Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

28 / 43
 今回題名にエピローグ、とか出しちゃってますけれどもまだ作品は続きます。間違えないように言っておきますが。
 まだ終わったりは致しませんよ?いうなれば物語の第一章のエピローグっていう具合で…。
 


エピローグ 舞台は移り…

 

 その瞬間のモニタールームはまるで時間が静止したかのような静けさであった。いつもならばガメラによるハイヴ殲滅が完了した瞬間、スタッフ一同歓声を上げるなり万歳三唱するなりして大いに賑わうであろう瞬間、普段ならばスタッフのそのような態度を窘めるなり眉根をひそめるであろうラダビノッド司令もまたそれを黙認し、夕呼は炎上するハイヴを見ながら悦に浸る……、それが常日頃この場における日常的な光景であったはず。

 だが今回は違う、その場にいた全員がモニターを、そこで起きている光景を見て愕然とし、声も出せず指一本動かす事も出来ずにいたのだ。それはラダビノッド司令、夕呼、そしてこの場に招かれている武と純夏もまた同じであった。

 否、ただ一人武はわずかに他とは違う表情を浮かべている。そこに浮かんでいるのは恐怖、あるいは怯え。まるで己の記憶の奥に刻まれた恐怖、その記憶にある光景を現実に見ているかのように怯えた表情で体をわずかに震わせていたのだ。

 遡る事僅か10数分ほど前、ガメラは相も変わらずマシュハドハイヴからわきだす無尽蔵ともいえるBETAを次から次へと蹴散らし続けていた、が、いい加減にうっとおしくなってきたのか、あるいは早急に決着をつけるためかガメラは突如空中へと飛翔してハイヴモニュメントを破壊、その内部へと飛び込んだ。

 恐らくはハイヴ最深部に存在する反応炉を破壊するつもりなのだろう、これで此処も攻略か…、モニタールームのスタッフ全員にそんな空気が広がる。

 その瞬間だった。スタッフの一人がハイヴめがけて高速で落下する二つの物体を発見、不審に思いながらもラダビノッド司令と夕呼へと報告しようとした、が……。

 突然空から降下した二つの物体がハイヴの十数メートル上空で突如として炸裂、幕臣地点から巨大なフィールドが半円状に広がっていき大地を、そしてそこを這う残存したBETAを次々と飲み込んでいく。フィールドに飲み込まれたBETAは一瞬のうちに、それこそまるで最初からそこに存在しなかったかのように消滅していく。それは爆発した物体の真下にあったモニュメントも例外ではなく、まるで砂上の楼閣か、はたまた蜃気楼のごとく微小な粒子と化して消滅していく…。

 やがてフィールドが半径10㎞にまで達した瞬間、フィールドは突如として消失、マシュハドハイヴが存在していたそこは、見渡す限りの荒野、文字通り生物や植物どころかBETAすらも存在しない荒野へと変貌していた。ただ、ハイヴが存在した名残りとして、地面に転々と空いた穴と、その何倍もの大きさを誇る巨大な空洞のみがそこに残されているのみであった。

 あまりにも突然の出来事にモニタールームの空気は凍りついた。が、数秒後、モニタールームは一瞬でハチの巣をつついたような騒ぎとなった。

 

 「お、おい!!一体何が起きたって言うんだ!!

 

 「わ、私にも分かりませんよそんなの!!ただ突然降ってきた落下物が爆発して…」

 

 「そんなことは分かってる!!聞きたいのはその落下物が何なのかとガメラがどうなったかってことだ!!」

 

 「そんなことまだ調べてないんだから知りようも無いじゃないですか!!」

 

室内ではそのような言葉が飛び交い、モニタールームは混乱の極みに達していた。それは無理もあるまい。ガメラによるハイヴ陥落が確実かと思った矢先に突如として空から降下してきた爆弾、らしき物体が炸裂、そのまま地上のBETAをハイヴモニュメントもろとも消滅させた…、瓢箪から駒、等というレベルでは無い。

あの爆弾らしき降下物体は何なのか、もしも仮にあれが兵器とするなら一体何なのか、そして爆弾直下にいたであろうガメラは一体どうなったのか…、等々の言動があちこちで飛び交っている。

 

「静粛に!!諸君、落ち着け!!このようなときこそ冷静さを保ち事にあたれ!!まずは現在のマシュハドハイヴ周辺の状況確認だ!!急げ!!」

 

