コードギアス〜暗躍の朱雀〜   作:イレブンAM

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シンジュク事変・壱

 ブリタニアの少年、ルルーシュ・ランペルージは、友の祖国を蹂躙するブリタニアを憎み、世界を壊そうと考えている。

 その友である少年、枢木朱雀は友の為に定められた運命に抗い、未来を壊そうと考えている。

 

 二人の破壊者が戦場で出逢う時、歴史は大きく動き出す。

 

 

 

 

 

 皇暦2017年10月某日。

 

 学園を抜け出し向かった先でチェスの代打ちを行ったルルーシュ・ランペルージは、容易く勝利を収め高校生としては過分な報酬を手にしていた。

 その額はピザに換算して実に一年分にも相当する。

 そんな高額報酬を手に入れたルルーシュは、悪友であるリヴァルが高速を走らせるバイクのサイドカーに乗り込み、学園への帰途についていた。

 

「貴族サイコー! 8分01秒の新記録! 流石ルルーシュだぜ」

 

「そうだな。プライドの高い貴族様は扱いやすくて助かるよ。支払いも間違いないからな」

 

 イタズラが成功した子供の様に屈託なく喜ぶリヴァルに合わせ、微笑を浮かべて答えたルルーシュだが、内心では全く違う事を考えていた。

 

(確かに今日の稼ぎは良かった……だが、こんなモノではまだまだ足りん。今年の夏を境に成りを潜めた一連のテロ活動をデータ収集だと仮定すれば、今頃は量産機の開発に着手していておかしくない。アイツがトウキョウ祖界に現れたのを政庁攻略の下準備の為だとすると……朱雀達の計画は最終段階に入っているとみるべきなのだ)

 

 ルルーシュ・ランペルージは聡明だ。

 悪魔的な知能を持つルルーシュは、日本国のあまりにも潔い降伏からの恭順。エリア11で行われる統制されているかの様なレジスタンス活動。そこに妹であるナナリーの態度や、枢木朱雀の醸し出すただならぬ雰囲気などの要素を加えて分析を行った結果、友である朱雀が七年前に何を行い、枢木の当主となってからの七年間で、何をしていたのか見当をつけていた。

 

 そして、その見当は概ね正しいと言える。

 ただ一つの間違いがあるとすれば、自身が日本解放の中核を担う中心人物に据えて考えられていると、露程も想像出来ていないことだろうか。

 しかし、その人事の根拠が『未来知識』などという怪しさ極まりないモノなのだから、ルルーシュが気付けないのも無理は無い。

 

(いっそ、こちらから協力を申し出るか……? いや、ダメだ。それでは何も語らない朱雀の心遣いを無駄にするし、ただのブリタニア人の学生をどう周囲に紹介させるというのだ。周囲の者を黙らせ、アイツの力になるにはもっと莫大な資金がいるっ。株に手を出すか……いや、株では足が付く。くそっ、どうすれば良い? アイツの犠牲に報い、ブリタニアをぶっ壊すには……)

 

 ブリタニアを憎むルルーシュは、元々たった一人でもブリタニアを壊そうと計画を練っていた。賭けチェスによる資金稼ぎもその一環だ。ネットワークに侵入してトウキョウ祖界の情報を探り、全ての計画を整えるには後、数年は必要……そう考えていた。

 しかし、夏の終わりに友が現れ、状況が代わっているのを肌で感じ取ったルルーシュは、計画の変更を余儀なくされたのだ。

 自分が動くよりも日本の動きが早い……そう察知したルルーシュは、朱雀にならば協力しよう、と方針を転換したのである。

 

 ここで直ぐに協力を申し出れば話が早いものを、そうしないのはルルーシュの無駄に高いプライドのせいだろう。

 自分は有能な男、役に立つ男だとふんぞり返っていられる様に、判りやすい形で才覚を示そうと資金集めに奔走していると言うワケだ。

 そして、日本とブリタニアの間で起こるであろう紛争を傍観しないのは、ナナリーや朱雀の為でもあるが、自分の手でやらないと気が済まない、といったルルーシュの気性に依るところが大きい。

 

 まったく……誰に似たのやら。

 

「そう言えばさぁ、なんで最初の手でキングから動かしたのさ?」

 

 ルルーシュの裏の顔に気付かないリヴァルは、安全運転でバイクを走らせながら、先程行われたチェスの疑問点を口にする。

 

「王様から動かないと部下が付いてこないだろ?」

 

「あのさぁ……ルルーシュって、社長にでも成りたいワケ?」

 

「まさか。……いや、その手があるか。組織を作りソレを手土産にすれば……」 

 悪友の発した何気無い言葉にヒントを得たルルーシュは、その優秀な頭脳をフルに回転させてゆく。

 

(日本解放戦線にも属さず、散発的なテロを行っている集団はトウキョウ祖界の周辺だけでも幾つかある……名と姿を偽ってコイツらを束ねてみせれば)

 

「手土産って……変なルルーシュっ」

 

――プァプァプァぁぁーン!!

