小さな電ノコ、シケる爆弾   作:ぱらそる

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守る者の思い

 

 

気がついたら、大分時間は過ぎていて、少し夜遅くなっていた。

 

 

 

途中、アキさんが「まだゲームをする」とゴネるデンジ君とパワーちゃんを、「風呂とか歯磨きとか終わらせていつでも寝れるようにしてからなら許す」と半ば強制的に支度をさせてから、もう2時間近くは経ったことになる。

 

 

 

 

「流石に飽きたのぉ、寝る!」

 

 

 

パワーちゃんは満足したのか、高らかに宣言して、デンジ君の部屋の方に行った。

 

 

 

 

「んぎ……くっそ、ねみー……でも……まだ、あそぶ………」

 

 

 

「……デンジ、今日はもう寝ろ。その状態じゃ無理だ」

 

 

 

「だってぇ……レゼ、きてくれたのに……」

 

 

 

一方デンジ君は、目をこすったりして頑張って起きようとしていたけど、かなり眠そうだ。

 

 

 

「……デンジ君、アキさんの言う通りだよ。もう寝よう?また私遊びに来るから、その時に遊ぼうよ!」

 

 

 

私も彼に同調して、デンジ君に寝るよう勧めた。

 

 

 

「…んーー…………ほんとにぃ…?」

 

 

 

「うん、アキさんが許してくれるなら」

 

 

 

私はちらりと彼の方を見やった。

彼は頷いて、デンジ君を見据える。

 

 

 

「都合が合う日なら、またぜひ来てください。……ほらデンジ、もう良いだろ、寝ろ」

 

 

 

「……なら、いっかぁ……?」

 

 

 

デンジ君は、ぽやぽやした顔で立ち上がって、部屋の方へと歩き始めた。

 

 

 

「…………おやすみぃー…」

 

 

 

「おやすみ、デンジ君!」

「お休み」

 

 

 

デンジ君は、そのままふらふらとした足取りで部屋に消えていった。

 

 

 

本当は私、もう遊びになんて来れないのに。

……こんな嘘ついてごめんね、デンジ君。

 

 

 

 

……さて、切り替えないと。

ついに、彼と2人きりになった。

 

 

 

「……すみませんレゼさん、こんな時間まで付き合わせてしまって」

 

 

 

「全然。ほんとに楽しかったです!」 

 

 

 

申し訳なさそうにしている彼に、私は笑顔で言った。

 

 

 

「そろそろ、帰られますか?」

 

 

 

どうやら、あくまで彼は最後まで気を使ってくれるつもりらしい。

 

 

でも、ここで帰るわけがない。

むしろ私にとってはチャンスが訪れたようなもの。

 

 

 

「うーん……もし良ければなんですけど、その前に少し、話しませんか?」

 

 

 

「私、デンジ君と遊びたかったし、パワーちゃんにも会ってみたかったけど」

 

 

 

「アキさんとも、お話したかったんです。特に、デンジ君のことについて」

 

 

 

……まだ、その『話』がしたいわけじゃない。  

 

 

というより、こんなとこじゃ無理。

その話は、室内ではできない。

 

 

 

ただ……彼のデンジ君への思いはどういうものなのか、それはちゃんと確認したい。

 

 

 

「……そうですか。貴方の時間が大丈夫なら、俺は構いません」

 

 

 

その言葉に、私は軽く微笑んでみせる。

 

 

 

「それはもう!時間なんて、いくらでも」

 

 

 

「何か、飲み物はいりますか」

 

 

 

「じゃあ……お茶かお水で」

 

 

 

私の注文で彼はコップにお茶を注ぎ、それをそのまま私が座る方のテーブルに置いてくれた。

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

そしてそのまま、反対側に彼が座る。

…少し間を置いて、私から口を開くことにした。

 

 

 

「じゃあ……私から話してもいいですか?デンジ君と、出会った時のこと」

 

 

 

「……ええ、聞かせて貰えるなら」

 

 

 

……とりあえず私は。

デンジ君と出会った時の話を、簡潔にすることにした。

 

 

 

「私、デンジ君とは電話ボックスで会ったんです。あの時は雨が降ってました。それで雨宿りに駆け込んだら、デンジ君がいて……」

 

 

 

