TS聖女様は破滅エンドを回避したい~※なお、攻撃力はカンストしているものとする~   作:ねくしあ

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第12話:慰霊は聖女の務めですから

 時刻は夜。

 授業が終わり、やっと俺は教室から解放された。

 

 オフィスよりも自由さを感じる空間とはいえ、ずっと座ってるのも苦しいもんだ。

 

「ん~! 伸びをすると、気持ちがいいね!」

「アトラちゃん、あたしが肩揉みしてあげよっか?」

 

 いたずらっぽく笑うレキの言葉に、俺もニコニコと笑顔を浮かべ返す。

 

「じゃあ、お願いっ!」

「あうっ……わ、わかったよ。やったげる!!!」

 

 というわけで、俺とレキ、ミリアは現在、色とりどりの花が咲き乱れる庭園——中庭に来ている。

 

 ある程度は復旧されており、魔族の襲撃の時に脳で描いていた光景がしっかりと広がっている。

 

 といっても、例えばトピアリーは元に戻っておらず、俺がクッションにしたときのままだった。他にも崩れたままの部分は散見される。

 

 テレビでこういった場所は見たことあるが、実際に来てみると、すごく穏やかな気持ちになれる。平和って素晴らしい。

 

 しかも、白い円形のテーブルと椅子のセットが置いてあったため、そこに腰掛けて優雅に過ごしているというわけだ。

 

「ふたりとも、本当に仲が良いんだね」

「ふっふっふ、なにせ、あたしたちは幼馴染だからね!」

「えぇ。こんなに小さい頃からのお友達なの」

 

 そう言って俺は、自分の胸の辺りに合わせて空中に手を置いた。

 よく親戚がやるような、身長を手で示すやつだ。

 

 するとレキは、怪訝そうに首をひねった。

 

「あたし、アトラちゃんより小さかったことはないと思うんだけど……」

 

 くっ、失敗だったか……!?

 しかし問題はない、この子にならアレで——!

 

「そのくらい、レキちゃんはずっと可愛かったってことだよ」

「ぐ、ぐへへ……! アトラちゃんってばもぉ~!」

 

 ふっ、やっぱチョロいな。

 

 まるで大型犬とじゃれてる気分で、すごく楽しい。

 あえて言うならゴールデン・レトリバーみたいな感じだろうか?

 まあ、レキは銀髪だからシルバーなんだけども。

 

「やぁ、アトラ様。来ると思っていたよ」

「あら、殿下じゃないですか。ノルナさんも、ごきげんよう」

「なんだか久しぶりですね。ごきげんよう」

 

 いきなり声をかけてきたのは、襲撃を仕掛けてきた赤髪王子ことバーレイグと、学院の復旧作業に集中していたからか会えなかった青髪団長ことノルナだった。

 

「で、ででんでんででん……!?」

「ミリアちゃん……!? どうしたの!?」

 

 いきなりバグったミリアと、それを大げさに心配するレキ。

 

 それを見たバーレイグは、困ったように苦笑して言った。

 

「いきなり来てしまってすまないね、ミリアさん。君たちも慰霊式典に参加するのだろう? どうせ後で僕たちのことを見るのだから、そんなに緊張しないでくれると嬉しいな」

「は、はいっ……! すみませんっ。な、なんだか緊張しちゃって……!」

 

 さっきまで「街の少女」みたいな明るい雰囲気だったミリアだが、今やコミュ障もかくやという慌てっぷり。

 心なしか、声も僅かに上ずってるような気もする。

 

「じゃあ、僕たちはこれで。アトラ様——楽しみに待っているよ」

「……?」

 

 疑問を顔全体で表現する俺をよそに、バーレイグとノルナは去っていった。

 

「……ミリアちゃん、どうしたの?」

「え、えっと、その……殿下ってすごく……かっこいいじゃないですか」

 

