Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 いつのまにやら読者数1万越え、お気に入りが90越えに…。我ながら少々びっくりです…。このサイトじゃあガメラ二次創作なんてそうそう見ないのに…。やはり特撮のファンの方も意外の多いのか?


第4話 改変

 国連太平洋方面第11軍・横浜国連軍暫定基地。

 横浜に建設されたハイヴへの対処の為に横浜沿岸部に急遽建設された国連軍の軍事施設。

 そこにあるとある一室にて、国連軍の制服の上に科学者か医者が着るような白衣を羽織った一人の女性が一人書類が山積みされたデスクに向かい書類に何やら数式らしきものを書き込んだりブツブツ呟きながら書類をグシャリと丸めてゴミ箱へと放り込んだりしている。その眉間には彼女の妖艶さすら感じさせる美貌には似合わない程深い皺が寄っており、今の彼女が大層不機嫌であると言う事を如実に示している。

 女性の名前は香月夕呼。この横浜暫定基地の副指令にして、BETAとのコミュニケーション方法を模索するプロジェクト、オルタネイティブ4の最高責任者である物理学者である。

 オルタネイティブ4、地球外生命体BETAとのコミュニケーションを図る為の計画、オルタネイティブ計画の第4計画。その骨子は量子電導脳を搭載した非炭素系疑似生命体『00ユニット』によるBETAとのコミュニケーション及び情報入手である。

 元々オルタネイティブ計画とは、当時火星で発見された生命体、歴史上初めて発見された地球外生命体とのコンタクト、交流を図る事を目的として設置された12人の世界的権威による特務機関ディグニファイド12が起源である。しかし、次第にBETAの正体が人類に敵対的な生命体であると言う事が判明し、研究は世界的規模へと発展、1966年にオルタネイティブ第一計画が発動された。

 しかしながらオルタネイティブ1はさしたる成果もあげられぬまま1968年破棄、続く第二計画ではBETAを鹵獲してコミュニケーションを試みるものの、結果的に判明したのはBETAが地球上の生物と同じ炭素系生物だと言うことのみ、続くソ連主導の第三計画では人工ESP発現体によるBETAの思考リーディングが行われたものの、それで判明した事は『BETAには思考が存在する事』と『BETAは人間を生命体とみなしていない事』の二つだけであった。

 そして第三計画の成果を摂取して発動されたオルタネイティブ4ではあったが、その現状ははっきり言って芳しく無く、責任者の夕呼もそれが原因で苛立っているのだ。

 その理由はただ一つ、計画の骨子である00ユニット、その中枢とも言える量子電導脳が中々完成しないのだ。

量子電導脳、それ一つで半導体150億個分とも言える驚異的な情報処理能力を持つ量子コンピューターは、夕呼自身が編み出した理論、『因果律量子論』に基づいて設計される代物であるのだが、その量子電導脳を構築するための理論が、未だに完成しない。否、理論自体は完成しているはずなのに量子電導脳を構築するまでには至らないのだ。理論そのものが間違っているのか、それともこの理論だけでは足りないのか不明だが、とにかく夕呼が編み出した理論では量子電導脳を構築する事が出来ないのだ。

 このままでは00ユニットはいつまでたっても完成せず、オルタネイティブ4は国連決議の名の下に破棄される事となってしまう…。焦りと苛立ちに夕呼は歯ぎしりをしながら目の前の紙に羅列された数式を睨みつける。

 と、突然ドアを規則正しくノックする音が聞こえてくる。夕呼は苛立たしげにドアへと視線を向けると「……誰?」と感情を込めずに問いかける。

 

 『香月博士、お忙しいところすみません。失礼してもよろしいでしょうか?』

 

 「…ん、いいわよ。入ってきなさい」

 

 夕呼の許可が出てドアが開かれると、国連軍の軍服を着たポーランド人の女性、国連軍臨時中尉にして夕呼付きの秘書であるイリーナ・ピアティフが部屋へと入ってくる。

 

 「……ん、何か報告?」

 

 「はい、硫黄島駐屯地より緊急回線が入りました。硫黄島沿岸で未確認飛行物体が出現、横浜目がけて飛行中との事です」

 