「お花をくれたので、お礼に私のバイト先のカフェに連れて、牛乳を出しました」

 

 

 

「そうですか、デンジとそんなことが……」

 

 

 

「それから、お昼の度来てくれるようになって。デンジ君と遊んだり、勉強教えたり……楽しい時間でした」

 

 

 

それを聞いたアキさんは、納得したように微笑んだ。

 

 

 

「……デンジは、あなたと会ってからいつも俺に『お昼の弁当は作らなくていい、食べてくる』と言ってました。デンジも、貴方と会うのが相当楽しみだったんだと思います」

 

 

 

……そうだったのか。それは知らなかった。

彼がデンジ君のお昼ご飯を作っていたことも、デンジ君がそこまで私に会うのを楽しみにしていたことも。

 

 

 

「そうなんですか?……なんか、照れちゃうなぁ」

 

 

 

私は、明るく笑って見せた。

本当は……これからを思うと、少しだけ苦しかった。

 

 

 

「あ、それで本題と言うか、なんと言うか……私、その時にデンジ君からは色んな話も聞いたんです。……デビルハンターを、やってるってことも」

 

 

 

すると、彼の表情は一気に苦い顔に変わって、ため息をついた。

 

 

 

「あいつ……そういう事は軽々しく言わないようにと、口を酸っぱくして言ってたんですが」

 

 

 

「あはは、責めないであげてください。私が流れでちょっと恥ずかしい話をして、それをヒミツと言ったら、気を遣ってデンジ君もヒミツを教えてくれたので」

 

 

 

ため息をつく彼に、私はデンジ君を庇うような事を言って、話を続ける。

 

 

 

「それで、聞きたいと思ってたんですけど……」

 

 

 

「アキさんは、デンジ君がデビルハンターなの、どう思ってるんですか?」

 

 

 

「私は正直、そんなのおかしいって、許せないって、そう思ってて」

 

 

 

「アキさんは、そこはどう思ってるのかなって……」

 

 

 

「それが知りたくて。私、デンジ君のことが心配だから」

 

 

 

間違いなく、彼は真面目でいい人だ。

 

 

 

ただ、それでも……

デンジ君のために「マキマが支配の悪魔だ」と信じたら、ちゃんと動いてくれるかは……

 

 

そこまでの人間かは、まだ確信が持てない。

 

 

 

せめてこの質問の答えぐらいは、聞いておきたい。

 

 

 

「……デンジは」

 

 

 

彼は、ゆっくりと口を開く。

 

 

 

「自分がデビルハンターだという話は、もうしてるんですか?」

 

 

 

「はい、割としっかり」

 

 

 

「では、倒した悪魔の話も?」

 

 

 

「そうですねー、ムズカしい名前の悪魔を倒したことがあるとか、そんなのは聞いたかな……?」

 

 

 

「……それは、本当です。貴方ならきっと大丈夫だと信じて、この話をします」

 

 

 

「あれは……」

 

 

 

「永遠の悪魔という悪魔を、デンジが倒した時の話です」

 

 

 

彼はそうして、その過去の話を始めた……

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

アイツ、本来はついてくる予定じゃなかったんです。

 

 

俺は上司に頭を下げて、本来デンジ含めた6人でやるところを、なんとか5人でやらせてもらうつもりでした。

 

 

 

でも……パワーがその日、大きな荷物を持っていて。

 

 

本当に、驚きました。

 

 

現場に到着して、建物の中に入ったらその中からデンジが出てきたんですから。

そのバッグ、一度不審に思って確認して、その時は中に変わったものは何もなかったのに、どんな手品だと。

 

 

 

「お前ッ……何やってんだ!!」

 

 

 

俺は、鞄を持っていたパワーにそう怒鳴りました。

 

 

そうしたら、アイツは言ったんです。

 

 

 

「デンジに頼まれた。ワシのせいじゃない」

 

 

 

……もう、一旦そちらは諦めて、デンジにも怒鳴りました。

 

 

 

「デンジ……今日は家にいてくれって言っただろ!!今すぐ帰れ!!」

 

 

 

でも、アイツは言うことを聞こうとしない。

 

ゴネにゴネて、何ならこっちに噛みつきそうな勢いだった。

 

 

 

