コードギアス〜暗躍の朱雀〜   作:イレブンAM

16 / 19
その名はゼロ・弐

 

 ギアス……それは王の力。

 

 そして、王の力は人を孤独にする。

 

 ……と、C.C.は表現しているが、果たしてそうだろうか?

 

 そもそも、ギアスと一口に言ってもその効果は様々で、中には王の力とは呼べないようなモノもある。

 強力な能力であることに疑いを挟む余地はないが、他人に乗り移るギアスや、数秒先を見るギアスなんかは″王の力″と言われてもピンと来ない。

 他にも、他者の思考を読むギアス、他者の思考を止めるギアス、他者に好意を植え付けるギアス等も強力な事に違いはないが、孤独に成るかどうかは使い手次第ではないだろうか。

 

 そう……ギアスは使い手次第なんだ。

 

 ギアスの効果が多種多様に及ぶのは、使い手となる者の潜在的な欲求が大きく影響するからとされていて、ルルーシュを例に出して言えば【思い通りにならない世界に対する不満】から、【どんな者にも、如何なる命令をも下せる絶対遵守のギアス】が発現した、といった感じだ。

 では、ギアスの発現しなかった俺は、欲求も資質もないポンコツ君か? と問われれば、否……と言いたい。

 ギアスの中には特定の条件下、例えば自分が死んで初めて発現するといったモノもある。

 

 俺は、多分きっと、そういうタイプのギアス能力者なんだろう。

 

 閑話休題。

 

 こうして改めて考えてみると、ルルーシュのギアスは他のギアスに比べてもイカサマ染みた、正に王の力と呼ぶべき力を誇る。

 解りやすく言うなら、失敗しない催眠術。

 短絡的に考えると、出会う人間の全てに『服従しろ』と命じれば世界の支配が出来てしまう。

 

 しかし、世の中そんなに甘くはない。

 

 催眠術という似て非なる力の概念がある以上、特定人物の周囲に不自然な人の動きが見られれば、カラクリに気付く人間も出てくるだろう。

 更に言うなら、現皇帝・シャルルはルルーシュと似たようなギアスを持っているんだから、迂闊にギアスを乱用しようものなら気付かれて当然と見るべきだ。

 

 王の力と呼ぶに相応しい強力なルルーシュのギアスであっても、決して無敵ではない。

 基本的にギアスとは、物理的な現象を引き起こす力ではなく、電気的な信号を発生させる事で脳に指令を与える力と考えられる。

 ルルーシュの場合は相手の目を通して電気的な信号を送る必要があり、カラクリを知られてしまえばバイザー等で簡単に対処されてしまう。

 ルルーシュのギアスは強力故に俺達の作戦を遂行する切り札になりえる。だからこそ、ギアスを使うときには慎重にならないといけない。

 他にも人道上の観点や、強過ぎる強制力からくる記憶の欠落や、思考能力の低下も問題と言えば問題だ。

 

 しかし、これ等の事情を踏まえても、今日これから集まる扇達は、放っておいたらルルーシュを裏切る、ギアスをかけるべき対象だ。

 

「ギアスを使うのか?」

 

 クロヴィス退陣パレードを数時間後に控え、俺とルルーシュ、C.C.の三人は、乱雑っぽく廃棄物を積み上げたシンジュクゲットーのとある広場で、扇達の到着を待っていた。

 

 黒を基調としたゼロの衣装に身を包んだ俺は廃車両の影に隠れ、同じくゼロの衣装に身を包んで廃車両の上で佇むルルーシュを見上げて問い掛ける。

 俺とルルーシュの違いは、仮面とマントだけのものであり、状況次第では俺が仮面を被りゼロとしてマントを翻す事もあるだろう。 

「当然だ。ブリタニアと俺達の、比較にもならん戦力差を埋めるのにギアスの力を使わない手はない。まぁ見ていろ。上手くやってやる。む……現れたぞ」

 

「約束通りに来たわよ……あんた、私達に何をさせる気?」

 

 警戒心を越えて、敵がい心を含んだこの声の主はカレンだろう。

 

 一体、何が原因だ?

