コードギアス〜暗躍の朱雀〜   作:イレブンAM

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作中で多用されるKMFとはナイトメアフレームの略になります。






日本解放秘密会議

 日本国がエリア11とその名を代え、ブリタニアの支配地域となってから五年の歳月が流れた。

 この五年の間、日本人の多くは住居を焼かれ、自由を失い、あらゆる権利を奪われ、イレブンと蔑称されながら苦難の生活を続けており、開戦のきっかけを作った俺としては、少々考えさせられる日々を送ってきた。

 たらればの話をしても仕方ないと判っていても、日本人達の苦難の生活を見るにつけて、もしも、枢木首相が生きていれば……と考えてしまうんだ。

 そこから転じて、今では日本の解放も俺の大目標の一つとなっている。

 未来知識を得た当初は自分中心に考えていた事を思えば、我ながら随分と成長した様に思える。

 

 と言っても、現在のところはコレといった成果があげられず、得られたのは修行に明け暮れた結果の常人離れした肉体くらいであり、日本を取り巻く環境等はほぼ未来知識の通りとなっている。

 

 例えば、いち早くブリタニアに取り入った桐原翁は、サクラダイト採掘に関連する事業を一手に担う、桐原産業の総帥としてブリタニアからも一目置かれる存在となった。

 未来知識通り、軍才はなくとも世渡りは得意だったらしく、表では『売国奴の桐原』と呼ばれながらも、裏では日本解放戦線等のレジスタンス組織と繋がり、日本解放の日を虎視眈々と狙っている。

 その日本解放戦線はナリタに拠点を構え、藤堂さんも客分として身を寄せていると聞き及んでいる。

 

 ルルーシュ達とは大事をとって終戦のあの日以来会っていないけれど、アッシュフォード家に身を寄せているのを遠目から確認している。

 アッシュフォード学園の主なメンバーも、ミレイ・アッシュフォードをはじめとした未来知識の面々だ。

 エリア11総督はブリタニア第三皇子クロヴィスだし、紅月ナオトは扇達を率いてシンジュクゲットーで抵抗活動を行っている。

 

 とまぁ、こんな感じで、世界は不気味な位に未来知識の通りに動いている。

 違いがあるとすれば、俺こと枢木朱雀の心境と……境遇だろう。

 

 未来知識とは違い親殺しの嫌疑すら掛けられなかった俺は、キョウト六家の一翼を担う枢木家当主として扱われている。

 尤も、当主と言っても若輩を理由に決定権が与えられていない上に、枢木家の後見人となった桐原翁に財産管理を一任したので、財力もないお飾り当主というのが実情だ。

 

 それでも年に何度かはこうしてキョウトから呼び出され、密議に参加できるのは有り難い……情報の中心に居られるダケでも十分なんだ。

 

 焦る事はない。

 

 未来知識のスタートラインまで、あと二年もある……その日が来るまで、未来知識と比べて僅かでも力を高めるコトが出来れば、ルルーシュがきっと上手に使ってくれる。

 考え無しに動くけど力に長けた俺と、知恵があっても力の無いルルーシュ……足りない部分を補え合える俺達二人なら、出来ない事は何もない。

 

 今この瞬間にも日本人が虐げられていると解っているけど、急いては事を仕損じる……今は、臥薪嘗胆の時だ。

 

 

 

 

「ふむ……全員揃った様じゃな」

 

 某県某所。

 

 キョウトからの呼び出しを受けた俺は、ブリタニアの監視の目を掻い潜り、サクラダイト採掘場に作られた巨大施設にやって来ていた。

 

 灯台もと暗しとでも言えば良いのだろうか?

 本来なら重要戦略物資であるサクラダイト採掘場には、無断で立ち入るだけでも銃殺モノだ。

 それを、こうも堂々とした施設を秘密裏に造り、あまつさえ反逆の拠点にするんだから畏れ入る。

 ナイトメアが無理なく行動出来る高さに広さ、巨大なガラスを用いた窓からは太陽の光をふんだんに取り入れ、そこからパノラマビューに見渡せる景色は、正に言葉を失う『絶景』だ。

 

 そう……ここは、かつて霊峰として崇められていた富士の山の成れの果て。

 サクラダイトを得んが為に、山の形を失う程に削られた富士の山こそがブリタニアの支配の象徴だ。

 俺は、見る影もなくなった富士の山をここから見下ろす度に、強く思う。

 

 ブリタニア……許すまじ!