大声が飛び交うモニタールームにラダビノッド司令の怒鳴り声が木霊する。このまま騒いでいても埒が明かない、まずは一体何が起きたのか、あの爆弾らしきものが落ちた爆心地がどうなっているのかの情報をかき集めるのが先決だ、ラダビノッド司令はそう判断してスタッフへと大声で指示を飛ばす。最初うろたえていたオペレーター達もやがて僅かながら冷静さを取り戻して手元の端末へと向かい始める。それ以外のスタッフも急いで己の持ち場へと戻り始めていた。

騒ぎが収まり、ラダビノッド司令は安堵の溜息を吐きだした。そんなラダビノッド司令を冷やかすかのように夕呼は軽く口笛を吹く。

 

「流石は司令、お見事な手腕ですわ」

 

「この程度で見事といわれてもな。それはそうと香月博士、まさかと思うがあれは…」

 

「ええ、間違いなくG弾でしょうね」

 

夕呼は瞬時に表情を引き締めると、モニターへと鋭い視線を向ける。まるで己の長年の怨敵を睨みつけるかのように…。

 

G弾、正式名称五次元効果爆弾。BETA由来の元素であるG元素、その一種であるグレイ・イレブンを燃料として稼働する重力制御機関、ムアコック・レヒテ機関を利用した新型の爆弾であり、ムアコック・レヒテ機関内のグレイ・イレブンをあえて制御させずに暴走させることによって核兵器以上の破壊力を誇る兵器として運用する思想の下に製造された兵器、いうなれば制御装置が存在しない簡易ムアコック・レヒテ機関とも言うべき代物である。

ムアコック・レヒテ機関の臨界制御解放後、爆心地を中心に多重乱数重力効果域、すなわちラザフォード場はグレイ・イレブン反応消失まで展開を続ける。このラザフォード場の境界面に接触した物体は重力変差によってスパゲッティ化を引き起こし、崩壊する。それだけではなくラザフォード場内部ではナノレベルで重力が無秩序な方向に同時発生、ありとあらゆる質量を持つ物体は原子・分子レベルで壊滅、分解されてしまう。

しかもラザフォード場はG弾降下と同時に展開されるため、光線属種のレーザーによる迎撃すらも寄せ付けない。まさに迎撃不可能といってもいい兵器であるのだ。

最もいい点ばかりではなく、G弾を投下された被爆跡地では半永久的な重力異常が発生し、植生の回復する事のない不毛の大地と化すという欠点もあり、さらにG弾をもしも複数使用した場合には地球環境、否、地球そのものにいかなる影響を及ぼすか分からない。

元々この兵器はアサバスカに降下したBETAの落着ユニットを殲滅した際にその残骸から入手したG元素を用いてアメリカがムアコック・レヒテ機関開発の技術をスピンオフした結果の産物であり、アメリカが推進しようとしているオルタネイティヴ5、それはこのG弾を用いた地球上の全ハイヴ殲滅計画である。

当然夕呼とラダビノッド司令もそれについては承知している。無論G弾の性能とリスクについても全てではないにしろ大まかな事は知っている。だからこそオルタネイティヴ5は危険であると判断しており、オルタネイティヴ4を推し進めているのだが。

先程モニター越しに映されたエフェクト、あれがもしもG弾によるものだとすれば…。

 

「……アメリカめ…、一体何が目的で…」

 

「そこまでは何とも…、とはいえ、おおよその予想はつきますが」

 

隣で目を見開いてモニターを凝視する武へとチラリと視線を向けながら、夕呼はポツリと呟いた。

鎧衣から入手した『明星作戦』の概要書、そして今回のG弾投下、それから察するにアメリカがマシュハドへとG弾を投下した理由は恐らく二つ。

G弾の威力実験、そしてガメラの排除であろう。

元来は日本の横浜、あるいは佐渡島に投下するはずだったG弾であったがその二つは既にガメラによって殲滅されている。それだけではなくこの短期間の間に東ユーラシアのハイヴは全てガメラによって殲滅させられてしまっているのだ。このままではガメラによって全てのハイヴは殲滅され、G弾の実験どころかG弾の存在理由そのものが失われかねない。元々G弾はハイヴを殲滅するための決戦兵器という触れ込みで開発されたものの、その威力と汚染のリスクを一部では危険視されていた。もしもガメラによってハイヴ全てを破壊されようものなら、アメリカどころか世界中で『G弾脅威論』、あるいは『G弾不要論』が巻き起こりかねない。

そうなればオルタネイティヴ5は事実上凍結、廃案とされることは間違いない。一部の反オルタネイティヴ4派にとってはオルタネイティヴ4自体も廃案になる可能性があるため痛くもかゆくもないかもしれないが、アメリカのオルタネイティヴ5推進派からすれば痛いなどというレベルでは済まない。

