Fate/Caritas Desolatio 作:孤独な人
帰り道は何事もなく、足を速めながらも無事に家に辿り着いた。
玄関を閉めると、胸の奥のざわつきが嘘みたいに消えていった。
アレは結局何だったのかははわからない。
だが、確かに存在していたような気がする。
――考えるな。今日はもう、眠ってしまえ。
布団に潜り込み、浅い眠りに落ちた。
ふと、寒さに目が覚めた。部屋が異様に寒いのだ。今は2月も終わりだからと厚めの布団をかけていたのにも関わらずに。
冷たい悪寒が背筋を駆け抜ける。
夜気に晒されたような寒さで部屋を見回すと、窓が開いていた。
外から差し込む月明かりかが差し込む。
「……なんで、開いて……」
声に出した瞬間、言いようのないお感がする。
「――起きましたか?」
不意に部屋の入口から声がした。
振り返ると、ドアの前に一人の男が立っていた。
黒い外套をまとい、顔は影に沈んで判然としない。
ただ、確かな殺気だけが鋭く僕を射抜いていた。
反射的に手を握り、魔力を流す準備をする。
だが、男は一歩だけ踏み込み、すぐ目の前にまで迫る。
「ッ――」
その手首を鋭く掴まれる。
皮膚が焼けるような熱と共に、男の目が細められた。
「……なるほど」
僕の手の甲に刻まれた赤い文様――令呪を見て、男は口の端をゆっくりと吊り上げた。
「おや。これはこれは……当たりですね」
冷ややかに囁き、わざと楽しむように間を置く。
「残念ながら、これで終わりのようですか。……せっかくです、少し楽しませてもらいましょう」
言葉と同時に、強烈な蹴りが脇腹に叩き込まれる。
「――ッぐああ!」
身体が宙を舞い、窓硝子を突き破って外へ。
二階から落下し、地面に叩きつけられた衝撃で肺の空気が一気に抜けた。
仰向けの視界に、月光を背負った黒い影が歩み寄ってくる――。
肺の奥が焼けるように痛い。
咳と共に血が口から溢れ、視界が赤に染まる。
立ち上がろうとしても、身体は言うことを聞かない。
「ああ、終わってしまいましたか」
黒い影――あの男がゆっくりと歩み寄ってくる。
その一歩ごとに、死が迫ってくるようだった。
次の瞬間、手の甲の令呪が灼けるように熱を放った。
赤い光が走り、世界の底が震える。
「――――」
轟音。風が巻き起こる。
月光を裂いて、甲冑のきらめきが地に降り立った。
赤備えの鎧。
凛々しくも堂々たる戦装束の武将がそこにいた。
彼女は振り返り、血を吐いて倒れている僕を見て、ふっと口元を歪めた。
「召喚に応じって……みたら結構やばいくらい血ぃ吐いてんな」
声音は軽く、だが瞳は鋭い。
そのギャップに、胸の奥が妙に温かくなる。
「少し待ってな。……あいつ、追っ払ってくるから」
彼女が槍を手に持つと同時に、空気が張り詰める。
一歩前に出て、黒衣の襲撃者へと真っ直ぐ歩み出ていった。
その背は、大きくて、頼もしかった。
赤備えの甲冑が月光を反射し、槍の穂先が冷たい光を帯びる。
対するは、黒衣の男。
右手に握った剣は片手持ちのまま、重心を低く構えていた。
「……」
言葉はない。
ただ空気だけが張り詰めていく。
次の瞬間、火花が散った。
槍の突きが鋭く閃き、男の剣がそれを弾く。
金属音が夜気を裂き、二人の影が月明かりの下で幾度も交錯する。
「ふっ!」
彼女の槍は長大でありながら、その動きは素早く、淀みがない。
薙ぎ、突き、払う。
長さを生かして距離を保ちながらも、一歩踏み込めば刃が即座に首を狙う。
男は剣を片手に振るい、防ぎきりながらも後退を余儀なくされていた。
受け止めた衝撃で腕が震え、足跡が土を抉る。
「どうした。足が下がってるぜ」
挑発めいた声。
しかし男は動じず、剣筋を変えながら反撃を繰り出す。
鋭い斬り上げ。
だが穂先で弾かれる。
続けざまに横薙ぎ。
それすらも柄で受け止められ、隙を突かれかける。
「……チッ」
舌打ちが小さく漏れる。
動きは速く正確。だが、彼女の槍さばきはそれを上回っていた。
三合、五合――十合を超える打ち合いの中で、均衡は崩れ始める。
「はっ!」
槍が大きく薙がれ、男の胴をかすめる。
布が裂け、闇に赤が滲む。
「……」
わずかに表情が揺らいだ。
それを見逃すほど彼女は甘くはないのだろう。
「まだ余裕ぶってられるか?」
次の瞬間、地を蹴った。
穂先が稲妻のように閃き、肩口を狙う。
男は必死に剣で受けるが、衝撃に押されて大きく後退する。
僕から見ても男は息が上がっているように見える。
片手の剣では押し切られるのは時間の問題だろう。
やがて、月明かりに照らされた槍の穂先を見て、男は短く息を吐く。
「……ランサー、ですか」
冷静に呟き、目を細める。
だが次の言葉には、揶揄するような響きがあった。
「少々……不利でしょうか」
剣を下げ、一歩引く。
その身は影に溶けるように揺らぎ、気配が霧散していく。
「では――一旦引きましょうか」
闇に溶けるように姿を消す。
残されたのは、僕を庇うように立つ赤備えの背中だった。
槍を軽く下ろし、肩越しに振り返る。
「……で、聞くけど」
薄ら笑いを浮かべて、言う。
「問おう、あんたが……私のマスターか?」
書き溜め終了
Fate/stay nightを意識しているのはしている
最初はね
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槍を下ろし、闇に消えた黒衣の気配を確かめる。
ひとまずは危機を退けた。
振り返ると、血を吐いて地面に倒れ伏す少年の姿が目に入った。
ゆっくりと歩み寄り、彼の前に立つ。
「……あんたが、私のマスターか?」
かろうじて目を開いた少年が、息も絶え絶えに呟く。
「……マスター?」
問い返すその声は弱々しい。
だが確かに右手には令呪は刻まれていた。
私はふっと口角を上げ、彼の手を見て頷いた。
「ああ、間違いねぇ。あんたがマスターみてーだな」
そして、少しだけ姿勢を正し、堂々と名を告げる。
「よし、自己紹介だ。私はセイバー□□□□だ」
言い終えてふと背後に目をやると、立派な造りの屋敷が月明かりに浮かび上がっていた。
「……しっかし、あんたの家。おっきいなぁ」
感心するように笑い、再び少年を振り返る。
そこには、ぐったりと気を失った彼の姿があった。
「……おいおい」
肩を竦めながらも、私は自然と手を伸ばし、その身体を抱き上げるのだった。