の警護を任されている『斯衛隊』、そして帝都守護を任されている『帝都防衛第一師団』は世界トップクラスの衛士を抱える歴戦の部隊、それゆえにプライドも他の部隊と比べて抜きんでて高い。こんな不謹慎なセリフが彼等の耳に入ろうものなら良くて独房入り悪ければそのまま刀の錆になるであろう。

 

 「す、すみません少佐…、不謹慎なことを…」

 

 「構わんよ、聞かなかった事にしておこう。君の気持もよく分かる。私とて度々祖国が滅亡するんじゃないかと考えてしまう事がある。船に乗る時、執務している時、食事している時、果ては寝ている時に夢にまで見る位だ。だから君の事も責められんよ」

 

 「……はい」

 

 部下の失言を笑って許す本郷。実際彼も米森の気持ちが分からないわけではなかった。否、むしろ痛いほど分かる。

 己の生まれ故郷である四国は既にBETAに蹂躙され、あの頃の面影は既に残っていないだろう。僅か一年足らずに日本の約半分を蹂躙しつくした奴らを、あと何年、否、何カ月抑えていられるか…。しかも帝都は横浜ハイヴの目と鼻の先…、誰だって暗欝な気分になるであろう。

 

 「まあ本土では謹んでくれよ?流石に斯衛の連中の前で口走りでもしたら庇いきれ……」

 

 そこまで本郷が呟いた瞬間、突如通信機のブザーがけたたましくなり始める。何事かと思い顔を見合わせる本郷と米森。だが、そのまま放っておくわけにもいかずに米森は通信機を取り上げる。

 

 「こちら硫黄島駐屯地。一体何事か?」

 

 『……緊急回線!!こ、こちら巡視船のじま!!のじま座礁!!』

 

 「なっ、ざ、座礁だと!?一体どうしたんだ!!何処かの陸地にでも近付いたのか!!」

 

 無線から漏れる声に思わず怒号を上げてしまう米森。背後で眺めていた本郷は何事かと米森を見てくるがそんな事に構っている暇は米森には無かった。

 

 『いえ!海上を航行中に突然船底に衝撃が走り、確認したところ何かに乗り上げてしまったようなのです!!』

 

 「馬鹿な!!今太平洋沖を航行しているはずだろう!!水深何千メートルあると思っているんだ!!何処に座礁するようなモノがある!!」

 

 『し、しかし現に…!!現在機関を停止して被害状況を確認中!!』

 

 「………」

 

 米森は何と答えたらいいのか分からずに困惑してしまう。

 現在『のじま』が航行しているのは水深が3000メートルはあるであろう大洋のど真ん中、いかに硫黄島に帰還の途についているとは言っても乗り上げるような岩場や陸地があるはずがない。

 そんな場所で船舶が座礁など、今の今まで聞いた事がない。

 呆然とする米森に対し、本郷は彼から無線機を奪い取ると落ち着いた口調で代わりに通信する。

 

 「乗組員への被害は?」

 

 『現在調査中です!原因が分かり次第直ぐに報告を送ります!!』

 

 「了解した。もしも被害の状況が分かったならばすぐに連絡を。直ぐに救援を送る」

 

 無線が切れると同時に本郷は無線を戻す。その隣で米森は足で地面を鳴らしながら独り言を呟いていた。

 

 「何処かの潜水艦か…?いや、まさか新種のBETAが…」

 

 日本帝国には、数はそこまで多くないとはいえ海軍は潜水艦を保有している。日本以外にもアメリカ、ソ連、欧州連合と言った各国も少なからず潜水艦は保持している。その潜水艦が誤って巡視船の船底に激突した、という可能性も無いわけではない。

 だが、他国の潜水艦が領海内に潜入したと言う報告は受けておらず、たとえ本国の潜水艦が軍事訓練で潜水艦を出していたとしてもこの硫黄島駐屯地に報告が来ないはずがない。

 ならば海中でも行動できる新種のBETAか?とも考える。BETAの学習能力を考えれば海中を移動できる個体を生み出してしまうことも造作も無いだろう。それが『のじま』に激突したということも考えられないわけではないが…。

 

 「米森君、確かにその可能性が無いわけではないが…。何故BETAは此処に出現したかが不明だ。BETAは現在ユーラシア大陸を中心に活動している。わざわざ迂回して此処まで来る理由がない」

 

 そうBETAは今ユーラシア、そして日本本国に置いて活動している。仮にBETAだとするのならそのBETAが何故わざわざ日本を迂回するルートを通って遠く離れた硫黄島近海に現れたのか、それが今一つ不明瞭でならない。

