コードギアス〜暗躍の朱雀〜   作:イレブンAM

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後れ馳せながら、
明けましておめでとうございます。

ドツボに嵌まりかけてましたが、なんとかなりました。






シンジュク事変・弐

「この子の何処が毒だと言うのだっ! 答えろっ朱雀! お前は何を知っている!?」

 

 意識の無いC.C.を寝かせたルルーシュは、彼女の拘束具を外しながらやり場の無い怒りを俺にぶつけている。

 

 ルルーシュは『どうせ、世界は変わらない』と嘯いて他人に無関心な冷血漢を装ってみても根は優しく、この様な虐待を目の当たりにすると黙っていられない性分だ。

 未来知識上でも幾度か描かれたルルーシュによる弱者救済は、現実においても行われており、仲良くなったシャーリーから『気になり始めた切っ掛け』としてルルーシュの人助けを聞かされている。

 その一方で、自身と敵対する相手の命を容赦なく奪えるルルーシュは、産まれながら王者としての気質を備えているのだろう。

 命を奪えるのが王者、と言うのも変な話になるけれど、優しいだけではダメなんだ。

 

「俺は……全てを知っていたよ。だけど、それが正しいとは限らなくなった。だから、先ずは安全な場所まで退こう」

 

 漸く話せる……そう考える俺は、場違いな微笑を浮かべてルルーシュに手を伸ばした。

 

 そう……俺は全てを知っていた。

 事故を起こしたトラックがレジスタンスのモノであると知らないままに、ルルーシュが救出しようと近付き遇々乗り込む事になって危険に巻き込まれる事も、この後でC.C.を名乗る不老不死の女から『ギアス』と呼ばれる人外の力を与えられる事も、そして……C.C.の奪還の為にエリア11総督クロヴィスとその親衛隊が、シンジュクの地で虐殺を行う事も知っていた。

 

 しかしながら、俺の知っていた知識は俺がブリタニア兵として闘う世界の事であり、俺の立ち位置が違うこの世界の先がどうなるのか分からない。

 死ぬべき人間が生き延びたり、死ぬべきでない人間が死んだりして情勢は大きく変わるだろう。

 普通に考えれば未来知識が示す優位性は今日を持って損なわれ、又、損なわれてくれないと困る。

 何をやっても流れが変わらないのであれば、何の為の未来知識か判らなくなるというものだ。

 

「なに……? こんな時に押し問答でもするつもりか!?」

 

 俺の手を掴んで立ち上がったルルーシュ。

 その表情が困惑気味なのは無理もないだろう。

 

「そんなつもりはない。でも、説明が難しいんだ……今はとにかくここから離れよう。説明はその後で」

 

 一方的に告げた俺は横たわるC.C.を軽々と持ち上げて『への字』となるように担ぐと、跪くKMFの段差を利用して、ヒョイっと飛び上がりコックピットに駆け上がる。

 狭いコックピットにC.C.を押し込んだ俺は、昇降用のワイヤーを垂らして眼下で呆気に取られているルルーシュに乗機を促した。

 

「このっ……体力バカが」

 

 そう毒吐くルルーシュだが、この場に留まる事の危険を理解しているのか、素直にワイヤーを掴んで昇ってくると、C.C.を背中から抱くような姿勢でコックピット内に収まった。

 それを確認した俺はコックピットをスライドさせて収納すると、機体を反転させて元来た道を引き返すのだった。

 

 これで、未来知識上『シンジュク事変』と呼ばれるルルーシュの初陣は無くなり、扇グループとの接点も無くなって『黒の騎士団』は結成されないだろう。

 俺には日本解放戦線との繋がりがあり、十分とは言えないまでも戦力はある。

 ルルーシュを裏切る黒の騎士団はこの世界に必要無いのである。

 

 

 

 

「朱雀……」

 

 逃走を始めて数分と経たない内に、ルルーシュが苦悶の表情で俺の名を口にする。

 

「ん? 悪いけど乗り心地のクレームとかは受け付けないから」

 

 今日の目的をほぼ達成した俺は、実に晴れやかな気分でどこか能天気にも思える言葉を口にする。

 

 実際、レールの上にランドスピナーを乗せて走り、可能な限り揺れに気を使っているがレールの破損や障害物の影響で、どうしても振動ゼロとはいかない。

 座席ですらない場所に詰め込まれたルルーシュの感じる揺れは、俺の比ではないだろう。

 

