Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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皆様、あけましておめでとうございます。新年いかがお過ごしでしょうか?
今回は武ちゃんとガメラの顔合わせ(?)になります。…精神内で、ですけど。


第一章 守護神降臨
第1話 邂逅


 

 「………ちゃ~ん!!起きてる~!?武ちゃ~ん!!起こしに来たよ~!!」

 

 (なんだやかましいな…。この声、純夏か?ったくヒトがゆっくり寝てるってのに…)

 

 外から響いてくる怒鳴り声とチャイムに強制的に目覚めさせられた白銀武は、億劫そうに薄く瞼を開いた。

 開かれた目に飛び込んでくるのは良く見知った自分の部屋の天井、そして窓から漏れてくる眩い日光。武は寝起きには眩しすぎる日光を避けるため、自分の顔まで布団をかぶる。

 

 「ちょっと~!!聞こえてるの武ちゃ~ん!!返事くらいしてよ~!!」

 

 「うるっせえなあ…。こんな朝っぱらからギャースカ騒ぎやがって…。ご近所の人達が迷惑すっだろうが…」

 

 外から鳴り響く怒声に武は布団の中で文句を言う。どうもあの幼馴染は無駄に世話焼きな所があり毎朝毎朝通い妻の如く自宅まで自分を起こしに来るのだ。お隣同士で距離も全くと言っていいほど離れていないとは言っても、こう毎日起こされ二来るのも段々と鬱陶しくなってくる。もう自分は子供ではないのだからもう起こしに来るな!とは何度も純夏に言ってはいるのだが本人が全く持って聞こうとはしない。仕方無くもう純夏には来るに任せる結果となり、今ではすっかり日常の一部となってしまっている。

 だが、今日は何故かやけに純夏の声とチャイムの音を懐かしく感じてしまう。まるで何年もの間聞いていないかのようで…、それに、純夏の声を聞いていると胸の奥から何か熱いものが沸き上がってくるような感覚を覚える…。

 なんだこりゃ…。武は心の中で首を傾げながらもしっかりと頭まで布団の中に隠れる。

 

 「うぬ~!!こうなったら最終手段!!武ちゃんのお母さんから貰った鍵で強行突破~!!」

 

 「だ~か~ら~もっと声のボリューム下げやがれっての…。つーかお袋、何でよりによってあいつに合い鍵渡しちまったんだ…」

 

 うつらうつらと再び眠気を覚える脳裏で己の母親へと文句を呟きながら武は再び目を閉じる。『早く孫の顔が見たいわ♪』等と寝言をほざいた揚句に『もう未来の奥さんのようなものだから♪』等とまたまた寝言をほざいて純夏に合い鍵を渡して下さりやがった両親にほんの少しばかり恨み事をこぼす。

 どの道ドアには“アレ”がしてある。“アレ”でしばらくは時間が稼げるはずだからその間に…。

 

 「…んがー!!鍵を開けたと思ったらドアにチェーンがー!!くのっ、くのおおおおお!!!」

 

 (クックック~♪純夏さん甘いですよ?僕が何度も何度も同じ手を食うとでも思ったのですか?)

 

 こんなこともあろうかと昨日突貫工事でドアにチェーンをつけて二重ロックにしておいたのだ。いかに怪力馬鹿な幼馴染とはいえアレを破壊するのには骨が折れるはずだ。

 外から聞こえる絶叫と打撃音からしてどうやら純夏はドアをこじ開けるのに必死になっているようだ。やれやれこの隙に二度寝を…。

 

 ふにっ。

 

 (…ん?何だこの柔らかいのは?)