 「未確認飛行物体?……ふーん、あっそう。そんなのそっちで勝手に処理しといて」

 

 己の秘書の報告を夕呼は興味無さそうに聞き流して、要件は終わったとばかりに手をひらひらと振る。イリーナ臨時中尉はそんな上司の姿に特に機嫌を悪くした様子も無く、軽く一礼をするとそのまま夕呼の研究室から出て行った。

 ドアが閉まる音が響くと同時に夕呼は疲れ切った顔で深々と溜息を吐いた。

 

 「…飛行物体?こっちは今それどころじゃないのよ。ったく…、高々半導体150億個を手のひらサイズに収めるってだけなのに…、何でこんなに手間取る羽目になるんだか…」

 

 天才天才と持て囃されながらもその程度の理論も構築できない事に夕呼は苦々しげに顔を歪める。横浜にハイヴを建設された以上もはや猶予など無いに等しい。帝国軍、斯衛軍、国連軍の三軍が何とか外から漏れてくるBETAを間引いてはいるものの、何時までもそんな事が続けられるはずが無い。それだけではない、首都撤退の際に一方的に日米安保を破棄した米国が事此処に至って共闘を打診してきている。

 あの国が何の得も無しに協力してくるとは思えない…。恐らく例の新型爆弾の公開実験でも行おうと目論んでいるのだろう。大戦末期にベルリンに原爆を落とした時のように横浜ハイヴに新型爆弾を投下し、その威力実験と大国への示威行為でもするつもりなのだろう。

 そして新型爆弾によってハイヴが無事殲滅させられたのならばオルタネイティブ計画を強引に第5計画へと移行させて………。

 

 「…あ~!!もーダメダメ!!考えれば考える程ネガティブな発想ばかり浮かんでくるわ!!これじゃあ理論もクソも浮かばないわよったく!!もう何でもいいからこのネガティブな思考もろとも横浜ハイヴを纏めて吹っ飛ばして………『ドオオオオオオオオオオオオン!!!!』っておおおおおお!?」

 

 イライラが遂に頂点に達した夕呼が机に山と積まれた書類をぶちまけながら立ちあがった瞬間、突如爆弾が炸裂したかのような爆音が響き渡り、思わず身体をよろめかせて床に尻もちをついてしまった。

 

 「なっ、い、一体何が起こったって言うのよ!!……まさかテロ!?オルタネイティブ5派工作員の…!?……でもだからといってこんな分かりやすい……」

 

 動揺していたのもつかの間、夕呼はすぐ冷静さを取り戻すと先程の爆発の原因を探って脳をフル回転させ始める。テロか、何かの事故か、はたまた横浜ハイヴから溢れたBETAの襲撃か…!!

 …と、突然ドアの向こう側からバタバタと誰かが走ってくる音が研究室へと近付いてきたかと思うと、ドアが勢いよく開かれた。そこに居たのは先程未確認飛行物体が横浜に接近中と夕呼に報告したイリーナ臨時中尉。今の彼女は先程とは一転して額に汗して呼吸を荒げ、いかにも全力疾走してここまで来たと言った風体であった。

 そんな彼女の様子に夕呼の眼差しが厳しくなる。やはりこの基地は何者かの襲撃にあったのか…。BETAであれ工作員であれ何でこのタイミングに…!!

 そう考えた夕呼、だったが………天才的な頭脳を持つ彼女の予想は外れていた。盛大に外れていた。

 

 「こ、香月博士!!緊急事態です!!横浜ハイヴに巨大生物出現!!地表上のBETAを次々と殲滅中!!」

 

 「………なんですと?」

 

 予想外の報告に、あまりにも予想の斜め上の報告に思わず唖然としてしまう夕呼であった。

 

 

 

 白銀武、鑑純夏SIDE

 

 

 ガメラ復活から遡り、横浜ハイヴが建設開始された頃の横浜市内にて…。

 

 「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

 「す、純夏頑張れっ!!絶対、絶対俺達だけでも生き延びるんだ!!」

 