「オレ、やれるって!ゾンビとかコウモリとかもたおしてんだぜ!」

 

 

 

そういう問題じゃないだろ、それが危険だって何度言えば分かるんだと、俺は懇願するように叱りつけました。

 

 

 

「デンジ君、だったね?悪いことは言わないから、ここから出て帰りなさい!迎えは他の職員に頼むから……!」

 

 

 

心配そうな顔で、真面目な荒井という後輩が言いました。

 

 

 

「こども……子供っ、ええ……?」

 

 

 

もう一人、コベニという気弱な後輩も、汗をかいて困惑してました。

 

 

 

「うーん、困ったねぇ……」

 

 

 

唯一、そうは言いながらも慌ててなかったのは、姫野という俺の先輩……その人だけでした。

 

 

 

「デンジくーん、今日は私らだけで大丈夫だからさ、帰ってゆっくりしなー?あんまないよ、うちの職場で急に休み取ってゆっくりさせてもらえるチャンスなんてさ」

 

 

 

先輩も軽い調子ではありますが、デンジにはそう促してました。

 

 

 

「……るせぇ、ビジンなセンパイでもゆずれねー、オレいくからな!」

 

 

 

そう言って、デンジは1人で勝手に進み始めました。

 

 

 

「あー!こら、待ちなさい!美人な先輩からの命令です!」

 

 

 

先輩は、そんなことを言って追いかけ始めました。

 

 

 

「そ、そうだぞデンジ君!そんな先行ったら危ないから!!」

 

 

 

「えっ……えぇ〜……!?」

 

 

 

後輩2人も、慌てながらその後を追って。

 

 

 

「ガハハっ!揃いも揃ってドタバタ走って滑稽じゃのう」

 

 

 

「このバカ悪魔!!お前がデンジ連れてきたせいでもあるんだぞ!!」

 

 

 

……と、俺はパワーを怒鳴りつけて追いかけました。

 

 

 

 

「子供なのに足早〜!んもう、仕方ないなあ……」

 

 

 

あまりデンジが逃げるモノだから、先輩は痺れを切らして、幽霊の悪魔という契約してる悪魔の力を使いました。

 

 

 

……透明で自由に動かせる腕だと思ってもらえれば、分かりやすいと思います。

 

 

 

「ぐぇ!」

 

 

 

「はい、タッチ。鬼ごっこしゅーりょ〜」

 

 

 

先輩はなるだけ優しく、その手でデンジを動けないように捕まえました。

 

 

 

そうしたら、先輩は動けないデンジに近寄って、話し始めました。

 

 

 

「ねぇデンジ君さぁ、そんなに頑張んなくてもいーじゃん、ゆる~くやろうよ。今日はお休みしよ?」

 

 

 

「そーいうわけにもいかねーの……がんばってテガラ、たてねーと……」

 

 

 

それを聞いた先輩は、デンジにこう言いました。

 

 

 

「じゃあデンジ君、交換条件で行こう。この任務の報告する時に、デンジ君が頑張ったことにして手柄は譲ってあげるからさ、デンジ君はお家に帰るってことでどう?」

 

 

 

「……やだね、それウソかもしれねーし」

 

 

 

意固地になってるのか本当に嘘かもしれないと思っているのか、デンジはその提案も蹴りました。

 

 

 

「うーん……嘘じゃないんだけどなぁ……んじゃせめて、私達の後ろについてくる、っていうのは?」

 

 

 

先輩は益々困った顔で、せめてもの妥協案としてそれを提案しました。

 

 

 

「うーん……それなら、いーぜ」

 

 

 

「先輩!後ろにつかせたとしても、危険なのに変わりは……!」

 

 

 

「……私も本当は帰ってほしいけど、これ以上言い争いしても仕方ないよ、私達で守ろう」

 

 

 

先輩も、その判断が完璧に正しいとは思っていなさそうな顔だった。

 

ただ、先輩の言うことにも一理あるというか、これ以上無駄な時間をかけるわけにもいかなかった。

 

だから俺達は、一旦デンジに関してはそれで良いということで決着がつきました。

 

 

 

「わざわざ守ってもらえるとは楽でいいのぉ、ワシのことも守れ!」

 

 

 

「お前、次喋ったらその口裂いてやるからな……」

 

 

 

