Muv-Luv Alternative ーthe guardian of universeー   作:天秤座の暗黒聖闘士

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 えーと…、まず皆様にお詫びを…。
 第3話および第4話にて、私の知識不足と確認不足のために誤字および間違いを続発させてしまい、本当に申し訳ありません。これからはミスの無いよう努力していきますのでどうかこれからも拙作をよろしくお願いします。
 


第5話 落涙

 横浜国連軍暫定基地、オルタネイティブ第4計画及び横浜ハイヴ攻略の為に横浜沿岸部に設置された軍事施設であり、基地から一歩外に出たならばそこは既に戦場といってもいい程の最前線に置かれている。それゆえに仮設とはいっても本来の軍事拠点としての基地よりもより大規模かつ最新鋭の設備、防備を備えており、たとえ数万のBETAが押し寄せてきたとしても抑えきることが可能、とまで言われる程の堅牢さを誇っている。最も実際にそのような事態になったとしたならば、それは横浜ハイヴのBETAの間引きが追いつかなくなった時、即ち横浜基地そのものを放棄する時であり、そうなれば国連は直ちにオルタネイティブ4から米国主導の第五計画へと移行する考えなのであるが…。

 故に早急に横浜ハイヴを叩かねばならないのだが、ハイヴの圧倒的とも言える物量差の前にはたとえ国連軍、帝国軍、斯衛軍の三軍合同による侵攻作戦でもハイヴの中枢である反応炉に到達するまでには至らず、結局ハイヴから溢れ出るBETA共を間引くと言う焼け石に水な軍事行為を延々と繰り返す事となっている。

 そんなとき、日米安保条約を破棄して日本から撤退したはずのアメリカが、横浜ハイヴ攻略作戦への協力を打診してきた。日本が危うくなると見るや一方的に条約を破棄して早々に軍を引き上げた事を棚に上げて何をぬけぬけと…、と帝国軍や国連軍にはアメリカのこの参戦発言に関して不満や嫌悪感を抱く者も少なく無く、真の目的はアメリカが極秘裏に開発した新型爆弾の威力実験の為、等という予想を立てている者もいる。

 最も帝国軍に斯衛軍、国連軍共に兵力には余裕が無い今、BETAからの侵略によるダメージが実質ゼロであり、兵力戦術機共に潤沢なアメリカ軍が参戦してくれるのは純粋に戦力を増やす意味ではありがたいことであり、両国ともにアメリカの提案を受け入れる方向で話を進めているのが現実であった。

 これでオルタネイティブ4も白紙で終わるのか…、この時国連軍と帝国軍ではそのような話題まで出てくる始末であった。

 

 そう、この時は……。

 

 

 

 

 

 横浜国連軍暫定基地内、モニタールーム

 24時間体制で横浜ハイヴを監視し、横浜ハイヴ内でのBETAの間引き作戦を行う国連所属軍へと指令を送るいわば指令室とも言える場所。無論スタッフも頭脳のみならずいかなる状況においても冷静に状況分析、判断を行えるえりすぐりの人材をそろえており、たとえ基地にBETAの大軍勢が押し寄せるような事態になったとしても冷静さを失わないであろう胆力の持ち主たちである。とはいえそれはこの基地に所属する大半の人間にも言える事であり、それこそ衛士となったばかりの新人でも無い限り、並大抵のことでは動じる事の無い精神力が備わっている。最もそうでなければ文字通り地獄同然の戦場では到底生き残る事が出来ない為、『必要に迫られて』備えさせられた、とも言えるのだが…。

 故にこのモニタールームにいる人間は大概の事では動揺、混乱することなど無い、無いはずだった……、のだが……。

 

 「み、未確認生物飛行開始!!きゃ、脚部からジェット噴射らしきものを吹き出して飛行しています!!」

 

 「そんな事は見れば分かる!!というか何なんだコイツは!!空は飛ぶわ火を噴くわ!!新種のBETAか何かなのか!!」

 

 「そんなこと前触れも無く突然出現したのですから分かるわけ無いでしょう!?……きょ、巨大生物飛行しながら地上のBETAに攻撃開始!!光線属種が反撃していますが巨大生物には効果が無い模様です!!」

