TS聖女様は破滅エンドを回避したい~※なお、攻撃力はカンストしているものとする~   作:ねくしあ

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予約投稿ミスって3話も同時に出てます
お間違えないのないよう


第2話:学院事変

「え、えぇ……大丈夫、です」

「そうか。良かった、あなたを救うことができて」

 

 ぎこちない返事だったが、彼はどうやら気づいていないようだった。

 その手に持った大剣を振り、付着した血を払っている。

 

 さて……どうしたものか。

 

 俺の目の前にいる赤髪の青年は、この国の第三王子——バーレイグ・エルダリオン・スロングス。

 ゲームの中で主人公の仲間となる、メインキャラの1人だ。

 

 そんな彼がここにいることの不思議さに加え、俺の名前を知っている不自然さ。それらは、転生者であると考えれば簡単に辻褄が合う。

 

 当然、信じがたいことだ。偶然だと思いたい気持ちもある。

 けれど、自分自身に起きた出来事が、果たして他人にも起こらないと言えるのか?

 

 そうなれば、転生者と仮定しておくのが良いだろう。警戒するに越したことはない。

 助けてくれた以上、敵意はそこまでないだろうし。

 

 とすると、「ここで俺の素性を明かすか? それとも隠すか?」という疑問が浮かんでくる。

 

 迷っていると、先にバーレイグが口を開いた。

 

「自己紹介が遅れた。僕はバーレイグ・エルダリオン・スロングスと言う」

「ご、ご丁寧にありがとうございます。私はアトラ・ルミディーナと申します」

 

 とりあえず、貴族っぽくスカートの裾を掴んでカーテシーでもしておく。

 ()()はなるだろう。きっと。

 

 バーレイグは、何も知らない様子の俺を見て、転生者だとはつゆほども考えていなさそうだ。

 

「アトラ様。お分かりかとは思うが、現在この学院は非常に危険な状態にある。しかし、貴女はここで死ぬわけには行かない」

「どうしてですか!? 私は聖女。この学院の学友たちを救わねばなりません!」

「それ以上に、世界は貴女を必要としている。たとえ世界の運命が歪んでも、僕は貴女を救わねばならない」

 

 世界の運命が歪んでも、か……面白い。

 言葉選びからしても、やはり転生者とみて間違いないだろう。

 

 そもそも、俺を救うためとはいえ第三王子が自ら動く必要もないしな。

 

 王立騎士団団長が出てくるならともかく、王族が動くにはそれなりの理由がいる。独断ならばそれも可能だろう。

 

「さぁ、行きましょう。仲間もじきに来ますから」

 

 片膝をつき、手を差し伸べるバーレイグ。

 

 まるで王子様からの求婚シーンみたいに見えてくるが、それ以上に「仲間」という言葉にひっかかりを覚えた。

 

「仲間、ですか?」

 

 そう問いかけた瞬間、強烈な邪気を感じた。

 同時に、薄らと血の匂いが漂ってくる。

 

 この息の詰まるような圧迫感は、さっきも感じたものだ。

 それに気づいた途端、心臓がうるさく騒ぎ出す。

 

「魔族っ!」

「グシャアアアア!」

「厄介な……!」

 

 教室の入口と、先程壊れた壁の方から、一匹ずつ魔族が現れたのだ。

 二匹とも手には斧があり、血が滴り落ちている。

 

 外側の魔族に目を凝らすと、布——恐らく制服の切れ端が付着しているのが見えた。

 

 ——思わず、背筋が震えた。

 

 血なんて日常で滅多に見るものではない。

 ゲームでも、流血表現はなかった。

 

 否応なく、ここを現実なのだと突きつけてくる。

 

「ちっ、ノルナは何をしてるんだ……!」

 

 バーレイグが小さく零したその名前は、またしてもメインキャラの1人の名前だった。どうやら仲間とはノルナのことを言っているらしい。

 

 これは……また面白い奴を連れてきたもんだな。

 

「アトラ様。僕が片方を倒した隙に逃げてくれ!」

「あっ、ちょっと——!」

 

 そう言い放ち、バーレイグは入口に向かって駆け出した。

 

 対して、魔族は斧を大きく振り上げた。

 