パワーの呑気な言葉には、思わずそんな悪態が出てしまいましたが。

 

 

 

その後、デンジは俺達の後ろについて、歩き始めました。

 

 

 

 

……困ったことが起こったのは、そうやって落ち着いたあとだった。

 

 

前からやってきた小さい悪魔を一匹倒したら、同じ階層から出れなくなったんです。

 

 

 

俺達は、そこの8階に閉じ込められました。

 

 

 

出られなくなってから…俺と先輩は少し、後輩2人がかなりキツく憔悴していました。

 

 

デンジとパワーは、平気そうでしたが。

 

 

オマケに悪魔が出てきて、こう言ってきた。

 

 

 

「そこのデンジという人間を食わせろ、そうしたら他のデビルハンターは全員無事に外に帰す、契約しろ」と。

 

 

 

それが、永遠の悪魔という悪魔でした。

 

 

 

俺達は、勿論それを拒否しました。

 

先輩は幽霊の腕を使いましたが、そいつは「痛い」と言うだけで効果もなく、むしろ肥大化して。

 

そのまま、更に追い詰められて。

 

 

 

……ついに気弱な後輩が、叫び始めました。

 

 

 

「誰かデンジ君を殺して!!殺してください!!もう子供とかそういう事言ってる場合じゃなぃっ!!」

 

 

 

……命がかかってるんだ、仕方ありません。

 

 

真面目な後輩が、顔を歪ませて必死に叫んでました。

 

 

 

「こっ、ここコベニちゃん!!そ……それは、それはダメだ!!か、彼はぁ、彼はまだ子供だぞっ!!ま、まだぁ、何か、方法が……!!」

 

 

 

彼はそんな方法、思いついてもいないだろうに必死で空元気を振り絞っていました。

 

 

 

俺は………耐えられなくて。

自分の寿命を使う代わりに確実に悪魔を殺せる武器を抜きました。

 

 

刀を使う……いいですよね、姫野先輩。

 

 

そう、聞いた瞬間でした。

 

 

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

 

 

そう言いながら、先輩は悪魔の力で俺を押さえつけた。

 

 

 

「アキ君はまだやらなきゃいけないことがある。……それに、子供のデンジ君を止めれなかったのは、年長者の私の責任だから」

 

 

 

「そういうことするなら、私の方だよ」

 

 

 

そう言いながら先輩は、幽霊の悪魔の一部に、語りかけ始めた。

 

 

 

「ねぇ……ゴースト、聞こえてる?一部分でも体がここにあるなら、できるでしょ?」

 

 

 

「もし、できるなら……」

 

 

 

「私の体をあげるから、もっと力を貸して」

 

 

 

何をする気だ、と俺は先輩に怒鳴りつけました。

 

 

 

「……アキ君」

 

 

 

「これから、私のお世話お願いね」

 

 

 

先輩は冗談言う時みたいに、俺に向かってにへらと笑ってました。

 

 

 

何をするか、その瞬間察しがついて。

 

 

やめろと、俺は叫びました。

 

 

 

「ゴースト、私の体の……」

 

 

 

その、瞬間でした。

 

 

デンジが、言いました。

 

 

 

「なーセンパイ!」

 

 

 

「やっぱテガラはゆずってもらわなくて良いや。じぶんでつかむぜ、あいつぶっ殺してな。ちゃんとテガラたてて、マキマさんにまたほめてもらいてーし」

 

 

 

……本気で、言ってる顔でした。

 

 

子供らしい短絡さと言えばそうですが、それ以上にこの状況にまだ怖じていないのが、信じられなくて。

 

 

俺達は全員、パワー以外呆然として黙り込んでました。

 

 

 

「勝つ算段はあるのか?」

 

 

 

「イテーけどチェンソーになる。よく分かんねーけど、アイツオレのチェンソーにビビってやがった」

 

 

 

「それにあの悪魔、センパイの……ゴーストだっけ。あれであいつイテーっていってたよな」

 

 

 

「……なぁ、一回ならガマンできることでもさ、何回もやられたらイヤだよな?」

 

 

 

「いまからアイツに、そーいうことすんだよ。チェンソーで、なんかいも」

 

 

 

「ビビってるチェンソーで、イテーイヤなことたくさんしまくれば……」

 