「そうではない……いや、乗り心地に関しても改善を要求しておく。なんだこれは!? お前は毒ガスの正体がこの子だと知っていたのだろう? それをっ……よくもこんなコックピットに人を2人も乗せようと考えたモノだっ。コレならば車両の方がマシと言えるぞ!」

 

 少し切れ気味なルルーシュの言い分は尤もで、1人用のKMFに3人で乗り込むのが間違いだろう。

 戦闘に巻き込まれる事も考慮して紅蓮弐式を用意してみたのだが、言われてみれば車両でも良かった。

 

「あぁ、ごめんごめん。でも、そうだな。考えておくよ、2人で乗っても大丈夫なナイトメアを……それで? 乗り心地じゃないなら他に何かあるのかい?」

 

 最強のナイトメアにばかり気を取られていたが、ルルーシュを快適に乗せられる複座式のナイトメア……未来知識にもあった『ガヴェイン』の様な機体を用意しておくのも有りかも知れない。

 

 ん?

 

 俺がメインで操縦を担当して、ルルーシュが最前線で指揮を執る……ちょっと考えただけでも素晴らしい戦果が見込めそうだ。

 これは……有りかもどころか、良いんじゃないか?

 

「何処まで行くつもりだ?」

 

 俺の浮かれ気分を掻き消す様に、ルルーシュは真剣な声で質問を投げ掛ける。

 簡潔な言葉がおちゃらけた答えを望んでいない、と雄弁に物語っているかのようだ。

 

「とりあえず、シンジュクゲットーの外まで移動するよ。安全を確保してから色々と話そう」

 

 モニターパネルで現在の位置を確認しながら、俺も又、真剣に答えた。

 

 C.C.を確保した今、俺のテロリストとしての一面を隠す必要はない……あとはギアスの力を得たルルーシュに未来知識を話し、意思の確認をするだけで俺の目的は完遂するんだ。

 

「朱雀…………お前はシンジュクの日本人を見殺しにするつもりか?」

 

「なっ!?…………なんのことだ?」

 

 なぜそれを!? と肯定しそうになった言葉を呑み込んだ俺は、白々しくも惚けてみせた。

 

 未来知識を持つ俺は、シンジュクの地でこれから何が起きるのか知っている。

 しかし、ルルーシュが知っているのはどういうことだ?

 

「ふっ……お前のその反応で確信が持てた。今頃シンジュクゲットーは殲滅作戦の標的にされている、とな? お前がこの子を猛毒と言うからには外部に漏らせない秘密があるのだろう。そして、俺の知るクロヴィスという男なら、秘密を漏らさぬ為に尤も簡単で確実、そして尤も愚かな殲滅作戦をとる!」

 

 話の途中で抱えたC.C.をチラリと見たルルーシュは、確信めいた表情で俺を見据えてくる。

 

 知っていたのではなく状況から可能性を導き出し、その中で最も可能性が高そうなモノを上げて俺にカマをかけた、ということか……。

 

「そうか…………やっぱりルルーシュは凄いな」

 

 そう素直に感心すると同時に、このままでは撤退が叶わないと悟った俺は、トンネル内に見つけ窪みでKMFを停止させた。

 

 未来知識上のルルーシュがシンジュクでクロヴィス軍と闘ったのは、武器を持たない者への虐殺を見過ごせない、といった信念が有ったからに他ならない。

 つまり、虐殺が行われていると知りながら、ルルーシュの身の安全を理由に撤退すれば、シンジュクの日本人を見殺しにするばかりか、ルルーシュの信を失う事にも繋がる。

 それに、臥薪嘗胆目を言い訳に目を反らす事を身に付けた俺だけど、シンジュクの日本人も救えるものなら救いたい。

 

 予定より少しばかり早いが、ルルーシュの意思を確める時が来た……と、云うことだろう。

 

「ふぅ……バレていたみたいだけど、ちょうど良い機会だから聞いて欲しい」

 

 狭いコックピット内で身体を入れ換えルルーシュと向き合った俺は、深い溜め息を吐いて考えを吐露していく。

 

「俺は……日本解放の為の独立戦争をブリタニアに仕掛けようと考えている。だけど、この夢想染みた考えを実現させるだけの知恵が俺には無いんだ。だからルルーシュっ、力をっ、お前の知恵を俺に貸してくれないか!?」

 

 口にしてみると、我ながら酷いモノだな。

 