 

 「クソッ!!本当にどういう身体してやがるんだ!!仮にも戦術機を消し飛ばすレーザーだぞ!?それが当たったんだぞ!!無傷だなんてあり得ないだろうが!!」

 

 「そんな事私に聞かないでください!!」

 

 ……現在、現場は多いに混乱していた。オペレーターもそれ以外のスタッフも、大声で何事か騒ぎたてており、モニタールームはさながら暴動でも起きたかのような喧騒と怒声に包まれている。

 それも仕方が無いだろう、何故なら、今目の前のモニターにはこの場にいる全ての人間の想像を遥かに超える出来事が展開されているのだから…。

 モニターに映し出されている光景は、一面紅蓮の炎で覆い尽くされた横浜の大地と、灼熱の炎に炙られ炭化していく地上を埋め尽くしていた無数のBETAの群れ、そして……、

 

『グルアアアアアアアアアオオオオオオオオンンンンン!!!!!』

 

 その地獄を生み出した、突如出現した巨大な“怪獣”の姿であった。

 その怪獣は一見すると直立した亀のような姿をしているものの、その80メートルはあるであろう巨体は現存するありとあらゆる亀、否、ありとあらゆる生物ではあり得ない程巨大かつ異様であり、さらにその巨体に反して手足を引っ込めることで空を飛びまわり、口からは灼熱の火球を吐いてありとあらゆるものを焼きはらっていく…、

 怪獣はその巨体と灼熱の炎、そして飛行能力を生かして地上に出現するBETAを次々と、まるで親の仇か何かのように焼き払い、踏み潰している。無論BETAも殺されるがままではなく、光線属種は次々とレーザーを怪獣に照射し、突撃級、要撃級といったBETAの軍勢は数の暴力で怪獣を押しつぶそうと殺到する。

 だが、戦術機すら一撃で蒸発させ、人類から制空権を瞬く間に奪い去った忌々しいレーザーは何故か怪獣に火傷一つ負わせることも適わず、進撃するBETAの大群はある者は火球で消し飛ばされ、またある者はその巨体に踏みつぶされ、なぎ払われる尾ですり潰されていく…。

 かつて幾多の英霊が辛酸を舐めながら散っていったであろう雲霞の如きBETAの大群、それがたった一つの、たった一体の強大な力の前に呆気なく崩れ、屈していく…。そのあまりにもフィクション染みた光景にはこの場の全ての人間は呆気にとられ、混乱する以外に無かった。

 

 「なんなんだこの怪物は……!コイツもまた、我々人類と敵対する存在だと言うのか…!?」

 

 戦慄した表情でそう呟くのは横浜国連軍暫定基地司令、バウル・ラダビノッド准将。国連軍からオルタネイティブ4監査の為に派遣された士官であり、かつてインド亜大陸においてBETAとの激戦を戦い抜き、生き抜いてきた猛者である。

 そんな歴戦の勇者とも言える彼でさえ、モニターに映る光景には流石に度肝を抜かれていた。今まで幾度もBETAと干戈を交え、幾度も同胞を見送り続けてきたが故に、BETAの数を頼みとした突撃戦法、光線属種の恐ろしさについては骨身に染み込む程理解している。それが目の前の巨大な亀の如き怪獣には通じず、逆にその強大な“個”の前に次々とBETAが蹂躙されていく……、その光景は彼自身BETAに深い憎悪を持つが故に爽快でもありながら、逆に恐ろしくもあったのだ。

 一方ラダビノッド司令の隣で無言でモニターを眺める白衣の女史、オルタネイティブ4最高責任者の香月夕呼は、モニタールームの他の面々のように混乱も何もしておらず、いつも通り平静な態度でモニターを眺めている。

 否、今の彼女は決して『いつも通り』ではない。とはいっても混乱や恐怖といった感情ではない、モニターに映る炎獄の光景を見ながら彼女は全く逆の感情を抱いていたのだ。

彼女は『哂っていた』。満面の笑顔で哂っていた。まるでどこぞの童話かおとぎ話に出てくる魔女のような幼い子供が間違いなくトラウマを抱くような嬉々とした笑顔を浮かべていたのである…!