 

 寝がえりをうった武の腕に何か柔らかい物体が触れた。羽毛入りクッションよりも柔らかいそれの感触に、武は不思議に思いながら両手で2、3度その物体を握る。

 

 ふにっ、ふにふにっ。

 

 「ん…あ……や……」

 

 と、武の頭上から音、というよりも何か人の喘ぎ声がその柔らかい物体を触るたびに聞こえてくる。だがこの部屋に居る人間は自分だけ、気のせいかと断定してそのまま柔らかい物体を握り続ける、と…。

 

 「た…、武…、やあ……お願い、だから…、胸は……」

 

 「………へ?」

 

 突然己の名を呼ばれ、武はポカンとした表情で視線を僅かに上にあげる。

 彼の視線の先にあったのは、凛とした美しい女性の顔であった。頬はうっすらと赤らんでおり、透き通った宝石のような美しい瞳は少し潤んでいる。

 

 「……え?……え!?」

 

 連れ込んだ覚えも招いた覚えも無い女性の姿にますます訳が分からなくなった武は恐る恐る視線をゆっくり下ろして己の両手が掴んでいるモノを視認する。

 武の視線の先にあったのは、武の両手が掴んでいたのは、何故か白い着物一着を着ている女性の胸部、己の幼馴染のモノとは比べ物にならない程豊かに大きく育った胸…。

 

 「………」

 

 「武……、わ、私も女性であるから…、羞恥心はある…。そ、そなたが求めてくれるのは嬉しいが…」

 

 顔を羞恥心で真っ赤にし、武から顔を逸らしてゴニョゴニョと蚊が泣くような声で何かを呟く謎の女性…。朝目が覚めたら目の前で寝ていた見ず知らずの女性…、今現在目の前で起こっている訳の分からない状況に寝ぼけていた武の意識は完全に覚醒し、頭は混乱したまま何も言えずに目の前の女性を凝視していた。

 

 (……て、あれ?何でだ?俺、この人の事を知っているような…)

 

 だが、目の前の女性を見ていると、武は何故か彼女の事を知っているような気がしてきた。それも一度か二度すれ違ったと言うような感覚ではなく、ずっと一緒に過ごしてきたような、そしてとても親密だったと言うような記憶と感覚を覚えたのだ。

 武は女性をジッと見つめながら、知らず知らずのうちに涙を流し始めた。

 彼女の姿を見て感じる懐かしさと、嬉しさに…。

 突如涙を流し始める武に、女性は驚いて目を見開いた。

 

 「武?」

 

 「…えっと、その、貴女は…」

 

 「突破~!!チェーンぶちぎって侵入成功!!武ちゃーん!!起こしに来たよー!!」

 

 武が女性の名前を聞こうとした瞬間、二人の間を漂う空気をぶち壊すような大声が響き渡り、間髪入れずにドタドタと廊下を走る音が響き渡る。そしてその音は、間違いなく武の部屋へと向かって来ている。

 その足音に武は蒼褪める。間違いなく純夏はここに来る。それも数秒もしないうちに。そして、部屋に飛び込んできた純夏はこの光景を見たら何と思うだろう。

 

 見ず知らずの着物姿の美人の両胸を鷲掴みにする武…。どうみても不純異性交遊です、本当にありがとうございました。

 

 「…じゃなくて!!す、すみませんけど一度布団の中に隠れてくれませんか!?ちょっとばかしやばいことになりまし…」

 

 「やっほー!!おっはよー!!武ちゃん起きてるー!?」

 

 「……遅かったー!!てかはええ!!玄関から部屋到着まで早すぎるわお前!!」

 

 取りあえず布団の中に隠れててもらおうと説得しようとすると同時にドアが勢いよく開かれ、満面の笑顔を浮かべた純夏が部屋へと飛び込んできた。チェーンぶち破ってから二階の部屋へとほぼ一瞬で到達した幼馴染に武は今の状況も一瞬忘れて大声で突っ込みを入れる。そんな武の突っ込みに対して純夏はそのあまり膨らんでいない胸を張って自慢げに鼻息を鳴らした。

 

 「ふっふ~ん!あんなチェーンなんかで私を追い出そうとしても無駄なんだから!それはともかく武ちゃん起きてたんだ!!じゃあ早く着替え……て………」

 

 と、純夏の笑顔が一瞬で硬直した。ようやく目の前に広がるいつもと違う朝の情景に気が付いたのだろう。

 ベッドに横たわる幼馴染、その側で寝転がっているのは見知らぬ女性、顔は美人、そして胸は自分よりずっと大きい。そしてその大きな胸を……

 

 

 

 ………自分の幼馴染の両手は鷲掴みにしていた。

 

 プッツーン!!

