Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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読者の皆さま、どうもお待たせいたしました。第2話投下させていただきます。
今回は再び人間サイド、ということで…。ちなみにこれもガメラ映画のあるシーンをモチーフにしています。



第2話 飛翔

「……成程、よく分かった。つまり『のじま』は何も無い海上で突然環礁に乗り上げ、その環礁は救援要請直後に突如移動、『のじま』から離れて行った、と、こう言いたいのかね?」

 

 「にわかには信じがたい話だと承知しています。ですが、全て事実なのです。大体あそこは水深3000メートルはありますから座礁するはずが無いのです。仮に環礁が潮に流れてきたとしても事前にソナーがキャッチして回避する事が出来るはずなのです!!」

 

 硫黄島駐屯地の第一区画にある一室にて、本郷少佐は目の前に立つまだ二十代後半の男、巡視船『のじま』の乗組員でありあの現場で指揮をとっていた久保大尉から昨夜の座礁事故の状況及びその経緯についての報告を聞いていた。昨夜の座礁事故の詳細を聞く為に呼び出された彼は、憔悴しきった顔で口から泡を飛ばしながら昨夜の事故、そして事故の原因となったと考えられる環礁について事細かに語ってくれた。

 久保大尉の説明によると、環礁は大体縦60メートル、横幅45メートルの楕円形、亀の甲羅によく似た形状をしており、突如船底に出現して船に激突したかと思うと、数十分後には『のじま』から勝手に離れて行ったのだと言う。黒潮か何かに流されたのか、とも考えたのだがあれほど巨大な環礁が黒潮で流されるとも考えられず、あの環礁が何だったのか、そもそもあれは環礁だったのか等々不明な点が多い。

 久保大尉のありのままの報告に、本郷少佐は少し考え込むように額に手を当てる。

 

 「フム…、確かに船底の傷からして何らかの衝突があったとは考えられるが…、それは本当に環礁だったのかね?例えば……クジラとか。現在数は減っているがシロナガスクジラなんかは30メートルを超える巨体を持つものもいるだろう?それが突然浮上してきて船底に激突したとか…」

 

 「そんなはずはありません!!外へ出た船員も確かに環礁の姿を目撃しておりますし、あの環礁の直径は約60メートル!シロナガスクジラの二倍はあります!!ソナーで確認した形状だってクジラや魚類とはかけ離れて……」

 

 「分かった分かった、少し落ち着きたまえ。…まあ君の事だから嘘ではないのだろうが、流石にあまりにも突拍子が無くてね…」

 

 「す、すみません少佐…」

 

 穏やかに宥める上官の言葉に、熱くなっていた久保大尉はすまなさそうに頭を下げる。

 本郷とて自分の部下である彼の性格は熟知している。到底このような嘘を吐くような人間ではないし、彼以外の乗組員も環礁の姿を目撃している以上、事実には違いないのだろうが…。

 

 「まあとにかく無事でよかった。取りあえず上には座礁したと伝えておくから……」

 

 「しょ、少佐!!本郷少佐!!失礼いたします!!」

 

 と、本郷の言葉を遮るように勢いよくドアが開かれ、米森大尉が室内へと飛び込んできた。部屋に飛び込んできた時に一度敬礼はしたもののその様子は何やらただ事ではない。

 本郷は話をしている時に突然割り込んできた米森の姿を見て眉を顰める。どんな事情があるにせよいきなり上官の部屋にノックもせずに入ってくるのは軍人としてのマナーがなっていないと言わざるを得ない。

 

 「一体どうしたと言うんだね米森君、今私は彼に話を聞いて…」

 

 「それよりも異常事態です!!と、とにかくこちらに来てはいただけないでしょうか!!…折角だ、久保!!ちょっとお前も付き合え!!」

 

 「え!?ちょ、ちょっと待てってオイ!!」

 

 久保は米森に引きずられ、そのまま部屋から連れ出されてしまう。あまりにも直情的な部下の様子に本郷は溜息を吐いた。

 

 「やれやれ…、取りあえず行ってみるか…。もし下らない事なら一時間説教だな…」

 

