コードギアス〜暗躍の朱雀〜   作:イレブンAM

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シンジュク事変・了

「おいおい、なんだよアレ? 最初からアイツ1人で良かったんじゃねぇのかよぉ?」

 

 早々に撃墜された玉城は、徒歩でポイント9に向かい無事に扇達との合流を果たしていた。

 そんな彼は、遠目から朱雀が操るサザーランドの戦闘を目撃すると、驚き、呆れ、いつしか理不尽とも言える怒りを覚えて文句を口にする。

 集まった他の幹部メンバーも口にこそしないが、

 

『もう全部アイツ一人で良いんじゃね?』

 

 とでも言いたげな面持ちで呆れ返っている。

 

「そ、そんなことは無いさ。いくら強くても、たった一機では広範囲に展開するブリタニア軍に対応できない。だから俺達に協力を求めたんだ」

 

 焦りながらも玉城達を宥める扇。

 このままでは自分達の存在意義を見失い兼ねない。

 

「そうかぁ?」

 

「と、とにかくこの場は彼に任せて、俺達は俺達に出来ることをしよう」

 

 生き残り集まってきたメンバーの前で両手を広げ、リーダーとして語る扇。

 その″出来ること″さえも謎の男の指示通りなのだが、誰かの案をそのまま採用するのも、リーダーとしての一つ形だろう。

 善くも悪くも扇要とは、人の意見に左右されやすいリーダーなのである。

 

「アタシは……もう少し見ていても良いかな? 皆を避難させることも大事なのは判っているけど、アレを見ていると何か掴めそうなんだ」

 

 身を乗り出して食い入るように闘いを見詰めるカレンは、振り返らずに残留の許可を求めた。

 

「ハァ? アレが参考になるってのかよぉ?」

 

「判らない……けどっ、アタシがもっと上手く戦えたらっ、今日だってもっと多くの人を助けられたんだ」

 

「カレン…………わかった。でも、無理はするんじゃないぞ?」

 

「判ってる……ありがとう、扇さん」

 

 そう言って微笑んだカレンは、地下に消えていく扇達を見送ると、KMF同士が争う戦場に向かって駆け出した。

 廃墟となったビルの扉を蹴破り、瓦礫の散乱する階段を一足飛びに駆け上がるカレンにとって、生身でKMFが闘う場に近付くのは無理に当たらないらしい。

 

 ポイント9を見渡せる高所に登り着いたカレンは、ガラスの無くなった窓からソッと顔を覗かせるのだった。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 良い機体だ……それが相対する二機のランスロットへの率直な感想になる。

 未来知識で描かれていた様な突飛な動きこそしないものの、機動性、装甲、武装……それぞれが高いレベルで安定していて、思いの外攻めあぐねている。

 

 まぁ、だからと言って付け入る隙がない訳じゃない。

 連携行動や近距離戦を避ける時には目を見張る動きを見せるランスロットだが、それ以外は機体の性能に頼りきった、基本に忠実な動きしかみせない。

 射撃時は足を止めて狙いを定め、防御時は安直にシールドを展開させる……俺にとっては″避けて下さい、当てて下さい″と言われている様なものだ。

 未来知識では乗り手の確保に苦労したあげく、日本人の俺に機体を預けた位だ……多分、パイロットの習熟が間に合っていないのだろう。

 

 軋みを上げ始めたサザーランドが何時まで保つのか心配だったが、それより先にランスロットのシールドエナジーが尽きている。

 ランスロットが高い性能を発揮するには相応のエネルギーが必要であり、慣れないパイロットでは消耗を抑える所か無駄に浪費を招いた、と云うことだ。

 

 一方の俺にはルルーシュの指示で扇達が残していったアサルトライフルがあり、弾薬が尽きる心配はなかった。

 地面に置かれたライフルを軽く蹴り上げ掴み取った俺は、狙いも定めずに引き金を弾く。

 

 下手な鉄砲も数撃てば当たる……じゃないけれど、こういう相手なら先ずは牽制射撃を行い、狙いは後から定めていけば良い。

 

 ランダム回避行動に入って前面部を守る様に腕部を交差させるランスロット。

 厄介だった光るシールドは既にない。

 

 弾丸が火花を散らして装甲に弾かれる。

 相当な強度の装甲材が使われている様だが、何時までも無事でいられるものか。

 このまま距離を詰めて打ち続けられれば、システムダウンを起こすだろう。

 

「まずは一機!」

 

 引き金を弾く手に力が籠る。

 

 

――ビィィっ!! 

