Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 ようやくガメラの戦闘シーンが書けました…。若干チートじみているかも知れませんけど…。


第3話 戦闘

 日本帝国帝都、東京―。

 

 1998年、日本に上陸したBETAにより蹂躙されたかつての帝都、京都に変わり日本帝国の新たな首都、政威大将軍の新たな御膝元となった都市。だが、その新たな帝都の命運も、移転から半年も経たないうちに風前の灯となっていた。

 西日本を蹂躙し、旧帝都京都を壊滅させたBETAの大軍勢は、佐渡島、横浜へと己が巣であるハイヴを建設、帝国の領土の約半分、関東から西方面一帯は魑魅魍魎の跋扈する草一本生えぬ荒野へとなり果てたのだった。

 無論帝国とてBETAの侵攻をただ指をくわえて見ていたわけではない。帝国は国土を侵略するBETAに対して戦術歩行戦闘機、通称『戦術機』をもって対抗、迎撃を試みた。 

 しかし、敵は無限の物量を誇るBETA、途切れることなく出現する魑魅魍魎の軍勢の前に帝国軍は押しつぶされ、結局本土にBETAの巣を二つ造らせる事を許す事となってしまった。

 今では建造されたばかりの横浜ハイヴから次々と出現するBETAを横浜駐屯地に駐屯する国連軍と共に間引いて帝都への侵攻を妨害する程度の事しか出来ず、根本であるハイヴの攻略には何時まで経っても着手する事が出来ない有様であった。

 目の前に全ての元凶があるにもかかわらず、それを取り除く事はおろか、触れることすらできない…。帝国にて生き残った全ての臣民、そしてそれを束ねる政威大将軍はその事実と明日をもしれぬ我が身を嘆き、歯噛みしていた。

 

 そんな恐怖と屈辱の日々が今日、粉々に砕け散ると言う事を知らずに…・。

 

 

 

 

 

 

 帝都東京、帝国斯衛軍本営にて…。

  

 政威大将軍守護を任とする帝国斯衛軍がBETA侵攻から帝都を守護するために置かれた基地、そこにある大型のモニターが幾つも設置されている一室。

 そこは帝国内へと造られた横浜ハイヴと佐渡島ハイヴ、そしてそこから湧き出てくるBETAを独自に監視するために設置されたモニター室。10人以上の職員によって24時間体制でBETAを監視し続けるそこに、斯衛軍の物とは異なる日本帝国陸軍専用の軍服を纏う眉間から左ほほへとまっすぐに走る傷跡が特徴的な壮年の男がジッと帝都へと建設を許してしまったBETA共の巣窟の映像をただ黙って眺めていた。

 

 彼の名前は帝国陸軍中佐、巌谷榮二。かつて帝国斯衛軍専用戦術機『瑞鶴』開発に置いて大きな役割を担った伝説的な衛士であり、今でもなお帝国陸軍内においてその戦術機操縦技術においては右に出る者はいないとも言われている人物である。

 斯衛軍でも無い彼が今この場にいる理由、それは瑞鶴に替わる帝国斯衛軍専用戦術機の開発のためであった。

 瑞鶴は第1・5世代機、いかにパイロットの腕が反映される戦術機といえど第2世代、第3世代戦術機との性能差に関しては如何ともしがたいものがある。故に斯衛軍では至急瑞鶴に替わる第3世代機の開発が急がれており、今回巌谷中佐が陸軍から招かれたのも、かつて帝国斯衛軍専用機開発に貢献したと言う功績を買われたが故であった。

 そして1998年、斯衛軍専用第三世代機『武御雷』の試作機が完成、その後の京都防衛線において国産第3世代機『不知火』を上回る戦果を上げる事となった。

 だが、武御雷は不知火を上回る性能と圧倒的な近接戦闘能力とは引き換えに、その整備性と生産性は瑞鶴と比較してより劣悪な物となってしまい、今回巌谷中佐が斯衛軍本営を訪れたのも、上層部とそれを協議する為でもあった。

 とはいえ斯衛軍からすれば高性能ならば少々の整備性や生産性の悪さなど関係無いとの考えらしいが…。幾ら必要経費といっても限度があるだろうにと、巌谷中佐は深々と溜息を吐いた。