 本郷は若干疲れた表情で立ちあがるとそのまま二人の後を追って部屋から出て行った。

 

 

 米森が久保を連れて行った場所は、駐屯地近くに広がる海岸である。白い砂浜と地平まで広がる大海原…。かの大戦の折りに米軍と帝国軍の血みどろの戦いが繰り広げられたそこは、今となっては夏には海水浴を楽しめ、岩場では年中新鮮な魚が獲れるという硫黄島駐屯兵達にとって随一の憩いの場となっていた。

 そんな海岸には、駐屯地に在任しているであろう100名以上の駐屯兵が集合している。駐屯兵達は互いに顔を見合せながら何やら口々に言葉を交わしている。

 本郷は兵士達の様子に首を傾げた。今は11月、ここ硫黄島は本国よりは温暖とはいえそれでも今は海水浴のシーズンとは言えない。それ以前にここに集まっている兵士達は見たところ海水浴や釣りに興じに来たようには到底思えないのだ。

 

 「…米森君、一体どうしたと言うんだこれは?一体何で彼等は持ち場を離れてこんな所に集まっているんだ?」

 

 目の前の兵士達の集団を眺めながら本郷は米森を問い詰める。この場に無理やり連れてこられた久保も、米森を問い詰めるように睨みつけている。

 そんな彼等の疑問に対して米森は、黙って大海原を指差した。その方角はちょうど、ここに集まった駐屯兵達の視線が向いている方向だった。

 本郷と久保は一度顔を見合わせると米森が指差す方向へと視線を向ける、と、次の瞬間その顔は驚愕に歪んだ。

 

 「なあっ!?」「な、何だあの島は!!」

 

 海岸から約100メートル程の沖、見渡す限り海しか存在しないはずのそこに巨大な浮島らしきものが浮かんでいたのだ。

 こんな浮島は昨日まで存在していなかった。それ以上にこんなものが一体いつの間に出現したと言うのか。本郷は弾かれたように米森へと振り返る。

 

 「米森君…!!あれは、あの浮島は一体何だ!?あんなものは昨日まで存在していなかったはずだ!!」

 

 「警備兵たちが早朝の見回り中、発見したものです。見たところサンゴの堆積した浮島か何かのようですが…、何故いきなりあんなものが出てきたのか、何処かから流れてきたのか……、それすらも全く分かりません…」

 

 「………」

 

 部下の言葉に本郷は頭をかきむしる。昨日は動く環礁、そして今度は突然出現した浮島…。訳の分からない事が幾つも起きて頭が混乱し始める。

 一方で同じく米森に此処に連れてこられた久保は、海原に浮かぶ浮島を見て、何かを思い出すかのような難しい表情をしている。そんな彼の様子に米森はふと気が付いた。

 

 「…どうした久保、あの浮島に何か見覚えでもあるのか?」

 

 「い、いや……、まあ、あると言えばあるけど…。……多分俺の勘違いか何かだ、気にしないでくれよ」

 

 米森の問い掛けに久保は作り笑いを浮かべながら応じる。同僚の様子に若干の違和感を覚えながらも米森は、隣に立つ上官へと視線を移動させる。

 

 「とにかく、今はあの浮島の正体を突き止める事が肝心です。ひょっとしたら新種のBETAである可能性も否定できません。少佐、どうか調査の許可を」

 

 米森の言葉を聞いて本郷は一度浮島へと視線を向け、そして米森へと視線を戻すとコクリと頷いた。

 

 「…確かに、な。昨日の環礁の件もある、ひょっとしたら何かとんでもないものかもしれない。良し分かった。上には私が報告しておこう。あの浮島の調査を許可する」

 

 「ハッ!直ちに開始します!」

 

 上官から許可を得た米森は敬礼を返すとすぐさま駐屯地に向かって駆け出した。浮島調査の為の準備に向かったのであろう彼の背中を眺めながら本郷はやれやれと溜息を吐いた。

 

 「全く元気なことだ、ま、それが彼のいいところ……ん?どうしたんだ久保大尉?浮かない顔をして…」

 