 

 

「……な?かてそーだろ?」

 

 

 

……デンジの話し方は幼かった。

 

 

それでも話してるうちに全員、何を言いたいのかは何となく理解してました。

 

 

 

「何……考えてるんだ、よせ!!」

 

 

 

やっと俺の口から、そんな言葉が出ました。

 

 

先輩も、俺をゴーストで掴むのをやめて、デンジを止めにかかった。

 

 

 

でも、その前にデンジは悪魔の大口に、飛び込みました。

 

 

 

……もしかしたら聞いたかもしれませんが、デンジは、少し特殊な力を持っていて。

 

 

それを使って、あいつは悪魔の中で暴れ始めました。

 

 

斬って、斬って、斬って。

攻撃されたら、悪魔の血を飲んで再生して。

 

 

 

 

……普通、辛いはず。

 

変身は痛みを伴い、悪魔からも攻撃され、俺達も下手に助けられない。

 

先輩は時折デンジのサポートをしてましたが、情けない話俺達にできたのはそれぐらいです。

 

 

しかも再生するには、悪魔の血を飲まないといけない。

 

 

 

 

……ただ、その間、デンジは……

 

 

 

「ッあ~!!マジぃしイテーけど、わりー悪魔のくるしーカオみながらなら楽しいなァ!!!」

 

 

「きって、血ィながさせて、それ飲んでカイフク……!なんだっけェ〜……エーキューキカンか!!ノーベルショー?はオレんのだぁ!!」

 

 

「ギャハハハハハ……!!!!」

 

 

 

はしゃぐように、笑ってました。

……多分、その場にいた全員、こう思っていたはずです。

 

 

 

デンジは、普通の子供とは違うと。

 

 

 

……デンジは結局、悪魔が弱点を自ら差し出すまで、斬り続けていました。

 

 

勝ってしまったんです。ほとんど1人で。

 

 

大人が、子供に助けられる形になりました。

 

 

今思うと、俺がもっとしっかりしていれば、本当に情けないと強く思います。

きっと、他の皆も今ならそう思うはず。

 

 

 

でも、あの時だけは、間違いなく……

全員、デンジに圧倒されてました。

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 

……すごい、話だった。

 

 

 

デンジ君は、私が思っていた以上に無茶苦茶で、戦える子供なのかもしれない。

 

 

 

「……そんなことが、あったんですね」

 

 

 

……でも、彼がした話はデンジ君が凄いというだけでなく、どこか痛々しさを内包しているように思えてならない。

 

 

まだ私が悪魔入りの体になる前、殺しに慣れるための訓練をしたのを思い出す。

 

 

小さな生き物から始まり、その対象が少しずつ知能が高く大きな動物に変わっていき……

 

 

最後には、人間を殺す。

 

 

もう今は動物を、人を、何を殺しても、何も思わなくなった。

 

 

 

……デンジ君は、笑いながら戦いに身を投じれるようになるまで一体何匹の悪魔を殺してきたんだろうか。

 

 

 

「色々機密とかもありそうなのに、教えてくれてありがとうございます」

 

 

 

「……いえ、構いません。こちらこそ、聞き苦しい話をしてしまったと思います」

 

 

 

……もし、彼が。

 

 

 

「……アキさん」

 

 

 

その強さを見たから、デンジ君がデビルハンターをするのを許していると言うなら。

 

 

 

「アキさんは……」

 

 

 

私は、彼を信用しきれない。

 

 

 

「それで、デンジ君がデビルハンターでも良いと思ったんですか?」

 

 

 

……すると、彼は数秒ほど黙り込んでしまった。

 

 

 

「……確かに、デンジにはデビルハンターの才能がある」

 

 

 

そして、ゆっくりと吐露するように話し始めた。

 

 

 

「ただ……それと、子供のデンジがデビルハンターであるべきかは、別です」

 

 

 

……真剣な、取り繕いのない表情だった。

私は、黙って彼の言葉を聞いていた。

 

 

 

「今は上層部の圧力で、公安を辞めるとデンジは悪魔として処理されてしまう。……これも、おかしな話だと思いますが」

 

 

 

「もし……その枷が無くなったなら……いや、俺が功績を立ててでもそこは上に認めさせます」

 

 

 