もしも周囲に誰も居なかったのなら、きっと彼女は盛大に爆笑した事であろう、誰彼はばかることなく基地中に響く程の哂い声を響かせた事であろう。それほどまでに彼女は歓喜していた、否、寧ろ“ハイ”になっていたと言うべきだろうか。

 

「…香月博士、ご機嫌そうなところを失礼するが…」

 

ラダビノッド司令は夕呼の悪魔的な笑顔に若干引きながら彼女に質問をする。立場上の上司であるラダビノッド司令の声を聞いて、夕呼は満面の笑みを浮かべたままラダビノッド司令の方を向く。

 

「あら、いかがいたしました司令?私に何か御用向きでも…」

 

「いや……用という程の事でも無いのだがな…。BETAが次々掃討されてご機嫌なのは分かるのだがあの怪獣はまだ味方と決まったわけではあるまい?今はBETAを敵と見なしているがもしも横浜ハイヴのBETAが片付いたら今度は我々に牙を剥く可能性もあるのだぞ?」

 

 ラダビノッド司令が警戒しているのはそれであった。あの怪獣は見たところBETAと敵対しているようではあるが、まだこちらの味方と決まったわけではない。仮にBETAではなくこの地球上の生命であったとしても、人類と意思疎通できるか否か、あるいは人類にとって無害な存在か否かは別の問題だ。

 仮にあれが自分達に牙を剝こうものならこの横浜仮設基地のみの兵力では到底勝てるとは思えない。何しろあのレーザーや要塞級の衝角の一撃すらも耐え切る頑丈さだ。人類の現在持ちうる兵器のみでは傷をつけることすら難しいだろう。

 そんな彼の不安を聞いた夕呼は何やらおかしそうにクックッと笑い声を上げる。その様子もその魔女の如き表情のせいで何やら悪だくみをしているようにしか見えない。

 そんな彼女を眺めるラダビノッド司令は、笑われて気分を害するよりもまるで彼女が何かよからぬ事をたくらんでいるかのようで少しばかり不気味に思えてしまった。

 

 「こ、香月博士?」

 

 「ククッ……。申し訳ありませんわ司令。確かに司令の心配はごもっともでしょうけど、私の予想が正しければあの巨大生物はこの横浜仮設基地を襲ってくる事は無いかと思いますわ」

 

 「むう…、それは根拠がある事なのか?先程届いた硫黄島からの報告によれば、奴は硫黄島近海から出現したらしいが、それ以外は何一つ分かっていないのだぞ?」

 

 「もちろんです。まあ確かにアレに関しては分からない事があり過ぎますのでこれは完全な予測なのですが、根拠は二つあります」

 

 夕呼は自信ありげに言いながら人差し指をピンと立てた。

 

 「まず第一にあの怪獣、仮称でアンノウンとしておきますが、アンノウンは光線属種からのレーザー攻撃を受けています。連中の習性から言って、光線属種が他のBETAを攻撃する事はあり得ないと言ってもいいでしょう。既に生命活動を停止して死骸となったBETAや『あの時』のイレギュラーな事例を除けば光線属種が同族を誤射した事は一度たりともありません。この時点でアンノウンがBETAとは異なる生命体だと言う事が説明できます」

 

 「ふむ…、それで二つ目は?」

 

 「二つ目はアンノウンの行動です。アンノウンはすぐ近くに戦術機があると言うのにもかかわらず彼等を無視してBETAを攻撃しています。それ以前にBETA同様人間を攻撃する意思があると言うのならば横浜ハイヴを攻める前に進路上にあるこの横浜仮設基地を攻めてもいいはず、ですがアンノウンは仮設基地を無視して横浜ハイヴへ直接乗り込んだ…。この事から見てアンノウンは人類に敵対する意思は無い、あるいは人類そのもの等眼中に無くBETAのみを殲滅対象と見ている可能性が高いと考えられます」

 

 「成程……、ならばあのアンノウンはそのまま放置するつもりかね?博士」

 