 BETAの襲撃によって瓦礫の山と化した街並み、人気等全く無い廃墟の中を少年と少女が互いに息を切らしながら必死に駆け抜けていた。

 二人共歳はまだ15歳程度、このような時世でなければ中学を卒業して高校へと入学している頃であろうの年齢だ。少年はゼイゼイと息を切らしながらも少女の腕を引っ張って瓦礫と瓦礫の隙間を縫って走り続ける。

 

 少年の名前は白銀武、少女の名前は鑑純夏。二人共この街で共に生まれ、育った幼馴染であった。

 二人が生まれた頃には既にBETAの脅威は未だ日本にまで及んでいなかった。それゆえ二人は横浜で平穏な毎日を送っていた。

 娯楽の少ない世界であったが、それでも二人にとっては平凡な、それでも平和な日常を送れるだけでも幸せだった。通う学校で教えられる科目が変わっても、それでもこの平穏な時間が続くと信じていた、信じていたのだ………。

 

 

 

 あの時、BETAの日本上陸の知らせを聞くまでは…。

 

 

 

 九州から上陸したBETAは帝国軍の必死の抵抗にもかかわらず日本本土を蹂躙、九州全土に続いて四国、本州に上陸、ついには日本帝国首都、京都までもがBETAの圧倒的物量の前に陥落し、佐渡島にBETAの巣、ハイヴを作らせる事を許してしまうこととなった。

 崩れ去っていく平穏な日常、迫りくる危機、いつ来るかもしれないBETAの軍勢に怯える日々…。奴等の通り過ぎた後には文字通り草木一本残らない、人間は一人残らず殺される…。学校、新聞、テレビで幾度となく言われ続けた事…。

 もしもBETAがこの街に押し寄せたのなら、間違いなく自分達は殺される。あのでかい戦術機に乗って戦う衛士ですらも殺されているのだ、戦うすべを持たない自分達等、それこそ虫けらの如く殺されるに決まっている…。

 父も、母も、友達も、先生も、自分に今まで優しくしてくれた多くの人達も…。

 

 …そして、幼い頃からずっと自分の側にいた純夏も…!!

 

 …ふざけるな!!そんな事があってたまるか!!

 

 自分の大切な“日常”を、あんな訳の分からない宇宙人どもに壊されてたまるか!!

 

 純夏は俺が守る、どんな事があっても、必ず守って見せる…!!

 

 日に日に刻々と迫る異形の群れの足音を無意識に感じながらも、白銀武はそう心に誓ったのだった。

 

 …そしてついに、BETAの軍勢が横浜付近に接近中との知らせが入った。武と純夏は互いの両親と共に、陸軍の避難用トラックに乗り込んで安全な場所まで疎開するする事となった。

 トラックの荷台に乗せられた武と純夏は、遠ざかっていく我が家を、見慣れた街並みをジッと名残惜しそうに眺めていた。

 …次に戻る時には、この家が、この景色が、残っているとも限らないのだから…。

 己の記憶に、網膜に刻み込むかのようにただただ目の前の風景を見つめ続ける…。

 

 ……が、次の瞬間…!!

 

 突如轟音とともにトラックが横転し、トラックに乗っていた武達は外へと投げ出された。

 

 コンクリートの地面に投げ出され、受け身も取れずに地面に叩きつけられた武と純夏、痛みをこらえて地面から立ちあがった二人は………、

 

 

 

 

 …………恐怖と驚愕のあまり硬直した。

 

 彼等の目の前に広がっていたのは…、道路に派手に横転し、乗車席が破壊されたトラック、そして………逃げ惑う人達へと襲いかかるBETAの群れだった。

 

 それからは武と純夏は無我夢中で逃げた。何とか生存していた武と純夏の両親の六人で、BETAに見つからぬよう、瓦礫に隠れたり奴等の入ってこれない裏路地に潜り込んだりしながら逃げ続けた。

 その途中で武と純夏は両親とはぐれた。BETAに発見された時囮役を買って出て、一人、二人といなくなり、最後には自分達だけになってしまっていた。

 『帝国軍の基地で会おう』と最後に笑顔を浮かべていたが、武と純夏には分かっていた。

 

 父と母は、初めから死ぬつもりだったと言う事を…。

 

 自分の命よりも、我が子を生かす為に己の命をBETAに投げ出したのだと言う事を…。

 

 故に武と純夏は走りながらも泣いた。息を切らしながら、何度も瓦礫に足をとられて転びながら、体中傷だらけになりながらも泣いて泣いて泣きまくった。

 

 もう自分達を愛してくれた両親はいない。自分達の家も、学校も、公園も、何もかもがBETAによって破壊され尽くされた。己の愛した日常は、もう二度と帰ってこない…!!