「……とにかく、そうなったらデンジには一度、もっと普通の生活をして欲しい」

 

 

 

「なるだけ悪魔とは関係ない場所で、学校に通って、遊んで、勉強や部活、将来の進路……そんなことで悩んで、育ってほしい」

 

 

 

「そうしたら……デンジにも職業を選択できる時が、いつかやってくる」

 

 

 

「その時に、それでも……」

 

 

 

「普通の生活を送った後でも、デビルハンターをやる、やりたいと言うなら……俺は止めません」

 

 

 

 

そうか、やっぱりこの人は。

 

 

デンジ君のことを、ちゃんと考えてくれている。

 

 

 

「そう、ですか」

 

 

 

この人になら……

 

 

 

「なんか……安心しました」

 

 

 

私は笑顔を作り、彼に言った。

 

 

 

「私が言うのもヘンな話だけど、これからも面倒見てあげてください」

 

 

 

決してそれに深い意志があることは、聞いていて悟られないように。

 

 

 

「……はい」

 

 

 

アキさんは返事をしながら、絶妙な笑顔を私に向けた。

 

 

 

「じゃあ……お話も聞けたので、私そろそろ帰ります……!」

 

 

 

私は、そう宣言しながらゆっくり立ち上がった。

 

 

しばらく話を聞いていたせいか、どうなのかは分からないけど、妙に体が重かった。

 

 

 

「ああ……更に遅くなってしまいましたね、すみません。代金は俺が出しますから、タクシーを呼びましょう」

 

 

 

アキさんは時計を見るとそう言って、電話の方に歩いていった。

 

 

 

「いいですよそんなの!家は近いので、ホントに大丈夫です」

 

 

 

……いや、違う。

 

 

体が重かった理由を、本当は知っている。

 

 

 

「ただ……」

 

 

 

私は照れを隠すような表情を作って、彼に言った。

 

 

 

「この時間は暗くて少し怖いので、外まで送ってもらってもいいですかね?」

 

 

 

……これで、デンジ君とはお別れになるからだ。

 

 

私は、彼に希望を託すともう決めた。

 

 

それはつまり……

彼に、支配の悪魔の話をするということ。

 

 

 

その結果が、どんな方向に転ぼうとも……

 

 

もう私が、この家に上がることはできない。

 

 

二道でバイトをすることも、あの仮住まいにいることも。

 

 

 

……デンジ君に、会うことも。

 

 

 

「……貴方がそれでいいなら」

 

 

 

一切照れのない、かといって冷たくもない穏やかな態度で、彼は私の申し出を受け入れた。

 

 

 

それはそうだろう。この私の申し出の真の意味なんて、私をただのカフェの店員だと思っている彼は知る由もない。

 

 

 

「あ!あと、帰る前にちょっと……」

 

 

 

 

「寝てるとは思うんですけど、デンジ君に挨拶してもいいですか?」

 

 

 

私はまた、ただ明るい態度で彼に聞いた。

 

 

 

……だって、これで最後になると思うから。

 

 

あくまで表面上は普通に言うだけだけど、せめてデンジ君の顔を見てお別れしたい。

 

 

 

「構いません。アイツのことだから、声をかけてもよく寝てて起きないと思います」

 

 

 

彼がそう言ってくれたので、私は「じゃあ」とデンジ君の部屋に行き、扉を開けて覗き込んだ。

 

 

 

そこには、パワーちゃんとデンジ君がいた。

 

 

 

2人とも、かなりガサツな眠り方をしていたけど、眠り顔は穏やかだった。

 

 

 

……私は、デンジ君の方に近づいた。

天使みたいな、寝顔だった。

 

 

 

「……ふふ」

 

 

 

私はその頬を、軽く撫でた。

 

 

 

眠っているデンジ君が、少しだけ微笑んだような気がした。

 

 

 

 

「……バイバイ、デンジ君」

 

 

 

 

……さよなら、もう行かなきゃ。

愛しいキミに、希望を残す為に。

 

 

 

名残惜しい気持ちを、押し殺して。

 

 

 

私は部屋を出て、アキさんの所へと戻った。

 

 

 

「お待たせしました!」

 

 

 

「いえ、大丈夫です」

 

 

 

そうして私達は、2人で外に出た。

 

 