 俺は、ルルーシュの幸せを願うフリをしながら、争いに巻き込もうとしている……なんとも身勝手な話……いや、考えるな。

 今更いい顔をしたところで俺の手は既にして血塗られているんだ。結果がどうなろうとも、俺は俺の本心をぶつける……それが、俺に出来るルルーシュへの唯一の誠意だろう。

 

「……七年前。旧日本政府の連中がナナリーに何をしたか覚えているな? 介護の環境から程遠い土蔵にナナリーを閉じ込めたんだっ……正直に言おう。ブリタニアが正当にエリア11を治めるのであれば、俺に日本の解放を目的とする理由はない」

 

 一瞬驚きの表情を浮かべたルルーシュは、淡い人工の光の中で瞳を閉ざしたかと思うと、怒りの炎を灯らせた瞳を開き、俺も知っていたハズの冷酷な事実を告げる。

 

「そう……だったな」

 

 なんとか声を絞り出した俺であったが、落胆の色を隠しきれないでいた。

 

 未来知識でもルルーシュの目的はブリタニアの破壊であり、日本の解放は手段に過ぎなかった。

 俺はそれを知っていたはずなのに……知らず知らずの内に、自分の都合の良いように考えていた様だ。

 

「ルルーシュ、ごめん……俺は」

 

「待てっ、はやまるな! 日本の解放ではなく、お前の為ならば協力しよう」

 

「え゛?」

 

「何を惚けている。俺とお前は友達だろ? お前のやろうとしている事に協力するのは当然のコトだ。それに、日本の解放とは関係なくブリタニアはブッ壊す……俺が子供の頃にそう誓ったのはお前も覚えているだろ?」

 

「覚えているさ……七年前から俺達はずっと友達で、ルルーシュの怒りも哀しみも誰より一番、俺が知っているんだ」

 

「な、何故泣く!? 大袈裟なヤツめ」

 

「ごめん、泣くつもりは無かった……だけど、俺は今確信したよ」

 

 知らぬ内に溢れ出た涙を袖口で拭う俺をルルーシュがジッと待っている。

 

「嘘のある世界も悪くないって。人の気持ちが解らないからこそ、人の優しさに触れた時、人は感動するんだ」

 

 だから、傷付く事を恐れ人とのコミュニケーションを放棄したシャルル・ジ・ブリタニアは、人として間違えている。

 

 涙を拭いきった俺は心の中でそう付け加え、ラグナレク接続の阻止は欠かせない目標だと、改めて強く意識する。

 

「そ、そうだな……」

 

 表情をコロコロと変えた俺の脈絡の薄い発言に、らしくない曖昧な返事をするルルーシュ。

 

「俺の知る情報を全て話そう。そうすればルルーシュにも判るよ」

 

「待てっ、はやまるなと言っている! 良いか、朱雀? ブリタニアの学生、しかも敵国の皇子である俺を、お前は仲間にどう紹介すると言うのだ!?」

 

「ルルーシュの頭の良さは俺が一番よく知っているから大丈夫さ」

 

「そういう問題ではない! 俺の知恵を誰が信じる? 信じられない知恵などなんの力にもならんぞ! 人を従わせるにはどんな形でも良いっ、力を見せる必要があるのだ! それにな……お前から情報を得てお前の紹介で日本解放戦線の指揮権を得たとしよう。それで勝利を収めて、その後はどうなる? 日本は独立を果たした後、ブリタニアに更なる戦争を仕掛けるのか? お前や俺の一存でどうこうなる話ではないぞ。お前の為なら日本の解放には協力しよう。しかし、俺は俺の為にブリタニアをブッ壊したいのだ」

 

「あ……」

 

 そうか。

 ルルーシュが俺の軍師的な立場に収まれば、軍事行動は日本の解放だけで一旦終わってしまうのか。

 そこから先は多分……政治的な話になってブリタニアと全面戦争するにしても難しくなる、ということか。

 

「で、でも、俺から情報も聞かずにルルーシュはどうしたいのさ?」

 

 俺に協力しつつ、ルルーシュの目的も果たす……そんな手があるのだろうか?

 

「半年、いや、三ヶ月も有ればお前と肩を並べて戦えるだけの力を手に入れてみせる……俺の意のままに動く『組織』と言う名の力をな」

 

「え? 組織って……?」

 

 激しく嫌な予感がする。

 

「日本解放戦線に属さないテロリストが、トウキョウ祖界の周辺に多数存在するのはお前も知っていよう? 俺は今の状況とコレを使い、ソイツラを束ねて力としてみせる!」

 

 何処で手に入れたのか、大型のトランシーバーを片手にルルーシュが力説している。

 

「へ、変な事を聞くけど、その組織に名前を付けるとしたら何になる?」

 

「そうだな…………黒の騎士団! 俺はこの組織の力でお前に協力しようじゃないか!!」

 

「……っ!?」

 

 絶句とは正にこの事か。

 

 何故だ?