 

 

 またかっ!

 

 真横に回り込んできたもう一機のランスロット。

 その両腕で構えたヴァリスから、轟音をあげて弾丸が放たれる。

 

 軋むサザーランドを前後させて弾丸を回避する。

 ビーム兵器と見紛う程の光を放つ弾丸が、機体の近くを掠め飛んでいく。

 

 ふと、ヴァリスの実戦投入が早まっているのに気付いたが、些細な変化に気を取られている場合でもないか。

 いい加減にこのいたちごっこの様な状況を終わらせないと、あの無愛想な女に何を言われるか分かったもんじゃない。

 機体の稼働時間的に考えても、この攻撃でケリを付けないとマズイことになりそうだ。

 

 

――ビィィっ!!

 

 

 俺の希望を裏切る形で、再び響く警戒音。

 

 今度は左側かっ。

 

「増援……!? 手間取り過ぎたか。しかも、アレは……」

 

 猛スピードで迫る肩が赤く塗られたサザーランドの突貫を回避した俺は、機体をジグザグに後退させて距離をとる。

 

 面倒なヤツが来た……赤い肩は純血派の証。

 もしあれがジェレミア・ゴットバルトなら死なせるわけにはいかない。

 ランスロットが障害ならば、ジェレミア・ゴットバルトこそはルルーシュの騎士。

 

 退くか……?

 

 瞬時にそんな考えが頭を過る。

 敵機の破壊と得難い人材の確保……どちらを優先すべきかと言えば、後者に決まっている。

 

 だが……パイロットが未熟な今こそ、ランスロットを鹵獲する絶好のチャンスなのも間違いない。

 

 しかし、鹵獲を狙えば純血派のサザーランドが邪魔をするのは当然で、サザーランドを無力化しようにも、いつかのアワジで闘った兵士の様に、脱出することなく最期まで戦うだろうと容易に想像がついてしまう。

 気迫のようなモノが立ち昇って見えるのは、きっと気のせいじゃない。

 

 一体、どうすべきか……?

 

『クロヴィスの名に置いて命じる…………直ちに停戦せよ!』

 

 俺の迷いを遮る様に、突然そこかしこのスピーカーというスピーカーから、大音響で流れ出るクロヴィスの声。

 それに呼応するように、敵対する三機は一所に集まると動きを止めた。

 呆然とした雰囲気が機体を通じても伺い知れる。 

 

 そんな中で俺だけが呆気に摂られることなく、次なる行動に移る。

 

「隙ありっ!」

 

 動きが完全に止まったランスロットの懐に飛び込んだ俺は、手にした特斬刀を下から上へと斬り上げる。

 

 腕の付け根から切断された左腕部が弾け飛び、大きな音を立てて地面に落ちる。

 

「よしっ! これでっ」

 

 ラクシャータへの土産はこの腕に仕込まれたシールド機構だけでも十分だ。

 あとは、コイツらを追い払えればっ。

 

 俺は、″くるくるキック″を放とうと機体を操作する…………しかし、サザーランドは応えてくれない。

 

 駆動系が焼き切れたのかサザーランドは、俺の意図に反してその場でジャンプしただけで着地する。

 それを見ていたもう一機のランスロットがヴァリスを構え、突き付けられた銃口がアップで映し出された。

 

 流石にこれは無理だ。

 

 脱出を試みようとレバーをひきかけた、その時、

 

 赤い肩のサザーランドがランスロットを蹴り飛ばしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「な、なんなんですか、あの人!?」

 

 送られてくる映像を注視していたセシルには、ジェレミアの行動が全く理解出来なかった。

 

 確かに停戦命令は出ている。

 しかし、仕掛けて来たのはゼロの方であり、リーライナの行為は戦闘行為と言うよりも自衛行為だ。

 何より、漸く巡ってきた千載一遇の好機をみすみす潰すのは理解に苦しむ。

 

「哀しい男だよ……向けるべき主を失い、行き場を無くした忠義の心は病的な迄に脹らみ続ける……せめて、あの方々が生きておられたら、彼の人生も違ったモノになっただろうにねェ」 

「ロイド、さん……?」

 

 そう語るロイドも何処か哀しげで、やはりセシルには理解出来なかった。

 

「残念だけど、これは本格的にマズイってコトだよ。テロリストであるゼロには殿下の命を聞き入れる理由がないし、ジェレミア卿は闘わないばかりか、さっきみたいに彼女達の戦闘行為を邪魔をしてくるだろうからねェ」