 ふと隣に立つ久保へと視線を向けると、彼はあの浮島を眺めながら何やら考え込んでいる。その様子が気になった本郷が声を掛けると、久保は髪の毛を掻きむしりながら苦笑いを浮かべた。

 

 「いえ…、ただ、あの浮島の形…、なんだか昨夜発見した環礁に似ている気が…」

 

 「おいおい冗談だろう?ただの空似じゃないのか?まさか環礁がこんな所までながれてきたとでもいうのか?」

 

 部下のおずおずといった風の言葉を本郷は軽く笑い飛ばす。幾らなんでも昨夜激突した環礁がこんな所にまで流れ着くという偶然などあり得ないだろう、そもそもあんなバカでかい代物が潮や波で簡単に流されるはずが無い、と、本郷は内心でそう考えていた。

 無論アレが新種のBETAだと言うのならば話は別なのだが…、という一抹の不安も無いわけではないが…。

 

 「そ、そうですよね…、気のせいですよね…?ハハハハハ…」

 

 上官の言葉に久保もつられて笑い声を上げる。ただ、その顔にはやはり何処か納得がいかなさそうな表情は消えなかった。

 

 

 

 

 

 突如硫黄島近海に出現した浮島調査、それには米森大尉以下十三名の駐屯兵によって行われる事となった。午後13時頃、調査用の機材等の準備を終えた米森達調査隊は、調査船『けんざき』に乗り込むと浮島から約40メートル程の距離に接近、そこからゴムボートに乗って島へと上陸した。

 

 浮島に上陸した米森は一歩一歩足元を確認するように歩を進める。見たところ一面石ころと岩だらけであり、当たり前だが植物一つ生えていない。本当にただの浮島にしか見えない。そんな事を考えながら辺りを見渡して歩いていると、不意に足元で妙な違和感を感じた。

 不審に思った米森が足元に視線を下ろすと、そこには周囲の石ころや砂とは明らかに違う、赤味がかった奇妙な形の石が顔を出していた。その石が妙に気になった米森は赤い石の周囲の土や砂利を掘り返すと、完全に地面から露出したその石を摘まみ上げた。

 

 「これは……」

 

 米森が拾い上げた物、それはコの字型の奇妙な形状をした赤い石であった。

 一方の先端は丸く大きく膨らんでおり、そこには何かを通す為の穴まで作られている。

 

 「勾玉、か…?」

 

 その石の形状に、米森は見覚えがあった。確か己がまだ幼い頃に博物館で見た遺跡からの出土品に、これとよく似た形状の装飾品があった。材質はその当時に見たものとは異なるが、その形状は勾玉そのものであった。

 

 「先輩、先輩もそれを見つけたんですか」

 

 「うお!いきなり声出すんじゃねえよ!!…っておい、それ…」

 

 掘り出した勾玉を掲げてじっくりと眺めている時、突然背後から声をかけられた米森は飛び上がらんばかりに驚いて背後を振り向く。そこに居たのは調査チームに配属された己の後輩である士官。米森は声を掛けたのが彼だと知って一度安堵の溜息を吐いたが、彼が両手に持っているブリキ製の箱の中身を見た瞬間、その顔色が変わった。

 ブリキ缶の中には、米森が発見した勾玉と全く同じ大きさ、形、色合いの勾玉が何個も入っていたのである。

 大量の勾玉を見て唖然としている米森に対して、後輩の士官は特に驚いた様子も無く浮島中を見回す。

 

 「これだけじゃあありません。まだあちこちから見つかってますよ。まるで、見つけてくれって言ってるかのように」

 

 「…見たところ勾玉みたいだな。明らかに自然にできたものじゃあない」

 

 「ですね。ですけど…、何でこんなものがこんなに散らばって……」

 

 どの勾玉も寸分違わず全く同じ形状をしている。それからしてどう考えても自然にできたものとは考えにくい。勾玉と言えば古代の古墳で権力者の遺体と一緒に棺から出土するものだと言う事は米森達の記憶にもある。だが、それが何でこんな浮島に散らばっているのか…。米森は勾玉を掌で弄びながら一人考える。