流石に無言じゃやりにくいし、ここはあえて適当な話でもしながら階を降りよう。

 

 

 

「そういえば……デンジ君、いつもお昼はお弁当なんですよね。お弁当のおかずとか、何が好きなんですか?」

 

 

 

「…逆に、分からないかもしれません。不味いとか嫌いとか、言われた記憶がないです」

 

 

 

無言じゃ怪しいとはいえ、これから何かが起きるなんて信じられないってぐらい、軽い話題だ。

 

 

 

「え!そうなんですか!デンジ君偉いなぁ……」

 

 

 

「はい、デンジは本当に何でも食べるので。……逆に少しぐらい選り好みして欲しいんですが」

 

 

 

私達は階段を降りて、そのままマンションの敷地から歩道まで歩いていく。

 

 

 

「あはは!なのにコーヒーはダメなんですね!」

 

 

 

「ええ。……連れて行った喫茶で、飲みたいとせがむものですから俺のを一口飲ませたら、凄い勢いで吹き出して騒いでました。何でも食べれるのに、一体何がダメなのか…」

 

 

 

 

……私達は、完全に、外に出た。

 

 

屋根も何も無い、空の下に。

 

 

 

 

……来る。

 

 

 

 

ぽつり

 

 

 

雨が一滴、落ちてきた。

 

 

 

「……雨?……うわ、結構曇ってますねー」

 

 

 

私は、それで空を見上げて、気づいたかのようなフリをした。

 

 

 

その、次の瞬間。

 

 

 

ぽつり、ぽつり、ぽつ、ぽつぽつぽつぽつ…

 

 

 

 

雨は一瞬のうちに勢いを増し、どざぁっと激しくなった。

 

 

 

私達は、数秒の間にまるで滝のように変化した雨に襲われた。

 

 

一瞬で地面に水溜りが生まれ、排水口にみるみる水が流れていく。

 

 

 

「ぐぁっ……!!な、なんだ急に……!!」

 

 

 

「うひゃー!!ヤバい!ちょっとアキさん、これヤバいです!もどりましょー!」

 

 

 

私は、いつもと変わらぬテンションに見せかけて、そう促すような事を言いながらくるりとその場で勢い良く踵を返した。

 

 

 

……今だ。

 

 

 

私は、その振り返って走り出そうとした、勢いに合わせて。

 

 

 

まるで雨で滑ってそうなったかのように見せかけて、自分の足首を骨も折るぐらいのつもりで勢いをつけ、わざと捻った。 

 

 

 

……足に一瞬、電流が走る。

 

痛みには慣れているけど、ここは自然なリアクションをしないといけない。

 

 

 

「……うぁっ!!!」

 

 

 

痛みに悶えるような表情を作り、そのまま倒れ込む。

 

 

 

「だ、大丈夫ですか!!」

 

 

 

その瞬間、同じく戻ろうとしていた彼が、倒れ込んだ私に近寄ってきた。

 

 

 

起こそうとしてるのか、足首を見てくれようとしているのか、彼は私の傍で屈む。

 

 

 

「……ったぁ〜……や、やっちゃったぁ〜……あ、あし、挫いちゃったかも……」

 

 

 

私は、痛みに耐えて声を細くするような出し方にしていく。

 

 

 

その間にも、更に雨は激しくなってくる。

 

 

 

「クソッ、雨が……何だって言うんだこんな時に!!」

 

 

 

アキさんは、私の様子と天候がどんどん悪くなることに更に焦り、怒鳴るような声を出した。

 

 

 

「………ぅ……っぅ〜……ちょっと、たてな……」

 

 

 

私は、蚊の鳴く様な声でそう言った。

 

 

彼が、私を心配して更に私の元へと近寄る。

 

 

 

「大丈夫……な訳ないですよね。とりあえず戻りましょう、俺の家で手当てをします」

 

 

 

……その声は、激しく降る雨と絶え間なく吹く風でかなり聞き取りづらかった。

 

 

 

「ちょ、ちょっとまって!!まだ、まだたてないです……!いたくて……」

 

 

 

「っ…!!すみません、けどここに留まるのも……」

 

 

 

その彼の謝る声も、これだけ近い距離だから、聞こえる。

 

 

 

「もうすこし、もう少しだけ、ここに……」

 