 その目つきは、まるで狩人のよう。

 心なしか、不敵な笑みを浮かべているようにも感じる。

 

「ヴィズル流剣技・聖炎爆進(バルグレイム)!」

 

 斧が振り下ろされる直前、炎が剣を覆い、その勢いのまま魔族の腹に剣を突き刺す。

 

 血しぶきが飛び散り、バーレイグの顔にいくらか付着した。

 

「グギャアアアアア!?」

 

 足は止まらず、苦しんだような顔の魔族とともに廊下の壁を突き破っていく。彼らは中庭まで出て行くと、バーレイグは燃え盛る剣を引き抜き、斜めに斬撃を繰り出した。

 

 次第に炎は魔族の身体を覆い尽くし、全身が灰になるまで燃え続けた。

 

「流石の強さだなぁ……」

 

 思わずそんな言葉を零してしまう。

 

 俺はそもそもどんな魔法を使えばいいのかすら分からないのだ、羨ましくもなる。

 

 使うなら、次の聖女——今の聖女候補の技だな。

 彼女もゲームキャラの一人で、俺の後を継ぐ存在だ。

 

 王子がゲームで使ってた技を使ってたんだから、俺にも使えると思っていいだろう。詠唱しなければ技が使えないのもゲーム通りだしな。

 

「グギギ……」

 

 壁側からのそりと歩みを進めていた魔族が、恐怖の滲んだような顔で俺を睨みつける。生命の危機でも感じているのか、俺という存在に畏怖しているのかは分からないが、ある程度の思考はできるようだった。

 

「俺も、覚悟を決めるしか無いか……」

 

 やはり戦わずに生き延びるなど、不可能に等しい。

 

 まさにぶっつけ本番。

 怖いと言えば嘘になるが、やるしかない。

 

「グギッ!」

「——聖なる光よ、我が敵を浄化せよ!」

 

 血走った目で斧が振り下ろされる刹那。

 

 記憶にあった聖女の呪文を詠唱すると、俺の身体から(まばゆ)い光がほとばしり、雷のような軌道を描いて魔族の胴体を突き抜けた。

 

「ギッ——!?」

 

 魔族は一瞬の断末魔を上げると、白目を剥いてその場に力なく倒れた。

 手に持っていた斧も同時に落ち、ズシリとした重みの振動が地面をわずかに揺らす。

 

 その後も第二撃を構えていたものの、魔族はピクリとも動かなかった。恐らく死んでいる。

 直後、何かが身体に流入したような感覚があったが、それはすぐに消えた。

 

「な、なんとかなったぁ……!」

 

 俺も身体から力が抜け、ふらふらと座り込む。

 ゲームのキャラたちがこんな怖いことを繰り返していたとは、全く以て想像できていなかった。

 

 そう考えると、物怖じせず戦っているバーレイグはどれほどの研鑽(けんさん)を重ねたのか……俺より随分(ずいぶん)と早く転生しているように思えてならない。あいつが歴史をぐちゃぐちゃに改変してないといいんだがな。

 

「アトラ様、大丈夫だったか?」

 

 悠然でありながら警戒したような素振りでバーレイグが歩いてくる。

 

 緩んでいた気を引き締め、なんとか立ち上がり、目線を合わせる。

 

「えぇ、なんとか。魔法が通用して良かったです」

「聖属性の魔法……この目で直接見るのは初めてだった。本当に美しい。しかも、魔族への効果はそこらの剣や魔法とは次元が違うようだ。僕は最強の剣技——必殺技を使ってやっとだというのに」

 

 魔族特攻を持つ聖属性魔法は、今のところ俺しか使えない。

 これがあれば、この襲撃もなんとか乗り越えられそうだ。

 

 にしても、一発で魔族を倒せる存在か……だから(せいじょ)は殺されるんだな。そんなもの脅威でしかないだろう。ゲームでは育成を極限までやらないと一発なんか無理だというのに。

 

 バーレイグは毎回必殺技を使って大変そうではあるが、どうにか頑張ってもらいたい。

 

「では行こう。目標は、学院に侵入した魔族の殲滅ッ!」




 聖女最高! 聖女最高!
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