 愛する者を失った悲しみと、大切な故郷を根こそぎ奪い尽くしたBETAへの憎しみのあまり、武は唇を食いちぎらんばかりに噛みしめる。噛み切られた唇から血が伝うが、今の武はそんな事を気にしている余裕などない。

 

 絶対に、絶対に死なない!!絶対に純夏を死なせない!!絶対に二人で生き延びる!!そして衛士になって、必ず皆の仇をとってやる!!

 

 その信念が、執念が、何の訓練も施されていないただの少年、白銀武をここまで突き動かして、ここまで生き残らせたのだった。

 一方武と一緒に逃げのびた鑑純夏も、武に手をひかれてどうにか此処まで逃げのびてきた。だが、元々そこまで体力の無い純夏は、もはや限界に近く、走るどころか歩くのさえもままならなさそうである。

 そして、遂に体力の限界が来た純夏は瓦礫の陰で倒れ込むと、隣の壁に寄りかかりながらゼイゼイと息を切らしていた。流石に無理をさせてしまったと感じた武は足を止めて純夏の隣へと膝を下ろした。

 

 「…大丈夫か、純夏」

 

 「う、うん……大丈夫、だよ?武ちゃん…、ハア…、ハア…」

 

 壁に寄りかかりながら呼吸を整える純夏、武はその姿を心配そうな表情で眺めている。

 武のその表情に、純夏の心の中から申し訳ないという思いが沸き上がって来る。

 

 「ごめ、んね…?武、ちゃん…。私、体力無くってさ…。あはは…」

 

 「気にすんな…。今は少し休もう…。体力回復したらまた逃げて……。帝国軍の陣地に逃げ込めば…」

 

 「ううん…、逃げるのは武ちゃんだけでいい…。私の事は、置いて行って…」

 

 「……なっ!?」

 

 純夏の口から出たセリフに武は思わずギョッとした。だが純夏は何処か諦めに満ちた笑顔でゆっくりと首を左右に振る。

 

 「私、もう駄目だよ…。これ以上武ちゃんと居ても武ちゃんの足手纏いにしかならない。武ちゃん、お願いだから武ちゃんだけでも逃げて、生き延びて…。武ちゃんが生きてさえいてくれたら、私、それでいいから…」

 

 「っ!馬鹿な事言うんじゃねえ!!そんな事言われてハイそうですかってお前を見捨てられるわけねえだろうが!!お前まで、お前まで失うなんて、俺は絶対にゴメンなんだよ!!」

 

 自分を犠牲にしてまで武を逃がそうとする純夏の言葉に、武は激昂する。純夏の両肩を鷲掴みにすると怒気に満ちた視線で純夏を睨みつける。今まで共に過ごして来て見た事が無い程の怒りに満ちた武の形相に純夏は少なからず怯えを抱いてしまう。しかし純夏も武の命を護りたいと言う思いからか、震えながらも首を左右に振って了承しようとしない。

 

 「で、でも、私なんか連れて行ったら武ちゃんも一緒に…」

 

 「うるせえっ!!グタグタ文句言うな!!絶対に二人で生き延びるんだ!!お前一人だけ勝手に死ぬなんて絶対に許さねえからな!!」

 

 純夏の言葉を遮るように絶叫する武。BETAに発見されるとかそんな事を気にしていられない。両親や親しい人達を失ったと言うのにこれ以上純夏まで失ってたまるか…!!

 そんな思いを込めて、武は純夏へと言い聞かせる。

 

 「生き延びるんだ…!!俺と、一緒に…!!そして親父と、お袋と、皆の仇をとるんだ…!!」

 

 「かた、き…?」

 

 「俺は衛士になる…!!生き延びて絶対に衛士になってやる…!!そして、そしてあのクソBETA共を絶対に駆逐してやる…!!俺達の街を、俺達の故郷を侵略した事を、絶対後悔させてやる…!!