 現に日本本国にBETAが攻め寄せた折も朝鮮半島から九州へと地下から侵攻するルートを取っている。わざわざ泳いで硫黄島を攻める理由はない。

 米森が頭を悩ませていると、再び無線機が鳴りだした。米森は考え事は後回しにして無線機を鷲掴みにして耳に当てる。案の定と言うべきかのじまからの連絡であった。

 

 『こちら巡視船のじま!!座礁の原因が判明しました!!どうやら暗礁に乗り上げてしまった模様です!!』

 

 「暗礁だと?……止むを得ん、そのまま待機。直ぐに救援を送る」

 

 米森は隣に立つ本郷に一度目配せをすると無線で『のじま』に素早く指示を送る。無線が切れると米森は軽く溜息を吐いて本郷へと振り向いた。本郷の表情も先程より少し和らいでいる。

 

 「暗礁、か…。どうやら潜水艦とかではなかったようだ。それは何よりというべきかな」

 

 「とはいえ座礁している事に変わりはありません。至急救援の船を送りましょう。帰還も停止していますからその場から動くことも無いでしょうし」

 

 米森は直ぐに通信機で現在硫黄島に常駐する巡視船乗組員へとのじま救出の指令を飛ばす。こんな真夜中に起こされる連中からすれば迷惑極まりないだろうが、これも緊急事態だから我慢してもらうしかない。米森は指令を飛ばし終えると通信機から口を離す。

 

 「それにしても、暗礁に乗り上げるとはな…。普通乗り上げる前にソナーとかで気付きそうなものなのだが…」

 

 「夜の航海ですから寝ぼけていたんですよ、きっと。こんな真っ暗じゃあ海の中の暗礁があっても気付きませんって」

 

 「ふむ、そうか…」

 

 本郷が何処か納得いかなさそうに一言呟いた瞬間、再び通信機が鳴り始めた。先程通信が来てから20分も経過していない。何事かと顔を見合わせる米森と本郷だが、やむを得ず再び通信機を取る。

 

 「…こちら硫黄島駐屯地……」

 

 『こ、こちら巡視船のじま!!突如船が暗礁から動いて離脱!!』

 

 「何!?」

 

 突然の寝耳に水な言葉にのんきに構えていた米森はギョッとする。

 

 「動いただと!?機関を全て停止していたんじゃなかったのか!!だったら何故船が動く!!」

 

 『そ、それが……、なんといいますか…』

 

 怒鳴り声を上げる米森に対して無線の向こう側の相手はまるでどう話したらいいか分からないと言った口調で中々返事をしようとしない。それは言い訳を考えていると言うよりも、あまりにも予想外の事態に遭遇してしまい、どう説明していいやら分からない、とでも言いたげな様子であった。

 

 「なんだ、言いたい事があるならはっきりと言ったらどうだ!!」

 

 いい加減苛立ってきた米森は通信機目がけて怒鳴りつけた。その剣幕に流石に通信機の向こう側の相手も根負けしたのか一度溜息を吐いた後にようやく返事を返す。

 

 『その……暗礁の方から勝手に動いていってしまったような、その…』

 

 「………なんだと?」

 

 あまりにも突拍子の無い言葉に、米森は呆気にとられてしまう。隣で聞いていた本郷も訳が分からないと言いたげな顔をしていた。

 ポカンとしている米森の姿に流石に見ていられなくなったのか本郷は彼から再び通信機を拝借すると、おずおずと言った様子で向こう側の相手へと問いかける。

 

 「……すまない久保君、君はさっき、暗礁が動いた、とか言わなかったかね?」

 

 『は、はい。確かに、確かに暗礁が動いたんです。そして、私どもの船からゆっくり離れて………進路を北、硫黄島へと向かっている模様なのです』

 

 「………」

 

 もはや何と返事していいか分からず、本郷は無線機を持った腕をだらりと下げる。無線機からはまだ何やら声が聞こえるものの、そんな物は今更本郷にも、そして米森にも届いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 そして、その『暗礁』はひたすら動き、移動し続ける。ゆっくりと、しかし確かに…。

 ただひたすら硫黄島を、その先にある日本帝国本島へと向けて…。

 

 

 

 




 ちなみに今回出てきたオリジナルキャラは、わかると思いますが二人とも「ガメラ 大怪獣空中決戦」に出てきたキャラ、および演じている俳優さんの名前からとりました。
 というよりマブラヴ世界の日本にそもそも海上保安庁なんてあったかどうかすらもわからない、というよりない可能性のほうが高いため二人とも硫黄島駐屯地勤務としました。
 次回はようやく武ちゃんとガメラが出てきます!更新こうご期待!…とはいってもいつ更新できるかわかりませんが…。

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