 

 「おい!!ちょっとこっちに来てくれ!!」

 

 と、突然浮島の中央、周囲よりも幾分か盛り上がって小高い山のようになっている場所から、調査隊員の声が聞こえてくる。米森は後輩に目配せすると、すぐさま小山に上っていく。小山の山頂では調査隊のメンバー三人が固まって何やら言葉を交わしている。

 

 「どうした?何か見つけたのか?」

 

 「は、はい!その、地面から、こんなものが……」

 

 米森達に気が付いた隊員の一人が慌てて姿勢を正すと地面へと視線を向けた。彼の視線に釣られてそちらへと視線を向ける米森と後輩の士官。

 彼等が視線の先にある地面、そこにはまるで板のような長方形の岩が地面に埋まっていた。どうやら地面からつき出ているのはまだほんの一部であり、殆どの部分は地面の奥深くに埋もれているようである。

 

 「…掘ってみよう」

 

 「ハッ!ではすぐに機材を用意します!」

 

 米森の指示を受けた調査隊員はすぐさま採掘の為の準備を開始した。

 

 

 

 

 

 硫黄島SIDE

 

 その頃硫黄島駐屯地指令室では、本郷少佐と久保大尉、そして数名の兵士が調査船から送られてきた例の浮島のデータに目を通していた。

 

 「縦長60メートル横幅45メートル……何だってこんなものが突然…」

 

 「しかもあの環礁からは、勾玉に酷似した形状の多数の金属が見つかったとの事です。本当にアレは一体…」

 

 送られてきた計測結果によるとあの浮島は縦約60メートル、横幅約45メートルの楕円形で、その形状はさながら亀の甲羅のようである事、また、浮島からは赤色の金属でできた勾玉らしきものが複数発掘され、さらに浮島の中央から何やら石板らしきものが発見された為、現在採掘中との報告も受けている。

 どうやらBETAではないようだがただの浮島とも思えない、これはひょっとしたら古墳か何かか?と考える本郷、その一方、久保は手元の資料と浮島の写真を、幾度も幾度も見返している。その顔には、信じられなさそうな表情がありありと浮かんでいる

 

 「…この形、この大きさ……、似てる、あの環礁と、そっくりだ……」

 

  彼がポツリと呟いたその一言は、その場の誰にも聞き咎められる事は無かった。

 

 

 

 

 調査隊SIDE

 

 浮島中央で行われた石板の発掘は、およそ3時間以上かけて行われた。

 最終的に5、6メートル程地面を掘り進めると、埋もれていた石板の全貌がようやく明らかとなった。

 掘り返された石板、それにはまるでとぐろをまいたような蛇のような八の字型の文様と、何やら文字らしきものが刻まれていた。文字の形状は何処となく英語のアルファベットに似通ってはいたものの、それを除けば何と書かれているのか皆目見当が付かない。少なくとも現在文明圏では用いられていない文体である事には間違いなかった。

 調査隊は掘り起こした石板の写真を撮影、あるいはスケッチをするとそれを発掘された勾玉と一緒に硫黄島駐屯地へと送り、掘り起こした石板を引き上げるためのヘリコプターの準備を駐屯地へと要請する。そして、米森と後輩の士官はヘリの到着を待ちながら、目の前に立つ巨大な石板をジッと見上げていた。

 

 「どうやらこの浮島は、何かの遺跡か古墳のようですね。やれやれこれだけの勾玉を見つけて、ついでにこんなものを発見したのは僕の生涯初ですね…。でもこれが遺跡だとしたら、コレはもう軍人の管轄じゃあありませんね」

 

 「全くだ。としたなら後の仕事は俺たちじゃ無くて学者さん方のお仕事になるだろうな。BETA共のせいで遺跡やら寺やらが根こそぎブッ壊されちまったからやっこさん方も暇で暇でしょうがなかっただろうし、張り切るだろうぜ?」

 

 「違い無い違い無い」

 