 顔を赤らめ、少しもじもじしながら語るその姿——これを表す言葉を、俺は知っている。

 

「恋する乙女……」

「え゛ぇ゛っ!? ミリアちゃん殿下のこと——!」

「レキちゃん声大きいよ……!?」

 

 俺らがつつけばつつくほど、顔は真っ赤になっていく。

 

 確かに、気持ちは分からなくもない。

 

 ゲームキャラとして登場している以上、顔はすごくイケメンだ。

 初期の方のキャラだから、ファンもすごく多かった。

 なんなら、バーレイグを好きと言い続けるモブもいたくらいだし。

 

 そして……まさかミリアがそうなるとは。

 

「ミリアちゃんから湯気が出てるように見えるから……もうやめよう……」

「うっ、もうヤバそうだね……」

「よし、私たちも行こうか。ミリアちゃんは多少引きずってでもいい!」

「ら、ラジャー!」

 

 ◇

 

 中庭の中心部には、気づかぬうちに人だかりが出来ていた。

 

 噴水があるのは辛うじて見えるが、その周囲をぐるりと人が囲っていて、内側は見ることが出来ない。

 

「どうしようね……わたしの身長じゃ全然見えない……」

 

 なんとか意識を取り戻したミリアが、心細そうに呟く。

 すると、それを聞いた周囲の生徒がこちらに視線を向けた。

 

「聖女様だわ……!」

「お通ししないと!」

「ぐえっ……ぐるじい……」

 

 まるでモーセの海割りの如く、人だかりは綺麗に2つに割れた。

 たぶん押しつぶされてる人もいるが……うん、気にしないでおこう。アーメン。

 

「皆様、ありがとうございます」

 

 聖女スマイルを向けてあげると、群衆は一斉に黄色い悲鳴を上げた。

 

「絶対に私に向けて微笑んだわ……!」

「いや私よ!」

「お美しい……きゅう……」

 

 うふふ、なんて言いながら、割れた海を歩いていく。

 

「アトラちゃん……すごすぎる……」

「あたしのアトラちゃんはさいきょー!」

 

 ミリアは唖然としながら俺に追従していた。

 レキは……通常運転だな。

 

 そうして最前列に辿り着くと、背後の海は徐々に戻っていった。

 

 ——目の前に視線を戻す。

 

 月の光を受けて煌めく噴水の前には、大量の花束が置かれており、そこから円を描くように空白が生まれていた。

 

 よく見ると、噴水の向こう側は円が欠けている。

 人影がちらほら見えるが、恐らく運営側の人間だろう。

 となれば、学院長もいるに違いない。

 

「あ、誰か来たよ」

「あれは……誰だっけ?」

「レキちゃん……あれは学院長だよ。見たことあるでしょ?」

「そうだった! さすがアトラちゃん!」

 

 噂をすればなんとやら。

 

 悠然と、格好良く。

 大人な女性を体現したような雰囲気をまといながら、学院長のルクレアは歩みを進めていた。

 

 そよ風が吹き、俺の頬を撫でた風はルクレアの金髪も揺らし、細長いエルフの耳を覗かせる。

 

「生徒の皆さん。本日は慰霊式典に参加してくれて、ありがとう」

 

 噴水の手前——ちょうど俺の前くらいだ——まで来たルクレアは、静まり返った群衆の中、そう切り出した。

 

「ここにいる大半の生徒は、しばらく療養し、また頑張って学院に来た子ばかりでしょう。学院長として、ハシース様の信徒として、誇らしく思うわ」

 

 全体に視線を向けながら、優しい語り口で言葉を紡いでいく。

 

 その姿は、学院長と呼ぶに相応しいものだった。

 子どもたちの上に立つ存在として、充分な慈愛を見せている。

 

「神の兵士として、後ろを振り返ることはできるだけ少ないほうが良い。けれど、今日だけは。今、この時だけは振り返りましょう。私たちが前を向けるように」

 

 ……俺も老けたな。

 涙腺が緩んで来た。

 熱く、胸を打たれてしまった。

 

 ——だが、その涙は一瞬で引っ込むことになる。

 

「聖女アトラ。ぜひ、貴女からも、皆に言葉をかけて頂戴」

 

 華麗なウインクとともに、ルクレアは無茶振りを振ってきたのだ。

 

 クソ、バーレイグが「楽しみにしてる」って言ってたのはこれのことかよ! こういうのって打ち合わせとか台本とかあるんじゃないの!?