 

「いつまでそうしているのですか、朱雀? いくら眺めても亡くしたモノは返ってきませんわ。それより、そろそろ会議を始めたいので着席しては頂けませんか?」

 

 そう背後から語り掛けてきたのは、巫女っぽい衣服を纏った少女だ。

 

「そんなコトは子供のキミに言われなくても解ってるよ……神楽耶」

 

「まぁ! 子供扱いしないで下さい。わたしが子供なら貴方だって子供ではありませんかっ」

 

「はいはい、判ったよ」

 

 亡くしたモノは戻らない……何処か他人事の様に淡々と未来知識を受け入れた五年前の俺は、こんな当たり前の事に気付いてなかったのかもしれない。

 だから、あぁも簡単に臥薪嘗胆だなんて言えたのだろう。

 

 神楽耶に促された俺は拳を握り締めると、窓辺を離れて広い空間の中心に用意された円卓へと移動する。

 

「ふむ……五年もあれば変わるものよな? あの時は日本の行く末はおろか、自身の行く末にもまるで無関心であったお主が、日本の惨状にそうも憤慨するとはな」

 

 尚もぷりぷりと怒る神楽耶の横に着席すると、対面に座る桐原翁が感慨深げにに呟いた。

 それを受けて他の六家の者達も頷いている。

 

 かつての俺は、何事にも無関心な人間と思われていたらしい。

 

「えぇ。自分でもビックリしてますよ、桐原のおじさん。だけど、この山の姿を見たときに自然と気付いたんです……俺も日本人なんだって。俺は……ブリタニアを許せません」

 

「左様か……自分でもビックリとな? それは愉快じゃっ……わっはっはっは……」

 

「あの……もう宜しいでしょうか?」

 

 突然笑い出した桐原翁を不思議そうに眺めた神楽耶は、老人の真意を探ろうともせずに会議を進行しようとしている。

 

「これは失礼した。ささ、どうぞ、神楽耶様」

 

「コホンっ……こうして無事に皆様と再開出来た事を嬉しく思います。それでは、キョウト六家を代表して皇神楽耶が第42回、日本解放秘密会議の開会を宣言します」

 

 俺と同じくお飾り当主の神楽耶が会議の始まりを告げると、六家当主の背後に控えた護衛達からまばらな拍手が起きる。

 彼女の役目はコレと閉会の挨拶だけだ。それ故に一生懸命なんだろう。

 

「早速ですが、俺が前回参加した時にお頼みしていた、ナイトメアフレーム開発チームの招聘状況はどうなっていますか?」

 

 満足気に頷く神楽耶を他所に、俺はいきなり本題を切り出した。

 俺に決定権は無くとも意見なら言える……ってか、ぶっちゃけていうと決定権は桐原翁にしかない。

 キョウト六家などと称して円卓を囲んで集まってみても、実際のパワーバランスは均等ではない。

 家格だけなら神楽耶の皇家が頭二つ程高く、財力などの実能力は桐原家が群を抜いている。

 つまり、この会議は皇家の面子を立てて、桐原翁に伺いを立てる場、ということになる。

 

「またそれか……朱雀よ。KMFは確かに強力な兵器じゃが、それを使うのは兵士。つまりは人じゃ……人無くして戦には勝てん。先ず整えるべきは組織じゃ」

 

 何処に口があるのか見えない髭面をした宗像さんが、やれやれといった面持ちで首を振るが、首を振りたいのはこっちの方だ。

 組織が大事なのは理解出来るが、ブリタニアに先んじて第9世代に相当するKMFさえ開発出来れば、単騎で組織を打ち倒せるというのに、頭の固い老人はこれだから困る。

 

「ですが、先の大戦で日本が敗れたのは、KMFの有無によるものだと明白ではありませんかっ」

 

「異なことを申すなっ。日本が敗れたは、お主の父が遺した策略が原因ではないか! 然るに今の日本の惨状を見よっ! 占領下で抵抗するなど所詮は夢物語よ……降伏などせず戦争を継続しておれば良かったのだ!」

 

 円卓をドンと叩き声を荒げるのは刑部さんだ。

 今更だが、中々に痛いところを突いてくる……戦後に行われた検討からも、日本とブリタニアの戦力差が絶望的なモノであったのは明らかだけど、

 

【もしも、早期に降伏しなければ?】

 

 この答は誰にも判らないのである。

 

「くっ……そうではありません! 父はKMFの有無による戦力差を覆せないから、早期降伏の道を選んだのです! KMFを開発しないのであれば、帝国との戦力差は何時まで経っても埋まりませんっ」

 

「お三方とも落ち着かれよ……枢木殿。KMFならブリタニアからの横流し品が、ほれっ、すぐソコにあるではないか? 大枚をはたいて開発せずとも、その金で買い揃えればよかろうて」

 

 そう言って手にした扇で会場の警備に当たるKMFを指す麿っぽい人は、公方院さんだ。

 

 未来知識上は全く活躍しなかったくせに、揃いも揃って邪魔ばかりしてくれる。

 

「型落ちの横流し品を揃えてどうするんですか!? 大体、数を揃えるにしても横流し品だけでブリタニア軍の数を上回るわけがありませんっ数で劣る以上、質で勝負するしかないっそうは思いませんか!?」

 

 一息で言い切った俺は、円卓に両手をバンッと突いて立ち上がる。

 

「朱雀よ……そう熱くなるでない」

 

 黙って聞いていた桐原翁が仲裁に入る。

 

「しかしっ!」

 

 通常ならここで矛を収めるのだが、納得のいかない俺は尚も食い下がる。

 こんな事では、なんの為にキョウトに与しているのか判らなくなる。

 俺は……最新鋭KMFを手にするためにっ、ラクシャータと知己を得る為ここに居るんだ……黒幕気取って会議ごっこがしたいんじゃない!