 そんな冗談を交わしながら二人は笑い声を上げる。

 調査した限りではこの浮島は何らかの遺跡か何かであるようだ、と二人は判断していた。とは言え何故そんな物が突然硫黄島近海に出現したか、という点については未だ不明ではあるが…。

 米森は目の前の石板を見上げながら、そっと石板に手を触れてそこに描かれた謎の文字をなぞる。相変わらず石板には何と書かれているかは分からない。BETA侵攻以前だったならこういう古代文字とかに関する書籍やらがあったのだろうが、今ではさっぱりそんな物は見かけない。大半がBETAの侵攻で失われたと言うのもあるのだろうが…。

 そんな事を考えながら石板を撫でる米森であった。…が、

 

 「……ん?」

 

 突然米森は顔を顰めると何か違和感を感じたかのようにしきりに石板を撫でまわし、さらにまるで隣の部屋の物音を聞くかのように石板へ耳を押し当てた。

 

 「……先輩?どうしたんですか?」

 

 「…いや、なんかこの石板から、鼓動みたいな音が聞こえないか?それに……コレ、熱い…?」

 

 「え……?」

 

 米森の言葉に、後輩の隊員も釣られて石板に手を当て、耳を押し当てる。

 確かに米森の言うとおり、石板からはまるでヒトの体温と同じような温かさを感じ、さらに、石板からはまるで心臓の鼓動のような、はたまた波の音のような奇妙な音が聞こえてくる。それは石板からではなく、もっと奥の、それこそこの浮島の奥底から聞こえてくるかのような…。

 

 「……な、何なんですかコレ…?ただの石板じゃありませんよ…?」

 

 「……分からん。一体こいつは、いや、そもそもこの浮島は何なんだ…?」

 

 米森は石板から耳を離すと、眉を顰めながら石板の模様を凝視する。

 と、次の瞬間、何の前触れも無く石板の中央に亀裂が走った。

 

 「なっ!?」「ええッ!?」

 

 突如ひび割れる石板を見て二人は思わず後ろへ下がる。と同時に石板の亀裂は段々と石板全体に広がり、やがて石板は爆発するように粉々に砕け散ってしまった。

 

 「お、おおお!?な、何が起こってやがるんだこりゃあ!?」

 

 「せ、せせせ先輩何かしたんですか!?こ、これどうすれば……」

 

 「し、知らん!!俺は何もやって無い……!?」

 

 互いにパニックに陥る米森と後輩士官。だが、異変はこれだけでは終わらなかった。石板が粉々に崩れ落ちると同時に、まるで地震でも起きたかのように浮島全体がグラグラと揺れ始めたのである。

 

 「な、なあ!?こ、今度は地震ですか!?」

 

 「し、知らん!!とにかく此処は危険だ!!脱出するぞ!!」

 

 パニック状態の後輩を叱咤して穴から這い上がる米森、後輩士官もその後を追いかける。

 振動で崩れ落ちてくる砂利や石に足を取られながらも、何とか穴から這い出た二人、どうにか脱出できた二人は走って浮島の上陸に使ったゴムボートへと向かおうとするが…。

 

 「うおあ!!こ、今度は何だ!!」「島が、島が崩れて……!!」

 

 さらに振動が大きくなって浮島そのものが段々と崩れ始めたのだ。海へと押し流される土砂と石、それと一緒に米森と後輩の士官、そして島に残っていた調査隊のメンバー達も海中へと投げ出されてしまったのだ。

 

 「うおおおおおあああああ!?」「なああああ!?お、落ち……」

 

 そして二人は海へと叩きこまれ、2、3メートル程の深さにまで沈んでしまう。

 米森はこんな所で死んでなるものかと必死に海面に出ようとする、が、次の瞬間腕と足の動きが止まってしまった。彼の目の前に、信じられない物があったのだ。

 それは、巨大な目…。ほんの一瞬だけであったものの、直径二メートルはあるであろう巨大な眼球が、確かに米森の前を横切ったのだ。目の錯覚でも何でもないそれに、驚愕のあまり動けなくなっている米森。だが、沈んでいた身体は段々と海面に向かって浮き上がっていき、米森自身も息苦しさを感じて必死に足と腕を動かして海面へと上っていく。