こうなったら残された手は一つ、G弾の実験にかこつけてガメラを消してしまうことだ。

無論他国に通告も無しでG弾を使った以上何らかの批難やらを受ける可能性は無きにしも非ず、むしろガメラによる本土回復を期待していたであろう欧州連合やソ連からは非難轟々となるであろうがそんなものはG弾で脅しつけてしまえばどうとでもなる。

ガメラさえ居なくなればオルタネイティヴ計画が廃止される恐れは無くなり、今のところ完成の目処が立たないオルタネイティヴ4への牽制にもつながる、まさにオルタネイティヴ5からすれば一石二鳥にもなる話なのだ。

 

 「てなところでしょうよ、ねえ、白銀?」

 

 「……」

 

 「た、武ちゃん?」

 

 話を振られた武は、何も答えずにモニターに広がる一面の荒野を睨みつける。

 それはまさしく己が夢で観たもの、オルタネイティヴ5が実行され、世界が大変動を起こして崩壊した世界、そこに広がる光景にひどく酷似していた。

 そして目にしたG弾の炸裂する光景、それはあの時の、移民船が宇宙へ飛び立ち人類がBETAと最後の戦いを挑む時の光景を思い出させて…。

 唇を血が滲むほど噛みしめ、武は反射的に夕呼へと視線を向ける。

 

 「……副司令、ガメラは!?ガメラはどうなって…」

 

 掴みかかろうとするかのように夕呼へ詰め寄る武、そんな彼を夕呼は無言で制しながら夕呼は視線を武からモニターへと戻す。

 

 「…まだ分からないわ。でもG弾は質量のある物質であれば何であれナノレベルにまで破壊する現状存在しうる兵器の中でもトップクラスともいうべき破壊力を持ち合わせている。普通に考えたらたとえガメラでも生きてはいない、そう考えるでしょうね…」

 

 「……!!そ、それじゃあ…」

 

 「でもね」

 

 武の叫びを遮りながら、夕呼は再び武へと顔を向ける。その表情は自信に満ちた、そしてどことなく武を安心させるかのような微笑みが浮かんでいる。

 

 「あの怪獣が、ただでさえ非常識の塊であるあの怪獣が高々BETAの技術使って造っただけの爆弾二発で死ぬと思うかしら?10のハイヴを二週間足らずで薙ぎ払ったあの化け物がそんな程度でくたばるタマかしら?私はあえてノー、というわ。

 あんな程度でガメラは死なない、必ず生きているに違いない、少なくても私はそう信じている、それだけは言っておくわ」

 

 「副司令…」「副司令さん…」

 

 「だから、アンタ達も信じなさいな。仮にも天才だ何だと持て囃された私が言う言葉よ?いくらかは信憑性があるでしょ?」

 

 「…はい」「そう、ですよね…。ガメラさんは、そう簡単に負けたりしないですもんね!」

 

 二人の反応に夕呼は満足げに「そうそう、それでいいのよ」と笑顔で返すと、先程とは表情を一変、獲物を品定めする肉食獣か何かのような凄惨な表情を浮かべながらモニターの、正確にはモニターの横に映された世界地図へと視線を向ける。彼女の視線が向けられる先はBETA大戦ぼっ発以降、一度たりともBETAの進行を受けなかった大陸、そしてG弾の製造国であり、今回の事件の黒幕である超大国、アメリカ合衆国…。

 

 「にしてもまあ、アメリカさんも随分と余計な事をしてくれたものねぇ…。はてさてこれから連中はどう動く事か…」

 

 「恐らくは我々への牽制だろうな。まあ最初は他国からの批判の牽制だろうが……、此処まで大規模なデモンストレーションをしたのだ、あしらうことも難儀ではあるまい」

 

 ラダビノッド司令の言葉に、夕呼も黙って頷いた。BETAの居城であるハイヴを殲滅した兵器、それだけでも十分であろうがそこにガメラすらも屠った兵器という箔が付いたのならば、よしんばソ連や欧州連合が非難を浴びせてきたとしても黙らせることが可能であろう。それどころか上手くいけば今のオルタネイティブ計画を強引に第五計画に移行する事も出来るかもしれない。空想的な絵にかいた餅である00ユニットよりも現実に威力を示したG弾を選ぶであろう……、少なくともアメリカはそう考えているようだ。

 

 「…随分と能天気な事、もう既に第四計画は始まっているっていうのに、ですよね司令?」

 

 「うむ、今は天狗になっているだろうがもし知ったらどういう顔をする事、か…、最も知らせる気はないがな」

 