 だからお前も生きろ!!生きる事を絶対に諦めるんじゃねえ!!俺達は、俺達は昔からずっと一緒だっただろ!?」

 

 「武、ちゃん……」

 

 武の絶叫に、まるで泣き叫ぶかのような声に純夏は言葉が出なかった。見れば、武の眼は今まで泣いていたせいで赤く腫れあがっており、頬には涙の跡がくっきりと残っている。

 今日一日で、彼も全てを失ってしまった。今まで過ごしてきた家も、街も、己を愛してくれた家族までも、BETAによって悉く奪われてしまった…。彼の心も悲しみでズタズタなはずなのだ。

 それなのに、自分と同じくらい辛いはずなのに、武は生きる事を諦めないで自分を護ってここまで逃げてくれた。それだけじゃない、自分の父と母も自分達を犠牲にしてまで純夏を逃がしてくれた…。それなのに、それなのに自分は勝手に諦めて…。

 純夏は目から溢れそうになる涙を拭いとると、よろよろと地面から危なげに立ちあがる。

 突然立ち上がった純夏に流石の武も驚き慌ててしまう。

 

 「お、オイ純夏!お前大丈夫なのかよ!?疲れてたんじゃ…」

 

 「ううん、もう、大丈夫だから…。武ちゃん、逃げよう!何時までもこんな所いるわけにもいかないし、それに、それに私だって生きたい、武ちゃんと、一緒に生きて行きたいんだもん…!!」

 

 「純夏……!」

 

 生気の蘇った純夏の顔を見て、武は少し驚いた様子を見せていたが、すぐに満面の笑顔を浮かべると純夏の右手を力強く握りしめる。

 

 「そうか…、じゃあ逃げるぞ純夏!どんな事があっても帝国軍陣地に辿りつくんだ!」

 

 「うん…!!あ、もしも武ちゃんが衛士になるんだったら、私も衛士になる!武ちゃんがピンチになったら私が守ってあげちゃうんだから!」

 

 「はあ?お前が?止めとけ止めとけ!お前なんざ戦術機乗る前に落第するのが落ちだって!!寧ろ足手纏いになるから食堂で飯でも作ってた方がにあってるんじゃないのか?」

 

 「む~!ひ、ひっど~い!!武ちゃんのバカバカバカ!!絶対衛士になって見返してあげちゃうんだから~!!」

 

 「言いやがったなコイツ~!!やれるものならやって見やがれってんだ!!……その前に、この街をとっとと脱出するぞ!!」

 

 「へ?う、うん!!」

 

 そして武と純夏は再び路地裏を走りだした。瓦礫をよじ登り、隙間を潜り抜けてBETAの目を掻い潜りながら進んでいく。途中何度か闘士級、戦車級といった小型種に発見させそうになったものの、瓦礫に、廃墟に、果ては大型BETAの死体の影に隠れて何とかやり過ごした。

 

死んでたまるか…、絶対生き延びる…。

 

 その執念が二人の折れそうな気力を支えていた。痛みと疲労でガタガタの身体を動かしていた。

 やがて二人が辿りついたのは、かつて両親と共によく買い物に来ていた商店街のアーケード……、否、アーケード『だった』場所であった。

 既に立ち並ぶ商店はBETAによって破壊され、見る影も無い。地面や壁には真っ赤な液体がべっとりと塗りたくられ、その近くには、人間の身体の一部『だった』肉片が無残に散らばっている。

 あまりにも無残な光景に、武は思わず吐き気をもよおしてしまう。隣の純夏もショックを受けているのか目を真ん丸に見開いて口を押さえている。

 だが、何時までもこんな所に留まってはいられない。いつまたBETAが此処に来るか分かったものではない。このアーケードさえ抜ければ避難するはずだった帝国軍の基地まであと少し、たとえ目の前に広がる光景に嫌悪感を感じたとしても行かないわけにはいかないのだ。