 

 瞬間、純夏の中で何かが切れた…!!

 

 「た・け・る・ちゃ・ん!?」

 

 「い、いやいやいやいや!!!純夏違うんだこの人は…」

 

 「……武、わ、私達はまだ未成年故に…、いや、もうそなたとは結婚できる故問題無い、か…?」

 

 「って何言ってるんですか冥夜ァ!!……て、え……?」

 

 的外れなことを言う謎の女性につっこみを入れようとした瞬間、武は無意識に呼んだ『冥夜』という名前に呆然としてしまった。

 目の前の女性とは初対面のはずだ、精々あったとしても街で一瞥したとかすれ違ったとかその程度のはず、名前なんて絶対知らないはずだ。それなのになんで…。

 

 「俺、何で……」

 

 「武、そなた、私の名を……」

 

 驚くのは武に『冥夜』と呼ばれた女性も同じであった。とはいってもこちらは武と違って見ず知らずの人間に自分の名前を呼ばれた事ではなく、遠い昔に分かれた親しい友人、あるいは恋人が自分の名前を忘れずにいた事への少なからぬ歓喜を秘めていた。

 武の目の前で双眸を潤ませる『冥夜』という名前の女性、何故か知っていた彼女の名前、何故か彼女へと覚える恋慕の想いに武は彼女の顔から眼を離せず、すぐ傍でこちらを見ているであろう純夏も忘れて彼女とジッと見つめ合っていた。

 一方、すっかり忘れ去られた鑑純夏は、目の前で不埒なことをした挙句に今はキス出来そうな距離で見ず知らずの女と何やら語り合う幼馴染の姿をガン見させられた結果、怒りのボルテージが急上昇して背後では不動明王様の後光の如き憤怒のオーラが燃え上がっていた。

 

 「……ふ~ん、そっかあ、もう名前も呼びあう程親密になってるんだァ…、それでいっしょにお布団入って…、あ・ま・つ・さ・え!!不純異性行為なんてェええええええ!!!!」

 

 「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 圧倒的プレッシャー、そして灼熱のマグマの如き怒りのオーラに武は目の前の女性を忘れて震えあがった。純夏は怒りと嫉妬で目に灼熱の炎を燃やし、額に無数の青筋を立てながら指をボキボキと鳴らしている……。間違いない、完全にブチ切れている…。長年彼女とすごし、幾度となく彼女の逆鱗に触れまくって空へと吹き飛ばされてきた武にはそれが嫌というほど分かった。

 そして今の彼女の怒りは臨界点MAX!!某怪獣王で例えるのならメルトダウン寸前とでも言ってもいい極限のレベルで危険極まりない(主に武にとって)状態なのだ!!

 これは早く怒りを鎮静化させないと冗談抜きで殺されかねない…。身の危険を察知した武は慌てて純夏への説得を開始する。

 

 「お、おおおおお落ち着け純夏!!コレは全くの誤解、全くの誤解で…」

 

 「武…!私は嬉しいぞ!!やはりそなたと私は絶対運命によって結ばれているのだ!!」

 

 「ちょ、ちょおおおおお何誤解させること言ってるんですかって胸が!!なにか物凄く柔らかい素晴らしい感触が腕にィィィィィィ!!」

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!」

 

 「ギャアアアアアアアア!!!もう人間の言葉すら話してねェええええ!!!!」

 