 

 ノンビリ話しながら走るリヴァルのバイクの後方から、クラクションを鳴らした半ば暴走気味のトラックが迫り来る。

 

「のあっ!? ナンデスか!?」

 

 変な叫びをあげたリヴァルは、慌ててハンドルを切ってやり過ごそう試みた。

 

「ノンキに走りやがって!」

 

「止めろっ、そっちはっ」

 

 トラックの車内では深目に帽子を被った作業服の男女が、咄嗟の判断の食い違いから軽い言い争いを行っている。

 しかし、トラックは女の制止の甲斐なく、ハンドルを握る男の判断に依って側道を急スピードで駆け下り、そして……降りた先にある建物に猛スピードで突っ込んだ。

 

 

「はじまったか……」

 

 事故現場の遥か後方にモトクロスバイクを止め、フルフェイスのバイザーを上げて呟いたのは、もう一人の破壊者、枢木朱雀。

 

 枢木朱雀は体力バカだ。

 世界最高峰の身体能力を持つ反面、情勢を読み謀略を巡らすコトを苦手とする男であり、それは本人も自覚している。

 しかし、究極の情報と言える未来の情報を有する朱雀は、特定の条件下においてのみ策士となれる。

 枢木朱雀がこの場に居合わせたのは、偶然でも漠然とした未来知識に頼ったからでもない。枢木家の当主として培ってきた人脈をフルに使い、この場所が未来知識のスタートラインだと割り出した結果だ。

 宗像家の隠密の力を借りて『扇グループ』の動きを探って日時を絞り、ラクシャータの作った追跡用発信器を、グラスコーのカスタム機とリヴァルのバイクに取り付けて場所を探る。今しがたには、トラックの後部にも発信器を張り付け万全の追跡体勢も整えた。

 更には、ナナリーと篠崎サヨコの力を借りて、自身の身代わり役をサヨコに任せ学園に残す、といった念の入れようだ。

 オマケに父が遺した地下鉄網には、エース用カスタムKMFを配置する徹底ぶりときたものだ。

 

 今日の策士・朱雀に誤算があるとすれば、未来の情報とは駆け離れた成長をみせる、儚げな少女を甘く見ていることだろうか。

 

 まぁ、これは又別の話だな。

 

 ともあれ、首尾良く対象を発見し、回収のタイミングを計ろうと追跡を続けた朱雀であったが、その胸中には何とも言えない想いが渦巻いていた。

 

 未来知識は参考程度。

 

 そう考えながらも随所において未来知識に頼ってきた朱雀は、知識の信憑性を疑ってはいない。

 しかし、それは人名等の言わばデータとしての部分であり、描かれていた出来事が再現されたとなれば話は少し違ってくる。

 

 事故などと言うものは僅か一秒でもズレれば起こらないモノだ。

 にもかかわらず、未来知識と寸分違わない事故が視線の先で起きた……これではまるで、未来知識の出来事は変えられないのではないか……。

 そう感じてしまうのも、致し方のないことなのかもしれない。

 

「考え過ぎか……そんな馬鹿な話はない。現に俺の立ち位置は大きく違うし、変えようと思えば変えられるハズなんだっ……いや、変えてみせる!!」

 

 そう意気込んでバイザーを下げた朱雀は、アクセルを噴かせたバイクを急旋回させ、地下鉄網の入口目指して走り去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 パネルに表示した追跡レーダーと僅かな明かりを頼りにした俺は、何処までも続きそうな薄暗いトンネル内でKMFを走らせる。

 目指すはトラックが止まった直後……変な言い回しだけど、安全にルルーシュとC.C.を回収するなら、トラックの動きが止まるその瞬間しかない、ということだ。

 