 

 カレンが挑戦的なのはまだしも、廃車両の向こうから聞こえてきた足跡や息遣いは、一人や二人のモノではない。

 

 未来知識ではこの段階でゼロことルルーシュに協力するのは、扇とカレンの二人だけだったはず……俺がワカヤマに行っていた一週間の間に、「扇達と接触を持った」とルルーシュから聞かされていたが、大筋においては未来知識と大差がない内容だった。

 

 シンジュクで聞いた声を元に、俺の事を問い質すカレンをルルーシュが適当にあしらい、その際にはサヨコさんが自分の意思で協力してカレンからの追求を逃れた……等、細かな違いをあげればキリはない。

 その一方で、クラブハウスにおいてルルーシュのラッキースケベ的なイベントは起きた様だし、ルルーシュが扇達を呼び出したのは未来知識通りに展望タワーで、面通しはモノレール内で行われている。

 

 つまり、些細な変化はあっても大まかな流れは未来知識と変わっていない……そう漠然と捉えていたんだが、やはり違う様だ。

 今回の変化は、俺の犯したテロはゼロが行ったモノとして扱っているし、大方、既に実績のあるゼロの尻馬に乗りに来た……そんな所が原因だろう。

 

 それにしても……この未来知識というものは、便利な様で今となっては厄介な知識でもある。

 気にしないようにしていても、些細な変化が起きればイチイチ原因を探ってしまうのが、我ながらウザったい。

 探った所で考慮すべき点が多すぎて、ホントの原因なんか解るはずもないし、ルルーシュが「無駄な知識は必要ない」と、詳しく聞いてこないのも頷ける。

 

「焦らずとも答えてやろう……その為に集合をかけたのだからな。だが、その前に紹介したい人物がいる……エスツー!!」

 

 ルルーシュの呼び掛けに合わせて思考を中断させた俺は、廃車の屋根へと飛び上がった。

 やはりカレンと扇だけでなく、玉城や南に井上といった黒の騎士団創設メンバーが揃っている様だ。

 

 というか、思わず飛び上がってしまったが、俺が素顔をサラすのも色々とマズイんじゃないか?

 

「お、お前はっ桜木!? じゃぁそっちの仮面はやっぱりルるー……うっ!?」

 

「悪いけど、その名前は出さないでくれ……それと今の俺は、エスツーだ」

 

 案の定ゼロの素性に気付いたカレン。

 

 その口を塞ぐべく廃車両から飛び下りた俺は、縮地を用いて距離を詰めると、彼女のミゾオチ目掛けて拳を放つ。

 

「このっ……馬鹿力っ!」

 

 瞬間的に鳩尾の前で俺の拳を掴んだ制服姿のカレンは、力を込めて俺を押し返すと、スカートであるにも関わらず、見事なハイキックを披露する。

 

 見えてるんだけど……片手でガードした俺は、指摘するべきか頭を悩ませた。

 

「そして私がC.C.だ」

 

「って、どうしてキミが出てくるかな?」

 

 追われている自覚がないのか、白い拘束衣を纏ったC.C.が、呼んでもいないのにゼロの横に並び立ち、得意気な顔で自己紹介をしている。

 

「それは私がC.C.で、お前のエスツーと言う名は私の真似だと宣言しておく必要があるのだよ」

 

「いや、ないし」

 

 C.C.の登場に毒気の抜かれた俺は、カレンを軽く押し返すと構えを解いた。

 

「お、おい? カレン、どうなっている!? お前はそいつ等の事を知っているのか?」

 

 俺達を指差しながら慌てふためく扇。

 

「詮索無用!!」

 

 マントをはためかせたルルーシュが、巨大な布に描かれた黒の騎士団のシンボルマークを背にして、上から目線でモノを言う。

 

 一応、ルルーシュの名誉の為に言っておくと、仮面やマント、大層な物言い等は、ゼロという偶像を大きく見せる演出だ。

 好きでやっているわけではない…………多分。

 

「そんな訳にいくか! お前はっ……ブリタニア人じゃないか!」

 

「それがどうした? 既に宣言したはずだ……私の証明は行動に依ってのみ立てる、とな。そして、私はブリタニア帝国に対して戦争を仕掛ける者だ!!」

 

「せ、戦争って……いくらなんでも話がデカすぎやしないか?」

 

「ならばどうする? 諸君等は、このまま子供の嫌がらせの様なテロを続けるつもりか? それで世界の何が変わる? テロでは何も変わらない……それはゼロである私が計らずも証明した筈だ! やるなら戦争だ! 敵はブリタニア帝国であってブリタニア人ではない! 一般人を巻き込むな!!」

