TS聖女様は破滅エンドを回避したい~※なお、攻撃力はカンストしているものとする~ 作:ねくしあ
とある昼下がり。
窓から身を乗り出し、初夏の温かい風を浴びていた。
トピアリーや樹木の葉が風になびき、さわさわと音を奏でている。
ため息の漏れるくらい平和な光景だ。
命を狙われているという事実と、その証拠、経験が脳裏に想起されるが、こんな長閑な空気を吸ってしまうと嘘のように思えてくる。
「珍しいね、アトラちゃんがぼーっとしてるなんて」
「うんうん。いつも何かをしてるから、わたしも珍しいなって思う」
いつの間にか隣に来ていた二人が、俺と同じように外を見つめて言う。
「そっか……私、ずっと何かをしてきたから、ちょっぴり疲れちゃったのかも」
前世でも今世でも仕事をしている。
その上こっちの世界じゃ戦闘が加わるのだから、もしかしなくても今の方が忙しいかもしれない。
もちろん若い身体であることは大きなメリットだが、疲れは溜まる。
「敵のこと考えて、なのにこんな平和だから、その温度差が無性にこんな気分にさせるんじゃないかな~……」
最後に空を眺めたのはいつだったか。ぼーっと、微笑みを浮かべて風の流れを感じていたのはいつだったか。
それすら、思い出せない。
それでも、やらなくちゃいけない。
「いつもアトラちゃんは頑張ってるよ。だから、今日くらいは荷物を降ろしてもいいんじゃない?」
ミリアの優しい言葉が耳に届いた刹那——心臓が、一際強く鼓動を打った。
なんだか嫌な予感がして、窓から離れようと大きく後退る。
「——獄炎斬」
瞬きの直後、右肘から先が無くなっていた。
出血はない。須臾の間だけ灼熱を感じたことから、熱で傷口が塞がっているのだろう。
「がっはっは! やはり化物、一撃では仕留めきれないどころか避けられるとはな!」
「貴様……!」
目の前に立つは、傭兵のような装いをした男。
堀の深い顔には無数の線の傷があり、戦場を駆け抜けた剣士であることは一目瞭然だった。
彼の右手に握られた剣には炎が揺らめいている。
つまり炎属性の剣士ということ。
「あっ……ああぁっ……」
分析をする俺の横から、震えた声が僅かに聞こえてきた。
声の主はレキ。
男を見て、恐怖に震えるような——!
「そうか、お前が——ロザルク・ガルドレオンかッ!」
「そうだ。吾輩こそ、炎の覇者と呼ばれしロザルク・ガルドレオンだ! そこな銀髪少女も久しいな!」
豪胆に笑い、豪快な笑顔で宣うロザルク。
そこには、確かに人の上に立つ者の——セリオールと似た覇気を感じた。
「おっと、これ以上聖女の前で立っていては洗脳されてしまう。吾輩は
そう言ってロザルクは窓から飛び降り走り出す。
背後を狙おうと魔法を詠唱しようとした瞬間、一陣の風が吹き反射で目を閉じてしまう。
再び目を開いた時、彼の姿はどこにもなかった。
「レキちゃん、ミリアちゃん、大丈夫……?」
レキはトラウマが蘇ったことによって平常心を保てなくなっている。
だが、ミリアは理由が分からない。彼の覇気に当てられたから、とかかもしれない。
「祝福よ、苦痛を取り払い
左手から降り注ぐ光の雨は、二人の身体に触れてはそっと消えていく。
その度、顔色は元通りになっていく。
「落ち着いた?」
「うん、ありがと……ってアトラちゃん! 腕が!!!」
「そういえば腕をくっつけないとだったね……」
痛みも特にないから気づかなかった。
とりあえず、レキの指摘に従って地面に落ちた俺の右腕を拾い、回復魔法を唱える。
すると、焼け焦げた断面から肉の糸が無数に生え、腕をつなげていく。
数十秒後、神経が通り、再び右腕は俺の意のままに動くようになった。
「これで問題なしっ」
「ぜ、絶対何か問題があるよぉ……」
ミリアも落ち着いたようで、ドン引きした表情で俺の右腕を見つめている。
「まぁまぁ、気にせず。今は敵のことを考えないとね」
「……うん。そうだよね。気を取り直さないと」