 そもそも折角第2世代機の陽炎、第3世代機の不知火という瑞鶴をも上回る性能の機体がありながら、斯衛軍の連中は変なプライドを持って今となっては旧式の瑞鶴にこだわっていた…。余計なプライドなど持たずに最新鋭機に機体変更していれば京都防衛戦でもあれほどの死者を出さずに済んだかもしれないものを…。巌谷中佐は心の中で愚痴を呟く。

 武御雷の事だけではない、今現在祖国日本帝国を襲う驚異の事を考えると嫌がおうにも暗欝とした気分になってしまう。

 今や敵BETAの本拠地であるハイヴは、帝都の目と鼻の先にある。これはもはや喉元に短刀を突き付けられているのと同じ事であり、今は国連軍、帝国軍との合同による間引きによってハイヴ内のBETAの数を間引いて凌いではいるものの、これも所詮は応急処置のようなもの、いつまで続くかは分からない。

 今や帝国では新帝都東京を放棄して仙台へと移転する計画すらも立てている始末、帝国臣民だけでなく、帝国陸軍、上層部、果ては勇壮を旨とするこの帝国斯衛軍内部にさえも帝国の滅亡を予感する者が出てきているのが現実だ。

 もっとも今のこの状況を見れば無理も無い話であり、巌谷中佐も彼等を責める気にはなれない。無論、自身の目の前でそのような話をしたならば不謹慎であると叱責はするが…。

 それ以上に彼が心を痛めているのはそのBETAとの戦争に駆り出され、戦場に散っていく数多くの若者達のことである。BETAの侵攻に伴い徴兵年齢が引き下げられ、今ではもはや20にも満たない少女達まで戦場へと送られる事となってしまった。

 この身は将軍殿下と日本帝国臣民を護る盾となり戦場の露と消えると覚悟を決めた自分達日本帝国軍人ならばともかく、まだ未来のある、これからこの国の未来を背負って立って行かなければならない若者達をその未来を容赦なく摘み取ってしまう死に場所へと送らねばならないという現実に、常々己自身歯噛みをしていた。それはこの場に居る誰もが、否、帝国軍全員そして彼等が主と仰ぐ政威大将軍殿下もきっと自らと同じ気持ちを抱いているであろう。

 かの九州でのBETA上陸阻止作戦でも、旧帝都京都防衛戦においても、己達の力不足で多くの若者達の命を散らせてしまった。京都防衛線には、まだ年端も行かぬ己の親友の娘も参戦していた。幸い命は助かったものの、多くの学友たちの死を目の当たりにした結果、今でも癒える事の無い深い心の傷を負ってしまう事となった。

 巌谷中佐は疲れ切ったように溜息を吐いた。どうにも最近はネガティブな思考ばかりが浮かんで仕方が無い。

 もう陸軍本部に戻るか…、と、モニター室を後にしようとした瞬間…。

 

 「はい、こちら帝国斯衛軍……、……何ですって!!横浜目がけて未確認飛行物体が接近中!?」

 

 突然周囲に響き渡った職員の大声にその場から立ち去ろうとした巌谷中佐も思わず足を止めてしまう。見ると周囲の職員もモニターを見ながら何やらざわついており、どうもただ事ではない様子であった。

 

 「…何事だ!!一体何があった!!」

 

 「ッハ!!硫黄島沖より横浜目がけて飛行物体らしきものが高速で接近中との報告が硫黄島駐屯地からの報告が入りました!!現に対空レーダーにもそれらしき物体が確認されていますが、航空機かどうかは不明です!!」

 

 「!?飛行物体だと…?帝国領土に迷い込んだ何処かの国の飛行機か何かか…?…映像は出ないのか!?」

 

 「只今解析中です!!」

 

 慌ただしく飛行物体の映像解析へと移る職員達、彼等を眺めながら巌谷中佐は難しい表情で左ほほの傷跡を撫でる。

 BETAによって航空兵力を無力化された現在でも、他国への移動、物資の輸送と言った役割で航空機を用いる国は多い。無論ハイヴ上空、あるいはBETA活動領域での航行は危険極まりないものの、海と海とに隔てられた国家、あるいは島国との間を行き来するには未だに用いられている。

 しかしそれにしても突然航空機が出現すると言うのは不自然だ。硫黄島所有の輸送用航空機かヘリかとも考えたが、それなら先方から陸軍あたりへそれだと連絡が行くはず、未確認飛行物体だ何だと言ってくるはずが無い。

 ではどこぞの国の戦闘機か何かか、それもあり得ない。今何処の国もそんな物を飛ばしている余裕は無いはず。戦術機が主流の現代でそんな物を造る国等今では何処にも無い。精々が物資輸送用の航空機程度だろうがそれでもこちらにフラフラ迷い込むことなど考えられない。