 

「高いとこから偉そうに! ブリタニア人のお前に私達の何が解るっ!」

 

 俺が殴り掛かったせいもあるのだろうが、仮面のゼロがルルーシュ――ブリタニア人であると知るカレンは拳を握り締め、今にも飛び上がって殴り掛かりそうな勢いだ。

 普通なら、ジャンプしたところで届かない決まっているが、あの紅月カレンなら届きそうなのが恐ろしい。

 

「解るさ。確かにゼロは日本人じゃないけれど、この場にいる誰よりもブリタニア帝国を憎んでいる……それは″日本人″の俺が保証するよ」

 

 万一に備えた俺は、ルルーシュとカレンの間に割り込んでフォローに入る。

 

「日本人って……お前は……?」

 

「おいおい? そいつのことより、ゼロってナンだよ!? そいつ等は仮面野郎が噂のゼロだって言ってんだぜっ!?」

 

 玉城の突っ込みを受けて、にわかにザワつく扇グループのメンバー達。

 この反応から、今はじめて仮面の男がゼロだと知ったと推察出来る。

 

「……名乗って無かったのか?」

 

 俺は、振り替えってゼロを見上げた。

 

 おかしい……だったらどうして玉城達がここにいる?

 てっきり、ゼロの尻馬に乗るつもりで集まって来たと思っていたが、違うのか?

 

「そこまでだ! これ以上、我等と話をすると言うならば、先ずは諸君等に……守秘義務を課す!!」

 

 皆の注目が集まったタイミングで、ルルーシュの仮面の左目の部分だけが開いた。

 

 ギアスか!?

 

 確かにこの命令ならカレンの口からゼロの素性が漏れなくなる。だが、こんなにも緩い命令を出すのはどうしてだ?

 

「あぁ……わかった。俺達だって其くらいは弁えているつもりだ。キミ達の事もコレから話す事も口外したりしない」

 

 扇の発言に合わせて一様に頷くメンバー達……ただし、一人を除いてだが。

 

「おい? 守秘義務ってナンだよ?」

 

「作戦上の秘密は漏らさないって事よ。それが例え私達の間でもね」

 

「ハァ? お前等は俺に隠し事をすんのかよぉ!?」

 

「す、すまない。玉城には俺達からよく言って聞かせておく」

 

 ギアスに掛かっていないのか、明らかに命令とは反した発言をする玉城に、周りのメンバーも困惑気味だ。

 コレは思わぬギアスの欠点だな……掛かった当人が言葉の意味を理解していないとギアスの影響下には置けないらしい。

 

「大丈夫なのか? 馬鹿が一人混じっているぞ」

 

 C.C.の毒舌に「馬鹿って誰の事だ!」と憤慨する玉城だが、周りの者達は玉城から視線をソッと外している。

 こうして哀れ玉城は、C.C.と顔を合わせて僅か数分で、馬鹿の烙印を押されてしまうのだった。

 

「くっ……問題はない! 紅月カレン、私の仮面の下は守秘義務の対象だ。余計な詮索は無用で願おう」

 

「あぁ……守秘義務なら誰にも言わないよ。だけど、後でしっかり聞かせてもらうからね! アンタにもっ!!」

 

 ルルーシュと俺を交互に睨んだカレンはそれだけ言うと、数歩下がって扇の背後に控えた。

 

「ちょっと待ってくれないかしら? 仮面の貴方がゼロだと言うなら他にも協力者はいるはずよ。どうして私達に声をかけるのかしら?」

 

「そ、そうだ。アレだけのテロを君達だけでやれるはずはない。こう言っちゃなんだけど、俺達みたいな弱小グループに声をかけなくても……」

 

 カレンと入れ換わるようにセミロングの女性、井上が前に出ると鋭い指摘を投げ掛ける。

 それに乗っかる形で発言した扇だが、最後は尻すぼみで言葉に成らない様だ。

 

「ほぅ……良い質問だ。しかし、それは守秘義務に抵触するので答えてやれないのだ。私の指揮下に入り活躍次第では、いつの日か明かす時も来るだろう」

 

「そう……わかったわ」

 

 ルルーシュが発した守秘義務の単語一つで、井上はすごすごと引き下がる。

 