 夕呼の意見を聞いたラダビノッド司令はそれでもまだ何処か釈然としない面持ちで夕呼に問いかける。なにせあの怪獣、仮称アンノウンは何の前触れも無く出現した未知の存在、その正体も生態もそもそも何処から来たのかも全く不明なのだ。いかに天才的頭脳を誇る香月夕呼の言葉であってもそう簡単には鵜呑みにする事はできない。

夕呼もラダビノッド司令の考えは重々承知の上であるものの、そんな上司の言葉に対して肩を竦めて頷いた。

 

 「その方が賢明だと思いますわ、司令。アレの攻撃目標は現状BETAのみ、我々が攻撃しても得はありませんし、寧ろアレを敵に回す事になって無用な損害を負う事になりかねません。ここはひとまず静観するべきでしょう」

 

 「承知した。……基地に待機中の全軍に通達!!これよりあの巨大生物の仮称をアンノウンとし、指示があるまでアンノウンへの攻撃は禁止する!!うろたえている暇は無い!!急げ!!」

 

 「「りょ、了解!!」」

 

 夕呼の返答にラダビノッド司令もようやく腹を決め、モニタールーム全体に響き渡るような声でスタッフへと指示を飛ばす。混乱していたオペレーターも歴戦の兵の怒声を聞いて一気に正気を取り戻すと互いに指示を出し合って基地内及び現在戦場と化している横浜ハイヴ近辺へと出撃している部隊へとラダビノッド司令の指示を伝達する。

 瞬時に元の平静さを取り戻すモニタールーム、夕呼はその様子を満足そうに眺めている、と、彼女は何かを思い出したかのようにポンと手を打つと再びラダビノッド司令へと視線を向ける。

 

 「そういえば、確かアレは硫黄島から飛来したという報告を受けましたね」

 

 「うむ、何でも硫黄島には環礁のような姿で流れ着いたらしい。そしてそこで発掘作業を行ったところ、何やら文字らしきものが刻まれた石板らしきものと勾玉らしい奇妙な金属片が多数発掘されたらしい。残念ながら石板は粉々になってしまったらしいが、写真やスケッチは取ってあるとの事だ」

 

 硫黄島駐屯地からの報告は帝国軍、斯衛軍だけでなく横浜に置かれた仮設基地にも送られていた。なにしろ仮設基地は硫黄島沿岸から飛び立った飛行物体の進路上に位置しており、もしも飛行物体がBETA同様人類にとって敵対的な存在だった場合、真っ先に襲撃される可能性が大きかったからである。…実際は杞憂で終わったが。

 ラダビノッド司令の返答を聞いた夕呼は、興味深げに指を顎に当てる。

 

 「石板……、勾玉……。ひょっとしたらアレに関して何か分かるかもしれませんね…。直ぐにその勾玉と石板の写真かスケッチを硫黄島から取り寄せて頂けるでしょうか?」

 

 「ふむ、それは可能ではあるが…、それだけで奴の事が分かるのかね?」

 

 「まだ何とも言えませんが、何らかの手掛かりにはなる可能性があります。生憎と私は考古学は専門外ですが大学の知り合いに任せてみようかと」

 

 「成程……、だがまずはコレがどうなるかを見届けてから、になりそうだがな…」

 

 そう呟くとラダビノッド司令は再びモニターへと視線を戻す。夕呼もまた釣られてモニターの方へと向くと、既に戦いは終わりつつあった。

 アンノウンには目立った外傷は無し、一方BETA側に残された兵力は要塞級一体のみ、増援が来ない所を見るとどうやら既に横浜ハイヴ内のBETAはあれ一体を残して全滅したようである。

 要塞級は最後の悪あがきとばかりに強酸性の体液をまき散らす衝角をアンノウン目がけて叩きつけようとする。……が、遅すぎた。

 要塞級の目の前へと突進したアンノウンはその勢いのままに要塞級の頭部を力任せに引き千切った…!頭部を失った要塞級はしばらく棒立ちしていたものの、やがて引き千切られた首から大量の血をまき散らしながら地面に横倒しとなってそのまま動かなくなった。