 ならば飛行能力を得た新種のBETAか…?だがユーラシアを拠点に活動しているBETAがわざわざ硫黄島経由で、しかも硫黄島に特に被害も与えずにまっすぐここに来るだろうか…、それに飛行能力を持つBETAが存在するのならば既に確認されているはず…。

 頭の中で考えうる限りのありとあらゆる可能性を考える物の、さっぱり答えは出ない。 

 眉を顰めてまるで闘犬の如く唸り声を上げる巌谷中佐。と、突然その耳に現場職員の素っ頓狂な声が聞こえてきた。

 

 「い、巌谷中佐!!え、映像が………ええ!?な、何だこれは!?」

 

 「どうした!!一体何が映って……なあっ!?」

 

 突然素っ頓狂な声を上げた部下に釣られてモニターに表示された映像を見た巌谷中佐、瞬間、彼は部下と同じく映像に写されたソレの姿に思わず絶句してしまった。

 モニターに映されているのは一面の大海原、その上に広がる空の上に、あまりにも信じがたいモノが映っていたのだ。

 それは、蒼い光を放ちながら高速で回転して飛行する謎の物体、まるでどこぞのSF小説に出てくる空飛ぶ円盤の如き飛行物体であった。

 いや、現在進行形で宇宙生物に攻め込まれている現状、正直宇宙人等うんざりするほど見飽きているのだが、流石に豪胆な巌谷中佐も空飛ぶ円盤は生涯一度も見た事が無く、モニターを眺めている職員達と同様唖然とした表情で空飛ぶ円盤を凝視していた。

 

 「こ、これは……、火の玉、か……?」

 

 「いえ、むしろ、空飛ぶ、円盤かと……。あの、どう、報告すれば……?」

 

 「お、俺に聞くな……。いや、これは、上になんて言ったらいいんだ……?」

 

 正直に空飛ぶ円盤が攻めてきました、等というわけにもいかず、巌谷中佐は途方に暮れるのであった。

 

 

 国連軍SIDE

 

 

 『ちくしょおおお!!!この虫けら共がああああ!!!ミンチにしてやらァアアアア!!』

 

 『クソッ!!これだけ潰したと言うのにまだ出てくるか!!全く物量だけは本当に大したものだな!!』

 

 『た、隊長!!こんな状況でそんなのんきなっ!!』

 

 ここは横浜ハイヴ。佐渡島ハイヴに続いて日本本土に建設を許してしまったBETAの巣窟の一つ。中には数万数十万にも及ぶBETAがひしめき合い、内部へと侵入してくる侵入者をその圧倒的な物量に任せて押しつぶしている、まさに鉄壁の要塞である。

 その人間の手の及ばぬ魔境とも呼べる世界、その入り口ともいえるそこで、三機の人型のロボットが迫りくる無数のBETAへ向かって銃弾を叩き込んでいた。

 国連軍の所有する戦術機の一つであるF-15Cイーグル。それがその人型ロボットの正式名称であった。

 彼等は国連軍の兵士、その任務はただ一つ、横浜ハイヴ内から湧き出てくるBETAの間引きである。

 元々ハイヴのBETA収容数には限界がある。故に生み出されたBETAの個体数がハイヴの許容量を越えてしまった場合、BETAは新たな場所で己達の住処たるハイヴを作り出す。無論その進路上に存在するもの全てを喰い尽くして、だ。

 己の進行を阻む者、阻まぬ者区別無く喰らい、蹂躙していくその様はまさに蛮行と称するに相応しい。このような行為を人類が黙って見ているわけも無く、過去幾多のBETAへの対抗策を考案し、打ち出してきた。その成果の一つがこの戦術歩行戦闘機、すなわち『戦術機』である。

 光線属種によって制空権を奪われた人類が手にしたBETAを倒す為の刃であり盾。立体的な高速機動性、多様な併走を利用できる汎用性、継続的な戦闘力を実現した対BETA戦における人類の切り札。だが、それでもなお敵の数の暴力には抗えず、世界各国で人類は敗北、遂には世界中に20以上のハイヴを建造させる羽目となってしまった。

 ハイヴには数十万を越える多数のBETAが生息しておりこの完成したばかりの横浜ハイヴでさえ、未だに攻略できずにいる。今日本帝国に出来る事といえば、ハイヴがこれ以上建造されぬよう、帝国軍と極東国連軍の合同でハイヴ内のBETAを間引く事のみであった。