 

「そんなっ!?」

 

「僕達に出来るのは、ゼロが退いてくれるのを願うだけだよ」

 

 ジェレミアを知るロイドは、科学者らしからぬ言葉を口にすると、静かに成り行きを見守るのだった。

 

 

 

 

『貴様等っ! クロヴィス殿下の停戦命令をなんと心得る!!』

 

 激昂したジェレミアがスピーカーで叫ぶ。

 

『勝手なコトを言うなっ! お前達はいつもそうだ!! 勝手に攻めてきて、自分達の都合ばかりを押し付ける! 貴様等の命令に従う理由なんか俺達には無い!!』

 

 ジェレミアの言葉に″今まで″を重ね合わせた朱雀もまた、怒りの余りスピーカーで応酬する、といったミスを犯してしまう。

 

「あの声!? トランシーバーの男じゃない!? それに……何処かで?」

 

 それを聞いていたカレンは、その憎しみの籠った内容に共感を覚えつつ、声の主を探ろうと自身の記憶を探し始めた。

 

『勝手に攻めてきた……だとぉ!? あの方々の御命を奪っておきながら、よくもぬけぬけとっ……その言葉、万死に値する! だが、しかぁしっ! この場は殿下の命に従い見逃してやる!』

 

 言葉の節々に含まれる敬意と後悔……ジェレミア・ゴットバルトの騎士としての初任務は、アリエス宮の警護であった。

 彼にとって敬意を越えた憧れの存在、マリアンヌの警護に若かりしジェレミアは歓喜に震え、そして、絶望の淵に落とされた。不可解にも思えた命令により警護の手を緩めた日の夜……賊の侵入を許し″アリエスの悲劇″が起きたのである。

 その後、マリアンヌの忘れ形見である2人の皇子に忠義を向けようとしたジェレミアであったが、公式記録上では2人の皇子は留学先の日本で殺された事になっており、行き場を無くした忠義の心は皇族全体に漠然と向けられる様になって今に至る。

 

『…………良いだろう。お前達がこのまま退くなら手は出さない』

 

 ジェレミアの想いの一端に触れ冷静さを取り戻した朱雀は、この場は退くと決断を下す。

 

 ルルーシュの生存を告げる事が出来れば話は早いのだが、そうもいかない。

 物には順序というものがあり、ジェレミアを仲間に引き入れるなら、先に″ルルーシュを納得させる″と言った手順を踏む必要があった。

 未来知識が″そう″だったからといって、過程をすっとばして結果だけは得られない……朱雀はKMF開発を通じてそれらを学んでいたのである。

 

「どういう風のふきまわしでしょうか?」

 

「さぁ……? テロリストの考えなんて僕に判るわけないじゃない? だけど、狙いなら解る……リーライナ少尉、切断された腕部の破壊をお願いするよ」

 

「は、はいっ!」

 

「ジェレミア卿は邪魔しないでねェ。これは、廃棄物処理なんだからさ」

 

「む……良かろう」

 

 的確に朱雀の狙いの1つを言い当てたロイドが、戦地の3人に通信を送る。

 

 転がる左腕を庇うよう立つサザーランドを避けて回り込み、ヴァリスの照準を合わせるリーライナ。

 

 動かない朱雀のサザーランド。

 

 最大出力でヴァリスが放たれようとした、その時、

 

――ガシャンっ

 

 頭上から舞い降りた紅の悪魔が、銀の右手を伸ばしてヴァリスの一撃を受け止めた。

 

「世話の焼ける男だ……問題ないのでは無かったのか?」

 

「問題はない。現にこうして機密部分を確保している」

 

 ルルーシュならば役目の終わった紅蓮をこちらに寄越すと薄々気付いていた朱雀は、C.C.が操る紅蓮の登場に驚いた風でもない。

 送られてきた皮肉混じりの素っ気ない通信に、強がりで返し……ただ、内心で″厄介な女に借りを作ったな″と思うばかりだ。

 

「輻射波動が完成しているゥ!? ヴァリスはまだ完成していないのにっ」

「やはり、一人ではないのですね」

「ゼロっ!? ルキアーノ様の仇……っ」

「デビルオクトパス……こやつ、今まで何処に……?」

 

 一方の敵方は現れた悪魔に驚き、恐れ、思案する。

 

「どうするのだ? このまま見逃してやるのか?」

 

「あぁ……腕さえ持ち帰れば一応の目標は達成だ」

 