 

 ……なんて悪態をついても仕方ない。

 鷹揚に頷いて、ゆっくりと歩いて時間を稼ぐ。

 

 考えろ、考えるんだ俺……!

 パワハラ上司の無茶振りに答えるのは俺の得意技だろ!?

 

「……私の名前は、アトラ・ルミディーナ。聖教会において、聖女の名を持つ者です」

 

 ——よし、文章は組み立てたぞ。

 あとはタイミングを見計らって話せば大丈夫なはず!

 

「この場にいる皆様の中には、私に恨みを持つ方も、私に感謝してくださっている方もいるかもしれません。それは、間違いなく私の行動が引き起こした感情です。聖女という肩書きを持ちながら、学院という狭い世界ですら救えなかった人と、救えた人を生み出してしまった」

 

 本当はこう言いたい。「お前らが生きているのは、俺が魔族を倒したからだ」と。

 

 でも、それは結果論だ。

 

 俺が倒さずとも——生き残るのは数人くらいになるが——主人公が助けに来てくれた。

 

 だから、俺は謝罪しないといけない。

 

 それが、“持たざる者”に対する“持つ者”の責務だ。

 

「この罪を許せとは言いません。ですが、せめて今日だけは、死者を弔わせてください。聖女——全てを救い、癒やす者として」

 

 その思いを示すように、胸の前で指を組み、静かに祈る。

 

 それを見たレキやミリアも、すぐに祈りを捧げ始める。

 

 気づけば、見渡す限り全員が指を組んでいた。

 

「……なにこれ」

「綺麗……!」

 

 突如、地面から、金色に光る球がふわりと浮き上がってきた。

 

 それは無数に現れ、空中に向かってゆっくりと進んでいく。

 

「みんなの魂、なのかな……」

 

 ふと、誰かの呟きが耳に届いた。

 

 魂。なるほど、そう思えば納得がいく。

 

 ——聖女の祈りは、魂を鎮め、天国に送るほどの力を持っている。

 

 そんな言葉を、確かにゲームで聞いた覚えがある。

 

「さすがはアトラ様、こんなことができたとはね」

「ひゃっ……殿下、いきなり声をかけるのは辞めてくださいっ」

 

 悪びれた様子もなく、バーレイグは俺の横で祈りを捧げていた。

 

「それにしても……本当に、美しい景色だよ。こんなの見せられて——魅せられて、アトラ様を恨もうなんて人、いないんじゃないかな。少なくとも、僕はそう思う」

「そうなら、いいんですけどね……」

 

 俺が逆の立場だとして。

 誰か友人を失ったのなら、俺は聖女を死ぬまで許さないだろう。「あの子を救えなかったくせに……」と。

 

 だが、俺は聖女。

 力がない人間ではない。

 だから、きっと相容れないし、仮定なんか意味を成さない。

 

「きっとそうさ。だから心配しなくていい。アトラ様は一人じゃないのだから」

 

 一人じゃない——そうか、そうだな。

 

 バーレイグ、ノルナ、アラヴァルナ、レキ、ミリア……

 

 なんだ、もうこんなにいたじゃないか。

 友達が増えていく人生。

 それなら前世より何倍も幸せになれる。

 

 まだ信用できない部分や、知らない部分もいっぱいある。

 

 でも、希望に満ちた未来が待っているのだと、今は信じたい。

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