 武は覚悟を決めると左手に握りしめた純夏の掌を、改めてギュッと握りしめる。

 あれからずっと握り続けた純夏の手は、すっかり汗でビショビショになって滑りやすくなっている。強く手を握りしめられた純夏は、一度武へと視線を向けた後、再び目の前のアーケードへと視線を向ける。自分の手を離さない様にしっかりと握りしめている武の手を強く強く握り返しながら…。

 

 「よし…、行くぞ純夏」

 

 「うん、武ちゃん…」

 

 その言葉を合図に、二人は走りだした。脇にも後ろにも目もくれず、アーケードを全速力で駆け抜ける。

 途中で瓦礫につまずきそうになった、ガラスや釘を踏みつけた、人間の死体らしきものも踏みつぶした…。

 だがそれでも足を止めない、止めるわけにはいかない、もしも止めれば自分達もこの死体と同じ死体になる。たとえ靴がボロボロになっても、素足にガラスが刺さっても、足を止める事は出来ないのだ。

 

 息を切らし、服を汗でびしょ濡れにしながら全力疾走する二人…。やがて二人の前にアーケードの出口が見えてくる。

 それを見た二人の顔は明るくなる。これで助かる、ここを抜ければ……………。

 

 その瞬間、武の意識が突如遠のいて行く、掴んでいたはずの純夏の腕を手放して、地面へと倒れ込んでいく。

 

 「……え……」

 

 遠ざかる意識の中、白銀武が最後に見たものは……。

 

 

 自分をジッと見降ろす兵士級BETAの姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……けるちゃん、武ちゃん!!起きて!!」

 

 どれほど意識を失っていたであろうか、突如として耳に飛び込んできた純夏の叫び声と何度も身体を揺さぶられる感覚に、武はゆっくりと目を開いた。

 目の開いてすぐに飛び込んできたのは、いつも見慣れた純夏の顔。ただ何時も朝起こされていた時とは違ってその表情は何故か焦燥に駆られているかのようであった。

 

 「すみ、か……、お前、無事だったの、か…?それじゃあ、ここは、帝国軍の………!?」

 

 一瞬自分達が帝国軍によって救助されたと安堵した瞬間、純夏の頭の上の天井を見てギョッとした。

 天井は得体のしれない鉱物か金属のような物質でできており、少なくとも武の知っている住宅、建物の天井では無い。

 

 「……まさか!?」

 

 武は未だ頭痛のする頭を押さえながら跳び起きて周囲を見渡す。

 

 そこは小学校の教室程度の広さの、まるで洞窟のような空間だった。だが壁も床も天井も、石や岩石ではなく見た事の無いガラスか鉱石のような物質で造られており、明らかに普通の洞窟ではない。

 よくよく見ると自分以外にも何人か人間がいる。皆自分と同じくボロボロな服装をしており、今自分達が此処にいる事に混乱しているようだ。

 

 「純夏……、この洞窟って、まさか……」

 

 ある予感に思い至った武が恐る恐る背後の住処に問いかけようとした瞬間…。

 

 「ひ、ひぎゃああああああああ!!!!」「た、助けてくれええええええ!!」

 

 突然凄まじい絶叫が迸り、武と純夏は弾かれたように絶叫が聞こえた方向へと視線を向けた。

 そこで見たものは、二人の男性が二体の兵士級に鷲掴みにされ、何処かへと引きずられて行く姿であった。二人共傷だらけではあったものの体格も良く力も強そうであった。

 そんな二人が必死で暴れているにもかかわらず、兵士級は特に答えた様子も無く彼等を何処かへと連行していく。…だが、これだけでは終わらなかった。

 

 「やだっ!やだあ!ママー!!ママー!!」

 

 「は、放して!!お願いだからこの子を放して!!代わりに、代わりに私を連れてって!!」

 

 まだ幼い子供を鷲掴みにして連れて行こうとする兵士級に、その子供の母親と思われる女性が掴みかかって泣き叫んでいる。子供も泣きながら母親へと必死に手を伸ばしているが、あと少しの所で彼女へと届かない。女性は必死に兵士級から子供を奪い返そうとする。

 

 ………が、

 

