コードギアス〜暗躍の朱雀〜   作:イレブンAM

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プロローグ

 皇暦2010年、某月某日。

 久しぶりに帰ってきた父さんに呼ばれた僕こと枢木朱雀は、緊張の面持ちで正座して父さんと向かい合っている。

 実の父親だけど、こうして顔を合わせる機会は余りなく、僕は厳格過ぎる父さんが少し苦手だ。

 父の名は枢木玄武。

 日本国の総理にして陸軍参謀。

 元々多忙な父だったけれど、神聖ブリタニア帝国との関係が悪化した近年は、特に忙しそうに飛び回り家を空けている。

 徹底交戦を掲げて軍部を纏める父さんがこの枢木神社に顔を出すのは、お盆とお正月の二回だけだ。

 そんな父さんが何の用も無く帰ってくるなんて事は有り得ない。子供の僕にだって判るコトだ。 

 太股の上に乗せた手をギュッと握り締めた僕は、父さんの口から言葉が紡がれるのをじっと待つ。

 

「…………朱雀、あの2人はどこだ?」

 

「え? 2人って、ルルーシュ達の事?」

 

 親子の会話も無いまま父さんの口から飛び出た言葉に、小首を傾げながらも僕はアタリを付ける。

 

 父さんの言う2人とは、きっとルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとナナリー・ヴィ・ブリタニアの兄妹の事だと思う。

 一年前に日本国と敵対する世界唯一の超大国、神聖ブリタニア帝国から留学生としてやって来た2人は、今では僕の友達だ。

 国同士が歪み合っていても子供の僕達には関係がなかった。

 

 だけど、ルルーシュ達はその名が示す通り、帝国の皇子だ……父さんも含めた大人達は、2人の事をあまりよく思っていないんだ。

 

「そうだ。何処に居るのか言いなさい。コレは日本の為だ!」

 

「ま、待ってよ、父さん!? 急に帰ってきたと思ったら何を言ってるの? ルルーシュ達なら夕方になれば帰ってくるし」

 

 父さんの醸し出すただならぬ雰囲気に、これは良くない事が起きると直感的に感じた僕は、父さんの意に反する様な口答えをしてしまう。

 

「それでは遅いのだ! 私は一刻も早くあの2人を見つけ……殺さねばならんのだっ!!」

 

 まずいっ、と思うより早く怒りを顕に怒鳴り声を上げた父さんの言葉は、僕が感じた以上に酷いモノだった。

 

「な、何をっ……!?」

 

(と、父さんは何を言っているんだ!? 2人を殺す? 2人ってルルーシュと……ナナリーも!? そんな、どうしてっ!? 嫌だっ、ルルーシュは僕の友達で、ナナリーは僕の…………絶対に嫌だっ、ルルーシュを死なせるなんて二度と御免だ!)

 

 立ち上がって抗議の言葉を言おうとした僕は、目眩を覚えてフラつき、頭を押さえ襖に手を突きなんとか踏み留まる。

 

 その瞬間、僕の頭の中に膨大な情報が流れ込み、『俺』は全てを理解した。

 

「……判ったよ、父さん。着替えた後、2人の探索に向かいますので暫しの間お待ち下さい」

 

 枢木玄武に背を向けた俺は狭い居間の襖を開けて立ち止まり、俯き加減に呟いた。

 

「む……?」

 

 俺の変化に気付いたのか枢木玄武は訝しげな声を出すも、呼び止める事は無かった。

 

 この時俺は、どんな顔をしていたのだろうか?

 

 

 枢木玄武の座す居間を離れた俺は、長い廊下を庭に沿ってゆっくりと歩み枢木朱雀の自室がある別宅へと向かう。

 その最中、唐突に得た情報を整理していく。

 

 俺が得たのはアニメの形を借りた、この世界の未来情報。

 これから先、日本が、世界が、ルルーシュが、そして、枢木スザクがどうなっていくのかが大まかに判るという眉唾物の情報だ。

 悲劇のままに命を落とした魔王ルルーシュを救う為に、未来の枢木スザクが過去の自分に託した知識でないかと推察出来るが、残念ながらよく判らない。

 と言うのも、膨大な負荷が掛かった悪影響か、俺は自分が未来の枢木スザクとは認識出来ないでいる。

 かといって、今日まで枢木朱雀として生きた記憶が無くなった訳でもなく、他の誰かとして生きた人格が俺に乗り移った訳でもなさそうだ。

 朱雀少年が膨大な知識を得た事で、新たな人格として成長した……説明としてはこれが一番しっくりくるだろうか。

 

 まぁ、何処の誰とも知れない相手が何らかの理由や思惑があって俺に知識を与えたとしても、そんなのはどうだって良いコトであり、思案したところで判る事でもないので気にするだけ無駄だろう。

 大事なのは、この知識を使い何を為すか? この一点に尽きる。

 

 このアニメの形を借りた未来知識。コレを活かせばより良い未来を築く助けになるのは間違いない。

 

 とは言え、何を以て『より良い未来』と呼べば良いのか今の俺には解らない。

 枢木スザクとして激動の人生を送った経験のない俺には、世界をどうこうしてやろうなんて大それた考えを持てそうになく、自分とその周囲が幸せならそれで良いんじゃないか? との漠然とした想いが、今の俺の率直な心境だ。

 

 だが、激動の時代はそんな俺の平々凡々な想いを許してくれそうにもない。

 

 今日と言う日に未来知識を得たのは偶然ではないだろう。

 未来知識が正しいなら、枢木スザクにとってのターニングポイント……友達の為に父殺しの罪を犯すのが、今日になる。

 

 いきなりの難題だ。

 

 未来知識に従い、父親を殺すのが正しいのか?

 

 それとも、殺さないのが正しいのか?

 

 そもそも、この未来知識は正しいのか?

 

 本来なら、未来知識の真贋を確かめ、父殺しを行った場合の影響と、行わなかった場合の影響をじっくりと吟味してコトに当たるべきだろう。

 しかし、時間がそれを許さない。

 早々に決断を下さなければ、未来知識よりも悪い展開となるのだけは漠然と判る。

 

「はぁ……俺に余計な知識を与えたのは、一体誰なんだ? 体力バカの俺に扱いきれる情報じゃないって…………取り敢えず、流れに沿ってヤるしかないのか……考えるのは、その後だな」

 

 枢木スザクの自室にやって来た俺は、壁に掛けてあったモノを掴み取って、机の引き出しから目当ての品を取り出して一人ぼやくと、踵を返して枢木玄武が待つ居間へと戻るのだった。

 


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