 目の前でいちゃつく二人の姿に遂に純夏の怒りが天元突破する。咆哮しながら謎のオーラを放つその姿はさながら某大猿に変身して怒ると金髪に染まってかめはめ波ぶっ放す野菜人かそれとも星一個軽々ブッ飛ばせる宇宙の帝王の最終形態か……。

 

 「も、もう駄目だ…、おしまいだあ……」

 

 腕に美女が抱きついて、しかも二の腕は美女の胸にサンドされている……そんな男にとって至福の時とも言える状況にもかかわらず、武は目の前に立つ大魔神と化した純夏の姿にガタガタ震えていた。ついでに軽く絶望していた。ああ…俺はここで死ぬんだな、と…。

 

 「ど~り~る~み~る~き~い~……」

 

 「ちょ、ちょっと待て純夏!!は、話せばわか……」

 

 「オラオラぱああああああああんちいいいいいい!!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラアアアアアアア!!!!」

 

「ジョジョオオオオオオオオ!!!!」

 

ただの一撃で武を宙へと吹き飛ばす一撃…、それを一秒間に1000発叩き込まれた武は絶叫と共に屋根を突き破り、雲を突き抜け、遂に大気圏外まで吹き飛ばされたのだった……。

 

 

「ジョジョオオオオオオオオオオ……って、あれ?」

 

絶叫を上げながら武は飛び上がる……ように跳ね起きた。どうやら先程純夏に吹き飛ばされたのはただの夢だったようで、何とか大気圏突破せずに生きているようである。

 

「……はあ~、ゆ、夢かあ~…。な、なんだよ驚かせやがって…。何で俺夢の中でまでどりるみるきいぱんち喰らわにゃならねえんだよ…。死にかけるのはもう沢山だっての…」

 

ただでさえ何度もBETAに殺されそうになったりあるいは殺されてループしたりと散々な目にあったのだから……と、そこまで呟いた瞬間、武はハッとした表情で周囲を見回した。

 

「……って、ココ何処!?俺確か元の世界に戻ってループした記憶も全部消えたはずじゃあ!?」

 

武がいる空間は、辺り一面が白で覆われた空間。あの暗黒の虚数空間とは真逆の、混じりけのない純粋な白で覆われた空間であった。己例外に何も無い、前後左右上下全てが真っ白な空間に武はいたのだ。

それだけではない。今の武は『あの世界』での戦いの記憶を持っていた。それはあの最後のループ、オリジナルハイヴを破壊した時代での記憶だけではなく今までループしてきた世界でのありとあらゆる出来事全てを記憶に留めていたのだ。

武の記憶では元の世界に戻った瞬間今までのループの記憶は一切消去されると香月夕呼は言っていた。なら、自分は又ループしてしまったのか?またあの地獄へと舞い戻ったのか……?

 

「……んなわけねえか。そもそもこんな白一色なとこ知らないし………ま、まさか、こ、ここはあの世なのか!?俺は死んじまったのかあああああ!?」

 

突然思い至ったその予測に武は思わず絶叫する。香月夕呼は元の世界に戻るとか何とか言っていたが、実は何らかの手違いで事故が起きて自分は死んでしまったのか、そして此処はあの世なのか!?武は頭を抱えながら地面へと突っ伏した。

世界を救って元の世界に戻るかと思ったら死んでしまいました、等もはやコントにすらならない。嗚呼何と儚い人生だったのだろうか…、散っていった恋人達よ!!恩師よ!!許してくれ!!と滝のように涙を流す武だった、…と…。

 

 『…いやいや待ってくれないか。一応まだ君は死んでいないはずだ。泣くのはまだ早いと思うが…、まあいい。その様子なら身体に異常はなさそうだな?』

 

 「………え?」

 

