TS聖女様は破滅エンドを回避したい~※なお、攻撃力はカンストしているものとする~   作:ねくしあ

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第7話:異世界でカツアゲされるとは思ってなかった

「アトラ様は、そこにかけてくれ」

 

 バーレイグが示したのは下座。

 ちょうど学院長が上座なので、目が合う形になる。

 

 内心で「マジかぁ……」と渋々ではあるが、顔には出さず首肯(しゅこう)した。

 

 なぜ嫌がるかといえば、この人……掴み所がないのだ。

 

 とにかく強くて、立場も偉くて、長生きしている。

 凡人相手では話なんか合うわけがない。

 

 殆どのキャラがそんな感じで困っていたのだから、乗り気でないのは当たり前のことだと思う。

 

 主人公と数人くらいだぞ、まともに話せるの。

 しかも全員が人外系の種族。

 

 俺、人間。無理。

 

「お姉さんを含めて六人。ちょうどいいわね。それじゃあお話を始めましょ」

 

 どうやら、この場は学院長——ルクレアが取り仕切るようだ。

 

 皆も異存はないのか、軽く頷いていた。

 

「といっても、聖女ちゃんとは面識ない子が二人いるわね。自己紹介してちょうだい」

 

 ルクレアが目配せした先は、俺から見て右奥——面識はないが知っている人物だった。

 

「……俺の名はアラヴァルナ。バーレイグとノルナと共に来たが、俺は遊撃をしていたから会っていなかった。よろしく頼む、聖女」

 

 怪しさを醸し出すボサボサの黒髪と、宇宙の煌めきを想起させるような銀色の瞳。

 肌は青白く、生気をあまり感じさせない。

 

 ——彼はノクス・デラージュのキャラクター、アラヴァルナ。雷属性の槍使いだ。

 

 なんとも怖い風貌だが、その中身が全く違うことを俺は知っている。

 

「えぇ。よろしくお願いしますね」

 

 俺の聖女スマイルに対し、アラヴァルナは気にした様子すら見せなかった。

 飄々としたように見える男なのだ、こいつは。

 

「ということは、次は自分ですね」

 

 若干気まずい静寂を破ってくれたのは、本当に見覚えのない男性だった。

 バーレイグの横に座っていたことから、そことも関係があるのだろうと推察していたのだが、果たしてどうか……

 

「自分は、スロングス王国騎士団副団長、アーレス・グランフィードです。当代聖女アトラ様、以後お見知り置きを」

 

 短く刈り上げた茶髪と、真っ直ぐ俺を見る黒目。

 外見も喋り方も、実直そうという印象を与えるには十分すぎるものだった。

 

「アーレスさんですね。よろしくお願いします」

 

 しかし……うーむ。

 モブとして登場していたような、いないような……正直、記憶に残らなさそう。てか残っていない。

 

 プレイアブルキャラなら全員覚えてたんだが、さすがにアトラほど可愛くないモブを覚えられるような脳は持ち合わせていなかったようだな。しゃーない。

 

「挨拶も終わったようだし、早速お姉さんから聖女ちゃんに質問してもいいかしら?」

「どうぞ。私に答えられることならば」

「いきなり魔族の襲撃があったわけじゃない。そこで、あなたは聖女としてどう思っているの?」

「聖女として……」

 

 俺が聖女として生き始めてまだ5日目。そのうち3日は気絶している。

 まだ実感がないというのが正直な感想だ。

 

 でも、それは言えない。

 

「私が救えた命は、いっぱいあると思います。私が救わなかった、失われてしまった命が」

「けれど、あなたは魔族と戦い、それを殲滅したのよね。なら、守れた命も大勢あったということになる」

 

 守れた命——なぜかは分からないが、その言葉が妙にストンと腑に落ちた。

 

 あの時、俺はあれで良かったのだろう。

 

 戦わず治療に専念する道もあったが、気づけば学院を背に魔族を倒していた。

 皆の戦闘力を見積もった上での選択だが、やはりモヤモヤとした感情は拭いきれない。

 

 これで良かったのだと、胸を張って生きなければならないのだ、俺は。

 

「ふふっ、何を考えているかは分からないけど、納得がいったようでよかったわ」

「そ、そんなことまで見透かさないでいただけると……」

「恥ずかしがらなくていいのよ? 学院長として、生徒の悩みは解決するのが職務であり責務なんだから」

 

 そう言って、ルクレアは可愛らしくウインクした。

 

 まったく、これだから目が合うとこに座りたくなかったんだ。すぐ人の心読んでくる。

 まさかこれをリアルでやられるとは思ってなかったけど……!