「随分と低い目標設定ではないか?」

 

「ロイド伯爵には敵方としてナイトメアの開発に協力してもらうから、これで良いんだ」

 

「そうか……お前がそうしたいならそれでいいのだろう。だが、モノは言い様だな?」

 

 赤い波動を止めた紅蓮弐式は、伸縮させた右手を振うと歌舞伎の見栄を切るように構えた。

 その滑らかな動きからも機体が万全の状態であると見て取れる。

 

「お、お姉さま……」

 

「だ、大丈夫よ、マーリカ……イザとなったら貴女だけでも私が逃がしてあげる」

 

 朱雀とC.C.のやり取りを知らないヴァルキリエ隊の2人は死を覚悟した。

 

 そんな彼女達を救うつもりなのか、周波数を解析していたロイドが非常識な言動に出る。

 

『おめでトォ〜♪ 見事だったよ、デビルオクトパス……いや、ゼロと呼ぶべきかな? 今日は僕の敗けだけど、次は負けないから。ラクシャータにも宜しく言っておいてねェ』

 

 ロイドはなんとも軽いノリで、敵である朱雀に通信を送り付けたのだ。

 

『……ふんっ。早く退かせるがいい、プリン伯爵』

 

 ゼロの名とラクシャータの存在を言い当てられた朱雀は驚きつつも、ラクシャータだけが用いる″プリン伯爵″と呼ぶ事で彼女の存在を肯定する。

 因みに、未来知識を知る朱雀でもラクシャータがロイドをプリン伯爵と呼ぶ理由は知らない。

 

『そうさせて貰うよ……2人とも、帰っておいで』

 

 思わぬ返しに苦虫を噛んだような表情を浮かべたロイドであったが、それ以上敵と馴れ合うような真似はしなかったのである。

 

 

 それから、ヴァルキリエ隊の2人はロイドの指示に従っておそるおそる後退し、何かを察知したジェレミアは「殿下ぁぁ!!」と叫びながら機体を走らせた。

 

 それを見届けた朱雀は紅蓮のコックピットに乗り移ると、戦利品の腕を担いで悠々と地下へ消えていくのだった。

 

 こうして、後の世でKMF開発に多大な影響を与えたと評される、シンジュク事変の戦闘は幕を下ろすのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 朱雀の闘いが終わりを迎えた頃、兄弟の闘いも終わりを迎えようとしていた。

 指令部も兼ねる広い御用車両内で、ただ2人向かい合うルルーシュとクロヴィス。

 

「これで良いのか? 次は何をすればいい?」

 

 侵入者の言われるがままに全域放送を終えたクロヴィスは、高座から見下ろしどこか挑発するように吐き捨てる。

 賊の侵入を許し護衛の者達が一人残らず居なくなっても、クロヴィスの尊大な態度は変わらない。

 

「えぇ……ありがとう、兄上。そして、さようなら……コレからは私の命に従って頂く!」

 

 潜入の為に着用していたブリタニア軍のヘルメットを外して小脇に抱え、恭しく片膝ついて挨拶をしたルルーシュは、立ち上がり様に顔を上げると左目に意識を乗せて命令を告げる。

 

 絶対遵守のギアスの発動……たったのこれだけで兄弟の闘いは終わり、クロヴィスはルルーシュの軍門に下った。

 

「あぁ…………わかった。全て、お前の言う通りにしよう。何をすればいい?」

 

 クロヴィスは焦点の定まらぬ虚ろな表情で抑揚のない言葉を発する。

 ルルーシュは抜け柄となったクロヴィスに近付くと、詳細な命令が書かれたチップを渡し特に重要な点を口頭で告げていく。

 それを聞いているのか定かでもない虚ろな表情のクロヴィスは、「あぁ」「わかった」と、全ての事案に頷いた。

 

 要点を伝え終えたルルーシュは、ヘルメットを深く被るとクロヴィスだった男に背を向けて歩き出す。

 

 これは自分の知るクロヴィスなのか?

