THE iDOLM@STER BLUE ARCHIVE 作:モモフレンズの新メンバー共
第一章 Trinity Idol Contest 第一話
学園都市キヴォトス。
数千もの学園が寄り集まって形成されたこの都市は、学校ごとに幾つもの自治区で分割、管理されている。
その中の一つ、連邦生徒会直轄であるD.U.の中に、一際異彩を放つ学校があった。
「うわあああ!! 遅刻しちゃううう!!」
校門で全力疾走する生徒が一人。
彼女は、私の隣を通り過ぎようとして、土煙を立てながら急ブレーキを掛けた。
「すみませーん!!」
「"どうしたんだい?"」
「今、何時ですか!!」
「"今は8時半だね"」
「うああ゛〜っ!! やっぱり遅刻だぁぁ゛〜!! 教えてくれてありがとうございました────!!」
「"どういたしまして"」
元気の良い子だ。流石は、キヴォトス一番のアイドル育成学校の生徒、という感じかな。
しかし、職員室は一体どこにあるのだろう。ちょっと迷いそうだ。
結局、2時間ぐらい彷徨って、職員室にやっとの事で辿り着いた。
「"失礼します。連邦捜査部シャーレから来た者ですが⋯⋯"」
「ああっ、貴方がシャーレの先生なんですね!」
薄緑を基調としたラフな服装をした、ヘイローのある女性がバタバタとやって来た。
「初めまして。本校教職員を務めている、根緒アサリと言います。早速なのですが、学園長先生がシャーレの先生をお呼びしていて⋯⋯これから、学園長室に案内しますね?」
「"助かります。何分、広くて迷ってしまうので⋯⋯"」
「ふふ、ではしっかり付いてきてくださいね」
同年代か、少し下か⋯⋯このキヴォトスでその年代の女性と会うことはほぼ無いから、少しだけ緊張してしまう。
「先生はどうしてこちらに?」
私が事情を説明すると、根緒先生は歩きながら腕を組み、考え込み始めた。
「学園長から、シャーレへの要請が⋯⋯? もしかして、あの件⋯⋯?」
「"心当たりが?"」
「はい。我が校は、今ある窮地に立たされています。⋯⋯ですが、それは直接お聞きになった方が良いと思いますよ」
根緒先生が足を止めると、重厚感のある木の扉が待ち構えていた。
「学園長先生、シャーレの先生をお呼びしました」
『おお、根緒君! ご苦労であった! 後はわしが引き継ごう』
「分かりました。⋯⋯それでは先生、また後ほどお会いしましょうね?」
案内までしてくれた根緒先生に感謝を述べてから、扉に手を掛ける。
スーツを着込み、たっぷりの髭を蓄えた快活そうな老紳士が立ち上がり、出迎えた。
「待っておったぞ、シャーレの先生よ。わしはこの、初星学園の学園長、十王邦夫じゃ。早速だが、本題に入らせてもらおう」
向かい合って座ると、十王学園長は、なにやら私をじっと見つめてきた。
あまりにもじっと見られるので、流石に居心地が悪くなって、自分の身だしなみが変じゃないかと気になってしまう。
「"あの⋯⋯何か、付いてますか?"」
「⋯⋯おぬし、プロデューサーに転向する気は無いか?」
「"はい?"」
突拍子もない提案に、思わず私は固まった。
「おぬしの才能⋯⋯人に教え導く育てるその才は、わしの目を以てしても限界が計り知れない。先生の職は、まさに天職であろう。⋯⋯しかし! 教え子を更なる高みへ、望む場所へと掴ませる支えになろうとは思わんか!?」
凄まじい熱意だ、と私は気圧されかける。学園の管理者でありながら、こんなにも素晴らしい大人はそうそう居ないだろう。こんな人物になりたいと、心からそう思える。
しかし、私は首を振った。
「⋯⋯理由を、聞かせてもらっても良いか」
「"⋯⋯アイドルが、皆のファンであるのと同じように、私は、生徒たち皆の先生でありたいからです"」
誰かに、一番星のような輝きを見出して、その子を好きになって、推す事は何も不思議じゃない。
でも、その輝きにあぶれてしまった子たちがいる。何かを踏み違えて、そうはなれなかった子たちもいる。
『先生が⋯⋯私の理由になってくれることも、あるんですか?』
『こんな私でも⋯⋯まだ、先生の生徒で居られますか?』