 

 

……排水口から、水が溢れ始めた。

 

 

 

雨が声をかき消すぐらい降っていて、その雨は、動物が隠れられる場所を水で満たして奪っている。

 

 

 

 

……良い。思ったより、台風が仕事をしてくれている。

最高のコンディションだ。

 

 

 

『………台風、そのまま一言も返事しないで、聞いて』

 

 

 

『私が家を出て、デンジ君とカフェで会った後、一緒に入る場所がある。そこに入ったら、その周辺一帯の天気を、自然に、少しずつ悪くして。それも、できる限り広範囲で』

 

 

 

『その場所から私とデンジ君じゃない人間が一緒に出てきたら、それを合図にして、雨を降らせて』

 

 

 

『雨は降らせれる限り一番激しく降らせて。私がその場で転ぶから、私達がその場から移動しない限り雨を絶対に止ませないこと。……止ませる時も、徐々にね』

 

 

 

これで、マキマはしばらく私達の会話を聞くことができない。

そして天気が少しずつ悪くなっていたのを、聞いていたマキマは知っている。

 

 

この雨が自然と降ったものでなく、台風の悪魔の仕業と気づくには、時間がかかるはずだ。

 

 

これから話をする間の時間の怪しさは、私が足を挫き立てないという建前をつけたことで、ある程度誤魔化せる。

 

 

捻るのをフリでなく本気でやったのは、少しでも説得力を持たせるため。

 

 

 

 

彼がかなり屈み込んで、こちらに近づいている。

 

この雨の中でも声を張らずに会話できるぐらい近寄ってくれているのを確認して、私は痛がるのをやめて彼を見据えた。

 

 

 

「……アキさん」

 

 

 

この状況を、作り上げたところまではともかく。

 

 

これからやることは、作戦や計画なんかじゃない。

 

 

私の全てを賭けた、説得だ。

 

 

 

「……え?」

 

 

 

その瞬間、彼は困惑に満ちた顔で、声を漏らした。

 

 

 

「お願い、そのままの位置で、聞いて」

 

 

 

「レゼ、さん……?」

 

 

 

……当たり前か、混乱しないはずがない。さっきまで痛がっていた相手が急に真顔になって、そんなことを言い始めたんだから。

 

 

 

……でも、彼にはこの状況を理解してもらう必要がある。

 

 

 

「声をひそめて。このまま、顔を近づけたままで」

 

 

 

「私達の会話は盗聴されてる。この状況は、怪しまれない為に私が悪魔の力を借りて作った。足を挫いたのも演技の一環」

 

 

 

駆け引きは不要だし、私にはこの人を信用させるための策を練る時間もなかった。

 

 

私に、出来ることとは。

 

 

持つ全ての情報を、心情を、彼にありのまま伝えること。

 

 

この人ならきっと、それを今すぐ信じなくても。

 

 

私の言ったことについて、考えることぐらいはしてくれる。

 

 

儚い希望だが、後ろ盾も何もない私にはそれしか無い。

 

 

 

「盗聴されてる?悪魔の力?一体、何を……」

 

 

 

「そう、盗聴されてる。支配の悪魔という、悪魔に」

 

 

 

「支配の、悪魔……?」

 

 

 

「そいつは、下等生物の耳を借りる。だから周りに動物がいない時か、こうやって誤魔化せる状況じゃないと話せない」

 

 

 

彼は一度目をぎゅっと瞑り、何とか混乱を抑えた様子でまたこちらを見た。

 

 

 

「待て……待ってくれ……何を言ってる?……頭が追いつかない。…アンタ、何者なんだ……?」

 

 

 

……困惑しながらも、なんとか私と話をしようとはしてくれている。

 

 

呼び方も、さっきまでの私を尊重する呼び方ではなくなった。

 

 

私はその質問にも、取り繕うことなく答えた。

 

 

 

「私は……」

 

 

 

「私は、爆弾の悪魔の力を使うことができる、ソ連から遣わされた暗殺者」

 

 

 

ついに…

ついに、自分の正体を明かした。

これでもう、本当に後戻りは出来ない。

 

 

 

溺れそうなほどの豪雨が、私が吐いた言葉をあの魔女から隠すべく、ただ降り続けている。

 

 

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