 次の瞬間、兵士級の巨大な顎が女性の頭部をグチャッ、と噛み砕いた。首を失った女性は、首から血を噴水のように吹きだしながら地面に倒れ込んだ。

 

 「あ…、あ……、ああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 母親の変わり果てた姿を目撃し、子供は狂ったかのように絶叫する。だが、兵士級は子供の泣き叫ぶ声等聞こえていないかのように構わず監獄の外へと出て行ってしまった。

 

 「た……、たけ……」

 

 「見るな!!見るんじゃねえ純夏!!」

 

 先程の惨劇を目撃した純夏は、目を見開き口元を押さえてブルブル震えていた。彼女を安心させようと武は純夏を抱き寄せ、思い切り抱きしめる。

 己の胸の中で啜り泣く純夏を抱きしめながら、武は歯が砕けんばかりに噛みしめた。

 

 “よりによって……、BETAの巣に来ちまうなんて…!!”

 

 忌々しいBETAの巣、ハイヴの中へと自分達は連行されてしまったのだ。何故自分達が生きたまま此処にいるのかは知らないが、恐らく碌なことではないだろう。人体実験されるか他のBETAの材料にされるか……、だがもし逃げ出したとしても、きっと見張りがいるはず…。自分達の腕力では奴らにはかなわないし、此処がもし奴等の巣ならBETAは何万何十万居るか知れたものじゃない…!!

 

 もはや逃げ切れない…。万事休すか…。

 

 一瞬武の心を絶望が覆い尽くす、だが、胸の中で啜り泣く純夏を見た瞬間、武は己の心を叱咤する。

 

 “ふざけるな!!まだ終わってなんかいない!!まだ、まだ諦めてたまるかよ!!”

 

 武は純夏を安心させるように背中を撫でながら、改めて心の底から決意する。

 

 …どんな事があっても、純夏だけは絶対に守る、生かして見せる、と―。

 

 

 

 

 

 あれから三日程時間が経過した。もはやこの監獄には武と純夏以外人間はいない。皆一人残らず連れて行かれるか、逃げ出そうとして喰われるか、あるいは絶望のあまり自害してしまった人間も居る。兵士級は死んだ人間の死骸もまた、回収して何処かへと運んで行った。何に使うかは分からない、知りたくも無い。

 とにかくこうして監獄にいる人間は武と純夏だけとなった。この三日間食事も水分も全く摂っておらず、二人共衰弱しきっていた。この状態ではBETAに抵抗する事は愚か、逃げることもままならないであろう。

 武は心の中で歯噛みしていた。結局何も有効な作戦は浮かばなかった…、ただただ日に日に減っていく人間の姿を眺めている事しか出来なかった…。

 もう残されているのは俺と純夏だけ…。このままじゃ、純夏は……。

 武は己の無力さに歯噛みしてしまう。そんな彼の姿を、純夏は何処か悲しげに見つめていた。

 と、突然牢獄の入り口から何度も見てきた白い異形、兵士級BETAが姿を現した。

 その何処か人に似たおぞましい姿を見て武は歯噛みする、遂に自分達の番が来たか、と。

 兵士級はジッと純夏に、その何を考えているのかすらも分からない視線を向けている。己がターゲットにされた純夏は恐怖で震えながら後ろへと後ずさる。

 だが、背後にはあの無機質な壁しか無く、すぐに追い詰められてしまう。もはや逃げ場も無く迫ってくる兵士級から目を放せずにガタガタと震える純夏…。

 このままでは純夏はあの化け物に何処かへ連れて行かれる…、今まで連れ去られた人達がだれも帰ってこなかったところをみると、無事に帰れるはずが無い…。

 そんな、そんな所に彼女を連れていかれてたまるか!!