 これは……なんというイカサマだ。

 ぬるい制約だと思ったが、言葉一つで何度でもコチラの思い通りに誘導することが出来るばかりか、人格に与える影響が少ないようで、思考能力の低下も招いていないようだ。

 

 後でルルーシュに確認した所、絶対服従のギアスは便利な様でいて、応用が効かない人形を産み出すだけらしい。

 クロヴィスの様に周りが全部イエスマンでもない限り、まともな成果は期待できないそうだ。

 

「それでは、諸君等に集まってもらった用件を説明していこう」

 

 こうしてルルーシュは、今日の作戦の概要を説明していくのだった。

 

 

 

 

「宣戦布告……」

 

「凱旋パレードに乱入って……」

 

「……そんなの無理だよ」

 

 時に守秘義務を用いて扇達からの反論を封じ込めつつ、ルルーシュが説明を終える。

 その余りにも突飛な内容に、扇達は意気消沈して言葉が続かないようだ。

 

 ルルーシュが提示した作戦の概要は、凱旋帰国するクロヴィスのパレードに乱入して、宣戦布告をぶちあげて撤退する……といったもので、扇達の役割は、ナイトメアで隊列を組んで付き従う事のみだ。

 

 言葉にすればたったのコレだけだが、普通に考えれば成功する筈のない無謀極まりない作戦だ。

 ナイトメアに乗るとは言え、敵陣の真っ只中に突撃をかけると言われたんだから、扇達が戸惑うのは無理からぬ事だろう。

 

「さて、どうする? やるのか? やらないのか? 決めるのは私ではない! 諸君等の意志だ!!」

 

「ま、待ってくれ。君の言う通りにしようにも、ナイトメアはもうないんだ。あの時手に入れたサザーランドは、撤退するために乗り捨ててきたんだ」

 

「ふん……そんな事か」

 

――パチンッ!

 

 ルルーシュが右手を伸ばして合図を送ると、周囲の瓦礫の山が崩れ何台ものトラックが現れる。

 荷台の側面がゆっくり上へと開かれる。

 

「マジかよ!?」

 

 開かれたトラックの荷台には、サザーランドが鎮座している。

 

「そ、そんな一体どうやって!? シンジュク以来、ブリタニアの兵器管理はより厳重になっているのよ」

 

 明かすわけにはいかないけれど、勿論、ギアスを使ってに決まっている。

 もう少し時間的猶予が有れば無頼を用意できたんだけど、今回はこのサザーランドで仕方ない。

 

 それはそうと、さっきから話を聞いていると、井上さんが色々と出来る人間だと伺い知れる。

 これはルルーシュにとっても、嬉しい誤算になりそうだ。

 

「言ったはずだ。諸君等はナイトメアに乗り込み、ただ私に付いてくればいい、と。既にこちらの準備は出来ている……覚悟の出来た者から各自のコードネームが付いた機体に乗り込み、着替えてくれたまえ」

 

 最後通告となるルルーシュの言葉を受けて、扇グループのメンバーがヒソヒソと相談を開始する。

 まぁ、待つまでもなく結論は決まっているだろう。

 

 なぜなら扇達は既に、ルルーシュの計算と演出で誘導されている。

 先ほど扇は、やらない理由にナイトメアの未所持をあげた。

 コレは咄嗟に思い付く一番大きな理由として、敢えてルルーシュが作ったモノであり、その理由を崩すナイトメアの一団を後から見せてやれば、やる方向に思考が傾くって寸法だ。

 

 おまけにナイトメアには魔力の様なモノがある。

 自身の何倍もの巨人に乗り込み、思い通りに動かし成果を上げた者なら、そこにナイトメアが有れば再び乗らずにはいられない。

 

「るるっ……じゃなくって、ゼロ! 私のコード、Q―1が無いのはどういうつもり?」

 

「紅月カレンか……君には特別な機体を用意した」 

 

――パチンッ

 

 ルルーシュが再び指を鳴らすと、騎士団のシンボルマークが描かれた背後の布が燃え上がり、紅の機体が姿を現す。

 

「こ、これは……あの時の……」

 

 シンジュクで一瞬でも紅蓮を目にしたカレンには、この機体がどれだけの性能を秘めているか想像がつくのだろう。

 彼女はキラキラと目を輝かせて絶句する。

 

「デビルオクトパスと呼ばれた紅蓮零式の正当後継機・紅蓮弐式さ」

 

