ハッピーエンドを目指して   作:上条@そぉい!

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カオスになってまいりました


スクランブル!

 ルシウスはほくそ笑む。計画は順調だった。トライアンフを一位にする為の妨害工作は概ね成功した。相手もそれに対抗し、なんとかしたようだが。彼の工作は完璧だった。レースが開始してから、観客が見ている中継映像は細工し、何も起きてないように見せながら、実際は今一番と噂されているカリュドーンの子に対して幾つも妨害をしていた。

 

──拍子抜け、だった。

 

 と言うのも、都市の企業と結託し油田の破壊、そしてエーテルに頼る状況にした上で、その元締めとして君臨する計画は企業との協力者によって決められている。決行前、ルシウスは言われていたのだ。

 

──警戒しておいた方がいい。易々と事が運ぶとは限らない。

 

 と、妖艶な笑みの中に、硬い警戒心の色を残す瞳でこちらを見る彼女の顔を思い出す。そうして渡された緊急事態用の装置を渡された。追い詰められた時、脱出出来るような物らしい。そんなことはあり得ないと話半分で受け取ったが、使う機会はないだろう。既に、標的ポンペイはゴール地点目前。それが自分の最後になるとも知らずに。

 

「ボス」

「ああ、最後の挨拶に向かうとしよう」

 

 イヌのシリオン、元賞金稼ぎで今は自分に忠誠を誓う部下を引き連れ、油田へと足を運ぶ。

 

「なんだ、これは!?」

 

 彼は予想外の事態に狼狽えている。その様子に、思わず笑みが溢れる。

 

「おや、どうされましたかポンペイの親分?」

「──まさか、貴様!」

 

 もはや悪意を隠さず尋ねるルシウスの言葉に、ポンペイは振り返り対峙する。

 

「ええ、ご察しの通り。火打石はすり替えておきました。エーテルを過剰生成し、結果油田の元、火の湖は消滅するでしょう」

 

 ポンペイは、その言葉を聞き終わるよりも先に、膝をつく。自らの体の不調にようやく気がついたように。

 

「ああそうそう。貴方が投げ入れた火打石、もといエーテル重合触媒ですが、周囲のエーテル濃度を急激に引き上げる副作用があるんですよ」

 

 エーテル耐性に異常を来すポンペイにとっては、致命的なもの。頂点に立つ為邪魔なポンペイを消し、そして油田を潰す。これ以上の成果はない。と勝ち誇るように笑みをポンペイに向ける。

 

「ルシウス……俺は」

「遺言ですかぁ?聞きたくありませんねぇ」

 

 そもそも、義理人情なんて時代遅れの産物に過ぎない。それに縋るポンペイは既に産廃ロートル!弱者はとっくに見捨てられている!

 

「新たな秩序の元、俺の指先一つで動く王国を作れる!これからな!」

 

 ゴホゴホと咳き込むポンペイの口から出る血はどす黒い、タールコールのような黒だ。体にどんな異常が起きているのか察しも付くだろう。しかし、ポンペイの表情は怒り、と言うよりも。

 

「お前を、信じたかった」

「は?」

 

 ポンペイの口から、あり得ない言葉が出る。何故この状況でそんな言葉が出るのか。

 

「俺が気づいていないとでも思ったか」

 

 ポンペイは、ルシウスの所業を知っていた。知っていて、見逃した。それは何故か。

 

「ホロウを彷徨う小さかったお前を拾ったのは俺だ」

 

 俺には妻も居らず、男手で、当時のトライアンフで育てた。不器用でも、愛情を注いできたつもりだった。だが、ポンペイはついぞ彼の心の闇を晴らしてやる事ができなかった。

 ルシウスの心には荒んだ一つの教訓があった。この世界で生き残るには他者など気にする事なんて出来ないと。人より先へ、人よりも多く何かを得ようとするなら、何かを踏みつけにしなければ生きていけないのだと。

 

「俺の責任だ」

 

 それでも、信じたかった。多くのことを教え、自分の背中を見せてやることはできた。そこから学んでほしかった。だから最後の最後まで彼に踏みとどまれるチャンスをあげた。自ら頭を下げて頼んだ。ルシウスの所業の全てを調べ尽くした友人たちに。

 

──どうか、チャンスをくれ

 

 まだ引き返せるのだ、と。友人たちは仕方ないとばかりに了承してくれた。そして、今日を迎えた。結果は見ての通りだ。こうなってしまったら、後は任せるしかない。

 

「は、何故そんな──」

「親心ってやつだろうよ」

 

 その場にはポンペイとルシウス、そして直属の部下の3人しかいない筈だ。後追いのカリュドーンの子もまだ来るには早い。しかし

第三者の声が背後から聞こえてくる。

 

「誰だ、お前は!?」

「──桐生一馬、そしてこっちのは本部以蔵」

 