 ここまでは未来知識に描かれた通りの出来事が起こり、ここから先も未来知識の通りに進むとすれば、ルルーシュと接触するチャンスはいくらでもある。

 しかし、いくら体力バカと呼ばれる俺でも、戦場に丸腰のルルーシュを放置する程馬鹿じゃない。それに、ブリタニア軍に枢木スザクが居ないからには、これより先は何が起こるか判らない。と言うより、未来知識の通りに成られては困る。

 この場で大事なのはルルーシュの無事とC.C.の回収であり、ギアスの契約は後で行えばいい。

 未来知識に頼れなくなるのは少々惜しいが、どうせぶっ壊すなら今でも後でも大差がないだろう。

 

「ん? 止まったか……?」

 

 レーダー上の緑の点の動きが止まり、瞬く間に俺との距離が詰まっていく。

 未来知識ではトラックが衝突する正確な場所が判らず不安も有ったけれど、新宿御苑前、アザブの単語を頼りに絞ったこの路線で間違い無かった様だ。

 

 徐々に速度を落としトンネル内を慎重に走る。

 程なく、追突して動かなくなったトラックが、モニターに映し出された。

 

 開けた空間の天井の隙間からは光りの筋が幾重にも射し込み、人工の光に頼らずとも視界が確保出来そうだ。

 

「俺はエスツー。この名と声に覚えがある奴は姿を見せろ」

 

 トラックの側面を正面に捉える様にKMFを周り込ませた俺は、拡声器を使い外部に呼び掛ける。

 すると、トラックの荷台の奥から学生服姿のルルーシュが、両手を上げて現れた。パッと見た限りルルーシュに怪我などは無く、他の人間が姿を見せる気配もない。

 

 一先ず安心した俺は、KMFに片膝付かせて停止させると、コックピットを後方にスライドさせて立ち上がり、バイザーを上げて顔を見せる。

 奇しくも未来知識と同様に、ルルーシュと俺、そしてC.C.がこの場に揃った事になる…………まぁ、だからどうしたって話だな。

 

「なるほど……エスツーとはこういう事か。やはりお前はブリタニアと戦っているんだな? このテロを仕掛けたのもお前か?」

 

 俺がKMFに乗る事に関して特に驚いた風でもないルルーシュは、下ろした手で前髪を髪を掻き分けながら、鋭い視線で鋭い言葉を投げ掛けてくる。

 

 尤も、エスツーの部分は間違えていたりするが、今はそんな指摘をしても意味はない。

 

「やっぱり気付いていたのか? 流石ルルーシュだな……でも、このテロは俺と無関係だから」

 

 KMFから飛び降りた俺は、両手を広げて何も持っていないアピールをしながらルルーシュに歩み寄る。

 

「なに? では何故ここにいる? そんなKMFまで持ち出して『偶然』は通用せんぞ」

 

「分かっている。後で纏めて説明するから、とりあえず今は俺の言う通りにしてくれないか? ここは危険だ。とにかくこの場を離れよう」

 

「む…………そうだな」

 

 

 耳を澄ませて確認するまでもなく、そこかしこからヘリのプロペラ音がこだまして、ブリタニアの追跡が終わっていないことが伺い知れる。

 それはルルーシュにも判っているようで、不承不承ながらも同意してくれた。

 

「だけど、その前に……アレの中身を回収する」

 

 ルルーシュと並び立った俺は、トラックの荷台に積まれた半球状のカプセルを指差した。

 幾つのも突起とパイプの伸びるカプセルは毒ガス容器に見えなくもないが、未来知識通りならばこの中にはあの女……不老不死のコードを持つC.C.が囚われているはずだ。

 

「バカかお前はっ。中身が何か判って言っているのか!?」

 

 俺がカプセルに近付きルルーシュがそれを制止しようと追ってくる。

 

「毒だな。それも、とびきりの猛毒っ……!?」

 

 その時、カプセルがひとりでに割れ始め、眩い光を放ち煙が立ち込めたかと思うと、カプセルの外郭が四方に倒れ中身が露となる。

 

 中から現れた拘束衣を纏う緑色した長い髪の女、C.C.は俺達に視線を向けるとその金色の瞳を閉ざし、割れたカプセル内で倒れ込んだ。

 

「なんだコレは……? 毒ガスではないのか?」

 

 ルルーシュは想定外の中身に驚き戸惑い、俺は……未来知識通り、何もしない内に開いたカブセルに驚き疑念を抱くのだった。

 


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