 ギアスに依って思考の全てをねじ曲げられた男は、果たしてクロヴィスと呼べるのだろうか……そして、この脱け殻のような男が役割を果たせるのか。

 

 なんとも言えない思いがルルーシュの胸に去来する。

 

「母さんを殺したのは誰だ? 知っている事を話せ」

 

 階段の手前で立ち止まったルルーシュは、無駄と知りつつ問い掛ける。

 

「分からない……私はアリエスの悲劇に関わってもいないし犯人も知らない……第二皇子シュナイゼル……第二皇女コーネリア……彼等なら知っている…………」

 

「やはり、か……まぁ、いい。後は手筈通り頼みましたよ、兄上」

 

 朱雀から聞かされていた内容と大差のない反応に、若干肩を落としたルルーシュが階段を降りていく。

 その途中、血相を変えた男と狭い階段ですれ違った。

 

「殿下ぁぁっ! ご無事でしょうかぁぁ!?」

 

 絶叫を上げて階段を駆け上がるのはジェレミアだ。

 現れなかった紅蓮とクロヴィスらしからぬ命令内容を不審に思い、馳せ参じたのである。

 

「誰が戻れと言った! 私の命を聞いていなかったのか!!」

 

「で、ですがっ」

 

 戻るなり罵声を浴びるジェレミアは口答えをしてしまうも、内心でいつもと変わらぬクロヴィスの姿にホッとするのだった。

 

「言い訳など聞きとうないわ! お前は我が命に従いイレブン共を見逃してやれば良いのだ!」

 

「ハっ! こ、このジェレミア・ゴットバルト、全力を上げてイレブン共を見逃します!」

 

 クロヴィスとジェレミアのどこかコミカルなやり取りを、立ち止まったルルーシュは顔を覗かせて見ていた。

 

(見逃すのに全力も何もないだろう……だが、逸早く駆け付けたアレがジェレミアなら使える男のようだな……それにクロヴィスも″平時はいつも通りに振る舞え″の指示通り動く、か……)

 

 豹変したクロヴィスの態度に、やはりなんとも言えない想いを抱いたルルーシュは、他の兵士が集まる前に御用車両から姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 夕暮れに染まる街中で群を成し、日本人達がブリタニア軍の監視の元いずれかへと消えていく。

 戦争で家を失った彼等は今また住処を失い、果たして何処へ向かうのか……その足取りは重く人波は遅々として進まない。

 

 だが、生きてさえいれば明日は全ての人に訪れる。

 

 朱雀は人気の無くなったビルの屋上で、夕日に消え行く人々を満足げに眺めていた。

 

 今日の作戦の全ては、シンジュクの人々を安全に逃す事に繋がっていたのである。

 ルルーシュの戦闘経験、黒の騎士団結成への布石、ランスロットのデータとシールド機構の取得、そして、クロヴィスへのギアス……これら全ては付加価値に過ぎない。

 更に、これら全ては明日にも繋がっており、僅かな時間でこれ程の戦略を組み立てたルルーシュは称賛に値する。

 しかし、全ての立役者であるルルーシュの表情は冴えない。

 

「上手くいかなかったのかい?」

 

「心配するな……全ては俺の計算通りだ」

 

「その割には浮かない顔をしているではないか? 言ったハズだぞ。王の力はお前を孤独にすると」

 

 主語の抜けた朱雀の発言を切っ掛けに、共犯者となった3人の語らいが始まる。

 

「だまれっ! 撃つ覚悟なら出来ていた……だが、アレでは余りにも……そして、俺はあんなものを朱雀に」

 

「意外と細い神経をしているのだな? しかし、お前はついているぞ、ルルーシュ。此処にギアスの効かない人間が2人もいて、お前を助けてやるのだからな」

 

「2人だと!?」

 

「なんだ、気付いていなかったのか? そこの男はお前のギアスに掛かりながらも、自分の意志でコントロールしているぞ」

 

「本当かっ!?」

 

「え? まぁ、ギアスに掛かるまで知らなかったけど、なんとかなってるよ。そんなことより、C.C.。俺のギアスはどうなっているんだ?」

 

「契約は結べている。使えないならお前は才能のないポンコツ君ということだ」

 

「待てっ、お前達! 一体いつ契約を結んだのだっ。いや、それよりギアスをコントロールしているなら、まさか、お前……まだ何か隠し事をしているんじゃないだろうな!?」

 

「え? それは、まぁ、おいおい話すよ……それじゃぁ俺は戦利品を持ってラクシャータの所に戻るから、ルルーシュも早く帰った方が良い」

 

「ラクシャータ、だと? 誰だ、それは」

 

「紅蓮弐式の開発者さ」

 

 朱雀はルルーシュの追求を極自然に受け流すと2人と別れ、夜を徹してワカヤマ地区へと向かうのだった。

 

 ここに長かったシンジュク事変は幕を閉じ、朱雀とルルーシュの戦いは次の局面を迎える事となる。








本当に色々長くなりました。

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