 2人の男だ。郊外には似つかわしくない白いスーツに赤シャツの男。そして、ヨレた背広を来た中年の男。

 部下はすぐ動いた。その手に握られた小銃を構え、排除に動く──その直前に、その銃口に手裏剣が突き刺さる。

 

「こいつは俺に任せろ。本部はそいつ、頼んだぜ」

「ああ」

 

 2人は表情を変えることなく役割を分けた。油断ならない相手だと理解したイヌのシリオン、モルスは元賞金稼ぎとしての勘が囁くのを感じていた。一挙手一投足の全てが戦闘の合図になり得ると。

 本部と呼ばれた男は、その空気の中、ジリジリと歩を進める。何をするのかと思えば、彼が最初にしたのは、タバコを取り出し、ライターで火をつけたことだ。

 

「近頃は喫煙家も肩身が狭くてな」

 

 ふふ、とまるで日常の中に居るかのような振る舞いで煙草を楽しんでいる。既に銃口を向けられているのにも関わらずだ。

 

「──」

 

 殺れる。そう感じた。引き金を引いてしまえば直ぐに。ジワリと指に力が入る。そして、引き金を引く──その時だ。

 

 彼はピン、と口から離したタバコを落とし、指で弾いたのだ。タバコの吸い殻は一直線に飛んでいき、モルスの右眼に直撃。ジュッ、と溶けるような鋭い痛みに、思わず顔を逸らす。

 スルリと、本部が動く。その背広に隠された日本刀を片手に肉薄し、裂帛の気合を持って振り下ろす。スパッと小銃を真っ二つに切り裂き、流れるようにモルスの太ももを突き刺した。

 

「──ッ!!??」

 

 痛みに呻くよりも早い。既に懐に入り込んだ本部は、体へ組み付き、ズボンのベルトを解いてモルスの両手を背中に回しそのまま縛ってしまった。

 

「捕縛術、と言っても知らんか」

 

 銃声も、戦闘音もしない。静かな戦闘は十秒にも満たない時間の中で終わりを告げた。地面に押し倒し、片膝で背中を地面にグリグリと押し込んでやればもう身動きは取れない。

 

「銃を持つ相手なんて怖くもないわ」

 

 本部は知っている、銃を持つ相手は怖くないと。何故なら銃しか・・・使わないから。両手両足、それぞれ別々に動ける筈の自由を、銃という強力無比なものに縛り付けられている。全くの不自由。ならば負ける道理がない。決着はついた。後は。

 

「馬鹿な!?」

 

 目まぐるしい一瞬。全てが変わってしまった一瞬にルシウスは叫ぶ。あり得ないと。

 

「お前が頂点テッペンを獲ろうと考えるのは当然だ」

 

 ポンペイという頂点、その親の背中を見て育ったのだ。その後を追う事は至って普通だ。桐生がよく知る行為だ。だが

 

「お前が見てきたの背中ってヤツぁ、どういうもんだ?」

 

 ちゃんと見てきたのか、と。憧憬混じりに親の背中を追いかけ、そうして身を投じる。だが、他人の言葉を借りるなら『憧れは理解から最も遠い』ものだ。どういうものなのか、ルシウスは見失ってしまった。

 

「郊外の覇者っつー看板は、ポンペイが自ら書いた看板だ」

 

 それに対して、ルシウスが描く看板はどうだ。荒れに荒れて、見る影もない。

 

「お前がどんな看板描こうが勝手だがな。──テメェの看板、他人の血で書いてんじゃねぇよ!」

 

 その覇気に、ルシウスは後退する。一歩、一歩と。ジリジリと前へ歩く桐生に、ルシウスは怯えた。

 

「く、来るな……!」

 

 後ろへ、後ろへと下がるルシウスは気づく。もう背後は崖。もう逃げられる場所などない事を。

 

「来るなぁぁぁぁああ!!!」

 

 彼は怯え、藁にもすがる気持ちで協力者に渡されていた装置を起動する。それはガシャガシャ!と変形し、蜘蛛のようなロボットへ。そして、ルシウスの腕に張り付き、鋭い針を突き刺した。

 

「あ、あぁ?」

 

 困惑した。何故?何が起きた?これは一体、何をしているんだ?その疑問に答えが出るよりも先に、ルシウスの意識は混濁していく。ルシウスの体は、はち切れんばかりに肥大化していき、服を突き破り、3メートル、いや5メートルは超える巨体へと変貌していく。

 

「これは……!」

「ポンペイ!下がれ!」

 

 本部と桐生は、その変化をよく知る。だから変化に混乱するよりも早く動けた。その場にいた動けないポンペイに肩を貸し、捕縛したモルスを連れてその場を離脱する。カリュドーンの子はまだ来ていないがすぐ異変に気がつくだろう。まずはこの場から離れなければ──!

 

 そうして、安全な場所まで避難した桐生と本部が見たのは、ホロウの中、障壁を突き破り空から降ってきた飛行船が変貌したルシウス目掛けて墜落する所だった。爆炎が巻き起こり、油田の原油と反応して爆発を次々に起こしていった。

 

 

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