 このF-15C三機もまたその『間引き作業』を行っていたのであるが、予想以上に多数出現したBETAの軍勢に既に押しつぶされる瀬戸際となっていた。

 

 『クソッ!!こりゃ本気でヤバいな!!止むを得ん!!すぐに撤退を…』

 

 『た、隊長!!間に合いません!!このままじゃ突撃級にひき潰される!!』

 

 『ガタガタ騒ぐな!!死にたくなかったら黙って逃げろ!!』

 

 跳躍ユニットを吹かしてその場から離脱するF-15C三機、だが、突撃級の突進する速度はBETAの中でも最速の時速170㎞。いかに機動性重視の第二世代機であろうともジリジリと距離を詰められていく。

 

 『す、すみません隊長!駐屯地より連絡が!!何やら未確認飛行物体が接近中だとか…』

 

 『未確認飛行物体だと!?そんな物どうでもいいわ阿呆!!こちとらそれどころじゃ…』

 

 何やら余計なことを抜かす部下に怒鳴り声を張り上げるF-15Cパイロットであったが、その叱責は最後まで紡がれる事は無かった。

 突然彼等の頭上が陰り、それと同時にジェット噴射を思わせる音が聞こえてくる。しかもそれは、段々とこちらに近付いてきているのだ。

 

 『……へ?』

 

 一体何が、と思わず頭上を見上げる衛士達。瞬間、彼等の顔は一気に驚愕に歪んだ。

 空に浮かんでいるのは巨大な円盤のような物体、しかもそれはまるで扇風機か何かのように青白い光を放ちながらグルグルと高速回転している。

 突然出現した空飛ぶ円盤、その姿に唖然としていた衛士達であったが、すぐさまハッと我に返る。今自分達はBETAから撤退している最中、このままでは突進してくる突撃級に踏みつぶされる…!!慌てて再度跳躍ユニットをふかそうとするが、もう既に突撃級の群れはすぐそこまで迫って来ており、もはや間に合わない。

 

 やられる―!!この場に居る三人の衛士の誰もが死を予感した。

 

 が、突撃級の突進が、彼ら三人に襲いかかる事は無かった。

 それもそのはずである。空中を浮遊していた巨大な空飛ぶ円盤?らしき物体が、突如として回転を停止するや否や、侵攻するBETAの軍勢の頭上目がけて落下してきたのである。

 円盤?が落下した瞬間、落下地点を中心に地面が割れた。

 否、割れたどころの話ではない。大地そのものの地盤がその質量に耐えられず粉砕され、“大地が裏返ったのだ”。

 

 『グッ!?』

 

 『ばッ!!じ、地震か何かかよ!?』

 

 『ち、畜生!!戦術機の、バランスが!!』

 

 円盤?の墜落によって発生した振動に、戦術機もバランスを崩して地面へと墜落してしまう。コクピット内で警告音が鳴り響く物の衛士達はそんな物を気にしている余裕などもはや無かった。

 破砕された岩盤は次々とBETAの軍勢を飲み込み、全てを物いわぬ躯へと変えていく。そこには己達を踏みつぶそうとしていた突撃級の群れも居た。不幸中の幸いというべきか己達は何とか距離を離していたおかげでBETAとの心中だけは免れたようだ。最も振動と共に飛んできた瓦礫のせいで愛機には多少なりともダメージを負ってしまったが、それでも連中に喰われるよりはマシだったと言わざるを得ないだろう。

 円盤らしき物体が墜落した場所からは朦々と土煙が立ち上り、まるで煙幕か何かのように衛士達の視界を遮っている。

 戦術機の脚部を起動させて何とか立ち上がり、噴煙へと目を凝らす。一体何が、一体何が落ちてきたのか…。

 新手のBETAか、米国の新兵器か、それとも………。

 

 その瞬間だった…。

 

 『グルルルアアアアアアアアオオオオオオオオンンンンンン!!!!!』

 

 咆哮が、世界そのものを揺るがすかのような大咆哮が戦場に響き渡った…!!

