TS聖女様は破滅エンドを回避したい~※なお、攻撃力はカンストしているものとする~   作:ねくしあ

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幕間:英傑たちの裏側

「アトラ様……」

 

 空がオレンジ色に染まり、太陽が地平線に消えようかという頃。

 

 とある一室には、赤髪の少年と金髪の少女がいた。

 少女は安らかな表情を浮かべながらベッドの上で眠っており、少年はその側で彼女の顔を見つめていた。

 

「僕は……救えたんだ。彼女の運命を変えられたんだ」

 

 内側から湧き上がる喜びに身体を震わせながら、誰に聞かせるわけでもなく、ただ一人バーレイグは呟く。

 

「きっと、僕らがいなければあのまま戦死してしまっていた。本当に……良かった」

 

 バーレイグは涙を浮かべ、アトラの手を取った。

 

 剣を握ったこともなさそうなほど柔らかい白磁の肌と、自分より小さな指。けれど、トク、トク……と心臓の鼓動が確かに伝わってくる。生きているのだと、どこまでも感じさせる。

 

 自分よりも温かい体温は、胸に宿る感動をより一層高めた。

 

 視線を外せば、神が作ったとしか思えない端正な顔がそこにある。

 

 夕日に煌めく金髪に触れれば、サラサラな手触りが心地よく、ふんわりと花のような匂いが漂う。

 

「あぁ、今の僕は——最高に幸せだ」

 

 柔和な笑みを湛え、バーレイグはおもむろに腰を上げた。

 

 これ以上、彼女の眠りを邪魔したくなかったのだ。

 

 部屋を出ると、彼の足は迷いなく進み始める。

 先ほどから何回か通っているため、道なりは覚えていた。

 

 そうして数分、彼は王子らしくノックをすることもなく、一つの部屋に入った。

 扉をキッチリ閉め、目の前の一人以外誰もいないことを確認し、ソファに腰掛けてようやく口を開いた。

 

「アトラちゃん……っ! 可愛すぎるだろうが!!!」

 

 一国の王子とは思えないような声と表情でバーレイグは叫ぶ。

 

 それは、瞳が♡になっているように見えるほど。

 

 目の前にいる女性はこの反応に驚くこともなく、むしろ同意の頷きを高速で繰り返していた。

 

「マジで分かる!!! あんな可愛くてちっこくて守ってあげたくなるような存在——まさに聖女! ウチらって本当に幸せだよ!」

 

 女性——ノルナも、騎士団長という恐ろしい肩書とは真逆の状態。

 一人称に至っては「私」ではなく「ウチ」になっている。

 

「その通りだよノルナ! この日のためにどれほど準備してきたことか……報われて、救えて良かった……!」

 

 そう、二人は昔から協力していた。

 何を隠そう二人とも——()()()()()()()()()()()()()()()()なのである。

 

「雷のような恋を、画面越しではなくこの目で見て続けられる——この幸せのために生きてきたんだよ!」

「ウチらの人生を変えた、一瞬から始まった想いの結晶だからね……!」

 

 アトラは、ストーリーの回想シーンで登場しただけのキャラ。

 見た目だけが明かされ、実装されることなく忘れられる存在だった。

 

 しかし、その見た目の可愛さに心を打ち抜かれた者は数知れない。

 一瞬の登場なのに、それほど人気を獲得してもいるのだ。

 

「そんな風に推してたら、いきなり転生してた時は本当にびっくりしたよ……本当に仲間がいてよかった」

「ウチとか普通のJKだったのに、いきなり騎士の名門の娘に転生とかあり得なさすぎるもん……!」

 

 二人が転生したのは数年前。

 ゲーム本編から見ても、かなり昔のことだ。

 

 そこで二人は、ゲームの運命を変えようと必死に生きた。

 目的はアトラを死なせないこと、ただ一つ。

 

「そんなこと言ったら、僕も普通の高校生だったのにいきなり王子だぞ?」

「うっ、そうだった。互いに大惨事だったんだ……」

「ゲーム知識でなんとかここまで辿り着いた、って感じだもんね」

 

 そう言った後、バーレイグは顔持ちを真剣なものに改めた。

 王子らしく鋭い眼光は、この場の空気を引き締めるには充分すぎた。

 

「だけど、ここはスタートライン。大変なのはこれからだ」

「完全に運命を変えちゃったわけだもんね。ウチらのゲーム知識がこれからどこまで役に立つか……」

 

 不意に沈黙が訪れる。

 時間にすれば数秒だったそれを、バーレイグはゆっくりと破った。

 

「アトラちゃんの情報はかなり少ない。本人に聞いて、二人三脚ならぬ三人四脚でやるしかなさそう」

 

 バーレイグやノルナは、キャラとして実際に操作できた。

 なので、技や魔法についてもよく知っている。

 

 聖女アトラの魔法は回復魔法に限られており、日記にもそれ以上の記録はない。

 

 彼女の存在と死は物語上で重要だが、提示されているのは「清楚で誰にでも優しく、そのうえ聖属性魔術を扱える」という一点だけ。

 

 つまり、転生者といえども本人に聞かないことには何も分からないのだ。

 

「そういえばさ、あの岩鎧の長を倒した虹色の攻撃ってなんだっただろ?」

 

 首を傾げながら、ノルナは問いを呟く。

 それを聞いたバーレイグは、少し姿勢を前のめりにした。

 

「それは僕も気になった。ゲームにいる聖女はアトラちゃんじゃないけど、回復と攻撃については、詠唱も効果も同じだった。でもあの大魔法は……」

「——アトラちゃんだからこそ?」

 

 それを聞いたバーレイグは、顎に手を添えて思案する素振りを見せた。

 

「やはり、二人の聖女は全く同じではないということか」

「ゲームの聖女、今でいう聖女候補ちゃんは回復とバフに特化してたよね」

「でも、アトラちゃんは岩鎧の長を倒すほどの攻撃魔法を使った。つまり攻撃を得意としてる可能性はある」

 

 おぉ! と感嘆したようにノルナは声を上げた。

 バーレイグはそれに満足感を覚えつつ続ける。

 

「ってことは、戦闘に関する知識を蓄えてもらえれば、自衛を充分に出来るようになるかもしれない」

 

 彼らの目的は、永遠に推しの側にいること。

 ここで救って終わりではないというのは、それが大きな原因となっている。

 

「じゃあ、アトラちゃんが起きたら戦闘に関して色々しなきゃだね。なんだかワクワクしてきたっ!」

「彼女は根っからの聖女。行動や言動からもそれを感じていた。誰も傷つけないために生きているのが分かった。だから、僕たちがずっと、平和に暮らせるようにしないと。いずれ、()()()()()になり得る逸材なんだ、彼女は」

 

 二人の言葉には、強い覚悟と愛情があった。

 

 その想いが、この世界をどこまで変化させていくのか——それは、今は天使でさえも知らない。




オタク二人と社畜聖女による生活が幕開け……何も起こらないはずがなく……
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