 突然背後から響いてきた人の声に武は嘆くのを止めると背後を振り向いた。

 まるで脳に直接響いてくるような声であったがとにかくこの世界に自分以外の人間がいると言うのならそれだけでも武にとって心の支えになる。ひょっとしたらこの世界が何なのか、何で自分が此処に居るのかが分かるかもしれない…!!そんな期待に胸を弾ませて後ろを振り向いた武は…………、

 

 

 

 そのままの姿勢で硬直した。

 

 武の背後に居た者、それは彼の期待していた人間ではなく、人間の如く二足歩行で直立している巨大な亀のような姿をした怪物であった。

怪物のフォルムは二足歩行で2メートル程の大きさである事を除けば全体的に甲羅を背負った亀に似ている。だが、その身体を構成するパーツは現存する生物とは似ても似つかぬほど刺々しく、攻撃的な形状をしていた。

背中に背負った甲羅の縁は刃のように鋭く、腕には刃物のように鋭い爪のはえた五本指と、さながら大録の指のように生えたもう一本の長い爪が生えている。その下あごからはまるでセイウチの牙のような長く鋭い牙が二本上向きに生え、鋭い眼光と鋸の歯のような鶏冠と会わせて凶暴さを際立たせている。

人間かと思って振り向いたら巨大な亀のような怪獣が目の前に居た……、あんまりにも予想外な展開に武は硬直して動く事が出来なかった。

 

 「………」

 

 『む?どうしたんだそんな顔をして。やはりどこか悪いのか?』

 

 目の前の二足歩行の亀は凶暴な見た目とは裏腹に武の身を気遣う言葉を掛けてくれる。とはいっても口を動かしていない所を見ると脳に直接語りかけているようであるが、どうやら先程武に話しかけてきたのもこの巨大亀であったようである。が、一方直立する亀を直視してしまった武は驚愕のあまり眼を真ん丸に見開いて、パクパクと陸に上がった魚の如く口を開閉させて何も言えずに大亀を凝視している。

 

 『…少年?』

 

 武から全く返事が返ってこないことに痺れを切らしたのか、あるいはやはり何か身体に異常があると判断したのか大亀はズイッ、と武へ顔を近づけた。…と、その瞬間。

 

 「お、おあああああああああ!!!???」

 

 目の前に大亀の凶暴そうな面構えが接近してきたからか、今まで硬直していた武は絶叫を上げながら地面に倒れ込んだ。そしてそのままずるずると尻を引きずりながら大亀から必死に距離を取ろうとする。一方の大亀は武を追いかけようともせずに自分から離れて行く武を呆然と眺めている。

 

 『どうした少年?一体何を怯えているんだ?心配しなくても私はキミに危害を加える気は……』

 

 「なななななななんあ、お、お前何者だ!!し、新種のBETAか何かか!?」

 

 若干どもりながら武は目の前の大亀に向かって絶叫する。武の元居た世界でも、あのBETAに侵略されていた世界でも、こんなバカでかい亀のような生物など見たことも無かった。自分の記憶が正しければBETAにもこんな奴はいなかったが、奴等は地球の生物を研究し、次々と新たなBETAを作り出していく。ならば亀のような姿をしたBETAが居ても不思議じゃない。

 と、最初は驚愕と混乱もあってそのように考えてはいたものの、大亀は何時まで経っても武を襲おうとする素振りは見せない。それどころか先程から自分の脳内に語りかけているのはこの大亀のようである。だったらコイツはBETAじゃないのか?じゃあこいつは一体……。

 一方の大亀は武の詰問染みた問い掛けを聞いて、まるで何かを考えるかのように上を向いてグルル…と唸り声を上げる。

 

 『ベータ…、ああ、君の記憶で見たあのレギオンとよく似たアレか…。その答えについては否と言おう。私はBETAではない』

 

 「そ、そうなのか?…って、ちょっと待て、お前、何処かで見た事があるような…」

 

 武は目の前の大亀の姿を眺めている内に、何故か彼(?)の姿を何処かで見たことがあるような気がした。それはあのループの中での記憶ではない、かつて自分が住んでいた、平穏で平和な日常の中での記憶…。