次の瞬間、どこからかけたたましい警鐘の音が鳴り響き始めた。
顔を見合わせ、外を見る。
「……また、かぁ」
「軍隊とかじゃないんだね……」
黒い肌の巨大な体躯、先端に魔力を纏った大きな斧、大胆不敵な表情と風格。
その身から放たれる魔力は濃密で、威圧感として全身に重くのしかかる。
けど——もう、慣れた。
俺は右手をかざし、狙いを定め、嘲笑いながら叫んだ。
「聖なる光よ、我が敵を——魔族を浄化せよッ!」
身体から
直後、何かが身体に流入したような感覚があったが、それはすぐに消えた。
「二人は皆の指揮に向かって! 私は一人で問題ないから!」
「……うんっ。絶対、絶対に生きて帰ってきてね!!!」
「あたしも頑張るから! 皆を救ってみせるから!!!」
俺がロザルクの襲撃に際して決めていたことはいくつかある。
その内の一つとして、生徒会による指揮系統の構築が挙げられる。
ノエルとレキとミリアのそれぞれが活躍できるよう、俺が前もって役職を振っていたのだ。
この前は混乱に呑まれ、各個撃破——死んでしまった生徒が多かった。
その分析を基に、皆を指揮官としたのだ。
俺への信頼は安心感、そして冷静を保つことに繋がる。
なにせ聖女だからな。全てを救う力を持っていることは既に分かってくれているはずだ。
「それじゃ、俺も行きますか……!」
教室を飛び出し、魔族の侵攻する場所を突き止めるため、考えていた侵攻ルートを虱潰しに回っていく。
「光よ!」
レイリアの街がある方角や、
「光よ!」
学院の裏側に当たる場所、
「光よ!」
街の外に近い区域……
様々なところを駆け巡った。
俺も手伝ったバリケードは上手く機能していた。
バリケードにある大きな針を殴ったのか、拳に大きな穴が空いていたり、なんなら針に突き刺さってそのまま動かなくなっていたりする魔族がたくさんいた。
そいつらは光の威力を落としてもすぐ倒せるからありがたい。
その途中で、四人一組の班を組んで防衛に当たる生徒を幾度も見かけた。
これも対策の一つで、班を組めば増援を呼ぶことも可能だろうというアイデアから生まれた。
魔族は災害。
だからこそ、友人の犠牲を見て見ぬふりしなければならない時もある。
しかし辛い思いをする奴がいるということは、そいつは生き残っている。
皆からすれば、命の価値がどうとか言ってられないのだ。
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炎の剣士、水の法器使い、雷の槍使い、風の弓使い。
それぞれが上手く連携し、タイミングを合わせて魔族に攻撃を繰り出している。
魔力と体力さえ持てば、この魔族を倒し切るくらいは出来そうだ。
そう思い、止めていた足を踏み出した途端、左の方から氷の弾が飛んできた。それに対し、咄嗟に姿勢を低くし避ける。
「
この前ダンジョンで見かけた
松明に似た杖を持ち、それを俺に向けていた。
彼の周りには薄い膜がある。 このバリアは魔法でないと壊しづらく、しかも硬い。
名前の通り、こいつも魔族と同じく
ただ、住処が
「それにしたって同時は最高にめんどくさいんだけどなぁ……!?」
ゲームでも稀に、この組み合わせはあった。
非常に面倒な組み合わせであり、しかも
「あぁもう……! 双光よ!」
こいつの場合、バリアと本体をそれぞれ攻撃しなければならない。
俺一人だと二回攻撃が必須で非常にコスパが悪い。
ただ、俺がある程度処理しないと皆にしわ寄せがいく、という側面もあるのが悩ましいところだ。
「誰かっ……! 助けてぇっ……!」
「ぼーっとしてる暇はないんだったな……すぐ助けに行く! だから足を止めるなよーッ!」
そう言って、声のする方へ走り出していく。
今回は、前回と違って準備もした。対策もした。救援も頼んだ。
だからこそ、聖女の名において——たった一つでも多くの命が残るよう、全力で務めなければならない。
「社畜魂——見せてやるよ!」