 

 天地そのものがひっくり返りそうな裂帛の大咆哮、それと同時に煙が晴れ、姿を覆い隠していたソレが、遂に姿を現した。

 その姿は巨大で、二足歩行をしているところを除けば現実に存在するハ虫類、亀に酷似していた。身体を覆う甲羅と甲羅から飛び出した首に両腕両足、まさに亀そのものと言っても良いだろう。

 だが、現実世界の亀とは違い、そいつは人間と同じく二本の脚で大地に立ち、口にはまるで伝承に出てくる鬼の如く鋭い牙が一対剥き出しに生えており、そして何よりデカイ!!現在この世界で確認されたBETAを除くありとあらゆる生物をも上回る程巨大な背丈…!!目測では100メートル近くはあるであろうそんな巨体を持つ生物等、この場に居る衛士達は知らない…!!唯一BETAの要塞級がコイツと比肩しうるだろうが、この怪獣にはBETAにはない何らかの知性、そして生命力とも言えるであろう躍動を感じるのだ。

 

 怪獣は唸り声を上げながら一歩前へと足を踏み出す。と同時に生き残ったBETAの群れの中から幾筋もの閃光が怪獣へと照射された。

 光線属種のレーザー照射、かつて人類の制空権を一瞬で奪い去った悪魔の閃光が、怪獣の巨大な体躯へと次々と突き刺さっていく。

 

 (ん?レーザーで攻撃されている…?アレはBETAではないのか…?)

 

 光線属種の攻撃を受ける巨大な怪獣、その姿を見て国連軍の兵士達はふとそんな事を考える。

 光線属種のBETAのレーザーは驚異的な射程と威力、そして絶対に外すことなど無いと言ってもいい程の命中率を誇っている。だが、同時に何故か死体などを除く他の味方BETAを誤射する事も絶対に無いのだ。

 故に衛士は光線属種を掃討する時は『味方を誤射しない』という点を逆手にとり、他のBETAを盾にして接近して叩くと言う戦術を基本としている。

 この巨大な怪獣は光線属種からの攻撃を受けている。味方は絶対誤射しない光線属種の攻撃を受けていると言う事は、この巨大な亀型の怪獣は少なくともBETAではないと言う事になる。かといって人類の味方と決まったわけでもないが…。

 巨大な亀目がけて照射される無数のレーザー。ただの一撃で戦術機をも溶解させる死の閃光が次々と巨亀へと叩きつけられる。

 その数は数十、否、数百にすら及ぶだろう。地上に展開された全光線級及び重光線級から発射される光の奔流、超高空から爆撃を仕掛ける爆撃機すらも撃ち落とし、一気に人類から制空権を奪い去った閃光の槍の一斉射撃、それをかわす事も出来ずにただ受け止める巨亀、その姿を見た誰もが、巨亀の死を確信した。

 

 

 

 だが、レーザーの雨がやんだ瞬間、彼等の表情は驚愕に歪むこととなった。

 

 

 

 巨亀は、命中したもの全てを溶解させ、消滅させるレーザーを立て続けに浴びていたはずの巨亀は、まるで何とも無いかのように平然とその場に立っていたのである。

 レーザーの豪雨を受け止めきった巨亀は、目の前の虫けらの集団を睥睨しながらその剣山の如き牙が並ぶ口を開き、大きく息を吸い込み始める。

 急激に巨亀の口内へと吸い込まれていく膨大な量の空気、その影響で空気の流れに乱れが生じ、巨亀の周囲でさながら竜巻でも起きたかのような突風が吹き荒れ始める。

 

レーザーのエネルギーが充填完了し、再び全光線属種のレーザーが放たれようとしたその瞬間……!!

 

 『ゴアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 咆哮と共に巨亀の口内から、太陽と見紛うばかりの灼熱の火球がBETAの軍勢目がけて発射された。

 

 火球はそのままBETAの軍勢のど真ん中へと着弾、そのまま空気を引き裂くかのような爆音と共に爆発し、紅蓮の炎で地上全体を一瞬で燃やし尽くす。

 その業火は地表を覆い尽くすBETAを次々と飲み込んでいき、その肉を、その細胞を、果てはその原子に至るまで燃やし尽くし、その場に存在していたと言う痕跡すらも残しはしない。

 そして、炎が晴れた時、地表に展開していた3万ものBETAの軍勢はどこにも存在していなかった。小型、大型問わず一匹残さず焼き尽くされ、地面には彼等の残骸とも言える黒い燃えカスのみが、炎がくすぶる地上に残されているのみであった。