 

 『それはあの虚数空間での話か?それとも私の記憶を視てその映像を…』

 

 「ち、違う違う!!それよりもずっと前に見た事があるんだ…!!くっそ何だったかな……」

 

 目の前の大亀の言葉を否定しながら必死で頭の中の記憶を探る武ではあったが、長いループの中で生死を懸けた戦いを続けた結果なのか、ループ前の世界については細かい部分については思い出す事が出来ない。恐らく何処かの本か映画で見たような記憶があるというのは分かるのだがそれ以上の事が思い出せない。必死に思い出そうと頭を悩ませる武の姿を、大亀は何処か心配そうに眺めていたが、不意に何かを思い出したかのように軽く喉を鳴らす。

 

 『そういえば、自己紹介が遅れたか…。私の名前はガメラ、という。フム、名前というよりも種族名と言った方がいいが、ガメラは私一体のみだからな。これが私の名前と思って欲しい』

 

 「………何ぃ!?」

 

 武は目の前の大亀が名乗った名前に仰天する。大亀、ガメラの名前を聞いた瞬間、武の脳裏に記憶の奥底に眠っていたとある映像、情報がフラッシュバックする。

 

 …それはかつて白銀武が住んでいた世界、そこで幼馴染の純夏と自分の両親と一緒に観に行った映画の映像と、メインタイトルの名前…。

 

 「が、ガメラ!?ガメラって、ひょっとしてあの怪獣映画のガメラか!?」

 

 『む?君は私の事を知っているのか?』

 

 「し、知ってるも何も俺特撮ファンだからガメラシリーズとゴジラシリーズは昭和から平成まで網羅して……ってンな事はどうでもいい!!」

 

 次々と訳の分からない事が立て続けに起こって頭が混乱している武はまるで飛び跳ねるように立ちあがると目の前の『ガメラ』と名乗る直立した大亀に向かって指を突き付けた。

 

 「問題は!!何故そんな現代日本でゴジラに次いで著名な特撮怪獣のガメラが!!俺の目の前に居やがるんだ!!つーか何でガメラが俺の目線と同じ高さなんだ!!本当は90メートルぐらいあるはずだろお前!!」

 

 『…ゴジラとは何だ?まあそれはともかくとして……、何故と言われても……、君が私を呼んだのだろう?あの暗闇の中で漂いながら…』

 

 「…呼んだ?俺が、アンタを?」

 

 ガメラからの返答に、武は思わずキョトンとしてしまう。呼んだ、と言われても武自身には目の前の巨大亀を呼んだ記憶は無い。が、ガメラは武に向かって肯定するようにコクリと頷いた。

 

 『ああ、今度こそ護りたい、その為の力が欲しい、と、大分必死そうだったからコレはただ事ではないと気になって向かったのだが。…それで同じ目線だという疑問についてなのだが……』

 

 ガメラは唸り声を上げながらさながら人間が何かを指差すように右腕を武に向かって突き出した。

 

 『それは、私と君が今一つになっているからだろうな』

 

 「へ?ひ、一つになる?それって、どういう…」

 

 ガメラの言葉にますます訳が分からなくなる武。やれ自分がガメラを呼んだだの、やれコイツが自分と一つになっているだのと訳の分からない

 

 『簡単にいえば私と君とは一つの姿に融合しているんだよ。どういう原理でこうなったのかは知らないがあの虚数空間とやらで君に出会った時が切欠とみて間違いないだろう。

 私と融合した君は私と同じ『ガメラ』の姿を得て、この世界へと舞い戻って来たということだろう』

 

 「………???」

 

 『…ようするに少年、君は私と同じ『ガメラ』となったと言う事だ。此処は君の深層意識の中、君は海底で眠っている状態だ。しかし………もうすぐ目覚めるときが来るだろう』

 