 「ええ、精々私の楽しみを台無しにしてくれた落し前は、たっぷりとつけさせてもらいますわ♪フフフフフフフ…」

 

 まさに魔女といった表情で笑う夕呼、そんな彼女を横目で見ながらラダビノッド司令は、今回に限ってはアメリカに対して全く同情の念を抱かなかった。

 そもそも魔女の逆鱗に触れたのはアメリカ自身、それに、己の故郷を救ってくれた恩人を害され、ラダビノッド司令の腸もまた盛大に煮えくり返っていたのだから…。

 

 

 合衆国SIDE

 

 「それで、作戦の結果はどうなった?簡潔にでいい、説明を」

 

 此処はアメリカ中央情報局、通称CIAのバージニア州マクレーンに置かれた本部。アメリカ合衆国が対外諜報戦の為に設けた情報機関であり、オルタネイティヴ第四計画に対する予備計画、オルタネイティヴ5その急進派の中枢とも言える場所。

 そこのとある一室にてCIA局員の報告を促す一人の男、CIA現長官にしてオルタネイティヴ5急進派の代表、ジョージ・J・ケーシー長官は眼前に立つ部下へと発言を促すような視線を送っている。まだ若さの残る局員は長官の視線にうろたえながらも粛々と言葉を紡ぎ始める。

 

 「…マシュハドハイヴはモニュメントは消滅、地上に展開していたBETAは全滅、ハイヴ内部、及び地下へと潜っていたBETAに関してはいまだ不明ですが恐らく全滅したものかと…」

 

 「そうか。……ガメラの方はどうなった?」

 

 局員はケーシー長官の口から放たれた言葉に一瞬迷うかのように口ごもったが、直ぐに恐る恐るといった様子で返答を返す。

 

 「が、ガメラに関してましては現状不明とのことです。遺体どころか血液等の痕跡も未発見ですが脱出した様子も無いことからG弾の影響で消滅したものかと…」

 

 「フム、まあいいだろう。大体は成功、というわけか…」

 

 部下の報告にケーシー長官は特に喜んだ様子も気分を害した様子もなく平静な態度で返す。まるでこの結果そのものが予期できたものであるとでもいうかのような態度であった。

 

 「ですが、マシュハドハイヴ周辺にはG弾の影響と思われる深刻な重力変差が起きているとか…。マシュハドハイヴ中心から数十キロの植生はほぼ全滅、半永久的に死の土地となる、と予想されています」

 

 「そうか……、やはりまだ試作品、未だに改良の余地は多く残されている、か…」

 

 部下が付け加えた言葉に長官はあごに手を当てて考える。

 G元素は未知の元素、研究はある程度進んではいるもののそれでもまだ未知の部分は多い。今回の投下実験で示されたG弾のリスクも既に開発段階である程度は推測できていたものではあったが、未だに有効な解決策は練れずにいる。

 今回の投下実験ではそれが如実に示された。これをどうにかしない限り反対派の意見も完全には抑え込めまい、ケーシー長官はそう考える。

 

 「とにかく、G弾をあのまま使用するのはいささか問題があるかと…」

 

 「分かっている。エリア51の連中には私から念を押しておく。どれだけ金がかかってもかまわんからG弾をより安全性の高い兵器とするように、とな」

 

 「ハ、ですがG元素は未だに未知の部分が多い物質、果たして改良がどこまで成し得るか…」

 

 部下の自信なさげな言動に、長官はわずかに眉をひそめるが、何も言わずに聞き流す。表向きではあるがG弾は核兵器とは違い“クリーンな”兵器という題目で通している。故に完全にとはいかないまでもリスクは減らしておくに越したことは無い。最も上層部の連中は恐らくそんなものに構わず量産しろなどと無茶を言ってくるのだろうが。

 

 「で、マシュハドハイヴの反応炉は?」

 

 「それが……ガメラが死に際に発射した火球によって反応炉は破壊され、G元素に関しましてももはや残さず焼き払われているものと…」

 

 「…まあいい。所詮はついでだ。始めから期待はしていなかった」

 

 そこまで部下への質問を終えたケーシー長官は背もたれにもたれながら軽く溜息を吐いた。そこには目的を果たした、やるべき事をなしたという達成感は無い。元より己はオルタネイティヴ5派ではあるもののあくまで優先すべきはアメリカの国益と人類の勝利、G弾はその手段でしかないのだ。

 現状横浜で進められているオルタネイティヴ4に関する情報はそこまで入ってきてはいない。今のところあの女狐は理論の実証と00ユニットの開発までには至っていないようである。無論それが全て真実だと鵜呑みにする気は毛頭ないし、監視と情報収集は継続しているが…。

