嘘つきで臆病なTSヒロイン   作:まよねえず

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これから、その先も

 あの日から、私の日常はまず間違いなく変化した。

 

 隼人から言われたことに従ってみて、まず自分を隠し通すことをやめた。

『もしも否定されても、僕だけは否定しない』

 本人は気付いていないかもしれないが、その言葉から強い勇気をもらったおかげで、自分を出してみようと思えたのだ。

 

 普段からも笑顔を出すようになったら自然と周りに人が寄ってくるようになった。今までの自分だったら考えられないようなことだ。

 ……最近になって知ったが、もとより周りは話しかけていたが、私がそっけない態度で返していたせいだという。

 周りの人全員に対して謝った。

 

 特に仲が良くなったのは、以前から少しだけ話していた田中さんだった。既にお互いの家にお邪魔する程度には仲が良くなっている。

 私の家にお邪魔した際、あまりの無機質さに驚いたとかなんとか。自分でものを買うことも少ないし、なんだか納得した記憶がある。

 一緒に買い物へ行ったりと順調に歩みを進めることが出来た。

 

 今日もいつもと変わらない、そんな日だった。

 

「桜井さん!駅前に新しいパフェ出るらしいから今度一緒に食べない?来週の土曜日とか」

「……ごめんなさい。ちょうどその日は予定が入ってて」

「あら……じゃあまた予定があったら一緒にね」

「はい」

 

 田中さんの誘いに断りを入れる。

 私自身も一緒に行きたい気持ちはある。食べたい。しかし残念ながらその日は予定が入っていたのである。タイミングが悪かった。

 

「答えなくても良いけど……その予定ってやっぱり隼人くん……?」

「……」

「なるほどね……顔が真っ赤だから分かりやすいね」

「言わなくていいです……」

 

 以前から私と隼人の関係は職場でも話題によく上がっていたらしい。

 なんでも普段笑顔を見せない桜井さんが、結城さんだけには笑顔を見せるとか。昼の休憩も一緒に談笑しながら食事をとっていたとか。

 今まで見たことないくらい楽しそうにしていただとか。

 

 ……私の事だけ話題に上がり過ぎではないかと言いたい。他に話題になることは無かったのだろうか。

 

 未だニヤニヤとした笑みを浮かべ、隼人との色々を私へ聞いてくる。

 こういう田中さんは苦手だ。速攻逃げたくなる。今まで何度聞かれてきたことだろうか。

 

「──いい加減付き合っちゃいなって。……好きなんでしょ?隼人を見る時の目は完全に恋する乙女と言うか、完璧な女の顔だよね。好きな人に自分だけを見てほしいとか思っている顔だよね。職場でも二人を見てると砂糖を吐き出すくらいイチャイチャしてるよ」

「……うるさいです。そんな事してないですよ。……それに──」

 

 右手をあえて見せつける様にして田中へ言った。

 

「過去の話は……やめてください」

「え、それって……ふ~ん?」

 

 しまった。田中さんの神経を逆撫でしてしまったようだ。

 しばらく会話を止めることは叶わなかった。

 

◇

 

 仕事も終わり、今日も無事に退社。少し先に駅へ行った隼人を待たせないため足早に駅へと向かう。わざわざ私のために待ってくれているのだ。

 少し経って遠くに隼人の姿が見えた。それを見て、さらに足早に歩を隼人へと進める。

 

 向こうもこちらに気づいて位置を示すように手を振ってくれた。

 あと数歩、そこまで迫った時に少し大き目な石がそこにあったようで足を滑らした。次に来るであろう衝撃に備えて目を瞑ったが、いつまでたっても予想する衝撃は来なかった。

 

 体に伝わる温かく、それでいて包み込んでくれるような感触。

 

「薫!……大丈夫か」

「……大丈夫」

 

 赤くなった顔を見せてしまわないように注意しながら、隼人へと答える。

 ……また一つ隼人に助けられてしまった。高校の時からもずっと一緒で、今でも同じように助けてもらってる。

 私は隼人に何も返せていないというのに。

 

「……私このままでいいのかな。隼人に助けられてばっかで何も返せていないというか」

「別にいいよ。僕がやりたくてやってるんだし、ありがたく助けられててよ」

 

 過去の自分が見たら面倒くさい女だと思うだろう。面倒くさくて結構。私の傍には隼人が居ることしかありえない。

 隼人が会社に入ってくれてよかった。入ってくれなかったら今までと同じようにだらだらとして、毎日を過ごしていたのだろう。

 

「それに……葵は僕の親友だし。助けない理由がないよ」

 

 また、そういう。あの時と同じで、クサイセリフも当たり前のように言ってくれる。そんなところに一種の安心感を感じる。

 

「……周りの目が痛いから移動したい」

「あ、うん確かに」

 

 気付かぬうちに周りから見られていた。それもそうだ。駅前でこんなに堂々と惚気ているような男女が居たら自分だって見てしまうだろう。

 見られる側は真っ平御免である。

 

 隼人の横に立ち、帰るために駅のホームへと行く。

 

「今度の土曜日、楽しみだね」

「うっ……僕にとっては楽しみでもないんだが」

「大丈夫だよ!隼人ならいけるよ。勇気を出してほら」

 

 なんだか浮かない顔をしている隼人へ励まそうとしたが、あまり効き目は無かったようだ。

 

「今度はこれをこっちに着けてみたいな」

 

 右手を左手で指さして、左手を右手で指さした。

 

「よし……がんばる」

「お父さんも隼人なら簡単に許可出してくれると思うよ」

 

 私の想い人はこれからもずっと隼人だけだろう。

 こんな私を好きになってくれるのなんて隼人ぐらいしかいないだろし。




これにて完結となります。ここまでお読みくださりありがとうございました!
TS娘最高!
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