コードギアス〜暗躍の朱雀〜 作:イレブンAM
太陽が西に沈み始めてもキアーノ隊との追撃戦を続ける俺は、東海岸にある朽ちかけた市民球場の中心にいた。
かつては賑わったであろう球場に、人の姿は見当たらない。
いや、この球場だけでなく、ここに来るまでの道すがらも日本人の姿は見られなかった。
だからこそ、周囲を気にせず遠慮なく戦えるのだが、ここまで日本人の自由と権利を奪う必要は有ったのか?
俺は疑念と怒りを覚えながら、ブリタニア軍の動きを待つ。
スタンド席に陣取って取り囲むルキアーノ率いるサザーランド部隊。
今この瞬間も後続部隊が続々と集ってきており、数に頼った一斉射撃でもするのだろう。
普通に考えれば絶体絶命、正に袋のネズミだ。
しかし、追い詰められたのは果たして俺か、アイツラか……その答えは間も無く出る。
『17、18番隊! ヤツに近接戦を仕掛けろ!』
『い、イエス、マイロード!!』
機体を乗り換え追撃部隊と合流したルキアーノが、スタンドの最上段から少し不自然な指示を出す。
なんど挑んでこようとも、たったの六機では俺と零式は止められない。
それは今までの戦闘からルキアーノにも判っているハズだろうに、何故、無駄な攻撃を繰り返す?
数が揃うまでの時間稼ぎか?
それとも、何か企みでもあるのだろうか……?
「ちっ……無駄に被害を拡げる指揮官を恨めっ!」
雑草が伸びたグラウンド内で急旋回を繰り返し、サザーランドの間を縫うように零式を走らせる。
すれ違い様にブレードで両断、或いは重ねた爪を突き刺してサザーランドを無力化していく。
噴射を上げた四角い脱出ポットが次々と空に飛んでゆく。
『くくくっ……思った通りだ。4番隊、9番隊、13番隊! 臆する事はない、ヤツに組み付いて足止めを行え!』
何が思った通りなのか、不気味に笑ったルキアーノの次なる命令を下す。
『イエス、マイロード!!』
ルキアーノの指示に従いグラウンドに降り立った9機のサザーランドが、四方からほぼ全速で無防備に突っ込んできた。
「なにっ!?」
数に頼った一斉射撃をしてくるとばかり思っていたが、俺の予想は見事に外れた様だ。
まぁ、驚きがあっても俺のヤることは変わらない。
サザーランドの攻撃をなんなく回避し、ルーチンワークの様に切り捨て、爪を突き刺してゆく。
『オール・ハイル・ブリタぁニアぁぁ!!』
脱出機構が作動するはずの攻撃を受けて尚、一機のサザーランドが鬼気迫る声を上げて両腕を拡げて肉薄してきた。
「なんだっコイツ!? 死にたいのかっ!?」
機体を回転させる「クルクルキック」を放ってサザーランドを蹴り飛ばす。
衝撃を受けて吹き飛んだサザーランドが、脱出装置を機動させないままに爆発を起こした。
完全に油断した。
というか、どうして脱出装置が作動しない!?
胴体部分のある一点を貫けば脱出装置が自動で働くんじゃないのか!?