 「……お、俺が…?ガメラに…?」

 

 武は信じられなさそうな表情で己の手を、体中を見回した。どう見ても自分は人間、目の前のガメラと同じ巨大亀の姿ではない。ガメラになったと言われてもどうしても信じられない。とはいえガメラ曰く此処は自分の深層意識の中、いわば心の中のようなので姿形などどうとでもなるのだろうが。

 

 『ちなみにこの大きさは仮の姿だ。本来の大きさでは君を怯えさせてしまうだろうし、誤って踏み潰してしまいかねない。もっとも精神体で死ぬなどという事は無いだろうが…』

 

 なおも続くガメラの説明を、武は黙って聞き流す。とにかく色々分からない事はあるが、それ以上に自分にとって聞きたい事は他にあった。

 

 「…何となく分かったような分からないような……、まあそれはそれとして、だ…。此処が俺の意識の中だと言うのは良いとして、だったら俺達は今何処の世界のどの時代に居るんだ?……って言っても、分からないか?流石にそれは…」

 

 『いや、大体なら分かる。今私達がいる世界は君があのBETAとかいう生物と戦っていた世界、年代は……人間の言う年代に換算すれば大体1998年の11月、と言ったところ、か…?』

 

 「……って分かるのか!?つーかお前西暦とかそういうの分かるの!?ガメラなのに!?」

 

 『そういうふうに創られたものだからな、それに君と融合した折に君が見てきた記憶を一通り見せてもらった。多少なりともヒトの知識は学んだつもりだ』

 

 「そ、そうか…、まあそれはそれとして……」

 

 武はそこで口を閉じると黙って俯いた。その表情には先程まで無かった、何か思いつめているかのような悲愴な雰囲気が漂っている。

 

 「そっか……、俺、また戻ってきちまったか…。ハハ…、何だよ、まだ俺この世界に未練あるのかよ…」

 

 そう自嘲するかのように笑う武。

 桜花作戦を成し遂げ、あ号標的を破壊し、人類勝利の第一歩を成し遂げた…。

 なのに、それなのに自分は再び、“己の居るべき世界”ではないこの世界へと戻ってきた。

 もう因果導体ではないのに、“鑑純夏”はいないのに…。

 それでも自分はあの戦場に、あの世界に戻ってきた…。

 それは、何故―。

 

 『少年……』

 

 と、黙りこくっている武に向かってガメラは、静かに声を掛ける。武は黙って背後に立つ巨亀へと顔を向ける。ガメラはゆっくりと口を開いた。

 

 『君は、どうしたい?君はこの世界で、異星の侵略者の前に死の危機に瀕するこの星で、ヒトの姿を捨ててなお、何をしたい?』

 

 「俺は……」

 

 ガメラの問い掛けに武は顔を俯かせてしばし口を閉ざす。が、やがて顔を上げると、先程とは打って変わった決意に満ちた表情を目の前の守護神に向ける。

 

 「俺は……、護りたい。この世界を、この世界に住む人達を、前の世界で犠牲にしてしまった人達を…!!大好きな人達を今度こそ救いたい…!!その為にもBETAを駆逐する!!誰も犠牲にせずに、一つ残らずハイヴを殲滅して見せる!!」

 

 『愛する女性……、あの少女達か…。あれは、君のつがいか?』

 

 「つがいって…、もっといい言葉ないのかよ…。ま、いっか…。俺さ、何度もこの世界をループしてたんだ。ある時は突撃級に踏みつぶされて、ある時は戦車級に食われて、ある時はハイヴの反応炉で自爆して……、死んで、生き返って、死んで、生き返って、そんなループを繰り返し続けてようやく、ようやくオリジナルハイヴを落として、人類勝利への道標を作ったんだ……」

 

 『……』

 

 独白するように呟く武の言葉を、ガメラは黙って聞いていた。武は今にも消えてしまいそうなか細い声で続ける。

 