 

 未来知識ならルルーシュが『黒の騎士団』の結成を決意するのはシンジュクじゃない。

 それが、どうして、今の時点で騎士団結成を考え付いているんだ!?

 俺が何をしても歴史の大きな流れは変えられず、黒の騎士団の結成は避けられないとでもいうのか……?

 

「力、力と五月蝿い奴らだ……ゆっくりと寝てもいられんではないか」

 

 俺が言葉を失っていると、ルルーシュの腕の中のC.C.が口を開いた。

 

「起きていたのか!? C.C.!」

 

「シーツーだと?」

 

「ほぅ……お前、私の事を知っている様だな? そんな目を向けられるのは随分と久しぶりだ」

 

 C.C.……永遠の時を生きる不死の女にして、ルルーシュの共犯者。

 しかし、秘密主義的な態度がルルーシュの危機を招いた事は幾度となくあり、そんな彼女の未来図に俺は若干の怒りを覚えている。

 

 それが顔に出てしまったようだ。

 

「気に触ったなら、すまない。元々こんな目をしているんだ」

 

 直さないといけない。

 目の前の彼女と未来知識の彼女は別人だ。

 そもそも、未来知識のルルーシュは彼女に全幅の信頼を寄せていた……俺がとやかく口を出すのは間違っている。ミレイ会長を見習って、ルルーシュの信じる者は俺も信じてみるべきだろう。

 

「それは御愁傷様だな? そんな目では喧嘩を売って歩いている様なモノだぞ。それにしても……お前達はオカシイのではないか? 眠れる美少女を気にも掛けず、力、力と……そんなに力が欲しいなら、この私が与えてやろうではないか」

 

「おいっ、朱雀! この女は何を言っている!?」

 

 流石のルルーシュも意味が判らないのか、明らかな動揺をみせている。

 だが、ここは何も答えず流れに任せるのが良いだろう。

 

 俺は首を傾げてみせた。

 

 ギアスの力は有って困るモノではない。俺も欲しい位だ。

 先ずは手に入れ使用に嫌悪感を覚えるのであれば、使わなければ良いだけの話だ。

 

「耳元で怒鳴るな……難しい話ではない。これは契約。力をあげる代わりに、私の願いを一つだけ叶えて欲しい。但し、私の与える力は人の道から外れた王の力だ。王の力は人を孤独にする……それでも良ければ力を与えてやろう」

 

 口頭で語られる言葉を聞いていると神秘的な感じはしないが、限られた言葉の中でしっかりとデメリットも語っているのが判る。

 C.C.は意外に親切なのかもしれないな。

 

「…………良いだろう。結ぶぞっ! その契約!」

 

 一瞬の躊躇い。

 

 そして、チラリと俺を見たルルーシュは契約を決意した様だ。

 決断力に富むのもルルーシュだが、何が即断させたのか俺には判らない。

 

 C.C.と触れ合うルルーシュは、彼女の不可思議な言葉を信じるに足る幻覚でも見せられたのだろうか?

 

「これはっ……? こんな事が可能なのか!?」

 

 突然、驚愕の表情で叫ぶルルーシュ。

 

 側で見ていても何が起こなわれていたのか全く判らなかったが、ギアスが与えられたと見るべきか。

 未来知識だと物凄く神秘的に描かれていたけれど、呆気ないものだな。

 

「さてな? お前がどんな力を手に入れたか私の預かり知らぬところだ。使える使えないはギアスユーザー次第なのだよ」

 

「確かにな。ならばっ……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!」

 

「無駄だよ、ルルーシュ。C.C.にギアスは効かない……だけど、その力が真実のモノだと俺が保証しよう」

 

「なにっ!? どういうことだ?」

「ほぅ……?」

 

「お前が手に入れた力……『絶対遵守』のギアスは他者に何でも命じる事が出来る……だからルルーシュ」

 

 一拍溜めた俺は、ずっと前から考えていた未来知識を伝える為の方法を口にする。

 

「『俺に嘘を付くな』と、俺にギアスを掛けてくれ」

 


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