 一瞬で消え去ったBETAの軍勢、今の今まで自分達を苦しめていた蟲共が一撃で消し飛ぶ様を真近で目撃した国連軍の衛士達は、今まで撤退しようとしていた事を忘れて唖然としていた。そんな彼等を尻目にBETAを始末した巨大怪獣は、まるで勝ち鬨を上げるかのように再び大地を揺らす咆哮を轟かせるのであった。

 

 

 

 ガメラSIDE

 

 

 

 『グルルルルルル……』

 

 目の前で炎上する無数のBETA、己がずっと待ち望んでいたその光景を巨大な亀の姿の怪獣、ガメラは何の感慨も無く眺めている。数万の群れで襲いかかって来たBETAの軍勢は今、己の放った烈火炎『ハイ・プラズマ』によって一瞬で焼き尽くされ、跡形も無く消し炭となっていく。

 

プラズマ火球、体内で造り出し、貯蔵されているプラズマエネルギーと酸素を喉のチャンバーに置いて融合・圧縮する事によって強力な電離作用が発生、凝縮されたエネルギーを火球として発射すると言う超放電現象。万物を瞬時に炎上させるガメラの象徴ともいえる技である。そして、そのプラズマ火球を熱エネルギー、あるいは酸素の吸収によってさらに強化、通常の120%以上の出力で標的へと発射するのがハイ・プラズマである。

その破壊力は凄まじく、ただの一撃で敵怪獣を吹き飛ばし、進化すれば街の広範囲を根こそぎ焼き尽くす事も可能なレベルにまで達する。

今のガメラはまだ目覚めたばかりであり、エネルギー不足と進化が進んでいないという理由から、ハイ・プラズマも自力のみでは軍団規模のBETAを根こそぎ吹き飛ばせるほどの威力は今はまだ引き出す事は出来ない。それがこうして奴等を一網打尽に出来る理由、それは皮肉にもガメラを攻撃していた光線属種BETAのお陰であった。

 

 ガメラのエネルギーは熱。炎、石油、核エネルギー等の熱を発する物質を己のエネルギーへと変換する事が出来る。そして、それは光線級の発射するレーザーすらも例外ではない。照射されたレーザーはガメラの身体へと命中した瞬間に吸収され、ことごとくガメラのエネルギーにされてしまう。そしてそのエネルギーはプラズマ変換炉でプラズマエネルギーへと変換され、火球を精製するのに用いられるのだ。

 このような特性から結果的に光線級や重光線級ではガメラを傷つける事は適わない。これがかのГ標的こと超光線級の高出力光線であったのならば『今のガメラ』に手傷の一つを与えることも出来たかもしれない。が、生憎とそのBETAが出現するのは今より三年後の未来の話、この横浜ハイヴ、否、世界中どこのハイヴにも存在しえない。

 故にこの世でガメラを傷つけられるレーザーは皆無、先程レーザーをわざわざ受けたのも、『避ける必要が無い事』、そして、『ハイ・プラズマのエネルギーを稼ぐ為』にワザと受けていたに過ぎないのだ。

 

 『グオオオオオオオアアアアアアオオオオオオオンンン!!!』

 

 さながら勝ち鬨を上げるかのようにガメラは天に向かって咆哮する。だが、あまり勝ち誇ってばかりはいられない。第二陣のBETAの軍勢が、再びハイヴからわらわらと湧き出てくる。その数はおよそ5万、焼き尽くされて未だに炎がくすぶる大地を、再びBETAの大軍勢が埋め尽くしていく。

 自ら目がけて迫るBETAの大軍勢…、かつての己なら、はじめてこの世界を訪れた己だったならばこの光景を見ただけで失禁して戦意を喪失していただろうとガメラ、白銀武は苦笑する。

 だが、今の武、ガメラにはそんな恐れの気持ちは微塵も無い。それは、今の自分がBETAをも圧倒できる力を手にしている事だけではない。

 幾度ものループで、彼は何度も奴等と戦い、奴等を屠り、奴等に殺され続けた…。

 そんな地獄の中で、彼は戦友から、恩師から、上司から、愛する人から大切な事を学び、受け取り、受け継いできた…。

 それは彼等の、彼女達の鋼の意思、いかなる絶望にも屈さずに生き続け、生ある限り全力で戦い続けると言う熱い魂…。ただの一般人で、ただの学生であった自分がこの地獄とも言える世界のループで生き続け、戦い続けられた理由…、それは戦術機の腕があったからではない、大切な人達から受け継いできたこの『遺産』が、己の内に確かにあるから自分は戦えた、仲間達と一緒に桜花作戦を成功させられた、そして…、ここに立つ事が出来ている…。