 アンノウンは要塞級が死亡した事を見届けると右手で握りしめた要塞級の頭部を投げ捨てて、高らかに勝利の咆哮を上げながら横浜ハイヴに向かって歩き始めた。

 

 「地上に展開中のBETA、全滅…。……アンノウンが横浜ハイヴ目がけて進行を開始しました!」

 

 「増援は!」

 

 「出現予兆無し!!横浜ハイヴ内のBETAは全滅した模様!!」

 

 「油断するな、監視を続行しろ!!」

 

 「り、了解!」

 

 ラダビノッド司令の一喝で再度モニターを中止するオペレーター達。

 そこに広がるのは何も存在しない荒野。辺りには炭化したBETAの死骸が転がり、所々では未だに焔が燻っている。

 

 そして、何の生命も存在せぬその荒野を、アンノウンは地響きを立てながら進んでいた。

 

 ただ一路、横浜ハイヴを目指して……。

 

 

 

 ガメラSIDE

 

 『グルルルルルル……』

 

 横浜ハイヴから次々と湧き出てきたBETAを一掃したガメラは、遂に横浜ハイヴ内部へと足を進め始めた。地上にはもはや焼け焦げて炭化したBETA『だった』モノの死骸しか残っておらず、もはや小型級一体すらも残されてはいない。

 どうやら横浜ハイヴのBETAは見たところ全滅したようである。それでもガメラは油断することなく目を動かしながら、ハイヴ地下へと続く穴へと足を踏み入れていった。

 横浜ハイヴは未だにモニュメントも50メートルにも届かぬ建設途中のハイヴであり、本来の歴史では破壊された時期には既にフェイズ2にまで成長していたのだが、今回は攻略した時期が遥かに早かった為、大体フェイズ1・5というレベルでしかない。

 それでもハイヴの中は広大、この迷路のような内部から人間二人を発見するのは、正直骨といってもいいだろう。

 洞窟のような横抗を見回しながら、ガメラは進む。どうやらハイヴのBETAは無事一掃できたらしい。大型種どころか小型種も見当たらない。

 ならば先へ急ぐ為にも此処は飛んだほうがいいだろう、ガメラは脚部を甲羅に引っ込めてジェットを噴射するとそのまま横抗内部を移動し始めた。

 

 『なあガメラ、どうだ?まだハイヴに生存者は…』

 

 『待ってくれ、マナの流れを探って見る……………。………中央最深部に幾つかの生命反応がある。だが、これは………』

 

 『……ああ、そいつらは“もう死んでいる”と言っていい。多分ソレじゃない』

 

 ガメラ、白銀武は脳内でオリジナルのガメラ、この身体の元となったガメラと会話しながら飛行する。

 オリジナルのガメラが感じたハイヴ深奥で感じ取った生命反応、それはかつて人間だったもの、今ではBETAによる苛烈な実験によって脳髄のみにされ、それでもなお“生かされ続けている”人間だった者達…。本当ならばこのまま生かしておいても彼等にとっては苦痛でしかないだろう、いっその事殺してやった方が彼等の為なのかもしれない。

 だが……。

 

 『……すまないガメラ、他の生命反応を探ってくれ』

 

 『……了解した。だが、いいのか?あのまま生かしておいても彼等は……』

 

 『………00ユニット、純夏がもし、助かったのなら……代わりがいる、だろ……?』

 

 『………そうか、正直好かんな。ヒトの魂を機械へと移す。いかに必要なこととはいえそれは生命への冒涜だ。……最も、状況が状況ゆえに仕方が無いのかもしれないが…』

 

 武の脳内でオリジナルのガメラは不満げに呟く。地球の意思により生まれ、地球に住まう命を守護することを使命とする守護神からすれば、生物の魂を好き勝手に弄り回すと言うのはあまり気持ちのいいものではないのだろう。

