Fate/Caritas Desolatio   作:孤独な人

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一話

ゴクリと水を飲む。

喉が渇いてしまっている。

明日から始まるというお祭りの準備に僕も参加しているからだ。

この街に住み始めてはや10ヶ月、ここにも慣れてきたと思っていたのだけれど。

家族との軋轢から逃げるように家を出た。

 

おつきの方をつけられそうになったけれど、僕が断ったから今はこの家に1人だけ。3階建の一軒家。お手伝いさんは何人かいるから1人きりというわけではないのだけれど。

 

それはともかく、

 

巳啜祭りと言ったか?。

村に古くから伝わる五穀豊穣と水の祭り。

だが今年は「大巳啜」と呼ばれていた。

大巳啜はような生贄だ

百年に一度神を沈めるために生贄を用意する。

 

神というものを信じていないわけではない。でもその程度で神への意見が通るなら安いものだ。そんなことありえないだろうと思う心と可哀想だと思う心も持ち合わせている。だけど、一番は好奇心が勝ってしまっていた。

 

僕もつくづくと思いながらも作業を再開するため疲れて重い腰を上げた。

 

ーーーーー

 

「ふぅとりあえず運び終わったのかな」

 

「ありがとうございます御影様。いや、この村には歳だけ食ってる老耄が多いですからな。若いあなたのようなものに頼り切ってしまうんですわい」

 

彼の名前は三輪源八というこの村の古老らしい。僕の家系の話で彼らからは敬語を使われているのだが、いかんせんくすぐったいものだ。こんな齢17の人間に深々と頭を下げられても何も返せやしないのに。

 

「えーと、今年の大巳啜、誰がなるんだっけか」

 

「ああ、彼女ですよ」

 

源八さんが指さす方を見ると、可愛らしい少女の姿があった。

 

「確か、」

 

彼女と目が合った。ちくりと手が痛む。私はそれを見るために首を傾げ

 

「お、御影様じゃねえーか」

 

後ろから衝撃と共に声がやってくる。

 

「痛い」

 

「ごめんごめん。でさぁ御影様は何してんの?」

 

僕僕に突撃してきたのは三輪颯太くん。源八さんの孫で十二歳の小学生だ。

彼は悪びれもせず僕に問いかけ、その頭を源八さんに軽く叩かれた。

 

「こら、ちゃんしんかい。はぁまぁええ。彼女は斎宮さん家の娘さんじゃったかな。名前は確か紫苑ちゃんやったかな」

 

僕と同じくらいの年齢の彼女は、俯きながら歩いていた。

聞けば、今作っていた家の中に八日七晩閉じ込められるらしい。

もちろん食事や最低限どの生活ができるように用意はしてあるから、そこで死ぬわけではない。

だが、祭りが終われば――そのまま湖に沈められるのだ。

そうやって神に奉納されるらしい。

 

恐ろしい反面気になってしまうものだ。

僕はそう思いながら帰路へとついた。

 

夜になると村は静まり返った。

虫の声と遠くで鳴く蛙の声だけが響いている。

昼間あれだけ騒がしかったはずの家々も、今はひっそりとしていた。

 

僕は机に腰を下ろし、窓の外をぼんやりと眺める。

闇の中で、社の方角に灯りが揺れているのが見えた。

祭りの準備だろうか。あるいは……。

 

「大巳啜、か」

 

声に出してみると、胸の奥に何か重たいものが広がった。

八日七晩、閉じ込められて、やがて湖に沈められる少女。

斎宮紫苑。

 

彼女の俯いた顔が頭に焼き付いて離れない。

気の毒だ、と思う。

でもその一方で、どうしても心の奥でざわめくものがあった。

 

こんなことのになんの意味があるのだろうと思う自分もいる。

 

しかしながら,考えれば考えるほど、眠気は遠ざかっていく。

机に伏せた額に、魔術刻印の熱がじわりと広がった。

 

「……僕が口を挟むことじゃない、か」

 

そう言い聞かせても、胸のざわめきは消えない。

祭りの夜が、ただの祭りで終わらないことを、

僕はどこかで分かっていた。

 

ーーーーー

 

次の日の朝

 

 

妙な胸騒ぎで目が覚めた。

虫の知らせ、というやつかもしれない。

外が騒がしい気がして、布団から抜け出した。

 

支度を整えて外に出ると、村の奥からざわめきが聞こえてくる。

人の声が幾重にも重なり合って、ただ事ではないのがすぐに分かった。

 

道端で立ち止まっている女の子、生贄の女の子の妹である斎宮真澄に声をかけられた。

巫女装束の裾を握りしめ、顔色は青ざめていた。

 

「……見に行かん方がええ。

 死んでるんだ、人が」

 

それだけを残して、彼女は人混みの方から離れて行った。

 

胸の奥がざわめいた。

足が勝手に人混みの方へと追ってしまう。

 

人だかりの隙間から覗き込んだ先に、横たわる男の姿があった。

目は見開かれ、口元から泡を吹いたまま硬直している。

まるで悪夢にうなされたまま絶命したかのように。

 

空気が張りつめていた。

誰も声を上げず、ただ恐怖と嫌悪を押し殺すように立ち尽くしている。

 

「……っ」

 

思わず目を逸らした僕は、胸の奥に冷たいものを抱えたまま、その場から逃げ出すように歩き出した。

 

あの場には長く居られなかった。いたらおかしくなる。

泡を吹いたまま倒れていた男の顔が頭から離れない。

息苦しさに駆られるように、その場を離れて森の方へと足を向けた。

 

逃げ出すように歩いていたはずなのに、途中で足が止まった。

胸の奥がざわつく。

空気の流れがどこか歪んでいるような……言葉にできない違和感があった。

 

普段なら気にも留めないのだけれど、今はどうしても気になった。

気づけば、僕はその痕跡を追うように森の奥へと進んでいた。

 

やがて、木々の合間で目に入ったものに、呼吸が止まった。

 

そこには、干からびた遺体が転がっていた。

肌は紙のように張り付き、骨ばかりが浮き出ている。

まるで長い年月を経て朽ちた骸のようだったが、おかしいところがいくつもある。体に大きな穴が空いている。

それに足跡も鮮明だ。

逃げようとしたのか靴を踏み込んだ跡さえある。

おそらくは昨日は生きていた人間だったのだろう。

 

「……なんだよ、これ」

 

声が震える。

胸の奥で冷たいものが広がっていく。

 

風が吹き抜け、枯葉がざわめいた。

その音の裏に、何か別の気配が混じっているように思えた。

自然のようなものだろうか。獣たちの息遣いにら潜んだ何かが僕を…

背筋に冷たいものが走る。

その瞬間に僕は慌てて森を後にする。何か嫌な気配が僕に近づいているようなそんな恐ろしい気配がした。そんな気がした。

 

 




失踪しないよう頑張ります
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