『……っこの、テロリストがぁぁ!!』
考えるも、答が出るよりも早く爆煙の向こうから、槍を構えたサザーランドが姿を見せる。
「くっ……まさか、特攻!?」
ランドスピナーを噴かせて後退を試みる。
しかし、何かにぶつかり加速が遮られた。
見ると、上下に分断して無力化したハズのサザーランドの上半身が、足元にしがみついている。
動きの止まった零式に槍が迫る。
「ちっ……」
軽く舌打ちしてみたが、違和感を与えず敗走するにはこれでいい。
俺は零式を動かし槍で左肘から下を落とさせると、サザーランドが両足にしがみつくに任せ、身動き出来なくなったと装う。
『よくやった、誉めてやろう……あの世とやらで誇るが良いわ! 撃ち方、始めぇ!!』
勘違いしたルキアーノの号令に併せて、スタンド上に対戦車バズーカを構えた歩兵団が姿を現し、一斉に引き金を弾いた。
多数の砲弾が迫りくる。
完全に予想外の攻撃。
まさか、生身で来ようとは……適当に被弾して逃走に繋げよう思っていたのが台無しだ。
「貴様っ、味方もろともか!? だが、ゼロを舐めるなぁっ!」
零式を旋回させてサザーランドを振り払うと、三本爪を開き輻射波動を利用した障壁を展開させる。
輻射波動はあまり使いたく無かったが、状況が状況だけにそうも言ってはいられない。
障壁に阻まれた砲弾が零式に達することなく爆発音を上げて消えてゆく。
『な、なんだアレは!? 速いだけが取り柄のナイトメアフレームではなかったのか? 何故、テロリストがあの様な兵器を持つ!?』
「死に逝く貴様がそれを知ってどうする?」
俺は零式を一気に加速させると、スタンドの最上段まで飛び上がりルキアーノ機の腹部を爪で貫いた。
味方の命すら何とも思っていないコイツは生かしておけない……例え、コイツの代わりがやってくるとしても、だ。
『わ、私の命が……奪われるぅぅ!?』
「因果応報……無下に命を奪った報いと知れ! 命の大事さを知る貴様は戦場に出なければ良かったんだ!」
戦場で敵と語らうなど馬鹿げたことだと判っていても言わずにはいられない。
幸い、周りのブリタニア兵は、指揮官の命令なくして味方を巻き込む攻撃は出来ないらしく、固唾を飲んで交錯する俺達を見ているだけだ。
『テロリストがどの口でっ! 命を奪うは貴様も同じだろうがぁっ』
「命を奪うのを目的とする貴様と一緒にするなっ……俺は、目的の為に命を奪うんだ! だからっ貴様は……ここで死ねっ!」
ルキアーノ機から爪を引き抜くと、ポッカリ穴の空いた腹部がショートして火花を散らしている。
最早、脱出は出来ないだろう。
『なんだとっ!? 貴様は私のなにっ……うわぁぁぁぁ!?』
ルキアーノが断末魔の叫びを上げると、爆発を起こした機体が砕け飛ぶ。
『そんな!?』
『ブラッドリー卿が!?』
「さて、ブリタニア軍の皆さん……悪いが仕上げに付き合って頂こう」
指揮官の死でブリタニア軍は明らかな動揺を見せている。
そんな彼等に、どこか演技かかった口調で語った俺は、近くにいたサザーランドに攻撃を仕掛ける。
それから俺は、バランスの崩れた機体を駆って戦闘データの収集に励み、被弾しながら海岸線にまで達した所で自爆装置を起動させて、零式もろとも海に飛び込んだ。
戦闘データの詰まったチップを抜き取ってコックピットから抜け出すと、間もなく海中で爆発が起こり巨大な水柱が立ち上った。
これで、デビルオクトパスは消滅したことになるハズだ。
こうして、なんとかラクシャータ達を危険から遠ざけた俺は、日が沈み暗くなった海面を漂い、月を頼りにワカヤマ目指してひたすら泳ぎ、無事に帰還を果たしたのだった。
◇
翌々日、合流ポイントであるワカヤマ地区に構えた施設の自室で、俺は目を覚ました。
ワカヤマは陸路こそ悪いものの、古くは第六天魔王にすら逆らってみせた気質の土地柄だけに、ブリタニアに対する反発心が強く密告の危険が小さいのが魅力の地域だ。
今はブリタニアに反逆の意思を悟られないのが何より重要であり、陸路の悪さも海路を利用すればそれほど苦にならず、フロートシステムが完成すればどうにでもなる。
蜜柑などの農作物が旨いのもポイントだ。
山間部は第二次太平洋戦争においてもさしたる被害を受けておらず、人々は自然と調和した昔ながらの暮らしを営み、全てが終わった暁には未来知識のジェレミアの様に、この地で蜜柑を作って暮らすのも悪く無いとすら思える。
まぁ、その自然を破壊する巨大な地下工場を造ったのは他ならぬ俺だ。
どの口で言うか……と謗りを受けそうだが、コレくらいの細やかな夢を見たって良いだろう。
「ようやくお目覚めかい?」
布団の中で微睡みながらボンヤリと考えていると聞き慣れた女性の声がする。
「ラクシャータさん……? あ、おはようございます…………って、何で俺の部屋に居るんですか!?」