 何にせよこれで国際世論の一部はオルタネイティヴ5へと靡くことになるだろう。いまだ実現の見通しの立たない第四計画よりも、確かな実証を出した第五計画を推進するべきだという人間も少なからず出てくる事は間違いない。もはやガメラが消えた以上再び人類の勝利の為にはオルタネイティヴ計画を進める以外術は無くなった。

 全ては思い通りに進んでいる…、その筈だというのに…。

 

 (何故だ…、何故胸騒ぎがする…。まるで、引いてはいけない引き金を引いてしまったかのような…)

 

 ケーシー長官の心の奥では、何故か妙な不安がわき上がっていた。それはずっと前から、あの時ガメラに対してG弾を使うと決定を下した時からずっと胸の奥でくすぶり続けていたものであり、例えるならば開けてはならないパンドラの箱を開いてしまったかのような、そんな不安感が常々彼を苛んでいたのだ。

 

 「…長官?」

 

 「…なんでもない、報告ご苦労だった。下がっていい」

 

 僅かに頭痛を覚えて頭を押さえる上司に部下は心配そうに声をかける、が、ケーシー長官は素っ気なく返答を返して部下に部屋から出るように命じる。

 部下が出て行き一人きりになった部屋で、長官は軽く眼がしらを揉む。何が何なのかは分からない、だが、既に賽は投げられた。投げられてしまったのだ。

 故にもう後には引けない、このまま我々は進むしかないのだ。長官は己自身にそう言い聞かせる。

 

 

 

 後に、己のその決意を、文字通り死ぬほど後悔することになるとは知らずに…。

 

 

 

 己の下した決断が、己の為した事実が、己の祖国を、国民を存亡の窮地にまで経たせることになろうとは、彼はこの時、考えもしなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある時代、その一地方にて……。

 

 「……あ、流れ星…」

 

 雪に覆われた銀世界で、一人のまだ幼げな少女が夜空に輝く一筋のそれを見つける。流れる星を見た少女は反射的に両手を組んで、祈りを捧げる。空に輝くその星に、願いを込めて…。

 

 「……お父さんが、無事でありますように…、お仕事がうまくいきますように…」

 

 少女は真摯な祈りを捧げる…。その祈りが届かないものであると、心の中では知りながら……。

 

 

 

 

 そして、空から流れ落ちた星は、ある大地へと落ちる。流れ星の落ちた場所、そこに、“彼”は立っていた。

 全身に傷を負い、生々しい緑色の血でその巨体を濡らしながらも、荒涼とした吹雪の吹きすさぶ大地にかの守護神は立っていた。

 

 『グルアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオンンンンンン!!!』

 

 何の因果か、いかなる運命の悪戯か、“彼”は別なる時へと送られていた。今までいた場所とは異なる世界、異なる空気…。だが、それでも彼は感じていた…。元いた世界で幾度たりとも打倒した“奴ら”の気配を…。

 

 “BETA……!!”

 

 此処がいかなる場所であれ、BETAは屠る、そうせねばならない…!!

 

 過去の世界へ降り立った守護神、ガメラはこの世界にて初めて、宣戦布告の咆哮を張り上げた。

 

 荒涼とした大地をガメラは歩を進める。目指す場所はこの大地より北…。

 

 

 H5 ミンスクハイヴ……。

 

 

 1978年、己の居た世界よりも過去の大地にて、ガメラは行動を開始した…。

 

 

 

 そして、そこから離れた地、未だにBETAの支配の及ばぬ大地、ガメラの降臨に呼応するかのように、永き眠りについていた “何か”が目覚めようとしていた―。

 

 

 

 ガメラの降臨と“それ”の復活…、それらが一体この世界に何をもたらすのか…。知る者は今、この時代には存在しない…。

 




 とりあえずようやく序章は終幕…。本当は9月かそこらに終わらせる予定だったんですけど結構長引いてしまいました。本当は全七章+外伝で予定してたんですけれどもこれでは終わるのはいつになることか…。
 次回は舞台を移します。どこかは……、まあ描写を見れば分かる人は分かりますよね…?
 ただガメラが暴れまくったバタフライエフェクトで色々と本来の流れとは違う方向に行く可能性がありますが、そこはご了承あれ。

 次回は第二章……、ではなくガメラ3のその後、ガメラとギャオスの戦いとかについて自分のオリジナルの話でも書いてみようかな、なんて考えていたりしています。新章は年明けてからになりそう…。
 
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。