 「でもさ、その戦いで俺は、掛け替えのない人達を失った。まりもちゃん、伊隅大尉、柏木、速瀬中尉、涼宮中尉、委員長、彩峰、たま、美琴、冥夜、純夏……。それで手にできたのは30年って言う人類の死刑執行の猶予期間…。みんなの命を犠牲にして、手にした30年…、無駄じゃないって、みんなの犠牲は無駄なんかじゃないって思ってる、思ってる、けどっ……、もっと、もっと力さえあれば、もっと違う結末が、みんなが生きて笑いあえる結末が、あったかもしれないって、思うとっ……」

 

 武の独白は段々と血を吐くような叫びへと変わっていく。表情は苦渋で歪み、唇は強く噛みしめたせいで血が滲んでいる。

 ループの記憶を全て思い出し、少女達への想いを思い出した武は心の底から慟哭し、歯噛みした…。もっと良い結末があったんじゃないか、彼女達が死なずに済む結末があったんじゃなかったのだろうか、と…。

 だから彼は力を望んだ。たとえ人間で無くなっても、もう彼女達と触れあう事が無くなったとしても、無数のBETAをなぎ払いハイヴを殲滅できる力が欲しいと…。

 武の独白を、慟哭をガメラは黙って聞いていた。そして、武の独白が終わるとガメラは

 

 『だから、力が欲しいと、願ったのか…?』

 

 「……ああ、もう人間で無くなっても構わないから、皆を護り通せる力が欲しい、何万何億のBETAをモノともしない力が欲しいって、消える寸前に願ったんだ…。まさかガメラになるとは思わなかったけど、な…」

 

 そう苦笑いしながら武はガメラを見上げる。ガメラは黙って武を観察するように見降ろしていたが、やがてゆっくりと頷いた。

 

 『分かった。君の望みも、護りたいものも理解できた。なら、私も出来うる限りの力を貸そう』

 

 ガメラが武に告げた言葉、彼と共にBETAと戦うと言う宣言に武は一瞬呆けたような表情へと変わる。

 

 「お前、力を貸してくれるのか……?」

 

 『私は星とそこにいる全ての命を守護するために、星の命であるマナが生み出した存在だ。そしてBETAは母なる星とそこに住まう命を食い散らかす害虫…。私が倒すべき存在に違いは無い。そしてBETAを倒すと言う君の望みと私の目的は一致している。何の不都合がある?』

 

 ガメラの生み出された目的、それはこの地球の生態系の守護、そして生態系を脅かす存在の排除。今ガメラの存在する地球を蹂躙するBETAは、ガメラにとっては排除すべき存在。ならば戦う。人類の為だけではなく、地球に住む全ての命を護る為、この地球に存在するBETAを一匹残らず駆逐する…。それに変わりは無い。

 ガメラの言葉に武はポカンとしていたが、やがて顔を引き締めると黙ってコクリと頷いた。

 

 『そういえば、聞き忘れていたな…。君の名前は何と呼べばいい?』

 

 ガメラに問われた武は、目の前に立つ守護神を、これから己と一緒に戦っていく戦友を見上げると口元に笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 「武、白銀武。それが俺の名前だ」

 

 

 

 

 こうして、かつて人類を救った一人の青年と、地球を護った守護神は邂逅した。

 

 

 

 

 シロガネタケルとガメラ、二人の地球を、人類を救うためのおとぎばなしは、こうして幕を開けるのだった。

 




えーと、タグにありますけれどもこの作品の『ガメラ』はオルタラストの白銀武とガメラ3ラストでギャオスの軍勢と戦って力尽きたガメラが融合したものです。
ついでに会話シーンがありますがガメラと武は融合して一つの存在になっているので意思疎通が可能という設定です。…他の人間は勾玉がないと無理ですが。
まだまだほかにも設定がありますが…、今回はこのくらいで。…こんな無理のありそうな設定ばかりで大丈夫か…?

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