 00ユニット。オルタネイティブ4の中核となる存在であり、その正体は人間の魂を機械へと移植させた存在、いわば“人間の魂を持つロボット”と言える存在なのだ。

 BETAは人類を、否、この世に存在する炭素系生命体を生物と見なしてはいない。故に夕呼は非炭素系疑似生命体を作り出し、BETAの思考リーディング、コミュニケーションによる情報収集を行う事を発案したのである。

 そもそも香月夕呼が己自身の直属部隊A-01を保持しているのは、元々00ユニットとしての素質の高い人間の中から00ユニットにふさわしい者を選別するために他ならず、かの隊の任務が過酷であり、損耗率が大きいのもその“選別”の一環に過ぎないのだ。

 以前のループではこの横浜ハイヴで鹵獲され、脳髄のみとなって保存されていたこの世界の鑑純夏が00ユニットへと改造されることとなってしまったが、もしもこの段階で鑑純夏が救出された場合、00ユニットの素体となる人間が居なくなってしまい、下手をすれば己の知る少女達の誰か、若しくはA-01部隊の誰かが00ユニットとなる為の犠牲になってしまう可能性があるのだ。

 …それだけはさせない、彼女達を救うため、自分はヒトを捨てて再びこの世界に舞い降りた。彼女達を犠牲にしては本末転倒もいいところだ。

 だから武は反応炉と脳髄となって囚われている人間達をあえて放置した。もしもその中で生き延びているのがいたとしたなら、ひょっとしたら00ユニットの素材として夕呼が“選ぶ”かもしれない。本人からすれば苦痛かもしれないし、武自身からしてもなんとも外道な判断だと心の中で自嘲する。

 

 …だけど、それでも……。

 

 『それでも俺は……護りたいんだよ……』

 

 『………』

 

 武の悲痛な声にオリジナルのガメラは何も言わない。彼の苦痛も、苦悩も、武と一体となっている今ではダイレクトに伝わってくる。だから分かる。彼がどれほど苦しんできたのかも、そしてこの選択にどれほど罪悪感を感じているのかも…。

 故にオリジナルガメラも何も言わず、残された生命反応を探知し続ける。せめて彼の望み通り、残された命だけでも救いだす為に……。

 それ以後ガメラは黙ってハイヴの横抗を飛行し続けた。速度は落としているもののそれでもマッハ1近くはある。それでも見えるのは同じ風景のみ。桜花作戦で一度ハイヴ内部を見ているとはいえ、あまりのだだっ広さにガメラも心の底であきれ果てていた。

 一方、脳内のオリジナルガメラからは何の返事も無い。あまりの広さになかなか見つからないのか少々手間取っているようだ。

 武の心に僅かに不安が生まれる。もしかして、もしかしてだが間に合わなかったのではないのか……。ガメラがなかなか見つけられないのは、もう既にこの世界の武も純夏も、BETAに殺されているか、脳髄のみにされてしまっているからなんじゃあないのか…。

 僅かに心に浮かんだ不安は段々と大きくなり、武は遂に我慢できなくなって沈黙しているオリジナルガメラへと声をかけた。

 

 『なあ……、ガメラ……』

 

 『……見つけたぞ、武!生命反応が二つ、先程の脳髄のみの物とは違う生きているものの反応だ。此処から約20キロメートル先から感じた!』

 

 『……何!?ほ、本当か!?』

 

 オリジナルガメラからの返答に武の声音が明るくなる。一瞬死んでしまったのかと考えてしまった二人が生きていた…!!それだけでも今の武にとっては朗報だった。

 

 『ああ、だが少々急いだ方がよさそうだ。マナの反応からしてどうやら二人共衰弱しているようだ…。命には別条なさそうだが……』

 

 『了解!!此処をまっすぐでいいんだな!!』

 

 ガメラは一声吠えると脚部のジェットの出力を上げ、オリジナルガメラの告げた場所へと急行する。

 速度は既にマッハ1を超えており、目的の地点まではそこまで時間もかけずに到着する事が出来るだろう。それでもガメラははやる気持ちを抑える事が出来なかった。前の世界では出来なかった事が、この世界の純夏と己自身を救うと言う事が出来る…!!