 

「先ずは座れ……話はそれからじゃ」

 

 俺を制するように伸ばした手を広げた桐原翁から刺す様な視線を向けられる。

 流石の妖怪じじぃ……心臓の弱い相手なら視線だけで殺せそうだ。

 

 俺は、不機嫌を隠そうともせずに大きな音を立てて着席する。

 

「そう憮然とするでないわ……実はの? 面白きオナゴから接触があってな」

 

「な、何を申されるっ桐原殿! あの女の狙いは未だ判明しておりませんぞ!? 今暫く、我が宗像家に詮索させてくだされ。組織に迎え入れるならば、アヤツの人となりを確めねばならぬのです」

 

 俺が反応を示すよりも早く、宗像さんが待ったをかける。

 

「なに、アレは狂人の類いじゃろう……これ以上の詮索は無駄じゃ。望むモノを与えてやれば裏切るようなコトはあるまい」

 

「御前がそう仰るなら私は構いませぬが、資金のアテはお有りですかな? 誠に心苦しいのですが、我が公方家からは出せませぬぞ」

 

「金の事なら要らぬ心配じゃ。枢木家が全てを受け持つ……そうじゃな? 朱雀よ」

 

 話の流れ的に、俺が会議に参加していない間に面白きオナゴ……恐らくは、ラクシャータから接触があったとみてよさそうだ。

 

「えぇ、KMFが開発出来るなら俺に異論はありません。おじさんに預けた資産で足りるなら如何様にでも使って下さい。それで、その研究者の名は?」

 

「……ふんっ。ラクシャータとかいうインドの小娘よ……せいぜい枢木家で面倒を見てやるがよいわ。但しっ、成果が上がればキョウトに報告せよ」

 

 一瞬驚きの表情をみせた刑部さんは、渋々ながらも賛同してくれるようだ。

 ちゃっかり成果を掠め取ろうとする辺りは流石と言えるが、元よりそのつもりなので何の問題もない。

 

「勿論です。枢木家の財産の全ては、日本解放の為に捧げる所存です」

 

「ご立派ですわ。わたしの未来の旦那様なだけの事はありますわ」

 

「それは断った筈だよ、神楽耶」

 

 何が悲しくて浮世ズレした姫様を伴侶にしなくてはいけないのか。

 

 駄々を捏ねる神楽耶を軽くあしらうも、婚姻破棄とはいかないらしい。

 

「決まりじゃ。これ、あのオナゴを連れてまいれ」

 

 俺と神楽耶のじゃれあいが収まるのを生暖かい目で見ていた桐原翁が、背後の護衛に指示をだす。

 

「え゛? ここに呼んでいるのですか!?」

 

「無論じゃ。今日お主を呼んだはオナゴと引き合わせる為じゃからな」

 

 話が早くて助かるけれど、それでいいのかキョウト六家。

 宗像家が探りを入れたにしても、無用心が過ぎるんじゃないか?

 まぁ、未来知識的にラクシャータが裏切る事はないし、良しとするか。

 

「その坊やが私たちの出資者になるのかい?」

 

 程なくして護衛に連れられラクシャータと思われる女性が姿を現した。

 特徴的なチャクラ模様の化粧を額に施し、白衣にサンダル、手にはキセルを持って泰然としている……確認するまでもなく未来知識にあるラクシャータと同一人物だろう。

 

 煙を吹かしながら歩くその振る舞いから、キョウト六家に対する畏敬の念は微塵も感じられず、宗像さん達は眉をひそめているが、俺が彼女に求めるのはそんな事じゃないので気にしない。

 

「俺は枢木朱雀、坊やではありません。それから、出資者であると同時に最高のデヴァイサーですので、これから宜しくお願いします」

 

 何事も最初が肝心だ。

 しっかりと自分を売り込んだ俺は、呆気にとられるラクシャータの元に歩んで右手を伸ばす。

 

「威勢だけは良いようだねぇ……ま、宜しく頼むとするかね」

 

 そう言ってニンマリ笑った彼女は、俺の手を握り返してきたのだった。

 

 こうしてラクシャータとの知己を得た俺は、遅蒔きながらも反逆の下準備を整えた事となる。

 

 それから、テストパイロットとして彼女の研究チームの元で泊まり込む事となった俺は、最強のKMF、紅蓮聖天八極式の開発を目指して、テロ活動に励むコトとなるのだった。

 


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