 

「僕からも、質問させてもらえないだろうか?」

「構いませんよ、バーレイグ殿下」

 

 ほぼ確実に転生者なバーレイグが質問……ということは、ゲームとの差異について聞いてくるだろう。特に魔法関連。

 

「岩鎧の長を倒した、あの虹色の光——あれは、どういったものなのだ」

 

 ニヤリ、と内心で笑みを深める。

 俺の予想通りに動くなら、無駄に気を張る必要もなさそうだ。

 

「正直なところ、分かりません。長に掴まれ、全身が悲鳴を上げていた最中、天啓のように脳内にあの呪文が現れたのです。それを詠唱した結果、あの魔法が……」

 

 無論、ここは真実を話す。

 俺だって情報がほしい。先輩転生者なら何か情報を持っているかもしれないし、協力体勢も作っておきたいところだ。

 

「なるほど……」

 

 頭で情報を整理しているのか、軽く俯きながらバーレイグは返事をした。

 

 数秒後、顔を上げ、ゆっくりと口を開く。

 

「そういえば、アトラ様の魔導具を見ていなかった。よければ見せてくれないか?」

「魔導具、ですか……」

 

 この世界では、魔法を扱う者は必ず魔導具と呼ばれる武器を媒介としなければならない。

 

 たとえば、バーレイグは大剣を、ノルナは剣を、聖女は法器と呼ばれる魔導具を用いる。

 これはゲームシステムによって定められた規則で、何もない状態では使うことが出来ない。()()()()()()()()()()からだ。

 

 そのはず、なのだが……

 

「……どこにも、ない?」

 

 制服にある、あらゆるポケットに手を入れるが、何も感触がない。

 薄い胸の間に挟まってるわけもなく、服の中にもない。

 

「まさか、法器なしで魔法を使っていたと……!?」

「ありえないわ! 魔力の発露には媒介がなければいけないはず——!」

 

 ガタッ! と椅子を勢いよく倒しながら、ルクレアは立ち上がり叫ぶ。

 バーレイグも、目を丸くして驚いている。

 

 視線を動かすと、他の3人も怪訝な表情をしていた。

 

「そう言われましても、ここになければないでしょうし……」

「いやっ、でも……!」

「学院長、落ち着いてください。僕たちだって信じられないのです」

 

 困惑と恐怖が入り混じった顔で、ルクレアは俺を見つめている。

 バーレイグが宥めているが、効果は薄そうだ。

 

 なんだか一泡吹かせることができた気分だが、ここまで驚かれると逆に申し訳なくなってくる。

 

 ゲームでこんなに取り乱した姿なんか見せたこと無いのに……不思議だ。何か理由でもあるのだろうか?

 

「落ち着いていられるわけないでしょう! 魔法の行使という根本的な概念を揺るがしかねないのよ? かくなる上は、お姉さん自身が調べるわ!」

 

 大股でルクレアが俺に近づいてくる。

 

 目は完全にキマっているものの、顔立ちは美人だな——なんて呑気に考えていると、気づけば彼女は目の前に迫っていた。

 

 おっと、こりゃ……逃げられないな。

 

「ほうら、お姉さん怖くないからね?」

「ひゃっ! こ、怖いですよぅ……!」

 

 脇の下に手が差し込まれ、軽々と持ち上げられた。

 なんなら上下に揺さぶられ、カツアゲみたいになっている。

 

 まさか異世界でカツアゲ(金目当てじゃない)されるとは思ってなかったよ……

 

「その……学院長……それくらいにしてあげてはどうか……?」

 

 ノルナが控えめに助け舟を出してくれた時——腹の虫の鳴き声が聞こえた。

 それは部屋全体に響き渡り、全員を一度冷静にすることに成功していた。

 

 ……ただ一人を除いて。

 

「もしかして……今の聖女ちゃん?」

「アトラ様から聞こえたな」

「私もアトラ様から聞こえた音だと思います」

「自分も同感です」

「俺もそう思う」

 

 5人が俺を向いて同じことを言う。

 しかも超絶冷静に。

 

「うぅ……見ないでぇ……」

 

 かつてこんな猛烈に恥ずかしかったことがあっただろうか……!?

 いや、ない!

 

 ぐわあああ! 穴があったら入りたい!

 今からあの虹の魔法で巨大な穴でも掘削してやろうか!? なぁ!?

 

「あ、ふと思い出したのですが……」

 

 再び出されたノルナの助け舟のお陰で、視線が一気に俺から離れる。

 

 はぁ……全身の力が抜けそう。

 

「アトラ様、もしや起きてから何も召し上がってないのでは? この学院で食事ができる場所は限られていますし……」

「そうですよぉ……! ベッドの横のフルーツも食べてないです!」

「なら、食堂に連れて行こう。そろそろ昼食の時間だしな」

「いいわよ。みんなでランチね!」

「ふえぇ……!?」

 

 助けてくれ!

 俺もうここにいたくない! 帰りたい!

 穴に入りたいの!!!

 

 ……なんていう心の叫びが聞こえるはずもなく。

 

 抵抗虚しく、俺はルクレアの脇に抱えられて連行されることになったのだった。

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