 

 『待ってろ純夏…!!この世界の俺…!!』

 

 咆哮を上げながら横抗内を飛行するガメラ。相も変らぬ広大な岩肌のみの光景を横目に流しながら飛行し続けていると、やがて広大なホールのような空間へとたどり着く。

 80メートルはある巨体も小さく見える程巨大な空間をガメラは飛行しながらぐるりと見回す、と、突然ガメラの脳内でオリジナルガメラの声が響き渡る。

 

 『武!そのホールの一番右端!変色している壁の部分だ!!そこに二つの生命のマナを感じた!だが急げ!すぐ近くに小型BETAらしきモノがいる!!』

 

 『何だと!?ックソ!!此処で全ておじゃんにされてたまるか!!』

 

 ガメラはすぐさま右へと方向転換すると、オリジナルガメラの言うとおり一部青く変色している岩盤へ向けて突進する。

 そして岩盤から約100メートル手前で着地すると、前方へとスライディングしながら右腕を岩盤目がけて振り下ろした。

 

 『グルアアアアアアアアアア!!!』

 

 勢いに任せて振り下ろされた爪は岩盤を破壊し、偽装された岩肌をそのまま削ぎ落していき、やがて岩盤に隠されていたものがガメラの目の前に姿を現した。

 そこはまるで部屋のような空間、一種の牢獄のような役割をしていた部屋のようである。恐らく捕獲した人類をこの内部に押し込めていたのだろう。そこには一人の少年と一人の少女がこちらを呆然と眺めている。よくよく見ると少年のすぐ近くには岩盤に押しつぶされた人間大の肉片らしきものが転がっている。ただ、その血液は人間の持つ赤色のモノではなく、毒々しい紫色をしていた。

 恐らくこいつは例の小型BETA、そのサイズからして兵士級だろう。先程岩盤を引っぺがした時に落石に巻き込まれて押しつぶされたに違いない。最も、そんな物はもうガメラの眼中には入っていなかった。

 

 『すみ、か……』

 

 ガメラの視界にあったモノ、それは自分をジッと見つめる少年と少女の姿であった。

 ガメラは二人を知っている。特に、少年についてはこの世の誰よりもよく知っていると言ってもいいだろう。何故なら、他ならぬ“自分自身”なのだから…。

 全身が土で汚れ、あちこちに傷を負ってはいるものの、その顔は人間だった頃の己とそっくり、瓜二つだった。

 少女もまた、薄汚れ擦り傷だらけではあったが、その顔も、赤い髪の毛も、髪の毛を束ねる大きな黄色いリボンも、かつて己が生まれ育った世界での彼女のものと同じだった。

 かつて元の世界で共に過ごした記憶、そしてループしてきたこの世界で出会い、愛し合い、戦い、別れた記憶……、それがガメラの、武の脳裏へと次々と蘇り、ガメラの瞳から涙が溢れ出してくる。

 

 間違いない、間違いようが無い。この二人こそ、この世界の白銀武と鑑純夏。この世界に戻って来た時、どんな事があっても救いたいと、救ってみせると決めていた存在……。

 生きている、二人共生きている……。二人共傷を負っており、特に白銀武の傷は先程の兵士級にやられたらしく相当酷い……。直ぐに此処から救い出さなくてはならないだろう。

 

 だが、だが今はほんの少しだけ、彼女達を救いだせた事を喜びたい。

 

 『グルアアアアアアアアアオオオオオオンンンン!!!』

 

 牢獄中に、否、ホール中にガメラの咆哮が轟き渡る。咆哮を上げるガメラの双眸からは一筋の、ほんの一筋の涙が頬を伝い落ちて行った。

 




 ガメラが泣くというのは少々違和感ありましたかね…。
 それにしても、ただ今世界観の知識付けるためにマブラヴ外伝ノベルのシュバルツェスマーケン、通称柴犬を読ませてもらってるんですが……

 ……一巻からすごく…鬱いです……。

 なんだか読めば読むほど先行きが不安になってくるような…。ま、まあまだ一巻目ですし巻進めれば少しは明るい展開も……、でもオルタ時代じゃあ東ドイツどころかヨーロッパって………。
 こんなんで全巻読破できるのだろうか…。

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