呪術師は生きる   作:これは面白いのか

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第二話

 一歳になった俺には、一匹の相棒がいた。

 影から生まれた黒狼。赤い瞳を光らせ、常に俺の傍にいる。

 両親にはその存在は見えない。

 

「蓮は本当に元気ね」

「夜泣きも減って、助かるな」

 

 母は笑い、父は満足げに言う。

 俺はその腕の中で小さな声をあげ、笑ってみせる。

 だが影の中では、狼が静かに唸り、家の外を警戒していた。

 

(この家が安全なのは、あいつのおかげだ。両親は知らなくていい。俺が守る)

 

 

 

 俺は一歳になり、ようやく立って歩けるようになった。

 よちよちと母の手を握り、数歩進んで転ぶ。

 

「上手よ、蓮!」

「おぉ、もう一人で立てるな」

 

 両親は喜び、俺は笑いながらまた立ち上がる。

 

 けれど、その裏で俺は別のことをしていた。

 

(歩くたびに呪力を足裏に流せ……倒れる前に支えろ。小さな訓練だが、必ず積み上がる)

 

 前世ではありえなかった「歩くことすら修行」。

 それが今の俺の日常だった。

 

 

 夜。

 俺は狼を呼び出し、影の中で向き合った。

 指先に意識を集中し、胸の奥の呪力を少しずつ流し込む。

 

 最初は力が暴れて狼の体が一瞬だけぶれ、すぐに消えた。

 だが何度も繰り返すうちに、流れが細く安定していく。

 

 ある夜、爪が淡く光り、狼が壁を引っかいた。

 爪痕は今までよりも深く刻まれていた。

 

(……やっぱりだ。俺が呪力を送れば、式神を強化できる)

 

 一瞬だけの強化。

 だが、それは確かに勝敗を分ける力になると確信した。

 

 

 庭の隅に黒い影が蠢いていた。

 

 小型の4級呪霊。

 濁った目で俺のいる窓を覗き込んでくる。

 

(……来たな)

 

「行け」

 

 狼が飛び出し、呪霊に噛みつく。

 だが相手も手を振り上げ、狼を押し返した。

 

(今だ……!)

 

 俺は胸の奥から呪力を流す。

 狼の瞳が赤く光り、動きが鋭くなった。

 その牙が呪霊の首を貫き、影は霧散した。

 

 狼は静かに俺を振り返り、短く鳴いた。

 

(……やれる。俺と狼なら、もう4級は怖くない)

 

 

 それからも時折、庭先に小さな呪霊が現れる。

 狼が迎え撃ち、俺がパスを繋げて補助する。

 倒した数は多くはないが、一戦ごとに確かな手応えが残った。

 

 狼は影に戻る前、いつも俺の手に鼻先を寄せる。

 まるで「お前と共にある」と言っているように。

 

(式神じゃない。俺の兵士じゃない。――相棒だ)

 

 そう思った瞬間、胸の奥に熱が灯った。

 

 

 母は俺を抱き、優しく囁く。

「蓮は笑顔が多い子ね」

 

 父は笑って頭を撫でる。

「この調子で丈夫に育て」

 

 二人は何も知らない。

 この家の周囲が、俺と狼に守られていることを。

 

(それでいい。二人はただ、笑っていればいい)

 

 

 一年の間に俺は、狼と共に戦い、呪力パスを覚えた。

 4級呪霊なら安定して倒せる。

 狼の存在はもう俺の一部だ。

 

(次の年、また新しい仲間が増えるはずだ。俺の軍勢はこれから広がっていく……)

 

 影に潜む狼が低く咆哮を上げる。

 その声を聞きながら、俺は静かに二歳を迎えた。

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