TS聖女様は破滅エンドを回避したい~※なお、攻撃力はカンストしているものとする~   作:ねくしあ

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予約投稿ミスって同時に出てて草
まぁいいや……第2話も同時に出ちゃってるんで、読んでない人はよろしくお願いします


第3話:聖女の本能

 バーレイグの先導で学院の中を駆けていく。

 

 火が上がっていたり壁が崩れていたりと、天災を思わせるほど悲惨な状態だが、気にしている暇はない。

 

 聖女や他のキャラならば、輪廻解放(りんねかいほう)といういわゆる必殺技のシステムで蘇生も出来るが、俺が出来るかどうかは分からない。

 

「誰か助けて——!!!」

 

 ——だが、どこかから聞こえた悲鳴が思考を一気にかき消した。

 

「向こうだ!」

 

 甲高く響いた悲鳴の方角をすぐさま突き止め、赤髪王子は一直線に足を進める。

 

 こっちも若々しい身体とはいえ、少し疲れてきた。聖女はあまり筋トレしてないのだ。仕方ないから許して欲しい。

 

 悲鳴を辿っていくと、一つの教室——見た目は俺のいた教室と同じだ——に到着した。

 

 そこには、固まって震える数人の生徒と、それを庇うように魔族の前に立ち塞がる少年がいた。

 手には槍が握られているものの、ブルブルと震えている。額には大粒の汗が浮かび、肩で息をしていた。

 

 と、そこで思考を戻し、俺たちは魔族を認めると同時に技を放った。

 

「光よ!」「聖炎黎明(オグニス)!」

「ッ——」

 

 赤い炎が空中を舞い、光が魔族を貫く。

 一撃で命を刈り取られた魔族は、遺言を残すこともできず胴体を破壊された姿で死んだ。

 

「あの姿……聖女様だわ!」

「私たちの助けを呼ぶ声に応えてくださったのね!」

 

 固まっていた生徒のうち2人が、俺を見て感動に打ち震えていた。

 他の生徒も、感謝するような目線や、同意する素振りを見せている。

 

 これが人助けの感情……癖になりそうな快感だ。

 物語の主人公の気持ちがよく分かる。前世じゃ人助けとかしてないし。

 

「そこの少年、なぜアトラ様を睨む?」

「っ……」

 

 しかし、槍を持って戦っていた少年だけは別だった。バーレイグの問いかけには答えず、歯を食いしばって俺をより睨むのみ。

 

 はて、俺は恨みを買うようなことはしていないと思うんだが。感謝はしてくれていいけどね。

 

「そうですわ! 聖女たるアトラ様を睨む道理などあるはずもないでしょう!」

「僕はエイカム伯爵の子息だぞ! それを覚えておけ! ……行くぞ」

 

 金髪の自称伯爵子息は、肩を怒らせながら教室を後にした。

 

 俺の横を通り過ぎるとき、「横取りしやがって……」という声が小さく聞こえたのは、聞き間違いじゃないんだろうな。

 

 ここはハシース教徒だけの学校だから、信心深い人ばっかだと思ってたんだが……ここでも貴族の権威を振りかざす奴もいる、と。

 

 というか、エイカム伯爵家は聞いたことがない家名だ。

 本編には直接関係のない、いわゆるモブだと思うんだが……面倒そうなやつがいたものだ。

 

「アトラ様。僕たちも行こう。外でノルナたちが戦っているはずだ」

「その前に、少しいいですか?」

 

 バーレイグの返答を待たず、俺は震える生徒たちに近づいた。

 

 よく見ると、彼女らには怪我をしている者が何人かいたのだ。

 聖女として、やるべきことがあると感じてしまうのは、きっと本能に違いない。

 

「大丈夫ですか?」

「は、はい……くっ……」

 

 右足の先から血を流している少女——見たところ傷が一番酷かった——に声をかけると、苦しみに喘ぐ声が返ってきた。

 

 すると、横にいた少女が申し訳無さそうな顔で口を開いた。

 

「落ちてきた瓦礫が彼女の足を押しつぶしたんです。私たちも回復魔法を使ったんですが、出血を少し抑える程度にしかならなくて……」

「なるほど、分かりました。ではすぐに治しますね——」

 

 その言葉に驚いたのか、微かに目が見開かれたのが分かった。

 

 ふっふっふ。俺は聖女だ、部位欠損であっても治せるはず。

 作中最強の回復能力を持つ女を舐めるなよ?

 

「祝福よ、苦痛を取り払い息災(そくさい)回帰(かいき)させよ!」

 

 手のひらから、温かい光が太陽のように降り注ぐ。

 

 ——直後、奇跡のような光景が広がった。

 

 失われた足先から無数の糸が生え、いくつかは骨に、いくつかは肉へと変化していったのだ。

 

 みるみる内に肉が再生し、皮膚が形成され、血が止まる。

 それらの工程が、須臾(しゅゆ)の間に完了した。

 

 悪かった血色も戻り、見た目は完全に元通りの状態。

 先程まで血を流して苦しんでいたとは思えないほど健康そうだ。

 

「これが……聖女様のお力……」

「私たちの使える回復魔法なんかとは次元が違う……」

「失った部位を再生だなんて、聞いたこともないですわよ」

 

 涙を流し、呆然と蘇った足を見つめている。

 他の生徒たちも感嘆しているのは手に取るように分かった。

 

「聖女様! 他の方もお願いできませんか?」

「えぇ、当然です。見せてください」

 

 喉元には、少しだけ拒否の言葉がせり上がっていた。

 けれども実際に出たのは、優しく受け入れる言葉。

 

 俺は、聖女たる高潔な精神を手に入れたと思っても良いのだろうか。

 前世とは違う人間を生きれるのだろうか。

 

 ——そんな予想が脳裏に浮かんで、不意に微笑みが漏れる。

 目の前にいる新たな患者は、それを見て緊張がほぐれたようだ。

 

「私は、魔族の腕で叩かれてしまいまして……その時に壁に打ち付けられたんです」

 

 根暗そうな少女は、そう言って服をまくって腹を見せた。

 肌は日に焼けておらず白いが、腹部には大きく青あざが出来ている。異常なほどに猫背だが、この感じは脊椎も折れてそうな感じだな。

 

 別に医者じゃないが、俺の中の現代知識がそう言っている。

 

「祝福よ、苦痛を取り払い息災(そくさい)回帰(かいき)させよ」

「あったかい……」

 

 降り注ぐ光は、すぐに青あざを元の真っ白な肌に変えた。

 それに加え、姿勢も多少は改善され、ただの猫背になった。

 

 そうか、やはりそこまでは治らないのか。

 怪我ではないと判定されているのか、仕組みはかなり気になるところ。

 

 それにしても、陰キャ少女がお腹を見せてくれるシチュエーションか……ここが戦場でなければ欲望に従っていたところだ。

 

 くっ、すべすべの白くて細いお腹が眩しい……っ!

 

「アトラ様……」

 

 バーレイグの急かすような呼びかけに、俺は慌てて腰を上げた。

 怪我人を治したのなら、ここでゆっくりする時間は一秒もない。

 

「え、えぇ。分かっています。行きましょう!」

 

 嫌な予感が、刻一刻と迫っている。

 胸の奥がざわめいている。

 

 多分、これから出会うのは——さらなる化け物だ。




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