 

 「くっそおおおおお!!!純夏に、純夏に近寄るんじゃねェえええ!!!」

 

 純夏へと接近しようとする兵士級を食い止めようと、武は兵士級の人間に似た上半身を羽交い絞めにする。だが、すぐにその細身の身体からは信じられない程の怪力で振りほどかれ、揚句に拳によって無造作に殴り飛ばされて壁へと激突した。

 

 「がっ………はあ……!!」

 

 「た、武ちゃん!!」

 

 まるで鉄の砲弾が激突したかのような衝撃と硬質な岩盤へと思い切り叩きつけられた激痛のあまり、武は絶叫を上げることすらも出来ずに地面に倒れて悶絶する。壁からずり落ちた武は全身を襲う激痛に悶え苦しんでおり、とてもすぐには立ちあがる事が出来そうにない。

 一方兵士級は標的を己の邪魔をした武へと変える。このまま殺すのか、あるいは彼を先に実験材料とするのか…、いずれにせよ無事では済まない事は確かだ。

 

 「た、武ちゃん!!に、逃げてえ!!」

 

 「がっ……、く……るな……すみ………か……、お……まえ……この……すき、に……」

 

 「嫌っ!いやあ!!武ちゃんを、武ちゃんを見殺しになんてできない!!私を置いて行かないでよォ!!」

 

 「無茶……いうなよ……せめて……お前、だけでも………ゴハァ!!」

 

 まるで重度の結核患者の如く口から血を吐き、肋骨が何本も圧し折れて激痛の走る胸部を庇いながら、武は生まれたての小鹿のように足をガタガタと震わせて、壁に寄りかかりながら立ちあがり、目の前の兵士級を挑戦的に睨みつけ、獰猛に笑う。

 

タダでは殺されてやらない、喰われそうになっても徹底的に抵抗して、最悪首だけになってでも奴の首を食いちぎってやる…!!

 

 だが、兵士級は何の感情も無く、目の前の『障害』を排除せんとその腕をゆっくりと武へと伸ばす。常人以上の筋力を誇る腕だ、それに掴まれればもはや逃げ切れまい。その巨大に裂けた口に生えそろった頑丈な歯で、粉みじんに噛み砕かれてしまうだろう。

 武が喰われる、あの商店街に転がっていた死体のように、自分の両親と同じように無残に喰われて、ただの死体になってしまう……!!

 

 「お願い!!誰か、誰か武ちゃんを助けてえええええ!!!」

 

 純夏の悲鳴と嘆きに満ちた絶叫が牢獄に響き渡る。だがそれも無駄なことだった。此処にいる人間は純夏と武の二人だけ。たとえもう一人人間がいたとしても、兵士級を殺すどころか傷一つつけることすらできないだろう。まして純夏は戦闘訓練も受けていない女子、武も先程の一撃で満身創痍…。

 

 もはや希望は無い、武はこのまま無残に殺され、純夏も人体実験で身体をバラバラにされる………、本来ならば、そうなるはずであった。

 

 ……だが、次の瞬間、武と純夏の僅かな希望が、繋がった。

 

 『ドゴオオオオオオオオオオオンンンン!!!!!』

 

 突如轟音と共に牢獄の天井が崩れ出し、巨大な黒い『何か』が兵士級の醜い身体を押しつぶした。兵士級は何一つ抵抗する事も出来ず、紫色の汚らしい体液をまき散らしてモノ言わぬ肉塊と化した。

 

 「え……?」

 

 兵士級に殺されそうになっていた武、そして武が殺されそうになるのを目の当たりにしていた純夏は、兵士級が殺されて、武の命が救われたと言う事が理解できずに口をポカンと開けて呆然としていた。

 武の目の前にあるのは押し花の如く潰されて臓物と血を撒き散らして圧死している兵士級、粉々に破壊された監獄の天井の壁、そして……

 

 『ゴアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオンンンンンン!!!!!』

 

 崩れた壁の向こう側で、猛々しい雄たけびをあげる、巨大な亀の如き怪獣の姿であった。

 




 武と純夏の場面は……いろいろ参考にしましたけど全部自分の想像です。
 ついでに夕呼先生の初登場場面なんですけど……、原作の夕呼先生知ってる人は多少違和感、あるかな…?まあこのときは本編とは時代も状況も違うってことで…。
 それにしてもこれだけたくさん読んでくださる方がいらっしゃるのはうれしいことなのですが、やっぱりまだまだガメラファンは結構居るということなのでしょうか…。マブラヴもいいですけれどもやっぱりガメラもいいですよねえ…。

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