頭を空っぽにしてお読みください。
「じゃあ次はこっち行こうぜ!」
「ああ……!臨むところだ」
思い返せば、こういう記憶しかなかった高校時代。
俺の隣にはいつもあいつが居て、毎日を共に過ごしていた。
学校が終われば近くのゲーセンに言って遊んだり、俺の家やあいつの家に行ってゲームをして遊ぶ。
高校一年の時からずっと一緒に居て、何なら卒業の時も一緒に居た。
でも、一つの出来事で俺の中であいつへの接し方を変えようかと思ったことがあった。
俺が高校三年の時の二月頃だった。突然目の前が暗くなり体の制御がつかなくなったと思ったら、次の瞬間には知らない天井。つまりは病院である。
もしかして重大な病気なのではないかと焦った。しかし今起きた俺の体は何事も無かったかのようにピンピンしている。
状況への理解も出来ない中で、医者から言われたことをしっかりと自分の心に焼き付けた。
「あなたは女の子です」
「は?」
まったくもって意味不明だった。いや俺の脳が理解を拒否していた。
その後の医者の説明を聞いていくと、俺はどうやら半陰陽というものだったらしい。
体の中に子宮や卵巣があるということらしい。
今回病院に居るのは少し遅めだが初潮が始まったが、どこからも血を出せなく溜まってしまったということだった。
確かに、小学校、中学校、周りから『男子にしては華奢すぎじゃね?』などと言っていじられてきた。
俺自身もコンプレックスだったし、声変わりしないままで声が女の子のようなのも嫌だった。
言葉を理解しようとは思わなかったが、ある意味納得した。
とはいえ、俺もこの高校生になるまでずっと男で過ごしてきたのだ。いきなり女の子だと言われてもはいそうですかとなれるわけなかった。
医者は先の言葉に続けて言った。
「女として生きるか、男として生きるか」
生物学的には俺は女だったらしいし、子供を作ろうとしたら女として生きていくしかない。
かといって俺は自分を男だと認識しているし、男として生きていた。
元の性別で生きるべきなのか、どうなのか。
まさに究極の質問だった。
とりあえず時間を下さいといって答えを後伸ばしにした。
親も呼んでいっぱい話し合った。手術するのかどうか話し合った。
話し合った結果──
──高校を卒業したら女として生きようとなった。
勿論男として生きたい気持ちは大きかった。
それでも片方は本当の自分を受け入れたいと思っていたのだ。
結局病院には一週間も居なかった。
退院して、これまでと変わらない残り少ない高校生活を楽しんだ。
女として生きようという決心と、俺は別に決心していた。
友人とは縁を切ろう。
俺は臆病だった。打ち明けて変な顔をされるのが怖かった。
なにより嫌なのが、俺が一番信頼しているあいつに打ち明けたらどうなるのか分からなかったことだ。
だから、俺は選んだ。男としての俺はもう終わりで、これからはまったく違う人生を歩んでいくと。
◇
自宅から最寄りの駅から数時間。
そこに今の俺の家はあった。無事に高校を卒業し、性転換手術を受けてもう数年は経つ。あの時の知り合いはもう大学を卒業しどこかで働いていることだろう。
今の俺は髪も伸ばし、誰かと話すときは『私』という言葉を使っている。誰がどう見ても女になれているはずだ。
数年前、手術も成功した俺はそのまま地元から遠い場所へ行き、そこで働くことにした。
なんとか内定ももらえることが出来て、働くことが出来たが、俺の心には常に不安が付きまとっていた。
自分の過去が今の職場の人にでもバレてしまうのではないのかと。
男だった時の縁は切れたと思うし、バレるようなことは俺が口から話さなければないと思うが、もしもの場合があるかもしれない。
だからか俺は今の職場の人とはあまり話さない。勿論事務的な会話はするが、それだけだ。
友達と呼べる友達も居ない。俺が元は男だと知っているのは俺と親ぐらい。
はっきり言うなら孤独感である。
本当にこの道を選んで後悔しなかったと言えるのだろうか。
親しい人も居ないで悩みも共有できないで。入社してから深い人間関係を作らないようにと、頑張ってきた俺の行動が今は逆に俺を苦しめている。
「桜井さん!今ちょっといい?」
この声は現在の職場で共に働く頼れる先輩的な人だ。名を田中美咲という。仕事に関してはとても頼れる人だ。
もっとも俺たちがプライベートでどこかに行ったり、ふとした時に雑談をすることもないのだが。
「大丈夫です」
「この前、新卒の子たちが入社したと思うんですけど、桜井さんにうちの部署にくる子の面倒を任せようかと」
「……私ですか?」
「ええ。桜井さんなら任せられると思ったからね」
「……了解しました」
正直言って不安しかなかった。
でも確かにこの瞬間、俺の運命が動き出したんだと。そんな予感がした。