一瞬呆けた俺であったが、ベッドの上でガバッと上半身を起こして彼女と向き合った。
「そりゃぁ、アタシが医者だからだよ。坊やのことが心配で心配で……こうして観てやったってわけさ」
どこから用意したのか、椅子に座って脚を組んだラクシャータは、火の点いていないキセルをプラプラとさせている。
どうやらキセルを持つのは癖みたいなモノらしい。
因みに、ラクシャータ達は俺の指示に従い即座にアワジから離れており、乗組員の全員が無事にワカヤマ地区へと帰還している。
「あ、それはスイマセン…………ん? って、俺はどこも怪我して無いですよね!?」
「そうみたいだねぇ……あんな無茶をしておきながら無傷だなんて、一体どんな身体の構造をしているのか……興味が沸くのも当然だろぅ?」
「そんなコト言ってシャツを捲らないで下さいっ! 俺は、至って普通ですっ」
「ツレナイ男だねぇ……一度やったんだから、二度も三度も同じじゃないか?」
「いや、同じじゃないですって!? 反省してますし、もう貴女にあんな真似をさせなくても大丈夫ですから……アワジでも何人か死なせましたが、全然平気ですよ?」
今思えば、ルキアーノは俺が殺しを躊躇っていると考えていた様だが、全然そんなコトはない。
完全に破壊するよりも、脱出させた方が手早く無力化出来るからやっていただけだ。
「それはそれで、どうなんだい?」
「ウジウジ悩むよりは良いんじゃないですか? それより、何かがあった……だから貴女はここに来た……違いますか?」
「さすが坊やだ……何もかも大ハズレぇ。天然なのかねぇ? アンタは何にも分かっちゃいないよ」
「え……? じゃぁどうしてここに?」
「そうさね…………アンタはこっちの状況だけ聞くと直ぐ寝ちまったからねぇ。零式も壊れたし、今後の方向性でも聞くとしようか」
尤もらしいコトを述べたラクシャータだが、どこか取って付けた感がある。
彼女の真の目的はインドの独立だけど、イマイチ考えが掴みきれない。
実際のところ、ラクシャータは俺をどう思っているのだろうか?
「それならば決まっています。コレからは量産機の開発に重点を置いて下さい。開発するKMFの性能は基本的にお任せしますが、俺から三つばかり注文を付けさせてもらいます」
アワジでの闘いの最中から決めていた案をラクシャータに告げた俺は、彼女の眼前に向けて三本の指を立てる。
「……いい加減、もっと楽に話しちゃくれないもんかね?」
「操作性、生産性、それから生存性……機体性能が多少落ちても、この三つは備えて下さい」
ラクシャータのぼやきを華麗にスルーした俺は、語りながら順に指を折っていく。
乗り手を選ぶ量産機などに意味はなく、生産性が悪ければ量産出来ない。
そして最後の生存性。
説明不要でこれが何より重要だろう。
「ふぅ〜ん? そういうコトはちゃんと解ってるんだねぇ」
ニンマリ笑ったラクシャータは満足そうに頷いている。
方向性を了承したとみていいだろう。
「当たり前です。これでも俺は日本におけるKMF開発の総責任者ですよ?」
「その総責任者様が、単騎で戦場に行くのはどうなんだい?」
「それはもう、終わりにします……今回のコトで戦略眼の無さを痛感しましたから」
神出鬼没のテロリスト……こう考えていたのは俺だけだったらしく、実際のところは幾つかの法則が有ったようだ。
俺が狙うのはKMFが配備される海に面した軍事基地、襲撃の時間は日没の二時間前、襲撃の間隔は最短でも一週間は開き、次第に規模の大きな施設が狙われている、天候は決まって晴れ……等々、これ等はラクシャータ達も気付いていた法則だ。
知っていたなら教えてくれれば良いものを……と、愚痴の一つも言ってみたが、より多くのKMFと闘うため意図的にしているコトだと考えていたそうだ。
バレバレ過ぎて、逆に計略と思われる俺の行動指針って一体……。
あ、ダメだ……思い返したら軽くへこむ。
「そんなに落ち込むもんじゃないよ。アンタは良くやったさ……アワジでもあたし達を守ってくれたじゃないか? その為のパターンZだろ?」
「それは違います……俺がもっとしっかりしていれば、ラクシャータさんが危険な目に合うコトもなかったんです。だけど、俺には先を見通す様な計画は立てられません。だから、仲間を……戦略眼に長けた男を探そうと思います。暫くの間は学生としてトウキョウ祖界に潜り込み、色々探ってみようかと」
「そうかい……寂しくなるねぇ」
何処か哀しげに微笑んだラクシャータは、特に反対することなく部屋をあとにした。
それから俺は、量産機やフロートシステム、さらなる過剰スペック機の開発依頼を正式に出してワカヤマ地区を離れ、ルルーシュ達との再会を果たすべく、トウキョウ祖界に潜入するのだった。