 

 「……ブハッ!!ハア…ハア……、な、何だったんだアレは一体…」

 

 「せ、先輩…、大丈夫ですか…?ぼ、僕より遅いから心配しましたよ…?」

 

 「あ、アア悪い。海の中で変な物見ちまって………!?」

 

 海面に出て一息ついていた米森は、ふと視線を前へと向けた瞬間愕然としてしまう。

 浮島が、先程までそこにあった浮島がその場から完全に消えてしまっていたのだ。何処にもすぐそこに島があったと言う痕跡は無い。島は文字通り、跡形も無く蜃気楼のように姿を消してしまったのである。あまりの事に米森と側に居た部下は愕然として、救援の船が来るまでそのまま動く事が出来ずにいたのだった。

 

 

 

 硫黄島SIDE

 

 

 一方硫黄島駐屯地にて、指令室にて報告を待っていた本郷達は、モニターの画面に映る浮島を眺めている。

 ようやく石板の採掘が終わったと言う報告を聞いた本郷は、石板の回収の為にヘリコプターを向かわせるよう指示を出し、今はのんびりと部下の報告を待っている。

 

 「しかし、どうやらあの浮島はどうやら何かの遺跡のようだな。多分今の今まで海の底にあったものが何らかの理由で地上に出てきたと言ったところだろうな」

 

 「ですが最近この近海で地震が起きたという報告もありませんし、干潮で潮が引いているわけでもありません。そもそもあの地点の海底にはあのような盛り上がりは無かったはずですが…」

 

 「ふーむ…、そこが私にも気になってる所なんだがな…」

 

 本郷は部下の言葉を聞きながら首を傾げる。確かにあそこの海底には、あの浮島のような極端な隆起があるという報告を今の今まで聞いた事は無かった。

 さらにここ最近地殻変動があったという報告も聞いた事が無いし、部下の言葉通り地震も干潮も起きている様子は無い。ならあんな巨大な浮島が一体何処から来たと言うのか…。頭を悩ませる本郷であったが、その時隣でモニターを眺めていた久保が、ポツリとこんな事を呟いた。

 

 「もしかして……、あの浮島は昨夜の環礁なのでは…?」

 

 「…何?」

 

 突然突拍子の無い言葉を呟いた部下に、本郷は唖然としてしまう。しかし久保はふざけた様子も無く真剣な表情で本郷の方に顔を向ける。

 

 「はい。あの環礁の形状も亀の甲羅によく似た楕円形、しかも大きさも昨夜目測とソナーで確認した物と一致していますし…」

 

 「フーム…。だがそれにしたって、だ…。環礁など普通なら動かん代物、しかも小さいものなら兎も角何故こんなバカでかい代物がこの硫黄島まで…」

 

 「そ、そこまでは何とも……」

 

 本郷の最もな問いに流石に久保も口を閉ざしてしまう。

 正直久保自身も、あの浮島が昨夜の環礁と同じ物だとして、何故そんな物がこの硫黄島まで流れてきたのか、という事については皆目見当が付かないのだ。

 こればかりは後々地質学者を本土から呼んで調査してもらうしかないのだが…。

 

 「まあいい、とにかく事の次第は本国に報告しておこう。最もやっこさん方はBETAの相手に手いっぱいで浮島の一つや二つ気にとめている暇はないだろ……」

 

 と、にこやかに笑いながらモニターを眺めていた本郷の表情が、突如驚愕に歪んだ。本郷だけではない。久保も含んだ指令室に居る人間全てが、モニターを見て一斉に唖然とした表情を浮かべたのだ。

 モニターに映し出された浮島、それが突如として眩い黄金の光を放ち始めたのである。黄金の光は浮島に積み重なった岩と岩の隙間から洩れでるように放たれ、次の瞬間、まるで爆発するかのように浮島は跡形も無く崩れ去り、海上から完全に姿を消してしまったのだ。

 

 「……馬鹿な!一体何がどうなって…」

 