「そうだ。そしてこの機体こそが、日本の反撃の狼煙を上げる純日本製のナイトメアだ」

 

 紅蓮に心を奪われたカレンに、だめ押しとばかりに説明を加える俺とルルーシュ。

 厳密に言うと紅蓮を作ったのはインド人であるラクシャータだが、時にはこうしたブラフも必要だ。

 

「純日本製って……日本はいつの間にそんな物を作って……? き、君達は何者なんだ?」

 

「……やろう、扇さん。私達の手でブリタニアに一泡ふかせてやるんだ」

 

 ナイトメアの魅力に取り付かれたカレンの、作戦参加意志の表明だ。

 

 ここまでくれば、後はトントン拍子だな。

 後は黙って見ているだけで良いだろう。

 

「か、カレンっ!?」

 

「負けない。アタシと紅蓮弐式ならっ。この機体でアタシが皆を守ってみせるから!」

 

「やってやろうじゃねぇか、扇!! ここまでお膳立てされて何もしないなんざ、男が廃るってもんよ! なぁ、皆!?」

 

「扇グループには女も居るんだけどね?」

 

「扇グループではない……戦う意思を持って私に従う者は、今から黒の騎士団の一員だ!」

 

「黒の騎士団って……その仮面もだけど、あんたセンス無いんじゃない?」

 

「…………君達を信じても良いんだな?」

 

「何言ってんだ? コイツらはシンジュクの時も俺達を見棄てなかったんだぜ? 信じて良いに決まってんじゃねぇか」

 

 あぁ……そうか。

 

 俺の都合でランスロットを押さえたのが、彼等の目にはそう映ったのか。

 だから玉城達もここに集まった、という事か。

 

 なんとなく、彼等の事が判った気がする……悪く言えば単純、善く言えば善良なんだろう。

 だから彼等は、ゼロを悪として糾弾する其れっぽい言葉に流されて裏切った。

 逆に言えば、ゼロが正義であれば彼等は多分裏切らない。

 

 目的の為なら手段を選ばず人を殺し、人の尊厳を踏みにじるギアスを使う俺達に、正義を口にする資格はないかもしれない。

 それでも、彼等の理解を得られるようには努めれば……いや、今更か。

 

 黒の騎士団結成に沸き立つ彼等の片隅で、俺は少しの後悔を覚えるのだった。

 

「それでは各員、準備にかかれ!」

 

「偉そうに言うな!」

 

 文句を言いながらも用意された機体に散っていく、黒の騎士団員達。

 

「シンジュクで助けてくれたのは桜木、やっぱりお前なんだな?」

 

「そうだ……でも、助けたつもりはない。それより、その名で俺を呼ばないでくれ」

 

「どうしてだ? ルルーシュはともかく、お前まで隠す必要があるのか?」

 

 周囲を見渡し他の団員がナイトメアに確認したカレンがルルーシュの名を口にする。

 

「ある。それを証明したのが他ならぬキミ自身だ」

 

「アタシが!?」

 

「キミは俺からゼロの正体に気付いただろ? だから俺の素性も明かすわけにはいかない……枢木朱雀とルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。知ってる人なら直ぐに気付く関係なんだ」

 

「ヴィ・ブリタニアに枢木って……」

 

 俺の言葉に目を丸くして驚くカレン。

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの事を知っていたとは思えないが、皇族との察しはついたのだろう。

 

「その女にそこまで教えてやる必要があるのか?」

 

「全くだ。紅月カレンが守秘義務を破ればどうするつもりだ?」

 

 非難めいた口振りの二人だが、怒っているというよりも呆れている様だ。

 いくらギアスの影響下にあると言っても、俺や玉城の様な例外もある。

 そもそも秘密の漏洩を防ぐには、秘密を知る者が少ない方が良いに決まってる。

 

 コレは勝手な俺の弱さが招いた些細な罪滅ぼし、みたいなモノか。

 

「その時はその時さ……俺が責任を取る」

 

「わ、判った。絶対、誰にも言わない! で、でも、いつか扇さん達にもお前の口から伝えてくれないか? あの人達はいい人達なんだ」

 

「それは……考えておくよ」

 

 何故か顔を赤らめたカレンに、俺はあやふやな返事を送ってお茶を濁した。

 

 こうして、扇グループを指揮下に入れた俺達は、茶番劇を成功させるべく配置についていくのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。