『私はそんな価値のある人間じゃないよ⋯⋯今からでも逃げて⋯⋯』
「"理想論だとしても、私は、悩んでいる生徒たち皆に手を差し伸べてあげられるような⋯⋯そんな在り方で居たいと思っています"」
「⋯⋯なるほどのう」
失望させてしまっただろうか。指を組み、俯いた学園長に、内心少し怯える。
でも、この心意気だけは、先生として曲げる訳には────
「────つまりおぬしは、既にアイドルであったか!!」
「"⋯⋯はい?"」
「なるほど、なるほどのう! これは一本食わされた! うむ! アイドルとは、ファンに夢と希望を導く存在! ある意味では、先達とも言えよう。故に教師とアイドルは、まさに表裏一体! シャーレの先生、おぬしはその体現者という訳じゃな?」
いや、何か違うような⋯⋯
違和感をそっと呑み込んで、本筋からズレつつある話題を戻そうとした。
しかし意外にも、学園長の方から依頼の話へと繋げてきた。
「そんなおぬしにこそ、是非今回の件は頼まれたい。本来あるべき輝きを燻らせ、潰えようとする星々⋯⋯彼女達を、その信念と手腕で磨き上げ、再び夜空へと打ち上げてはくれまいか!」
噛み砕いて言うのであれば、それは困っている生徒を見つけて相談に乗ってあげ、アイドルとして本来の実力を発揮させてあげるということ。
内容はとても単純で、なおかつとても難しい。
でも、断る気には全くなれなかった。
「"引き受けましょう。私は、みんなの先生ですから"」
「やはり、おぬしを呼んで良かった。⋯⋯わしらの可愛い生徒をよろしく頼むぞ、先生」
喜んで、学園長の手を取った。
※※※
「これが名簿になります。一通りの成績や能力を数値化してあるので、参考にしてみてくださいね?」
学園長の依頼を受けたことを伝えると、根緒先生から生徒の資料を貰った。
「先生がプロデューサーを受け持って貰えて、本当に助かりました! 学園長先生が仰っていた通り、今の初星学園には、プロデューサー科の生徒が数名しか居らず、生徒全体のパフォーマンスが低下しつつあったので⋯⋯」
「"あれっ、そうなんですか!?"」
「はい⋯⋯って、もしかして先生、学園長からお聞きにならなかったんですか?」
プロデューサーへの転向を勧めてきた理由も、何となく分かった気がした。どうやら、学園長にうまく丸め込まれてしまったらしい。
でも、悩みを抱える生徒が居るのは、事実のはず。
それを一緒に解決してあげる事が、先生の務めだ。
「"⋯⋯ん? この子は"」
一人の生徒に目が留まる。
見るからに落ちこぼれだ。各トレーナーからの評価も散々で、いつも集中できておらず体力の無さが目立つとか、芯が無く力も無い下手な歌声に、肌荒れが酷く、夜更かしが多いかもしれないとか、そんな事が書かれていた。これだけ見ると、不真面目な生徒にしか思えない。
でも、私は気になった。
どうしてこの子は、律儀にレッスンを受けているのだろうかと。
何か、理由があるのかもしれない。
「藤田さんですか⋯⋯確かに、どこかチグハグですね」
「"彼女に声を掛けてみようかなぁと"」
「良いと思います! それと、先生もプロデューサー科の一員として、私の講義を受けてもらい、プロデュースの心得を知ってもらいます。私の事は、アサリ先生と呼んでくださいね?」
「"よろしくお願いします、アサリ先生"」
「はい! 一緒に頑張りましょうね、プロデューサー君!」
可愛い。惚れそう。
キヴォトスには年下の生徒しか居なかったものだから、同年代の美人にドキッとしてしまう。
いっそのこと、お付き合いしてみるのも⋯⋯
「⋯⋯あ な た 様 ?」
んー、ダメそうだね、これは。他にも覚えのある気配がチラホラと⋯⋯
まあ、仕方ないかな。推しのアイドルの交際を知って、ショックになるのと同じだ。先生として、生徒の期待を裏切るような真似はできない。
「⋯⋯プロデューサー君? どうかしましたか?」
「"あはは、何でも⋯⋯"」
私が結婚できるのはいつになるのだろうか。
先が見えそうになくて、乾いた笑みがこぼれた。
先生に結婚願望はあるのか⋯⋯?