 突然光を放ったと思ったら姿を消してしまった浮島…。あまりの超常現象に本郷、いや、この場に居る誰もの頭も全く付いていけない。

 だが、超常現象はこれだけではおさまらなかった。

 

 「……!?な、何だこれは!!」

 

 誰が叫んだのか、そんな怒鳴り声が指令室に木霊する。最もそれは、この場に居る全員が言いたかった事であろうセリフだ。何しろ彼等は、モニターで先程よりもさらに信じられない光景を目撃したのだから。

 

 

 

 

 その光景とは………

 

 

 

 

 

 「そ、空飛ぶ……亀の甲羅、だと………?」

 

 

 

 

 

 突如浮島の消滅した海面からジェットのように火を吹きながら舞い上がる巨大な亀の甲羅の姿であった。

 海上から舞い上がった亀の甲羅は、しばらくはグラグラふらついて不安定にその場に浮いていただけであったが、次の瞬間にはグルグルとまるでコマのように回転を始め、最後はまるで空飛ぶ円盤のように高速回転をしながら、その場から飛び去っていってしまった。

 指令室の一同は、目の前で起きたあまりにも奇想天外な出来事に、しばし呆然と言葉も忘れて立ちつくしていた。

 やがて、ハッと気が付いた一人の兵士が例の亀の甲羅の進路を予測したところ、まっすぐ横浜へと向かう事が判明し、駐屯地でひと騒動起きたのは、また別の話である…。

 

 

 ガメラSIDE

 

 

 

『うおおおお!!っとと…。また変な方向に行きそうになっちまった…。存外飛ぶのも難しいな…』

 

 『仕方が無い。人間の体の構造と私の身体の構造とは、全く異なるからな。まあ要は慣れだ。慣れれば水の中を泳ぐのと何ら変わらず飛ぶ事が出来るだろう』

 

 『そんなもんか…?っておおおおおおお落ちる落ちる落ちるううううう!!…あぶね~、海に真っ逆さまに落ちるかと思った~…』

 

そして硫黄島から飛び立った空飛ぶ亀の甲羅、ことガメラは、なれない回転飛行にあっちへふらふらこっちへふらふらと見当違いの方向へ飛んでいきそうになったり果ては海の中へと突っ込みそうになったりしながらも何とか横浜目指して飛んでいた。

ガメラ、もといガメラの身体を得てこの世界に舞い降りた白銀武は、元は人間である。当たり前だがガメラと人間とは身体の構造が根本から異なり、ご覧の通り飛ぶ事にすら四苦八苦している始末である。

本来のガメラの人格も精神内で武にアドバイスを送る事しか出来ず、直接身体を動かしてサポートする事は出来ない。こんな状態でハイヴにつっこんだら無事にBETAと戦えるのか…。武も『ガメラ』も不安になってしまう。

 

 『やれやれ弱った…。君が言った通りだとしたら速く助けなければ時間が無い…。飛行の練習している時間も無しにぶっつけ本番か…』

 

 『それはしゃーないわ。もうこうなったらこのまま飛んで慣れるしか……、お?段々と慣れてきた、かも?』

 

 武の言うとおり回転飛行するガメラは未だふらつきながらもなんとかまっすぐ海面すれすれを飛べるようにはなっている。まだまだ不安定ではあるものの、これならいずれ本来のガメラと同じ程度には飛べるようになるだろう。

 

 『…まあいい。このまままっすぐ行けば君達の言うヨコハマ、という場所に到着するだろう。武、君はそこで…』

 

 『ああ、まずは横浜ハイヴをぶっ潰す。そして…』

 

 この世界の純夏を、救いだす―。

 




 やっぱり映像を文章化するのは楽ではない、と思う今日この頃…。
 別に隠すわけではありませんのでいっちゃいますが、このシーンはガメラ1の環礁発見、勾玉採掘のシーンを少々改造したものです。……パクリじゃありませんよ?書くために何度も映画見直しましたけど…。
 ちなみにマブラヴ世界は平成ガメラと違って亀います、よね…?BETAに絶滅させられた可能性もあるけど。……まあとりあえずいるってことにしておきましょう。

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