 

 『だから…、もう俺は誰も殺させない…!!もう誰もテメエらに奪わせない…!!純夏も、冥夜も、委員長も、たまも、彩峰も、美琴も…!!皆の運命を、俺が変えて見せる、ブッ壊して見せる…!!だから……』

 

 白銀武は、ガメラは一歩前へと足を踏み出し、大地を埋め尽くして進撃する侵略者の群れを烈火の如き怒りを視線に込めて睨みつける。

 

 『かかってこい虫けら共!!俺が全部焼き殺して踏み潰してやるよ!!!』

 

 『グルルオオオオオアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオンンンンンン!!!!!』

 

 ガメラは大気が割かれんばかりの咆哮と共に口から灼熱の砲弾、プラズマ火球をBETAの先鋒、突撃級の群れ目がけて3発連続で発射した。

 灼熱の炎の塊は3発共に突撃級の群れの先頭へと命中、と同時に爆発し、灼熱の炎と爆風を辺りに撒き散らす。

 万物を原子ごと焼きつくす炎には、例え頑丈な甲殻を持つ突撃級といえども耐え切れずに爆散、最前列は灰も残さずに塵となり、最後尾の突撃級もその高温を浴びて瞬時に絶命、粉々の肉片となった末に爆風で後方へと吹き飛ばされた。

 粉砕された突撃級の破片はそのまま後方の戦車級と要撃級の群れに向かって飛んでいく。戦車級はそのまま破片の下敷き、あるいは肉片が激突してミンチとなり、要撃級も飛んでくる甲殻の破片や肉片に激突してしまい急停止、さらに最前列が突然停止した結果、後列の光線級及び要塞級は急停止させられてしまう。

 

 『ゴオオオオオアアアアアアアアア!!!!』

 

 進軍を妨害されて停止したBETAの軍勢に、ガメラが咆哮と共に迫る。突撃級の肉片から生き延びた戦車級を踏みにじり、要撃級は己の爪で、牙で、足で切り裂き、噛み砕き、踏みつけて全て嬲り殺す。性懲りも無く光線級、重光線級はガメラ目がけてレーザーを照射してくるが、結局ガメラに新たな火球の燃料を与えるだけの結果となり、再度発射されたプラズマ火球三連射で全光線属種は消し炭と化した。

 残るは己に最も近い巨体を誇る大型BETA、要塞級。先端の鋭利な十本足で緩慢に動きながら己に迫る巨体が、合計3体。ガメラへと接近した要塞級の集団は、目の前のガメラ目がけて触手の先端に生えた鋭い衝角を叩きつけてくる。衝角は強酸性の体液をまき散らし、ガメラの身体に次々と突き刺さる。衝角の硬度はダイヤモンドを上回り、さらに体液は戦術機のコクピットすらも容易く溶解させる。前のループにおける佐渡島ハイヴ攻略戦、『甲21号作戦』において、武と同じA-01隊員であった柏木晴子がこの衝角の餌食となって非業の最期を遂げている。 

 そんな衛士にとって、戦術機にとって致命の一撃とも言えるそれが、次々とガメラの身体に突き刺さる。

 モース硬度15というダイヤモンドすらも遥かに上回る硬度の衝角はガメラの皮膚を切り裂き、撒き散らされた強酸性の体液が傷口を焼き、肉を溶かしていく。

 だが、ガメラは動かない。痛みに呻く声も上げない。まるで、衝角を叩きつけられた痛みそのものを感じていないかのように…。

 

 『……こんなものか?』

 

 ガメラは唸り声を上げながら自分の腕に刺さった衝角の一本を鷲掴みにする。鋭利な衝角がガメラの掌に食い込むが、ガメラはそれに構わずさらに力強く、まるで衝角そのものを握りつぶそうとするかのように強く握りしめる。

 

 『こんな程度の一撃で…!!柏木は…!!死んだのかああああ!!!!』

 

 ガメラは怒りの咆哮を上げながら握りしめた触手を思い切り振りあげた。瞬間、要塞級は空へと一瞬フワッと舞い上がると次の瞬間には地面に思い切り叩きつけられた。固い岩盤に思い切り叩きつけられた要塞級は、その身を砕かれ、大地に紫色の大輪の花を咲かせる。残る二体の要塞級は急ぎ触手を収納しようとする、が…。

 

 『グルオオオオオオオオアアアアアアア!!!』

 

