一歳になった俺には、一匹の相棒がいた。
影から生まれた黒狼。赤い瞳を光らせ、常に俺の傍にいる。
両親にはその存在は見えない。
「蓮は本当に元気ね」
「夜泣きも減って、助かるな」
母は笑い、父は満足げに言う。
俺はその腕の中で小さな声をあげ、笑ってみせる。
だが影の中では、狼が静かに唸り、家の外を警戒していた。
(この家が安全なのは、あいつのおかげだ。両親は知らなくていい。俺が守る)
俺は一歳になり、ようやく立って歩けるようになった。
よちよちと母の手を握り、数歩進んで転ぶ。
「上手よ、蓮!」
「おぉ、もう一人で立てるな」
両親は喜び、俺は笑いながらまた立ち上がる。
けれど、その裏で俺は別のことをしていた。
(歩くたびに呪力を足裏に流せ……倒れる前に支えろ。小さな訓練だが、必ず積み上がる)
前世ではありえなかった「歩くことすら修行」。
それが今の俺の日常だった。
⸻
夜。
俺は狼を呼び出し、影の中で向き合った。
指先に意識を集中し、胸の奥の呪力を少しずつ流し込む。
最初は力が暴れて狼の体が一瞬だけぶれ、すぐに消えた。
だが何度も繰り返すうちに、流れが細く安定していく。
ある夜、爪が淡く光り、狼が壁を引っかいた。
爪痕は今までよりも深く刻まれていた。
(……やっぱりだ。俺が呪力を送れば、式神を強化できる)
一瞬だけの強化。
だが、それは確かに勝敗を分ける力になると確信した。
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庭の隅に黒い影が蠢いていた。
小型の4級呪霊。
濁った目で俺のいる窓を覗き込んでくる。
(……来たな)
「行け」
狼が飛び出し、呪霊に噛みつく。
だが相手も手を振り上げ、狼を押し返した。
(今だ……!)
俺は胸の奥から呪力を流す。
狼の瞳が赤く光り、動きが鋭くなった。
その牙が呪霊の首を貫き、影は霧散した。
狼は静かに俺を振り返り、短く鳴いた。
(……やれる。俺と狼なら、もう4級は怖くない)
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それからも時折、庭先に小さな呪霊が現れる。
狼が迎え撃ち、俺がパスを繋げて補助する。
倒した数は多くはないが、一戦ごとに確かな手応えが残った。
狼は影に戻る前、いつも俺の手に鼻先を寄せる。
まるで「お前と共にある」と言っているように。
(式神じゃない。俺の兵士じゃない。――相棒だ)
そう思った瞬間、胸の奥に熱が灯った。
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母は俺を抱き、優しく囁く。
「蓮は笑顔が多い子ね」
父は笑って頭を撫でる。
「この調子で丈夫に育て」
二人は何も知らない。
この家の周囲が、俺と狼に守られていることを。
(それでいい。二人はただ、笑っていればいい)
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一年の間に俺は、狼と共に戦い、呪力パスを覚えた。
4級呪霊なら安定して倒せる。
狼の存在はもう俺の一部だ。
(次の年、また新しい仲間が増えるはずだ。俺の軍勢はこれから広がっていく……)
影に潜む狼が低く咆哮を上げる。
その声を聞きながら、俺は静かに二歳を迎えた。