 その前にガメラは己に突き刺さった触手全てを鷲掴みにすると、力任せに触手を要塞級から引き千切った…!!触手を根元から引き千切られた要塞級二体は、胴体から紫色の血を垂れ流しながらも身体をよろめかせる。ガメラはその隙を見逃さない。先程引き千切った鋭い衝角の生えた要塞級の触手二本、それを力任せに一頭目の要塞級の頭部目がけて振り下ろした。

 ダイヤモンドを上回る硬度の衝角は、あっさりと要塞級の頭部をズタズタに引き裂き、瞬時に絶命させる。ガメラは触手を投げ捨てると最後の要塞級へと接近、その頭部を鷲掴みにすると凄まじい握力でそのまま握りつぶした。

 頭部を潰され、そのまま地面へと崩れ落ちる要塞級。その巨体を見下ろしながら、ガメラは左手にべっとり付いた紫色の血液をふるい落とす。

 

 『柏木……』

 

 そして思い出す、前のループで出会い、そして共に戦った彼女の事を。飄々として掴みどころのない性格だけど、本当は誰よりも仲間思いで、そして己の兄弟の事を大事に思っていた少女の事を…。

 

 『大丈夫だ、お前も、お前の弟達も死なせない…。全部、BETAは全部俺がぶっ潰す…!!』

 

 そして、すぐに前を向く。そこには既に先程全滅させたBETAをさらに上回る数の軍勢が出現しようとしている。

 休んでいる暇は無い、ガメラは直ぐに戦闘態勢に入る。まだこの程度ではハイヴ内のBETAは空にならない。

 ハイヴの中にはまだ純夏が、それからもしかしたらこの世界の白銀武もまた生き残っているかもしれない。マナの流れを読み取ることで彼女達の居場所が分かると己の中の『ガメラ』は言うものの、それでも下手に内部でプラズマ火球をぶっ放そうものなら彼女達まで巻き添えにしかねない。 

 故にハイヴ内では火球は使用できない。だがただでさえ今の身体に完全に馴染んでいないというのにこの上最大の武器であるプラズマ火球を封じた状態で彼女達を救出できるかどうかというと……、正直ガメラも難しいと考えている。

 ならば何とかハイヴ内のBETAを根こそぎ引きずり出し、一匹残らず殲滅するしかない。幸い地上に展開している連中を片っ端から潰していれば勝手に向こうから出て来てくれる。既に光線属種のレーザーが自身の脅威でない以上、もはや奴らなど敵ではない。

 

 ならばもはや恐れることなど何も無い…!!ただ目の前の敵を一気に殲滅するのみ…!!

 ガメラは雄たけびを上げながら両足を引っ込めるとジェット噴射で空へと舞い上がる。

 レーザー以外のBETAの攻撃が届かぬ上空を飛ぶガメラは、地上を這いまわるBETAへとプラズマ火球を雨霰と降らせて爆撃する。密集していたが故に爆撃を避けられず、小型級ならば1000、中型、大型でも纏めて100は消し飛ばす灼熱の爆発、光線属種もレーザーで迎撃するが、当然そんな物でガメラを撃墜できるはずも無く、ただ何も出来ずにそのまま消し炭となっていくだけであった。

 

 『グルルルルルルオオオオオオオオアアアアアアアアアアオオオオオオンンンンン!!!!』

 

 ガメラは怒りの咆哮を上げ、地上の生命を喰い荒らす寄生虫共の渦巻く大地を焦熱地獄へと変えていく。その姿はまさしく、己に敵対するもの全てを壊す“破壊神”そのものであった。

 

 




 ちなみにこのガメラの姿は『ガメラ 大怪獣空中決戦』のものです。まだ目覚めたばかりですし。

 参考までに身体データを。
 
 体高約80メートル
 甲羅長径60メートル
 甲羅短径40メートル
 体重一万二千トン
 飛行速度、マッハ3.5
 水中潜航速度1.8ノット

 まあ大体原作と同じ………え?体重が本家より重すぎる?
 いやだって原作だと軽すぎるだのなんだの言われてるし、じっさいはこれくらいあるかな~って思って…?
 よくよく考えたらガメラってBETAと比較的相性がいいような…。
 レーザーも熱エネルギーだから片っ端から吸収できるし、最悪空から火球で爆撃すれば一方的に戦えるし…。……ハイヴ内はそう簡単にはいかないだろうけど。
 

 

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